(第1楽章)紅い鳥の24の奇想曲(カプリース)



 
(第1楽章)紅い鳥の24の奇想曲(カプリース

アメリカ・ニューヨーク。
マンハッタンにあるコンサートホール『カーネギホール』。
このカーネギホールは古くからクラシックやポピュラー音楽などの
コンサートが開催される有名な場所である。
そしてカーネギホールはメイン・ホール、リサイタルホール、
室内楽ホールと分かれているがその3つの内、メインホールには
多数のアメリカに住む様々な人種の人々が大勢の観客としてイスに並んで座り、
舞台で繰り広げられる不思議な戦いの芝居を全員、息を飲んで真剣な表情で見ていた。
誰もが舞台の役者達に釘付けになっていたのだ。
そして舞台では古城の背景をバックに短い茶髪に茶色の瞳。
長い白いコートを纏った魔戒騎士の最高位ガロ(牙狼)の称号を持つ男・
冴島鋼牙が困惑した表情でチラチラと観客を見ていた。
鋼牙の反対側にいる男は白く長い鳥の羽の付いた黒いカウボーイハットを被っていた。
更に赤いマントに黄金の飾りの付いた黒い服に
白いズボンと黒く長いブーツを履いていた。
また腰には長剣を携えていた。いかにもさすらいの騎士という風貌だ。
そして男は鋼牙の近くに立っている女性を見た。
その女性は黒みを帯びた茶色のポニーテール。
青い瞳にスレンダーな美しい身体をしていた。
それからさっきまでBSAAの服を着ていた。
しかしその男は「フン!」と鼻を鳴らした。
「舞台に合わんぞ!女王様の衣装は豪華じゃないと。」
男はパチッと指を鳴らすと次の瞬間、BSAAの服は
背中が露出し、更に大きな丸い両胸とスレンダーな身体を
強調するかのような青いドレスに変化した。
それを見ていた何人かの観客の若い男達は口々に「おおおっ!」「すげええっ!」
「いいぞ!」「よし!もっと派手に露出しろ!」
とそれぞれ歓声を上げ、はやし立てた。
途端にジルは彼らの歓声を聞いて恥ずかしくなり顔を真っ赤にした。
また多数の観客の中には無料でなんか凄い芝居が見れると噂を聞きつけて
モイラ、バリー、ポリー、ナタリアのバートン一家の姿もあった。
バリーは舞台の男がパチッと指を鳴らすだけでジルのBSAAの服が
青いドレスに早変わりした事に驚き、ヒソヒソ声でこう言った。
「おい!あの役者の騎士の男、一体?どんな手品を?」
しかしモイラーは直感でこれがただのマジックのトリックなどではなく
あの男が魔獣ホラーであいつの能力でそうなったんだろうと分かった。
魔獣ホラー。モイラもかつて襲われた事もあったし、クレア先輩と
ジル先輩、冴島鋼牙と協力して複数のホラーを相手に封印した事があった。
魔獣ホラーは太古の昔から陰我(人間の欲望や邪心)のあるオブジェ(物体)
を真魔界と現世を繋ぐゲート(門)を通って現れ、人間の魂を食らい、
空になった人間の肉体に乗り移って憑依する。
そして自分の欲望と邪心のままに他の人間の血、肉、魂を主食として食らう。
目的はただそれだけである。ただそれだけの為に……。
恐らくあの芝居の男のそうなのだろう。そう思った。
しかしどうにか違う気もした。それはまるで自分の芝居を
人間達に見せようとしているようにも見えた。
もしかしたら?ホラーに憑依される前は純粋にお芝居が好きな青年だったのだろう。
ホラーになってもそれは忘れなかったのか?
しかしモイラはこの後の男の芝居の結末を考えると不意に切ない気持ちに襲われた。
一方、舞台では鋼牙はその男は鋭い目で見た。
そして男は迫力のある強い声と演技で身振り手振りと拳を振り上げた。
続けてその男は素早く腰の鞘から剣を抜き、片手で構えた。
「我は高峰龍之介!またの名をさすらいの騎士!アグトゥルス!
貴様の悪徳!よく知っているぞ!かつて王の演説の客を集める為の
チケットを全て貴様が買い占めた!これにより王は主役の座になる事はなかった!
しかし今回は無料だ!さしもチケットを差し押さえられなければ!
こんなに集まる事はあるまいっ!」
龍之介は舞台の観客に向かって両腕を広げた。
その様子を鋼牙は「はあー」と溜息をついた。
「全く困った奴だぜ!しかも烈花も奴のバベル超結界に捕らえられて
身動きが出来ないときている!」
鋼牙の指に嵌められた髑髏の指輪、
そう魔導輪ザルバもほとほと困り果てた表情を見せた。
「これじゃ!観客全員の記憶を消して追い払えないぜ!」
「仕方あるまい!今回は奴のストーリーに乗ってやろう!」
鋼牙もすっかり呆れ果てて無言で龍之介を見た。
「さあー行くぞ!」
龍之介は金色の剣の柄をぎゅっと握った。
そして彼は両刃の銀色に輝く長剣を鋼牙の頭上に向かって振り下ろした。
鋼牙は咄嗟に赤い鞘から銀色の両刃の長剣『魔戒剣』を引き抜いた。
同時に龍之介が振り下ろした両刃の長剣を受け止めた。
そして交わり合う剣からバチバチと火花が何度も散った。
その余りにも本格的な殺陣に観客席から「オーマイゴッド!」
とか「スゲエ!」とか「え、あれ?本物?」と次々と声を上げた。
それを聞いていた龍之介は調子が良くなった。
彼は悠然とした動きで鋼牙の胸部に飛び蹴りを食らわせた。
すると鋼牙は僅かに身体をくの字に曲げた。
龍之介はまるで主役の座に憑依されたかの如く、力強い口調で言葉を放った。
「やっと会えたな!黄金騎士ガロ(牙狼)!この時を待っていた!」
鋼牙は無言で茶色の瞳で龍之介を見据えた。
「お前のような奴が!」
龍之介は僅かに体勢に崩した鋼牙に接近した。
「この劇の主役なるなど!」
龍之介は鋼牙の右腕を切りつけた。
「神はお許しならなかったと言う事だ!」
龍之介は鋼牙の顔面を蹴り上げた。
「鋼牙!!」とジルが叫んだ。
しかし意外な邪魔者が入った。
突然、舞台裏から世間や観客のほとんどがよく知っている
有名な悪徳の少年3人組で警察やFBIが追っている危険な少年達である。
つまり史上最悪の犯罪グループである。そしてリーダー格の少年。
『アレックス・スタンリー』が龍之介の前に立った。
そして左右の部下の少年も「へへへへっ!」と笑い、彼に迫った。
「へい!おっさん!いい衣装だね!」
「よこせよ!おらあっ!楽しい舞台にしようぜ!」
一人の少年、アレックスの部下のピートが乱暴に右腕を伸ばし、
龍之介が持っている両刃の長剣をひったくろうとした。
しかし次の瞬間、龍之介はピートの顔面のいいところをドカッと殴りつけた。
余りの不意打ちにガードする暇もなくスポットライトのアレックスと
残りのビリーが立っている方へ軽く吹っ飛ばされた。
「てめえ!調子に乗るんじゃねぇ!」
仲間を吹っ飛ばされたアレックスのもう一人の仲間のビリーは激怒した。
3人がそろってゼリーの流し型と呼んでいる凄く間抜けな道化師の、
(ナッドサット語で言う)リッツォ(かお)をしたポケットから
細長くよく切れそうな剃刀を取り出した。
「切り刻んでやる!おしおきだ!トルチョックだぜ!」
ビリーは龍之介の首筋に剃刀を向けようと
スポットライトの中にいる龍之介に接近した。
しかし彼が立っているスポットライトの中に足を踏み入れた瞬間、龍之介はそのまま
はそのまま走り、ビリーの胸部に飛び蹴りを食らわせた。
ドンという鈍い音と共にビリーはそのまま吹っ飛ばされて
舞台のフローリングの床を情けない格好でスーッと滑った。
そしてゴホゴホと咳き込んで上半身を起こしている
ビリーに向かって凄まじい剣幕でこう叫んだ。
「立ち位置が違ううううううっ!俺にかぶるなあああああああっ!」
「はあ?立ち位置だと?ふざけんなクソが!」
アレックスは倒れている部下のピートとビリーを助け起こした。
そして彼は2人の部下をボコられて頭に来た。
続けて彼はまた間抜けな道化師ではなく別の蜘蛛の形の
ポケットから隠し持っていたハンドガンを取り出した。
そしてアレックスは両手で構えた。
同時に観客達には何人か悲鳴を上げた。
「おい!あれは本物だろ!」
「マズイ!あの人殺されちゃう!」
「ぐっ!マズイ!あれは中国製のトカレフだ!」
観客席にいたバリーは立ち上がりかけた。
その時、舞台でアレックスは龍之介に銃口を向けて引き金を引いた。
銃口から放たれた弾丸は龍之介に向かって高速で接近した。
しかし龍之介は上下左右、右斜め、左斜め、上斜め、下斜めと
高速で手首を片手で動かし、全ての弾丸を弾き飛ばした。
 
同時刻、ニューヨーク市内にある中国の製薬企業の張怜製薬アメリ支部では
ルーアンブレラ社の特殊部隊の隊長であり、元スターズのジルの信頼出来る
元相棒にして生ける伝説の男、クリス・レッドフィールド
張怜製薬の重役とある事実について事情聴取していた。
クリスは調べた資料を机に置き、張怜製薬の重役に見せた。
「極秘研究。アメリカ遺伝子研究所より200名のエンジェル
と呼ばれる天界の女性を実験台として送迎。不老不死の研究材料として利用。以上!」
しかし張怜製薬の重役達は資料を一通り読んだ後、一人残らずそろって口を開いた。
続けて『最近アメリカに来たばかりで英語はまだ分からない』と全員、答えた。
するとクリスは苛立ちを見せつつもあくまでも慎重にこう話し続けた。
「失礼ですが!分からないふりをしないで下さい!
こちらには資料があるんですから!」
「企業秘密!アメリカ人の名前!答えられないよ!」
「では!裏では御月製薬と取引をして賢者の石を手に入れたのは?」
「認めるよ!だけど!不老不死の研究の為!武器は作らないよ!」
「では!質問を変えます!そのアメリカ人の遺伝子はXYですか?
それとも?XXですか?これなら分かるでしょ?どっちですか?」
「XXだよ!でも名前は個人情報だから教えられないよ!」
そう答え、アメリカ人女性の名前をクリスに教える事は最後まで無かった。
おかげでクリスはある不安を拭いきれずにいた。
もしも?そのXXのアメリカ人女性の遺伝子が自分の大切な人。
つまりジル・バレンタインのものだったら?と言うものだった。
さらに張怜製薬の重役の一人がこう言った。
「最近、こちらの企業に就職したイシマル博士なら……」
そう答えたので早速、クリスはイシマル博士を呼び、事情聴取をした。
しかし何も成果は得られず事実確認は困難を極めた。

(第2楽章に続く)