(第42楽章)死神と呼ばれた魔人ホラー達による魔導ホラーの黙示録・序曲

(第42楽章)死神と呼ばれた魔人ホラー達による魔導ホラーの黙示録・序曲
 
「さて、貴方がシャノン・カエデ・マルコヴィアさんですね?」
マツダBSAA代表が軽く自己紹介を済ますとシャノンにゆっくりと手を差し伸べた。
泣き腫らして顔が真っ赤なシャノンは慌てて両手の指で目元に溜まった涙を拭いた。
そして変異していない方の左手を伸ばし、掴み、
ゆっくりと彼に助けられ立ち上がった。
間も無くして彼女の変異していた右手も元の白い肌に覆われた美しい右手に戻った。
それを見ていた魔導輪ザルバはほっと一安心した。
「やれやれ鋼牙!運がよかったな!彼女はバエルの子供を妊娠していた為、
目覚めた賢者の石の力は全てお腹の子供を育てる為に流れて行った。
故に右手の一部を変形させるだけで済んだ!あの女は恐らくまだ一応人間だ!」
「そうか!よかったな!暴走せずに済んだ!」
「結果的にお腹の子供に救われたな!」
マツダBSAA代表はシャノンにこう尋ねた。
「つかぬ事をお伺いしますが貴方のお腹の中の子供の父親は
アレックス・M・スタンリーさんで間違いない無いですね?
差し支えなければ教えて頂けませんか?」
「うっ!ぐっ!ううっ!ひっく!ひっく!はい!間違いありません!」
シャノンは涙を両手で必死に拭いながらも甲高い声で答えた。
手を降ろすと顔は真っ赤になっていた。
「そうですか!分かりました!実は貴方の父親のアレックスさんは
危険なウィルスを肉体に持っている可能性があるんです!
そこで貴方の身体とお腹の中の子供の精密検査を行う必要があるのですが?
よろしいでしょうか?一緒にBSAA北米支部にご同行願います。
そして入院と言う形を取りたいのですが?」
「はっ!はいっ!分かりました!」とシャノンは小さい声で答えた。
「では!一緒に行きましょう!ジルさんと鋼牙さん!シャノンさんの事は任せて下さい!例の危険なウィルスのワクチン投与も現在、各地の病院と協力して
BSAA北米支部主導で進められています!あっ!それと!」
マツダ・ホーキンスBSAA代表はクイッと茶色の縁の眼鏡を
指で上げる仕草をすると鋼牙にこう伝えた。
「さっきのイスラム人の青年のアヴドゥルさんは
どうやら自らの運命を選択する機会を得たようですね。」
「自らの運命の選択?」
「中庸、ニュートラルね!」
「成程な。混沌に模倣と秩序にも偏らず自分の新たな道を模索する機会を得た訳か?」
「そういう事です!いずれ彼は自らの道を
どうするのか自分自身で決める事でしょう!」
「つまりあの男の人生は変わるかも知れない」と鋼牙。
「あるいはあの男の人生は逆に何も変わらないかも知れない」とジル。
 
秘密組織ファミリーの本部に当たるジョン・C・シモンズの大きな屋敷の自室。
ジョンは誰かと電話していた。
「おい!畜生!どうなっているんだ?何でだよっ!おいおい!あんた!
俺達の言う事に従うって言ったよな?お前だって!
あの家族達みたいに喰われたくないんだろ??
従え!従うんだよ!いい加減にしないと!
家族や一族を丸ごと魔導ホラーに食わせてやる!
それが嫌ならすぐに謝れ!土下座をしに俺のところへ来い!分かったか?」
「何を言っているかね?誰が君のような小物如きに!
僕が土下座しなければならないのかね?クズの君が!」
ジョンは冷笑した。電話の男は腹を立てた。
「ふざけるな!俺にはまだ忠実な部下の魔導ホラー達がな!
たくさんいるんだぞ!まだまだな!」
「残念だが実際、君の駒の半分は僕の忠実な人が全てこの世から消させて貰っている!
君は算数が出来るかね?自分の仲間の数を良く数えてみたまえ!」
「クソっ!クソっ!バカにしやがって!このっ!このっ!」
それから電話の受話器から机をバンバン叩く音が聞こえ続けた。
更に電話の男は発狂したように叫び続けていた。
ジョンは自分の立場が優位にいる事に満足した。
「何故だ?何故だ?リベラはっ!せっかくテレビ局の
アナウンサーとして潜入させていたのにっ!
邪魔な魔戒騎士と法師を殺人犯にして世間の敵しようとしたのにっ!
それをあの芳賀真理と言う女がっ!邪魔を!くそっ!」
「事前に情報は掴んでいたからね!残念だがリベラは真理によって
魔導プラントの抗生物質を投与され、無事人間に戻ったよ!
そして君のうるさい吠え声からも解放された。
元気にアナウンサーの仕事をしているようだしね。
お陰でこちらのデモニックジーン(悪魔遺伝子)と
G変異株のワクチンの製造計画も進んだよ。」
「ふっ!ふざけるなああっ!俺がっ!このっ!このっ!クソっ!」
「ついでに燕邦はメアリーが魔導ホラーの抗生物質で元の人間に戻した。
今君の側近は尊師だけだったかな?燕邦とリベラは元に人間に。
さて!この先どうするかね?もう駄目だろうね!」
そう言うとジョンは子供のようにクスクスと笑った。
「フン!わっ!笑っていられるのも今の内だ!いいか?いいな?
尊師は元魔戒騎士だぞ!魔戒剣を持っているんだ!」
「じゃ!さっき!僕が送った魔人ホラーよりも強いと?」
「送った!まさか?俺の命を狙いにっ?」
「当たり前だ!先に我々メンバーであり、家族の命を狙ったのは君の方だ!
ブーメンランと言うおもちゃを知っているかね?おまえの生命は今日の夜限りだ!」
ジョンは二組の家族を彼らに殺された怒りと悲しみが脳裏に甦った。
彼は自分でも驚く程の声で怒鳴り散らしていた。
そして圧倒的なジョンの大音量の怒鳴り声に電話の向こうにいる
男はあっと言う間に黙り込んだ。
もう何も言い返せぬまいと思いきや激しくブルブルと震える声で
精一杯威圧的な口調でこう言い返してきた。
「俺はっ!俺はっ!死なんぞ!イイか?今死ぬのはお前らだ!
いいか?すぐに俺のところへ来い!謝れ!土下座しろ!
そうすれば!今だけは助けてやる!もっ!勿論!お前の全ての一族もだ!
家族全員も構成員も助けてやる!そして俺を王にする為に協力しろ!
死にたくなきゃ!今すぐ来るんだ!陰我ホラーの部下達も魔導ホラーにしてやるぞ!
そうするればお前は俺の新しい側近にしてやるぞ!!」
「断る!金城慆星君!貴様のような純粋な人間の分際で大君主である
僕に逆らうとはつくづく愚かな男だ!実に聞き苦しくて吐き気がする!
そんな『お前に言う事は一つだけだ。くたばれ』!」
ジョンはやや電話を乱暴に切った。もしかしたら壊したのではと心配した。
しかし電話は意外と丈夫だったのでほっとした。
ジョンはそれでまず自分の気持ちを落ち着けた。
つもりだったが実がこれがうまく行かなかった。
まだ怒りと憎しみの感情が冷めずにずっとイライラしていた。
とにかく気分を落ち着けたかった。
僕は部屋の棚の上に置いてあった分厚い本に目を向けた。
しかしジョンはたちまち興味を失い、ベッドの白いスーツに視線を向けた。
それから不意にジョンは脳裏にあの元恋人の
シルクのいとこの女の子の笑顔を思い出した。
だがすぐに僕は首を左右に振り、元恋人のシルクのいとこの女の子の笑顔を
振り払おうとした。だが、なかなかそれを振り払えず、ますます苛立ちを募らせた。
ジョンはベッドから起き上がった。勿論、マルセロ博士のルールは破れない。
行ったところで隔離部屋には入れないし、ましてやセックスも禁止されている。
自分はもはやかって純粋な人間の頃のあの子の記憶の中の思い出だけでは愛せない。
残念ながら今の僕にはあのシルクのいとこの
女の子に正しい愛を伝える手段は全く無い。
それに現在、あの子は行方不明者扱いされている。
長い間、行方不明の状態にしておけばBSAA北米支部
ニューヨーク市警が協力して捜査を開始してしまうだろう。
とは言ってもビアンカワンエイトを誘拐した時もうまくニューヨーク市警に
行方不明者の捜索の中止する様にうまく圧力をかけられるから。
とりあえず心配は無い。だがBSAA北米支部の連中や黄金騎士ガロ、冴島鋼牙や
黄金騎士ガロ、冴島鋼牙や魔戒法師烈花法師は直ぐに独自に捜査と
捜索を開始してしまうだろう。それでは困る。
それからジョンはとりあえずシルクのいとこの女の子にこだわるのはきっぱり止めた。
 
ジルの自宅内ではアリスは目の前の憧れのYOU TUBER(ユーチューバー)
FISCHRRS(フィッシャーズ)のメンバーのモトキとダーマと居間のテーブルを
囲んで、ニコニコと笑い、何気ない会話を楽しんでいた。
FISCHRRS(フィッシャーズ)メンバーのモトキは男の子だが
まるで女の子のように長いポニーテールの黒をしていた。
キリッとした細長い眉毛とつぶらな茶色の瞳。
彼はアリスの熱心なファンの深い話に耳を傾けていた。
そしてアリスの超個人的な日常や結婚や彼女の話をしてどう答えていいのか
分からずやや困った表情でニヤニヤ笑っていた。
ダーマは眼鏡をかけていてキリッとした茶色の眉毛。
茶色の瞳でとても嬉しそうに話をするアリスの顔を見て凄く可愛いと思った。
彼は丸顔の青年だった。アリスは好奇心旺盛な様子でFISCHRRS(フィッシャーズ)
について動画の撮影の仕方や編集作業のやり方、アスレチックをする為に
どうやったら身を鍛えられるか色々質問した。
彼らは丁寧に分かりやすくアリスの質問にひとつひとつ回答して行った。
しかしその平和な時間は長く続かなかった。最初に異変に気付いたのはモトキだった。
「あれ?家の外で音がしない?プオオオオオオンって?」
「なんだろう?ラッパみたいな音だな?」
ダーマは立ち上がり、目の前の大きな窓の方に目を向けた。
次の瞬間、甲高い絶叫と悲鳴と「クカカカカッ」と笑う声。
続けてカチカチと何かが鳴る音が聞こえた。
ギョッとしたダーマは「うわああっ!」と声を上げ、
フローリングの床に尻もちをついた。
モトキが何かを言おうと口を開きかけた瞬間。
ズドオオオン!という爆発音と共に地面全体が
上下に立っていられない程、激しく揺れた。
立ち上がりかけたモトキは慌ててテーブルの上に両手を置き、身体を支えた。
アリスは母親譲りの魔獣ホラーの気配を探知する能力で自分の家の外の
道路近くで凄まじい邪気と賢者の石の力と複数のホラーの気配を感じた。
アリスは立ち上がりカーテンを開いた。
すると外ではヨハネの黙示路の中に登場する青き騎士、赤き騎士。
白き騎士、黒き騎士と10歳未満の女の子がいた。
しかも必死に応戦する魔導ホラー達(何故かこいつらだけ何も感じなかった)
を彼らは情け容赦なく次々と攻撃し、一方的に殺し続けていた。
正に外は血みどろの戦争状態となっていた。
 
(第43楽章に続く)