(第66楽章)人間と悪魔と魔獣の不思議な映画鑑賞

(第66楽章)人間と悪魔と魔獣の不思議な映画鑑賞

 

アリスの興味本位な質問にキャリーは思わず顔を真っ赤にした。

「えっ?はっ!ああっ!そうなのー。えへへバレちゃった?」

キャリーは力なく笑った。それから両手で恥ずかしそうに顔を覆った。

「あっ!そろそろ映画が始まるぜ!」とシルク。

「でも列が長いけれど大丈夫かな?」とンダホ。

アリスとシルクの目の前にはまるであの真女神転生Ⅳファイナルに登場する

大蛇シェーシャのように人々の長い長い行列が並び続けていた。

「大丈夫だよ!きっと!入れるさ!」

不安そうな表情のアリスにンダホは言った。アリスも「うん!」と答えた。

「そうね!気長に待ちましょう!」とキャリーは笑顔で言った。

しかし、アリスはシルク達とキャリーと一緒に長い間、並んでいる内に退屈になった。

アリスは退屈しのぎに周囲の別の映画のポスターと

映画の入り口をぼんやりとみつめた。

映画館には子供向けや大人向けの様々な映画が公開されて上映されていた。

動物が歌って踊るファミリー向けの映画『ソング』。

女刑事と男刑事、犯人の男性との三角関係に悩みつつも連続殺人事件を追う

クライムアクション『トライアングル』。

また数年ぶりの続編。ジョン・W・キャンベル・ジュニア原作の短編小説

『影が行く』をジョン・カーペンターにより映画化された

『遊星からの物体X1982年版』と遊星からの物体X2011年版

(日本ではファーストコンタクトと言う副題が付いている)』の後日談の

『遊星からの物体X2021年版(日本ではサードコンタクトと言う副題が付いている)』のポスターと入り口があった。噂ではかなり恐ろしい映画らしい。

そして今、さっき並んだ『真・女神転生Ⅱ』のポスターと遠くにある入り口を見た。

アリスは「もーつ!」と両頬を膨らませた。しかもなかなか減らない。

まだ時間が掛かるようだ。やがて「御免!御免!」と別の場所から声がした。

全員が声のした方に目を向けると灰色の髪に黒い目隠しをした男女の抱き合う映画の

ポスター(ちなみにその映画のタイトルは『ニーアオートマタ』である。

そしてこれはスクエアエニックスのゲーム原作の日本のCGアニメである。)

のある壁の方から昨日の夜の白いシャツを着たオールバックの茶髪の男が歩いて来た。

そう、彼の名前は『アルカード』である。

キャリーは「もーっ!遅いわよ!今日休み取れたの?」

最後まで言い終わらない内にアルカードは笑った。

「すまん!すまん!なかなか政府の仕事が終わんなくてさ!」

「コラーここで言っちゃ駄目でしょ!」

キャリーに叱られ、アルカードは罰悪そうな表情になった。

アリスもシルク一行もさっきアルカードが言った事はあえて聞かなかった。

その方が何となく良さそうだったからである。余り深入りすると危ない気がした。

しばらくアリスとシルク一行は長い蛇のような例の人々の最後尾に並び続けた。

そしていつかいついつ部屋に入れるのか?と辛抱強く待ち続けた。

またこうなった理由は昨日の魔獣新生多神連合がこの映画やゲームに登場する

クリシュナがリーダーの多神連合に良く似ていると興味を持った人々が

今ここに沢山集まっているのである。どうやら宣伝効果はあったらしい。

しかし『真・女神転生Ⅱ』の入り口には人々が集まってていてかなり混雑していた。

でもアリスとシルク一行は時間ぎりぎりまで並び続けた末。

ようやく入り口から入る事が出来た。アリスとシルク一行と

アルカードとキャリーはようやく中に入れてホッと一息付いた。

アリスとシルク一行は前の席に座ってお目当ての映画を見ようとしていた。

その時にふと前の席辺りをウロウロしている金髪のサイドテールの

赤い服の女の子の姿が目に入った。アリスは「あっ!」と声を上げた。

その声を聞いた金髪のサイドテールの赤い服を着た女の子は

アリスの声に気付いて振り向いた。「あっ!」と声を上げた。

更にその女の子はどうしよう!どうしよう!

と赤い瞳を泳がせて、あっちこっち向いた。

するとアリスは何の躊躇もなく女の子に近付いた。

「フランちゃんも映画を観に来たんだ。」

フランと呼ばれた女の子『魔人フランドール』はドキリ!と全身を震わせた。

そしてどもりどもり、顔を真っ赤にして答えた。

「あっ!そうなの。えーと。その。私は。えーと!えーと!」

しばらく魔人フランドールは黙っていた。

しかしアリスはまた笑顔でこう言った。それはまるで天使のような表情で。

「一緒に観よう!」と。魔人フランドールは視線を床に向けた。

「でっ!そっ。でっ!でも!」と答えを迷い続けた。

やがてブーッ!と映画の開始を伝えるブザーが鳴った。

「あーつ!もーう!映画が始まっちゃう!いいでしょ?みんな?」

「あっ!ああっ!」とダーマ。

「まあ―映画を観るだけだからね。」とモトキ。

「なーにアリスのフレンドだろ?」とのんきなシルク。

「じゃ!いいじゃん!みんなで観よう!」とンダホ。

「うん!うん!分かったお言葉に甘えさせて頂くわ!」

魔人フランドールはシルク達とアリス達と一緒に座った。

やがて映画館内は電気が消えて暗くなった。

そして巨大な白いスクリーンに映画の予告編と本編『真・女神転生Ⅱ』が始まった。

魔人フランドールはアリスを横目でチラッと観てこう言った。

全く!この子ったら!とても純粋で優しいのね!私のような。

いや!あの魔人ホラーと魔導ホラーの戦いを見ていた筈なのに……。

あんなに恐ろしい本性を表したのに。あんなに魔導ホラーや尊師を殺したのに。

自分も甘過ぎるけれど。それ以上に貴方も自分に甘過ぎるわよ。

そう思いつつもアリスの隣の席に座って映画を観ていた。

魔人フランドールは不思議と心臓がドキドキしていた。

彼女がとても楽しそうに映画を観ていて。笑顔で。

そして心の底から映画を楽しんでいる姿がとても愛おしく思えた。

それはただの友達とは違う。もっと深い何か?

魔人フランドールは恥ずかしくなり顔を赤らめた。

そしてアリスの事をチラチラと気になるもののなるべく目の前のスクリーンで

上映されている『真女神転生Ⅱ』の物語に集中し続けた。

一方、アリスとンダホもシルクもダーマもモトキも時には楽しそうに。

時には考え深げに映画を観ていた。

魔人フランドールも彼らと同じ気持ちで映画を観ていた。

そして主人公ナナシとヒロインのアサヒとその仲間達が天使軍のメルカバーと

悪魔軍のルシファーの間に割って入って来た新しい敵軍の多神連合のリーダの

クリシュナとオーディンとミロク菩薩を倒し、ようやく大蛇シェーシャと共に倒され、

彼らの新宇宙創造計画を阻止し、瓦解させる事に成功した。

しかしルシファーとメルカバ―は停戦を解除し、最終戦争(ハルマゲドン)が始まる。

ナナシとヒロインアサヒとその仲間達は仲間と協力して

メルカバーとルシファーの両者を討った。

終戦争(ハルマゲドン)は終わり、人間は真の自由を取り戻した。

そして物語はフリント何者かが話しているところで終わった。

やがてエンドロールが流れ、スタッフの名前がスクリーンに

表示されるとアリスは思わずこう漏らした。

「あーあ!いいところで終わっちゃったなー」

「フフフッ!続きはまた今度ね!」

魔人フランドールはニヤニヤと笑い続けた。

すると近くの席で恐らくキリスト教信者なのだろう。

その男は頭を両手で抱えて嘆きの言葉を漏らした。

多分、メルカバーが人間に倒されたのがショックだろう。

魔人フランドールは静かにこうつぶやいた。

「お気の毒様ねー。」

「これどうなるのかな?」とンダホ。

「とりあえず人間が真の自由を手に入れて」とシルク。

「また元の日常の人外ハンターの仕事に戻るのかな?」

「私は違うと思うわ!まあ続きは来年だけど!」

「あっ!やっぱり!フランちゃんもそう思う?私もそう思うな!」

それから映画が終わり全員外へ出た。「面白かったね!」

「ええ、丁度、ゲーム版とは違うオリジナルの設定があったわね!」

「えっ?と言う事は3DSの真女神転生Ⅳファイナルを持っているの?」

アリスは驚いた口調で魔人フランドールを見た。

「そうよ!もう!ゲームは7周もクリアしたわよ!」

するとアリスは羨ましそうにこう言った。

「ガーン!うそーん!まだ一周もしていないのにいいいっ!」

「映画オリジナルの設定ってどんなの?」

「それはねー。あの映画本編の10年前にアサヒとナナシの

義理の父親のマスターさんが現役の人外ハンターだった頃にね!

大量の精気を吸ってルシファーと同等の力を得た魔王マーラと死闘して

肉体は消滅したけれどまだが残っていて娘のアサヒの肉体を利用して復活しようと

したのでミッドタウンのテンカイと協力してアサヒの肉体に呪術結界で封印した。

それから10年後に多神連合と悪魔と天使の争いの最中に封印が解けようとしている。

どうなるかは次回作のお楽しみ。」

「どうなるかなあ?敵になるか?味方のなるか?」

「次回作の怪しいフリンと時と共に分かるんじゃない?」

するとアリスはむーつとした表情になった。

「もーつ!フリンはともかくトキは怪しくないよ!」

すると魔人フランドールはにやりと笑った。それは何処か悪魔の笑みに見えた。

「もう、あのテレビの魔獣新生多神連合は活動を開始させたわ。

いずれはこちら側(バイオ)の世界で東京で神々、悪魔達が大量に動き始めるわ。

だから気おつけた方がいいわ。既にこちら側(バイオ)の世界の

ニューヨークのチェルシー地区の映画館の人々の中に何人か混じっている筈。

特に魔獣ホラー達がね。人間では無い。この世界にいる筈の無い存在が。」

魔人フランドールの言葉にダーマ、シルク、ンダホ、モトキ、アリスは

周囲を歩き行き交う人々に世話し無く視線を向けた。

「まさかっ?この人々の中にっ?気おつけないと!」とンダホ。

「この中にいる人って見分けられないの?」

それから魔人フランドールは赤い瞳で映画館の丁度、アリスやシルク達が出て来た

真・女神転生Ⅱ』が上映されていた部屋から短い茶髪に黒いサングラスにタキシード

姿の男とその隣に赤いタンクトップと緑色のジャージのカナダ人の女性に目を向けた。

カナダ人の女性はやや丸顔にオールバックの三つ網のポニーテールに

やや太く細長い茶色の眉毛。ぱっちりとした大きな茶色の美しい瞳。高い鼻。

口紅を塗った真っ赤な唇。両耳には小さな銀のピアスを付けていた。

更に真っ赤なタンクトップから白い肌に覆われた深い胸の谷間が見えていた。

それをわざとマルヨに見せた。「マルヨさん!面白かったわ!」

と甘い声でマルヨの右腕に両腕でムギュッと抱いた。

「おおおっと!ジェイドさん!みーんな見ているでしょーう!」

「あーあすいません!」とジェイドはウフフと笑うとマルヨの右腕から離れた。

「うわー滅茶苦茶イチャイチャしているよおーっ!」とモトキ。

「うっ!そーつ!」とダーマ。

「なんかあざといなーっ!怪しくねー!あの人!」とシルク。

 

(第67楽章に続く)