(第61楽章)焼き肉最後に一切れ

(第61楽章)焼き肉最後に一切れ

 

真帆はまたジョンに向かってニッコリと笑って見せた。真帆はこう話を続けた。

「例えどんな悪質なアイドルグループの男や悪質なファンや『時を停止させる男』。

そして大天使や天使、唯一絶対神YHVAが私の元に訪れようとも私は……。

貴方様とジル・バレンタインの神殺しとしてどんな敵も悪魔も退けて見せる!!」

「そう、それでこそ!僕とジル・バレンタインの神殺しだ!」

ジョンはとても嬉しそうに笑った。

真帆も嬉しそうに笑い、白い肌が露出した右肩を隠す様に右手を伸ばした。

真帆は白いシーツで白い肌に覆われた右肩を見えないようにしっかりと隠した。

ジョンは真帆を屋敷の門まで送り届けた。

ジョンは屋敷の中に戻り、ファミリーの構成員専用の

喫煙室のドアを開け、中へ入った。

彼は真っ赤な高級なソファーの上にゆっくりと

腰かけて両手を真っ赤な椅子の台に乗せた。

ジョンはおもむろにリモコンを取り、テレビの電源を付けた。

テレビではさっきのあのどこかのスタジオで演説した僕の。

そして魔獣新生多神連合の演説に関するニュースが報道されていた。

あるチャンネルのニュース番組ではニュースキャスターや司会者。

有名な政治家やその辺の女優や俳優等の人々がこの魔獣新生多神連合についての

目的や彼らの主張をお互い意見し、議論をしていた。

「これはキリスト教ユダヤ教の存在を脅かす危険な連中だ!」

「確かに彼の主張する事は一理あります!」とか

「唯一絶対神、いや主が何もしない?」

「そんな筈は無いでしょう?」とカトリックキリスト教の信者の俳優。

それに対して女優は「実際!何もしていないじゃない!私は自力で煙草を止めたし!

酒も止めた!一時神や天使に祈りましたが何もしてくれませんでした!」

「それは!常に見守っていて必要なら助けてくれるのでは?」

「ふざけないでよ!連中は何もしなかったわ!

祈っても時間の無駄だった!言葉だけで人を縛って何もしない!」

女優は怒り出し、俳優に対して更なるマシンガントークを炸裂させた。

司会者も有名な政治家も大慌てで2人をなだめようとしたが

女優と俳優の口論は激化した。

そしてジョンはそのテレビの人間達の議論に満足した。

「『結局、唯一絶対神YHVAが人間を使って何か動かす事など幻想でしかない』。

その事実に早く気付け!奴らの信者となり神や大天使や天使の奴隷として

盲従し続けるならそんな奴は無様な連中でしかない。はっきり言って!

殉教者に程遠い、爆弾テロをしたところで誰の記憶に残らん!誰一人もな!

そして『政治では優位に立つ事が全て』なのだ!優位に立てない唯一絶対神YHVA

大天使や天使等!善意や正義を掲げたところで全ては無意味の闘争でしかない!

そう!最後に勝つのはニュートラルの我々なのだ!」

 

ニューヨーク市内のチェルシー地区のとある日本の焼き肉店に

ジルのおごりでFISCHRRS(フィッシャーズ)のシルク。

ンダホ、ダーマ、モトキ、シルクのいとこの女の子と母親のジルと息子シェーシャと

娘アリスは向かった。夜になり空は真っ暗になり、星が瞬いた。

夜の暗闇の中、かなり目立つ真っ赤な電飾看板があったので場所は直ぐに分かった。

店内は若い金髪や茶色の若いアメリカ人の女の子や筋肉質だったり、

痩せた坊主頭のアメリカ人のアルバイトや店員が忙しく走り回り、

各個室からは楽しそうな会話や今日テレビで映ったあの

例の魔獣新生多神連合の派手な宣伝映像が話題となっていた。

ジュージューと肉が焼ける音と共にあの魔獣新生多神連合の宣伝は全ての

ニューヨークや大都市だけではなく全米のお茶の間の

テレビにも流れていたと言うらしい。

そして一番左側の大きな四角い個室では大きな網のある焼き肉用テーブルを囲んで

FISCHRRS(フィッシャーズ)の4人のメンバーとシルクのいとこの女の子と

アリス・トリニティ・バレンタインと母親ジルの横に息子のシェーシャがいた。

ちなみに鋼牙は久しぶりに妻の冴島カオルとアサヒナ・ルナと共に

ファミリーレストランへ行ったようだ。

今頃は久しぶりに夫婦で食事をして積もる話をしている事だろう。

アサヒナも初めてのファミリーレストランにとてもワクワクして

楽しそうな様子だったのを見たジルは「良かったわね!楽しんで!」

と笑顔で見送ったのを思い出しながらオレンジジュースをグビグビと

ジョッキーで飲んでいた。その隣でアリスは焼き肉のたれの入った

皿からおいしそうに焼き肉をバクバクと食べていた。

ンダホもモトキもダーマもシルクも大ジョッキに入った生ビールをおいしそうに

飲みながら「ホルモン!おかわり!」と注文するとアルバイトの胸元まで

伸びた茶髪のツインテールアメリカ人の女性は「はーい」と

日本語で元気よく答え、個室から出て行った。

ジルの横でゆりかごの中でシェーシャは両手をパチパチと叩いて「あぶあぶ」

と赤ちゃん言葉を交わしていた。そして右手にスプーンを持っていて味が薄い

肉を柔らかくして皿の上に乗せられていてそれを食べていた。

シェーシャはそれをとてもおいしそうに何度も何度も

口の中にほおばり、モグモグと噛み、飲み込んではニコニコ笑っていた。

その様子を丁度、隣でシルクと一緒に焼き肉を食べている

シルクのいとこの女の子はじっと茶色の瞳で肉をベチャベチャと

落としては必死に持ち上げる姿を見ながら。

あの秘密組織ファミリーに囚われていた時に転生の儀式みたいなのをやらされて

そしてあの『地母神サンタムエルテ』の赤ちゃんのあの愛らしい笑顔を思い出した。

そしてかつての恋人だったジョン・C・シモンズの事も。

シルクのいとこの女の子は顔を俯いたまま黙々と焼き肉を食べていた。

それを心配そうにシルクロードは見ていた。そして静かに話しかけた。

「なあ?どうしたん?なんか元気ないけれど?」

「ううっ!なんでもないよ!なんでもないって!」

シルクのいとこの女の子はホルモンを口に咥えたまま左右に首を振った。

それから顔を赤くして箸でホルモンを挟んで強引に歯で食い千切り、食べて飲んだ。

彼女はチラチラと茶色の瞳でシルクの方を見ていた。

シルクも横目でシルクのいとこの女の子の横顔を見ていた。

シルクのいとこの女の子はそれを気にしていたが、それ以上何も言えずに黙っていた。

シルクとシルクのいとこの女の子の間に気マズイ雰囲気が流れていた。

モトキもダーマもそのシルクのいとこの女の子とシルクの

気マズイ雰囲気が流れていた事を悟っていた。

その時、アリスは焼き肉用のテーブルの網の上に置かれていた

たった一切れのホルモンに全員の眼を盗んでこっそりと箸を突き立てた。

しかしそれと同時にンダホも最後のホルモン肉の一切れに箸を突き立てていた。

アリスとンダホは目を合わせた。

アリスは左側へ、ンダホは右側へ左右にまるで綱引きのように引っ張り合った。

ギュウウウウウッ!ギュウウウウウッ!

「この最後の一切れえええええええっ!!」

「この最後の一切れは僕のおおおおっ!!」

アリスとンダホは大きく口を開け、両眼を見開いた。

そして2人はただただ最後のホルモンの肉の一切れを求めてお互い引っ張り合った。

「おいおいおいおい!」とダーマ。

「ちょっと!二人ともっ!」とモトキ。

「ちょっと!ンダホ!大人げないぞ!譲ってやれよ!」

その二人の熾烈な戦いを見かねたシルクがそう呼び掛けた。

「あらあら」とジルは苦笑を浮かべた。

結局ンダホは「まあまあ」と声を上げて、右側に引っ張るのを止めて箸を離した。

アリスは大喜びで「わーい」と声を上げた。

アリスはようやく手に入れた最後の一切れのホルモンの肉を口の中へ運んだ。

あとでアリスはタレをつけ忘れた事に気付いたが「まあーいいや」と思い飲み込んだ。

ジルはンダホに謝った。「御免なさいね!ちょっとウチの子は頑固で」

申し訳なさそうにいる母親のジルに対してンダホは明るく笑ってこう答えた。

「いやいや、いいですよ!子供は食べて大きくなるんで!」

「ンダホよりも大きくなっても大変だよなー」とダーマ。

「あら?もしかしたら?あたしと同じ美人になるかも?」とジル。

「マジっすか?それはいいな!」

シルクはモトキとダーマを見て何故か喜んでいた。

しかしシルクのいとこの女の子は面白くないのか「えーつ」と声を上げて、

眉間にしわを寄せて横目でシルクの横顔を見た。

するとシルクのいとこはまるでやけ酒を煽るようにシルクが飲んでいた

大きな生ジョッキのビールをグビグビと喉を鳴らして飲み始めた。

「おいおい」とシルクは両手を上げて呆気にとられた表情をした。

やがてシルクのいとこの女の子はぷはっと口の泡を拭うと

顔を真っ赤にしてフラフラと頭を左右にふらつかせた。

シルクは心配そうに自分のいとこの女の子の顔を見た。

「だっ?大丈夫??本当に何があったん??」

シルクのいとこの女の子は顔を真っ赤にしたままぼーっとしていた。

「何でも……ない……なんでもないからっ!」

ムキになってシルクのいとこの女の子は大声を上げた。

ジルはそんなシルクのいとこの女の子の様子を心配そうに見ていた。

あの子。秘密組織ファミリーに囚われている間、一体?何があったのかしら?

まさか?ファミリーの誰かと知り合い?あるいは……?恋人がいたのかしら?

うーんありそう!!FISCHRRS(フィッシャーズ)のメンバー達やシルクの

いとこの女の子や自分の娘のアリス・トリニティ・バレンタインと

息子シェーシャ・バレンタインと共に焼き肉を楽しんでいる最中、

急に母親のジルのBSAAの端末機にマツダBSAA代表から連絡が入った。

 

ニューヨーク市内のとある廃ビルの一室では両腕にタトゥ(刺青)

をした筋肉質な男が慌てふためいた様子で逃げ回っていた。

その男の背後からヒタヒタと何かが歩いてくる

静かな足音が部屋の奥から聞こえて来た。

更に男は一人のカナダ人の女性を無理矢理腕を引っ張って連れていた。

そのカナダ人の女性は嫌がっていたが先程見た得体の知れない何かに怯えていた。

やがて男は絶叫した。カナダ人の女性もつられて悲鳴を上げた。

カナダ人の女性が男が絶叫した方を見ると恐ろしい光景が目に入った。

男が巨大な無数の太く短い牙が並んだまるでクロコダイルのような大顎に

筋肉質の男の胴体半分を噛みつかれ、捕らえられていた。

やがてクロコダイルに似た大顎に捕らわれたまま男の身体を軽々と持ち上げた。

そして捕らえた男を暗闇の中に引きずり込んだ。そして激しく噛み砕く音と

咀嚼音がしばらく続き男の絶叫もあっと言う間に消え去った。

やがて暗闇から捕食された両腕にタトゥ(刺青)をした

男の代わりにスズキマルヨと名乗る日本人の男が現れた。

カナダ人の女性は怯えて警戒し、一歩二歩とマルヨから距離を取った。

「もう!大丈夫です!貴方の借金を狙う連中は全員始末しました。」

カナダ人女性はきょとんとした表情で優しく自分に話しかけて来たマルヨを見ていた。

「なんで?私の為に?助けてくれたんですか?」

貴方の美しい茶髪と瞳とのお顔と肉体が欲しいからです。

おっと違いますよ食べ物としてじゃなくて興味があるだけです。

ここでは場所があれですから。私の屋敷へ行きませんか?」

マルヨな笑顔でそのカナダ人の女性に手を差し伸べた。

するとカナダ人の女性はおずおずとマルヨの手を取った。

 

(第62楽章に続く)