(第63楽章)もう人間じゃない。魔獣ホラーだ。

(第63楽章)もう人間じゃない。魔獣ホラーだ。

 

ジルはシルクのいとこの女の子にしっかりと向き合い、真剣な表情で話を続けた。

「本当の闇の中の真実は違うのー。魔獣ホラーは確かに悪魔達よ。

モデルやモチーフとして人間が利用する程にね。

でも真実はもっと残酷なの。いいかしら?

『魔獣ホラーに憑依された人間の魂はもう死んでいる』の。

つまりホラーの憑依された時、本来の貴方が知っている

優しい善き人間としてのジョン・C・シモンズは死んでもうこの世に存在しないの。

今この世にいるのは彼の魂を喰らい彼の声と言葉と肉体を完全に乗っ取って

ジョンの姿を借りた魔王ホラー・ベルゼビュートなの。

つまり人間の皮を被った太古の昔から人を喰らい続ける怪物なの。

ベルゼビュートはジョン・C・シモンズの

人間の姿を模倣して擬態しているだけなのよ。

だから彼はもう人間じゃないのよ。多分だけど。彼もそれが分かってて……」

「そんなの信じません!そんなの絶対に信じません!だって!だって!

彼は言葉も優しい気持ちもあったもの!」

「言ったはずよ!その優しい気持ちも本来は餌となる人間を人気の無い場所に

誘い出して捕食する為の模倣なの!これが貴方に対する気持ちなのか確証は無い。

どの道、彼から離れなければいずれ我慢できずに空腹となって。

貴方は今頃、血も肉も魂も残らず彼に食い尽くされていた筈よ。

でも彼はそれに耐えた。そしてわざわざ彼は貴方を自分から遠ざけた。

貴方を。もしかしたら。喰いたくないからからかも知れないし。

でも基本はそんな事はないわ。大体は親友だろうと恋人だろうと

結局は魔獣ホラー化した人間にとっては都合の良い餌でしかないのよ。

だからーそのー。うっ!(本名)さん!ごっ!御免!」

「えっ?」とシルクのいとこの女の子は声を上げた。その時、ふと気が付いた。

彼女の両目の下から静かに涙が溢れ、やがて酔って真っ赤になった両頬を

一筋に涙が流れ星のようにツーツーと落ちて行った事に。

それからピンク色の唇をプルプルと震わせ、唇を噛んだ。

更に両目から流れ落ちる涙は増えて行き、どんどん流れて行った。

下顎まで垂れた涙はポタリポタリと一気に冷たい

コンクリートの床に小雨の様に降り注いだ。

やがてシルクのいとこの女の子は顔をクシャクシャにして泣き始めながら口を開いた。

「うっ!うっ!そんなのっ!嘘よ!あの人が!そんな事をするなんて!うっ!ひっく!

ひっく!ひっく!なんでよっ!ひっく!どうして!あの人が!もう!もう!」

ジルは黙ってシルクのいとこの女の子の身体を両腕でそっと抱き締めた。

彼女の両手を通じてシルクのいとこの女の子の背中がプルプルと

震えているのが良く分かった。間も無くしてジルの白いシャツに

覆われた大きな深い胸の谷間に顔をうずめてシルクのいとこの女の子は

精一杯大きく口を開け、甲高い声を上げて思いっきり激しく泣き始めた。

「うううううううっ!うううっ!うわああああああああああああんっ!」

ジルはなるべく平静を装ってシルクのいとこの女の子を両腕で

しっかりと抱き締めながら「よしよし」と声を掛けた。

「御免ね。御免ね。少し言い過ぎたわ。大丈夫。大丈夫だから」

ジルは泣きじゃくるシルクのいとこの女の子に声を掛けながら

茶髪の頭を右手で優しく撫で続けた。

しばらくして徐々にシルクのいとこの女の子は感情が落ち着いて来た。

泣き出したシルクのいとこの女の子の感情が落ち着いた頃。

シルクのいとこの女の子とジルは焼き肉店のバルコニーの中央にある

木製の椅子に腰かけて並んでいた。

やがてジルはそっと口を開き、シルクのいとこの女の子に謝罪した。

「御免なさい。やっぱり言い過ぎたわ。」

「いいんです!感情的になった私も悪かったんです。」

2人はお互い謝り合った。こうしてジルとシルクのいとこの女の子は仲直りした。

しばらく二人は黙って座っていた。

ジルより先にシルクのいとこの女の子が口を開いた。

「あの……ジョンの事は……もういいです。

貴方の言う真実を信じて自分の中に受け入れます。分かりました。」

ジルは静かに口を開き、こう問うた。

「いいの?それで?本当にそれでいいの?」

「ええ!もう!彼は人間じゃないのでしょ?」

「そう!ううっ!残念だけど……」

ジルは思わず申し訳ない表情でシルクのいとこの女の子の方をじっと見ていた。

しかしシルクのいとこの女の子はどこか吹っ切れた表情で逆にジルの方を見ると

両手で涙を擦ってしっかりとふき取った。

続けてジルに向かった恥ずかしそうに顔を更に赤くして笑って見せた。

ジルもようやく吹っ切れたシルクのいとこの女の子の

表情にようやく安堵の表情を浮かべた。

「じゃ!戻りましょうか?きっとアリスもシルク達も心配しているし」

「はい!分かりました!少しだけ気分がすっきりしました。」

ジルとシルクのいとこの女の子はバルコニーの扉を開けて焼き肉店の中に戻った。

そしてシルクとアリスとシェーシャのいる焼き肉店の焼き肉用のテーブルに戻ると

また網に置かれたレバー肉の一切れにアリスとンダホはしっかりとお互いの眼を合わせ、2人同時に最後のレバーの一切れにまた割りばしを

深々と突き立ててアリスは左側へ、

ンダホは右側へまるで綱引きのように引っ張り合っていた。

そしてまたアリスとンダホは声を上げていた。

「最後のレバー肉ううううっ!」とンダホ。

「最後のレバー肉はあたしのおおおっ!」とアリス。

更にシルクはその2人の姿に大爆笑していた。

「おい!またあんた達かいっ!だーから!何でここで戦争を始めんだよ!」

「もう!だーから!ンダホ!大人げないぞ!」とモトキ。

「どんだけお前ら食い意地張ってんだよ!(笑)」とダーマ。

その様子と母親のジルとシルクのいとこの女の子は唖然とした表情で見ていた。

また子供用のベビーチェアーに座っていたシェーシャも楽しそうに

両手を盛んに上下に振り、ニコニコ笑いながらこんな言葉を口走った。

「にく!にく!つなひき!つなひき!にくっ!にくっ!にくっ!にくっ!」

「やれやれ、もう、アリスったら……」とジル。

「よく食べる子ですね。凄いですね」とシルクのいとこの女の子。

「はいはい仲良く分けましょう!」

ジルは先にその最後のレバー肉の一切れを真横から

自ら割り箸を伸ばして器用に二つに切って分けた。

そしてンダホとアリスはそれぞれ皿に乗せて、

タレを付けるとおいしそうに口に入れた。

「あーあ最後の一切れ」とダーマ。

「とりあえず平和が戻ったね。」とモトキ。

「器用だな。ちょっと真似出来ねえな!凄くね?」とシルク。

「あと一つ頼みがあるんだけど。」とジル。

やがてジルは口を開き、話し始めた。

「実は明日ね。あの有名な日本のゲームメーカーのアトラスが作った

あのRPGゲームで悪魔や天使や古の神々を仲魔にして戦う。

えーと『真女神転生』のハリウッドの実写版が公開されているの。

それでアリスがシルクさん達と一緒に観たいって話をしているの?

そのーいいかしら?」

「ああ、いいすよ」とシルク。

真・女神転生』かぁ?一応、少しだけ話は知っているけれど。」とモトキ。

「ほーら前売り券!」と言うとアリスはポケットからその前売り券を見せた。

タイトルは『真・女神転生Ⅱ』である。

「凄いねぇ!えーと何々?」とダーマ。

ダーマは眼鏡をクイッと上げて前売り券を見た。

キャストは以下のとおりである。

「フリン(エリック・ナドセン)。

ヨナタン(イラジャ・ウッド)。

イザボー(エマ・ワトスン)。

ナバールトム・フェルトン(声)。

ホープイアン・ホルム)。

ギャビー(ケイト・マーラ)。

ティーブン(ダニエル・ラドクリフ)。

ニューヨーク(東京)の女神(ミラ・ヨヴォヴィッチ)。

ニューヨーク(東京)の女神(エヴァ・ヨヴォヴィッチ)。」

「えっ?あのNYK48の山田真帆さんもいる!」

「えーつ?マジ?何の役?何の役さ!」

シルクは身を乗り出して『真女神転生Ⅱ』の前売り券を見た。

真・女神転生Ⅱ』の前売り券に書かれている

キャラクターと役者の名前が書いてあった。

「トキ(山田真帆)」と。するとジルはシルクに向かってこう説明した。

「実は噂では本当は主人公のヒロインのアサヒ役だったんだけど。

本人はその役では無くてトキの役をやりたいと制作側や自分のNYK48の

運営側に訴えたんだって。それで何とか運営側はヒロインの方のアサヒ役を

やらせるようにマネージャー達に説得されていたけれど。

頑として受け付け無くて仕方がなくトキの役になったらしい。」

「あっ!見ました!テレビのワイドショーで!」

「なんかエライ揉めたらしいよね」

「あと!ナバール役の人が兄のガストンの役をしているよ!」

アリスは『真・女神転生Ⅱ』の前売り券のキャストの名前を指さした。

確かに『ガストン(トム・フェルトン)と書かれていた。

どうやら映画では双子の兄弟と言う設定らしい。

「ちなみに代わりの主人公のヒロインの役の子は?」

「アサヒって子の役で確かアナ・デ・アルマスって言っていたわ」

ノゾミの役がシャーリーズ・セロンだったわね。」

「ハレルヤの役はライアン・ゴスリングね。」

ブレードランナー2049に出ていた俳優さんと女優さんで。

ストーリーはⅠはね!東のミカド国からフリンとイザボーとナバール

ワルターヨナタンが地下の東京に降りて人外ハンターの人達と出会って。

えーと。色々、別次元を巡ったりして、白い人達を倒してね。

阿修羅会のタヤマとガイア教団のユリコを倒して。

ヨナタンが大天使メルカバーになって。ワルターが悪魔王ルシファーになって。

2人は人間の姿で剣を交えて戦うけれど決着は付かなくて。テレビでフリンが

人間の救世主として紹介される所でⅠは終わったの。だからⅡはその続きから。」

アリスは熱心にFISCHRRS(フィッシャーズ)達や母親のジルに

真・女神転生Ⅱ』のキャストやストーリーを説明し続けた。

「それで主人公のナナシはアサヒと恋するんだけど。

実はトキの初恋の相手も主人公のナナシでアサヒと恋のライバル関係になるの。

「今回は四部作で今日公開されたのが二作目で。

えーと三作目が2022年で最終作が2023年に公開されるって。」

 

(第64楽章に続く)