(第31章)再生

(第31章)再生
 
四肢を切断され身動きが取れなくなった
ハンターEYを鋼牙は茶色の瞳で見降ろした。
続けて鋼牙は両手で魔戒剣の銀色に輝く両刃の長剣を真下に向け、
両腕を大きく真上に振り上げた。
そしてハンターEYの赤みを帯びたカエルの頭部に
魔戒剣を突き刺し、トドメを刺そうと振り降ろした。
しかしハンターEYは四肢の切断面からどす黒い血が
噴き出したかと思うと瞬時に筋肉質の逞しい四肢を
ズバッ!ズバッ!ズバッ!ズバッ!と一気に生やした。
「なにっ?」
「再生しただと!」
続けて四肢を自己再生させたハンターEYは
鋼牙の不意を付いて目にも止まらぬ速さで鋭い爪と
刃の付いた水掻きのある右手で薙ぎ払った。
不意をつかれた鋼牙は慌てて後退した。
しかし鋭い爪と刃の付いた水掻きは鋼牙の
白いコートの中の分厚い魔導衣を切り裂いた。
「ぐあああっ!」
鋼牙は胸部の痛みで小さく声を上げた。
見ると分厚い黒い魔導衣は深々と切られ、
その下のシャツと皮膚を切り裂いていた。
傷口から血が滲み出ていた。
「大丈夫か?鋼牙!」
「ああ、まさか再生力があるとは!」
「如何やらあいつは四肢を切断しても無限に再生し続ける様だぜ!
しかもこいつはT-エリクサーの抗体を持つ烈花や人間を男女問わず
外敵をみなして攻撃してくるようだ!
完全に奴を封印するには焼き切るしかないぞ!」
ザルバは鋼牙にそうアドバイスをした。
鋼牙は大きく後退し、ハンターEYと距離を取った。
続けて銀色に輝く魔戒剣をコロシアムの天井に掲げた。
そして頭上でひと振りした。
彼の頭上に円形の裂け目が現われた。
円形の裂け目から黄金の光が差し込んだ。
やがて円形の裂け目から狼を象った黄金騎士ガロの鎧が落下した。
同時にゴルルルッ!と獣唸り声がコロシアムの周囲の
防音機能の付いた分厚い壁に反響した。
更に彼が持っている銀色に輝く魔戒剣は
黄金に輝く牙浪剣に変化していた。
続けて鋼牙は懐からライターを取り出した。
ライターから緑色に輝く魔導火がカチッと音を立てて吹き出した。
それからライターの緑色に輝く魔導火を牙浪剣の両刃の刀身に向けた。
たちまち牙浪剣は緑色の炎に包まれた。
鋼牙は手首を大きく捻った。
同時に全身の黄金に輝く鎧はたちまち緑色の炎に包まれた。
烈火炎装である。
すかさず鋼牙は緑色の炎に包まれた牙浪剣を真横に振った。
同時に緑色に輝く魔導火の三角形の刃が放たれた。
放たれた緑色に輝く魔導火の三角形の刃はハンターEYの
赤みを帯びた青い上半身と下半身を真っ二つに切り裂いた。
しかし何故か切断には至らず、全身を
凄まじい緑色の炎が包み、火だるまとなった。
ハンターEYは緑色の炎に全身を焼かれながらも、鋼牙を再び
耳まで大きく開いた口で頭から丸呑みにしようと予備動作も無く
黒い爪と大きな刃の付いた水掻きの付いた両足で
カエルの様にピョーンとジャンプした。
そして鋼牙に飛びかかった。
しかし鋼牙は冷静に牙浪剣を両手に構え直した。
続けてタイミングを計り、飛びかかって来たハンターEYの
赤みを帯びた頭部に向かって振り降ろした。
「ピイイイイイイイイイイイイイン!」
ホイッスルの様な断末魔がコロシアムの
防音機能の付いた分厚い壁に反響した。
ハンターEYは魔導火に包まれた牙浪剣により赤みを帯びた
青い全身を完全に一刀両断された。
間もなくしてハンターEYは全身の細胞を残らず焼き尽くされ、
灰化し、コロシアムの床に山となった。
「フ―ツ」と鋼牙は深呼吸をした。
そして頭上にまた円形の裂け目が現われた。
黄金騎士ガロの鎧は再び円形の裂け目に消えた。
鋼牙は白いコートを着た姿に戻った。
同時に右掌でハンターEYに切られた傷口を押さえ、
大きく呻き声を上げてコロシアムの床に尻餅を付いた。
「鋼牙!」
「鋼牙さん!」
慌ててジルとクエントが駆け付けた。
そこに烈花も駆け付けた。
「大丈夫ですか?」
「待って!傷口を見るわ!」
ジルは鋼牙の横に座った。
しかし鋼牙は皆を心配させたくないと言う思いからこう言った。
「大丈夫だ!心配ない!」
「駄目よ!」
「酷いですよ!傷口がパックリと開いています!」
クエントはハンターEYに切られた鋼牙の傷口を指さした。
確かに鋼牙の胸部は分厚い魔導衣共々、
皮膚がパックリと切り裂かれ、かなり深そうだった。
ジルは腰のバックパックから止血剤や縫い針と糸が入った箱と
消毒液と白いガーゼの入った箱を次々と取り出した。
すぐさまジルは箱を開けて、
まずは消毒液で胸部の傷口をジャバジャバと消毒した。
鋼牙は傷口がしみて鋭い痛みを感じた。
しかし歯を食いしばり無言で耐えきって見せた。
続けてジルは鋼牙の筋肉質な腕に注射針を刺し、止血剤を投与した。
更に縫い針と糸で鋼牙のバックリと開いた
傷口の皮膚の上下をスイスイ縫い合わせた。
そしてガーゼで傷口を完全に塞ぎ、テープでしっかりと固定した。
「はい!おしまい!傷口が塞がったら糸と取って上げる。
けれど!余り無理をしない方がいいわ!」
「すまないな!少々油断してしまった!」
「まさか再生するとは俺様も想定外だったぜ!」
鋼牙はよっこらしょと立ち上がった。
「あとはM-BOW(魔獣生物兵器)も残り一匹ね!」
「さっきカオリ社長さんは多分、この生物兵器保管庫の
上層部にあるコントロール室にいる筈です!」とクエント。
「ああ、此処だきっと彼女もここにいる!」
烈花は生物兵器保管庫の上層部の別の部屋を指さした。
ちなみに生物兵器保管庫の下層が鋼牙達のいるコロシアムである。
烈花はカオリ社長が隠れていると思われる生物兵器保管庫の
上層部を指さすと鋼牙、ジル、クエントを見た。
「そうか」
「でも!最後のM―BOW(魔獣生物兵器)が残っているわ!」
「じゃ!分れましょう!」
クエントはそう提案した。
鋼牙は「成程」と両腕を組んだ。
「じゃ!あたしと鋼牙で究極の破壊の神を!」とジル。
「では!烈花さんと僕は御月カオリの逮捕を!」とクエント。
このジルとクエントの提案に鋼牙と烈花は賛成した。
「分った!俺とクエントは生物兵器保管庫の
上層部にいる御月カオリをとっちめに行く!」
「じゃ!俺とジルで極秘研究所ハイブの
最下層の究極の破壊の神を封印しに行く!」
「ひょっとしたら?途中、ジョンかアナンタに遭遇するかも?」
「ああ、お互い気お付けよう!協力関係とは言え……」
「何処まで続くか分からないわ!」
そして話は決まり、ジルと鋼牙は極秘研究所のハイブの
最下層の究極の破壊の神が幽閉されているコロシアムへ。
クエントと烈花はこの生物兵器保管庫の上層部にいる
御月カオリの逮捕にそれぞれ向かう事になった。
 
(第32章に続く)