(第12章)R型計画(前編)

(第12章)R型計画(前編)

 

アッシュ博士の報告書(続き)

「HCF研究内ではダニア博士の指示で新型ハンター研究開発計画が起動している。

開発コードは『バグズ』だそうだ。そしてこの飼育係の女性2人と

『スーパープレイグクローラー』の事故の根本的な理由は

『スーパープレイグクローラー』が持つ人間の女性と

繁殖しようとする昆虫特有の原始的本能が強く残っている為である。

対策としては『スーパープレイグクローラー』が生活している

コンテナに若い女性飼育係を近付けさせない事。

あるいはスーパープレイグクローラーの巨大な複眼に元気で生殖可能な

若い女性が視界に入るのを防ぐ為にコンテナの強化ガラスに黒いカーテンを付ける事。

スーパープレイグクローラーの生活中に

人間の女性をその気にさせる昆虫の性フェロモン

物質がコンテナの外に漏れないようもっと完全密封を常に心がける事。

あるいは常に完全密室状態を常にオンし続ける事。

(この事故の原因は飼育係の油断が大きい。

スーパープレイグクローラーが普段とてもおとなしく

ある程度会話出来ていて完全に心の隙があった。)

またアンナは前回のエレナと同様妊娠している。

恐らくエレナと同じく胎児の姿をしていると推測される。

アンナは妊娠している以外は特に体の変化は無く健康そのものである。

また早期にワクチンを投与しているので『新型T-エリクサー(仮)

(E型特異菌遺伝子有り)』が仮に母子感染していたとしても

母子ともに影響は無い様だ。勿論、体内に残ったウィルスは

微量なので伝染性も無く健康と変わらない診察結果は良好である。

また胎児に関してだが恐らくアンブレラ社が実験で作り出した

あのハンターαと同様にアンナやエレナの卵子とスーパープレイグクローラー

複数の昆虫と蟹やサソリのDNAが『新型T-エリクサー(仮)

(E型特異菌遺伝子有り)』

ウィルスの力で掛け合わさって誕生する可能性が高い。

こうして人為的なキメラでは無く自然発生したキメラが現れ始めるのは

HCFの研究員や学者達も興味深い出来事だったに違いない。

ただ私はあの『新型T-エリクサー(仮)(E型特異菌遺伝子有り)』

のせいでこの世界、いや地球上の生態系に大きな歪みが産まれないか

とても懸念している。以上。報告を終わる。」

文章を書き終えた後、アッシュ博士はHCF上層部にメールで完成した報告書を送信した。そしてアッシュ博士は両肩が凝ったので両腕を

グルグルと回して両腕を天井まで伸ばした。

アッシュ博士はうーんと大きく背伸びをした。

しばらくアッシュ博士は天井の蛍光灯の明かりを観続けていた。

間も無くしてガタン!ガタン!ゴトン!ゴトン!と天井から物音がした。

「んっ?何だ?ネズミか?いやネズミがここにいる筈はないか」

やがて天井の物音はどんどん遠ざかって行った。

 

HCFセヴァストポリ研究所内のBOW(生物兵器)及びウィルス兵器中央実験室の

超厳重巨大飼育室内新しく始まった新型ハンターの研究開発計画の為に何人もの

研究員達がドヤドヤと入って行った。そして新型ハンターの研究開発の素体として

今まで飼育係達の悩みの種だった『スーパープレイグクローラー』が新しく

どこかで設立した『新型ハンター開発研究開発室』へ移される事になった。

そして研究員と技術スタッフは達はクレーンで『スーパープレイグクローラー

が収容されたコンテナを載せる作業をしていた。

全員ヘルメットには日本語で『安全第一』と書かれていた。しかもデカデカと。

他の男性飼育係達は「やれやれ」と言う声や「厄介払いが出来た」

と喜ぶ者もいれば一息つく者もいた。

一方で女性飼育係数名が何故かこのコンテナの移送に不満を抱いていた。

そして例の『新型T-エリクサー(仮)(E型特異菌遺伝子有り)』

を投与された小太りの男の入ったコンテナも移送してくれないかな。

と全員思っていたが今回は例の『新型T-エリクサー(仮)

(E型特異菌遺伝子有り)』を投与された小太りの男の

入ったコンテナを移す予定は無いようである。

飼育員係達は「チッ!」と舌打ちしたり、残念そうな表情をした。

それから何人かの飼育係はコンテナの細長いポストのような投入口から

中にいる小太りの男を忌まわしそうに見ていた。

小太りの男はコンテナの中でぼーっとしていてまるでぬいぐるみの様に

錆びた床に座っていた。かなりだるいらしい。

しかし飼育係はそんな小太りの男の体調など全く全然、

これぽっちもどうでも良かった。

そして一人の飼育係はいつも通り、細長い投入口に生の牛肉を

そのまま勢いよく投げ入れた。投げ入れられた生の牛肉はべちゃっ!

と湿った音を立てて赤錆びだらけの床に落ちた。

小太りの男はべちゃっ!と言う錆びた床に落下した音を聞くなり、

まるで獣のように四つん這いになって、錆びた床に落ちた生の牛肉の

ところにゆっくりとした動きで近づいた。小太りの男はとにかくやたら空腹だった。

どういう訳かお腹がすき過ぎて、直ぐにも動けなくなりそうだ。

小太りの男は赤錆びに覆われた床の上に落ちた生の牛肉を両手で掴むと

大きく口を開けて、生の牛肉を何度も何度も噛み続けてどんどん食べ続けた。

相変わらず身体はかゆいし、しかも生の牛肉を全て食べても

空腹が満たされる事は無かった。

もっと食べたかった!畜生!畜生!もっと!もっと!もっと!よこせっ!

あああっ!腹が減ったあっ!もっと!もっと!もっと!肉!肉!肉をっ!

どうやら小太りの男がTウィルス特有の初期症状を発症しているのは明らかなようだ。

しかも小太りの男の両頬には無数の蔦が複雑に

絡んだ分厚い植物の皮膚に覆われていた。

更に両腕の皮膚も素手の植物の茎の形の腫物は一気に広がって両肩や両手の

皮膚を侵食していた。首筋からは赤い小さな花弁のようなものが生えていた。

「あああっ!ああっ!どうしてぇっ!ああっ!こんな!あううっ!」

小太りの男は小さく唸り続けた。それは確実にプラントデッド化している証拠だった。

更に小太りの男の様子はコンテナの天井の隅に

設置されている監視カメラが記録していた。

そして無情にもAI(人工知能)アポロはダニア博士のプログラム命令通りに

『新型T-エリクサー(仮)(E型特異菌遺伝子有り)』の

投与後感染変異経過観察用被験者サンプルの記録を克明に映像として記録し続けた。

それは小太りの男が完全にプラントデッド化するまで続けられた。

ちなみにプラントデッドとは植物ゾンビである。

しかも変異のスピードが速くアポロが計ったタイムは。

感染から初期症状発症からプラントデッド(植物ゾンビ)化するまで約8時間だった。

これは過去にクイーンゼノビアやテラグリジアパニックで使用された『T-アビス』

同様、ウィルスによる細胞変異と転移が非常に速い事を示していた。

その為、8時間以内にワクチンを投与しなければ

危険であると言う事が今回の検証結果で判明した。

勿論、プラントデッド化後にベテランの飼育係の手によって彼が書き残した

ノートは回収され、ダニア博士にきちんとウィルス検査をして

厳重に消毒と除染されたのちに渡された。

 

セヴァストポリ研究所内の最下層の極秘研究室。

『新型ハンター開発研究室』(正確な位置は不明)

BOW(生物兵器)達の飼育室内から移送された『スーパープレイグクローラー

が収容されたコンテナは真っ白な広大な部屋の中央にクレーンで設置された。

『スーパープレイグクローラー』のコンテナの周囲には『新型ハンター開発』

に必要な研究用の機材や医療器具や医療用のメスやその他手術に必要なもの。

そして産婦人科にあるような巨大なベッドや椅子が置かれていた。

最新のエコー(超音波検査)の機材や出産に関するマニュアルが棚に

所狭しと並べられていた。更に近くには強化ガラスの生活スペースがあり、

ベッドや洗面器具があった。防音機能も付いていた。

強化ガラスの生活スペース内にはAI(人工知能)のアポロが立案した闇バイトの

募集広告に惹かれて参加した金髪と茶髪と黒髪にポニーテールやツインテール

ロングヘアーやシュートヘアの若くて健康な女性の被検体が10名いた。

また『スーパープレイグクローラー』が収容されているコンテナの裏の広い空間には

まるで刑務所の様になっていて大量の檻の中には全米で集めた死刑囚が

スーパープレイグクローラーの餌として収監されていた。全員男性である。

またこの計画と並行して別の計画も始動していた。

それはこの『新型T-エリクサー(仮)(E型特異菌遺伝子有り)』

とプラントリーチと人間の女の子を

組み合わせた新型のBOW(生物兵器)の開発である。

つまりE型特異菌を持つエヴリンと同じように『敵集団を戦闘によらず制圧する生物兵器』のコンセプトを取り入れた上でエヴリン同様に『新型T-エリクサー(仮)

(E型特異菌遺伝子有り)』を含んだプラントリーチを大量に全身から生み出し

周囲の人々に感染させてクリーチャー化させ、しかもプラントリーチを新型のBOW(生物兵器)の女の子が核(コア)となり、クリーチャー化した大量の人間達や彼女が生み出した自然発生型BOW(生物兵器)やウィルス兵器を統制官としてグローバルメディア企業が開発中の軍用AI(人工知能)のプログラム通りに自由に操り、統制の取れた手軽に行える実用性かつ利便的な軍隊の統制官型BOW(生物兵器)の製造と安定した量産を目指すと言う計画である。現在計画は中間まで進んでいた。

 

(第13章に続く)