(第67楽章)生きると言う事は誰かの生命を奪って生きているもの

(第67楽楽章)生きると言う事は誰かの生命を奪って生きているもの

 

「マルヨとあのジェイドって言う名前の女の人?

どっちがホラーなの?フランちゃん?」

アリスの質問に魔人フランドールは「さあー」と肩をすくめた。

しばらくしてマルヨとジェイドは未だにアリスやシルク達の前で

イチャイチャしながら映画館の出口から街の外に出て歩き去った。

魔人フランドールとモトキとダーマ、シルク、ンダホは

その楽しそうなマルヨとジェイドの背中を見送った。

「どっちか魔獣ホラーなら!助けに行かないといけないわ!」

アリスは何かを決意した様子でマルヨの後を追跡しようとした。

すると魔人フランドールは「やめなさい!」と一喝した後に話を続けた。

「いい?魔獣ホラーは人間の姿をして人の言葉も話せるし!

人に近い考え方も出来る!でも!それはただのみせかけなのよ!

彼らは他の悪魔や神々や天使と同じくらい危険な存在なの!

それに!食事の邪魔をすれば怒って凶暴化してかえって危険よ!」

魔人フランドールの意見にアリスは怯まずこう反論した。

「喰われちゃうんだよ!助けないと!」

反論するアリスに対して魔人フランドールは冷静にこう返した。

「その喰う事の何が悪いのかしら?貴方だってお腹が空けば

何か喰うんでしょ?魚や肉を調理してね。」

「うん・・・・・・・・そうだけどあいつらは人間を・・・・・・・・・・。」

「彼らの主食は人間。人間の血や肉や魂、精気を喰っているの。

太古の昔から彼らはそうしてきたのよ・・・・。

そうしないと貴方達や私のように生きられないから・・・・・・・。」

説明し終えた魔人フランドールは悲しそうに俯いた。

しかし実はアリスが今後無茶をして鋼牙や母親のジルを困らせる事が無いように

魔王ホラー・マーラに関するある情報だけはアリスに伝えていなかった。

その情報は。あいつはあのジェイドって言う若い女は絶対に捕食しない。

あいつは前、キノコの菌糸に憑依していた時のように若い女性の精気を捕食するの

をきっぱりと止めて寄る辺の女神のコピー『オートマタ』を産み出す為に人間の男の

肉体を鰐の大顎で捕食して消化吸収して『オートマタ』の素材にしているのよ。

そしてジェイドや他の人間の女性を『オートマタ』に変えて、

同胞達を増やしているの。いずれ魔戒騎士も魔戒法師もこの事実に気付くでしょう。

魔人フランドールが話し終えてから間も無くしてシルクは静かにこう言った。

「そう、確かにな。生きているんだもんな。」

「食うものは違うけれど同じかな?」

ンダホは顔は青っぽいが魔人フランドールの言う事はある程度は理解出来た。

モトキも「まあ―」と一定の理解は示しつつもアリスにこう言った。

「やっぱり!フランちゃんの言う通りだよ。危ないから止めた方がいいよ。」

「それに俺達は君のお母さんに頼まれて面倒を見ているんだから。

何かあったら大変だよ!だから今日は止めよう!」

ダーマも眼鏡の奥の茶色の瞳で真剣にアリスの顔を見た。

ようやくアリスも悔しそうに唇を噛みしめた。そして小さな両拳をぎゅっと握った。

「うん……分かった……」と渋々とアリスは答えた。

「そんなに気になるなら!まずはママや鋼牙に相談しなさい!」

魔人フランドールは10打歳未満の女の子とは思えない厳しい口調でそう言った。

アリスは自分よりも大人なフランに驚いた。

「ねえ?フランちゃん!どうしてそんなに大人なの?」

アリスの問いに魔人フランドールは周りの人々に聞こえないように

小さな声でこう言った。

「それはね。私が吸血鬼で貴方よりも大人なのよ!」

「何歳?」とアリスは興味本位で聞いた。

魔人フランドールは「うっ!」と小さく唸った後、呆れてこう言った。

「こらこらレディに歳を聞くのは失礼なのよ。

もちろん私は怒らないけどね。歳はやっぱり教えないよーだ!」

魔人フランドールはあっかんベーをした。

アリスは「ぷんぷん」と言うと更にこうも言った。

「もーっ!フランちゃんの意地悪!」

「ゴメンゴメン!でも秘密よ!大人のね。それじゃーね!アリス!

無茶なんかして鋼牙やママを困らせちゃ駄目よ!」

「うーん!分かったよーだ!でも心配してくれてありがとう!」

とアリスは笑顔で答えた。

「かわいい子!じゃーね!私はお姉さまや仲間達が心配だから幻想郷に戻るわ。」

魔人フランドールはクルッとアリスやシルク達に背を向けた。

そして右腕を上げて振り向く事無く大きく左右にバイバイと手を振った。

アリスも左腕を上げて大きく左右にバイバイと手を振った。

間も無くして魔人フランドールの姿はたちまち

沢山の人混みの中にスーッと消えて行った。

まるで蜃気楼のように。アリスとシルク達は魔人フランドールを見送ると

自分達も映画館から出て、自宅に戻りピザを注文した。

その後、アリスとシルク達はワイワイガヤガヤ騒がしく届いた

ピザを切り分けて各人のお皿に渡し、そして各人で

思い思い美味しそうにピザを食べた。

勿論、アリスも美味しそうに笑って食べていた。

しかしその時、アリスはピザの三角形の先端からチーズを

皿にトロトロと零しつつも美味しそうに口に運ぶ中ー。

ふと魔獣ホラー達も人間をまるでピザのように美味しそうに食べているのか

思わず気になった。そして食べられている人間はどんな気持ちなのか?

魔獣ホラーは人間を美味しそうに食べてどう言う気持ちなのか?

あれこれつい想像して考えてしまった。

またシルクもンダホも同じ想像と考えをしていた。

その結果3人は怖くなったと同時に悟ってもいた。

『生きると言う事は誰かの生命を奪って生きているものだ』と。

そう考えるだけで気分が暗くなって来た。

するとダーマがそのアリスとシルクとンダホの空気を察した。

そして3人の気分を変えてやろうとテレビをリモコンで付けた。

テレビ画面では昨日、チェルシー広場に現れた巨大UFO(未確認生物)

とチャイナータウンを中心に各地に時空の歪みから出現していたタコ型のUMA

(未確認生物)の大量の氷塊から冷凍冬眠状態の20代から30代の

若い女性が発見された怪事件についてニュースで報道していた。

そして氷塊に閉じ込められた一人は氷の中から無事に息を吹き返したと言う。

現在、広場はブルーアンブレラ社とBSAA北米支部により

未知の伝染病の疑いがあるとして完全封鎖され、目撃者多数も

隔離状態となっている模様であり。一般人はおろかテレビの

レポーターや報道陣も入れない状態になっていると言う。

更に金髪のテレビレポーターはこれからそのブルーアンブレラ社の

クリス・レッドフィールドとBSAAのエージェントのジル・バレンタイン

隔離区域に入る姿をカメラマンと共にマイクを持って追った。

テレビでそれを見ていたアリスは嬉しそうにこう言った。

「あっ!ママとクリスおじさんだ!」

「本当だ!ジルさんだ!あれが噂の生ける伝説のクリスさんか!」とシルク。

テレビ画面では金髪のテレビレポーターがジルとクリスに

マイクを向けて突撃取材を試みていた。

「あのージルさん!クリスさん!今回の事件は新型のウィルス兵器や

BOW(生物兵器)における人間のバイオテロでないとしたら?

これは宇宙人によるバイオテロでしょうか?」

「まだ何とも言えません。あの時空の歪みから現れたオプアート状の模様に覆われた

オレンジ色の球体の姿をした機械生物に関しては詳しく調査中。」

「あれが宇宙人が作った機械生物なのか私には……」

てきぱきとレポーターの質問に答えるジルに対してクリスは

戸惑いと困惑の表情をしていた。「正直分からない」と言う感じだった。

「ではーあの例の黄金の狼の鎧を纏う白いコートの日本人の男性は

あの時空の歪みの奥にいる機械生物と会話していたそうですね!

機械生物は自らを『魔王ホラー・アブホース』と名乗っていたそうですが!

まさか!若い女性を誘拐していたのは本物の悪魔でしょうか?」

「答えはノーコメントです!現在調査中です!」とクリス。

「答えはノーコメントです!現在調査中です!」とジル。

2人はそれぞれそう答えると隔離区域の扉からクリスは入って行った。

そしてジルも隔離区域の扉から入ろうとした。

しかし金髪のレポーターは持ち前の根性でジルにマイクを向けて食い下がって来た。

「では!魔王ホラー・アブホースが残したコメントに関してですが。

我々人類に何故?あのようなコメントを残したのでしょう?

『子供を産んで母親になり、赤ちゃんと一緒にいるのは清く正しくて。何故?

子作りの為に男と女がセックスする為にベッド

で一緒になる姿が汚れた悪なのか?』と。

これは我々人類に対する疑問なのでしょうか?」

「ええ!きっと!多分、そうなのよ。あの機械生物は高度な知能を持っていて。

きっと長い間、別次元から人間を観察している内に芽生えた素朴な疑問なのでしょう。

あれは案外私達よりも純粋なのかも知れません。でも答えはひとつではありません。

何が正しいかは我々人類。いや人間個人がそれぞれ自分の答えを見つける事です。

我々人類は機械では無い筈です。生身の人間ですから。」とジルは意味深な答えを

金髪のテレビレポーターに語ると隔離区域の扉から中に入って行った。

更に現場のレポートが終わり、次のテレビのニュースの場面に映った。

次の場面では昨日の出来事をスマートフォンで撮影していた一般人が撮影した

映像が公式に公式に公開された。その一般人が撮影したスマートフォンの映像には

天空に時空の歪みとUFO(未確認飛行物体)が多数の四角い巨大な氷塊を

広場に配置する様子が映し出されていた。

更に時空の歪みからオプアート状の模様に覆われた

オレンジ色の球体の機械生物が現れた。

同時にアメリカ陸軍の戦車隊とアメリカ空軍のF15戦闘機がミサイルや

ナパームを発射する準備を準備を始めた。その光景はまるで怪獣映画だった。

テレビを見ていたシルクは大興奮した。

「おい!ちょっと!凄くねー!マジでさ!!」

「あーら!バルカン砲やミサイルやナパーム弾の攻撃準備とか」とモトキ。

「まって!まって!まって!あいつ倒せるの?あれで?」とンダホ。

「無理よ!あんな武器じゃ!傷一つ付けられないわ!」とアリス。

そして映像は唐突に終わりニュースも終わりに近づいた。

最後、金髪のテレビレポーターによるとブルーアンブレラ社とBSAAは

今日中に捜査と調査を進めて更なる怪事件の

全容を全て解明する予定だと世間に公表した。

「えーつ!ここで終わりいいっ!」

アリスは不満そうに次のニュースになったテレビ画面を見続けた。

「仕方がないよ!まだ捜査も調査も始まったばかりだしさ!」とンダホ。

「いずれは全容解明は進むんじゃないか?」とモトキ。

「でもさーこれ凄く時間が掛かんないか?」とシルク。

「確かにそうだねー。きっと!」とンダホ。

アリスはがっかりした表情でハアと溜息を付いた。

その時シルクはンダホとアリスが見ていない中ー。

最後の一つになったピザの一切れにゆっくりと手を伸ばした。

「そもそも全容解明なんか出来るのかな?」とダーマ。

「ママやクリスおじさんなら大丈夫だもんッ!

今まで色んな事件を解決してきたんだから!」

アリスはムキになってテレビの大画面を指さした。

 

(最終楽章に続く)