(第37章)悪魔に憑りつかれたアンヘラ博士


『2-14 - エミール - 犠牲』NieR Replicant&Gestalt OST

(第37章)悪魔に憑りつかれたアンヘラ博士

 

最後にアンヘラは魔女王ホラー・ルシファーに

憑依される直前にこう遺言として残した。

「エア!エア!ストークスとちゃんと一緒にしっかり!生きるのよ!!

あと私の息子として生まれてくれてありがとう!『夫も愛しているわ!』!

お願い!最後にそれをちゃんと忘れずに伝えるのよ!!

いい!最後の約束よ!!じゃあね!愛している!」

魔女王ホラー・ルシファーの身体が一気にまるで糸がほつれる様に無数の線に変化した。既にG生物第3形態の身体は消え去り、無数の真っ赤に輝く線となっていた。

更に真っ赤に輝く無数の細長い線はアンヘラの茶色の瞳。鼻の穴、大きく開いた口から

次々と侵入した。アンヘラは両瞳を閉じたまま全身をブルブルと痙攣させた。

「やっ!やめろおおおおおおおっ!!」

超分厚い結界の外側でエア・マドセンは四つん這いのまま魔女王ホラー・ルシファーに

憑依され続ける母親のアンヘラ・マドセンに向かって必死に這いつくばって近付き、

右腕をそして右手を差し出してどうにか止めようと更に何度も野太い声で叫び続けた。

魔女王ホラー・ルシファーが母親アンヘラの体内に完全に消失すると

バタリと膝を大きく曲げてそのまま真っ赤に輝く

分厚い板に覆われた金属の床に倒れた。

そして僅か1分程でアンヘラは静かに瞼を開けて目覚めた。

彼女の茶色の瞳は一瞬でらんらんと輝く赤い瞳に変わった。

「よし!我とこの女の陰我は奇しくも同じだったか。

ようやく念願のまともな人間の肉体じゃ!じゃが・・・・・」

やがて魔女王ホラー・ルシファーは自分とさっきいたアンヘラを囲っていた

真っ赤に輝く分厚い結界の壁を解除した。

同時に真っ赤に輝く分厚い結界の壁も消えた。

するとエア・マドセンは自分の目の前で

魔女王ホラー・ルシファーによって母親アンヘラの魂を喰らい、

肉体を乗っ取る姿を見た事によってただ悔しさと悲しさと寂しさで

絶叫しながら四つん這いから上半身を勢いよく起こした。

そして両手で頭を抱えながら身体を後ろにエビ反りにした。

続けて大きく左右に両腕を広げた。

エアは分厚い真っ赤な分厚い板に覆われた天井を真っ赤に輝く瞳で見た。

口を精一杯開けた。彼は人生で一番大きな野獣のような

慟哭の絶叫を長々といつまでも上げ続けた。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおんっ!!」

同時に非常用エレベーターが開いた。

そのエレベーターの中には魔人フランドールが立っていた。

更にエアが野太い慟哭の絶叫を上げ続け、さっきまでいた

魔女王ホラー・ルシファーの幽霊のような素体は消失していた。

しかも両瞳をらんらんと輝かせている母親のアンヘラ・マドセンの姿を見た時は。

最初は信じられなかったが間も無くして母親のアンヘラ・マドセンから

魔女王ホラー・ルシファーの気配と賢者の石を強く感じ取り、全てを悟った。

魔人フランドールは茫然となり、その場にぺたりと座り込んだ。

間も無くして真っ赤に輝く瞳から大粒の血の涙を流した。

その血の涙は両頬の白い肌から下顎を伝って流れ続けた。

「嘘・・・・・・そんなあっ!・・・・とても!とても早く降りたのよ!!

なのにいっ!なのにいっ!どうして?どうして?間に合わなかったのよ!!」

魔人フランドールも甲高い声で絶叫し続けた。

一方、自分の実の母親のアンヘラの死にエアは完全に自我を失いかけていた。

ただただ慟哭の絶叫を上げ続けていた。怒りと憎しみに満ちた表情を

浮かべて実の母親アンヘラに憑依した魔女王ホラー・ルシファーを見た。

その瞬間、魔人フランドールはエアの憎しみと怒りの感情を感じ取り、こう叫んだ。

「怒りや憎しみに囚われちゃ駄目よ!その賢者の石を暴走させては駄目よ!

そんな事をしたら!HCFセヴァストポリ研究所が滅茶苦茶になる!それじゃ!

母親の意志を無為にする事になる!それでもいいの?

さっきの会話は聞いたでしょ?やりとりを!」

魔人フランドールの絶叫にエアは素早く反応した。

「うっ!うるさいっ!これはっ!あいつと俺の問題だあっ!!」

エアはそうやって絶叫して反論するもののなぜか身体が痺れて動かなかった。

幾ら脳に指示しても動かなかった。どうやら精神ショックの余り、

全神経がマヒしているのだろうか?それとも死んだ母親のアンヘラが

僕を抑えようとしているのだろうか?どちらにせよ。

僕はその場から動く事は出来なかった。しかし間もなくして理由は分かった。

その魔女王ホラー・ルシファーが自分の母親のアンヘラの姿にそっくりだったからだ。

僕は大好きな母親を傷つける事は出来なかった。

もはや闘う事すら。大好きな母親と闘うなんて・・・・・・・・・。

「うっ!くそっ!くそっ!」とエアはただただ毒づき、

闘いに怒りと憎しみに囚われていても自らの優しさ故に攻撃に移行する事が出来ない。

自分自身に腹が立ち、母親を救えなかった激しい悔しさに身を焼き尽くされ、

また四つん這いとなり、無力感に打ちひしがれていた。

頭の中にあるのは常に「無力」と言う大量の文字だった。

無力、。無力。無力。無力。無力。無力。無力。無力。無力。無力。

無力。無力。無力。無力。無力。無力。無力。無力。無力。無力。

これだけの賢者の石の力を持ちながら母親独りすら救えない自分が嫌になった。

嫌で。嫌で。嫌で。仕方がなかった。

母親アンヘラに憑依した魔女王ホラー・ルシファーは真っ赤に輝く

分厚い板に覆われた金属の床に四つん這いになって子犬のように

丸くなって震えているエアに優しくこう言った。

「もう!止めましょう!もう。こんな闘いは無意味だ。

これ以上争っても仕方が無いわ。」

「うるせえええええええええっ!俺の母親の声で・・・・声で・・・・・」

「しゃべるな?悪いが我はこの女に憑依した。

もはや我はこの女の声でしかしゃべれぬようになってしまった。

今更!声は変えられぬ!!それに『ホラーに憑依され者の魂は死ぬ』

つまり汝の母親は汝の恋人のストークスと汝の今後の未来を守る為に

自ら犠牲になったのじゃ。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

汝は息子である以上は母親の遺言に従うつもりじゃろ?

我はもうこのHCFのセヴァストポリ研究所を去る。

そしてもう二度と恋人ストークスや汝には指一本触れぬ!!

これで闘いはおしまいじゃ!もう決着はついたのじゃ!!これ以上は無意味じゃ!!」

そう一気に魔女王ホラー・ルシファーはまるで自分に言い聞かせるように

エアに向かってしゃべりたいだけしゃべるとクルリとエアに背を向けた。

「いつでもかかってくれば良い。母上の言葉を無意味なものにしたければのう。

約束はお互い守るのは人間の常識なのじゃろ?約束は必ず守る!我はのう!」

エアは魔女王ホラー・ルシファーの言葉に敏感に反応した。

エアは顔を真っ赤にして目の下から大粒の涙を

ポロポロポロと零しながらただすすり泣いていた。

鼻水も垂れて顔をくしゃくしゃでとても顔を上げる気にはなれなかった。

エアも仕方がなく母親アンヘラの最後の遺言に残された伝言を伝える為と

魔女王ホラー・ルシファーが母親の約束を持ったように彼も母親のアンヘラの

想いと約束を守る事にした。エアは賢者の石の力を自らの意志で封じた。

やがて真っ赤に輝く無数の剣が集合して出来た2対の翼も

両頬から真っ赤に輝く天秤の模様も消えた。真っ赤に輝く

サラサラの胸元まで伸びた真っ赤に輝く髪は茶髪に戻った。

真っ赤に輝く瞳も茶色の瞳も戻った。「その方が母上そっくりじゃ!いい顔じゃ!」

魔女王ホラー・ルシファーは優しくエアにこう言った。

続けて魔女王ホラールシファーはエレベーターの前で血を流して泣いている

魔人フランドールに茶色の瞳を向けた。

「おい!魔人フランドール!汝は我をニューヨーク市内にある魔獣新生多神連合の

本部まで案内してくれる手はずじゃったかのう。それが汝の任務なのじゃろ?」

魔人フランドールは応答した。

「ええ、そうよ!魔王ホラー・ベルゼビュート様から与えられた任務はー。

貴方のセヴァストポリ研究所内の活動の監視。そして貴方がHCF社を

さっきみたいに幽霊達を暴れさせて営業妨害させないようにする事。

もしもそんな事をした場合は私が貴方が起こした混沌を無くして秩序を取り戻す

然るべき対処を速やかに行う事。もちろん、貴方の力を得たエア・マドセンに

力の使い方をしっかり教えたのもその一環よ。

さっきの母親アンヘラの憑依ホラー化阻止もね。悪いけれど彼の賢者の石の力が

暴走してこのHCFのセヴァストポリ研究所が滅茶苦茶になって壊滅したら

私の雇っている米民主党多数党内幹事もグローバルメディア企業も

秘密組織ファミリーも魔獣新生多神連合も困るのよ。

もちろんどこの組織の雇ったかスパイは言わないけれど。

そしてHCFセヴァストポリ研究所のジルのクローンのストークス以外の人間の女性。

研究員でも職員でもスタッフでも反メディア団体ケリヴァーの素人スパイでも

誰でもいいけれど。無事女性に憑依して

魔女王ホラー・ルシファーが肉体を手に入れたら。

もう大体は予測はつくけれど魔獣新生多神連合本部まで要人案内して本部に到着したところで私に任務は完了なのよ。これが私の今やらなくちゃいけない仕事なの」

魔人フランドールは両手で慌ててて流れた血の涙を綺麗に拭き取って真顔になった。

 

(第38章に続く)