(第41章)謎の動画『静かなる丘・18番倉庫』(前編)

(第41章)謎の動画『静かなる丘・18番倉庫』(前編)

 

今回もリー・マーラと医療チームとエア以外の保安部隊が

D市街地の廃遊園地の特定地へ向かっています。」

「そう、それと!例の『静かなる丘』の現地調査は?」

「現在、エイダ・ウォンが一人で向かっているところです。」

「反メディア団体ケリヴァーのリーダーの若村秀和とその側近達。

一番最初に小さく集まったグループ。あの『静かなる丘』のどこかに

彼らの反メディア活動の原点となった秘密の部屋がある筈なのよ」

「それと一部のHCFの研究員の報告書のSCP専門の組織『財団』

に正式な調査を依頼すると言う話はどうするのでしょう?」

「結局は魔女王ホラー・ルシファーはアンヘラ博士に憑依して逃亡してしまったから。

彼らによる捕獲収容は不可能ね。あとSCP財団の上層部のO-5評議会と

HCF上層部がお互い情報交換をした際にSCP財団が送られた情報によると」

「はい!表示します!」

AI(人工知能)アポロは目の前の大きなモニターに表示した。

それによるとー。HCF研究員が報告した魔女王ホラー・ルシファーは

過去に『SCP5000』と言う名前で既に登録されているようだ。

またSCP最高クラスの『KETER(ケテル)』に指定されているようだ。

さらにSCP内の情報データによると「SCP5000・明けの明星ルシファー。

特別収容プロトコル・オブジェクトクラス『KETER(ケテル)』。

実態を持たない幽霊か雲のような姿をしたオブジェクト。

人型で背中に十二の翼を持ち。両手に10対の鉤爪を持ち。

真っ赤な電撃で外敵に攻撃を加える。

ノイズが掛かった声でしゃべる事から知能がある。

性格が混沌としていて目的も不明であり、各地に頻繁に不定期に出現しては消失。

出現しては消失を各地で頻繁にこれまで何度か繰り返している。

最近、ある成人女性の肉体を乗っ取り、スペイン人の女性の姿をしている。

しかし女性の肉体を乗っ取った後、SCP職員が調査に来る前に

消失してしまった為、未だに収容に至ってはいない。」

「結局、連中も魔女王ホラー・ルシファーにはかなり手を焼いているようね」

「はい!かなり手を焼いているようです!」

AI(人工知能)アポロとダニア博士は話をしていた。

 

HCF保安部のエア・マドセンの自室。

エア・マドセンは虚ろな瞳で暗くなった視界を見ていた。

彼は白いズボンを履いたまま体育座りを

して自分の心にぽっかりと空いた穴を埋めようと

必死に心の整理をしていた。彼は母親アンヘラを目の前で魔女王ホラー・ルシファーに

血肉魂を奪われて、永遠にこの世から消え去ってしまった

現実を受け入れようとする自分。現実を受け入れられず

必死に否定し続ける自分と葛藤して闘い続けていた。

「うっ!ママ!いないはずは!でも!もういないんだ!違うっ!違うっ!

ママは生きている!違う!ママはもう死んだんだ!

受け入れろ!嫌だっ!嫌だっ!受け入れたくないいいっ!」

そうやって自問自答をし続けた。

顔を上げると両頬も両耳も真っ赤で顔はクシャクシャで

涙と鼻水でビシャビシャでとても他人に見せられる顔では無かった。

彼は急に自分自身が情けなくなり、慌ててティッシュで顔の涙を全て拭き取った。

更にもう一枚のティッシュで鼻をチーンとかんだ。

そして自らに顔を綺麗にしてしばらくじっとしていた。しかも長い間黙っていた。

何もする気でもなく。何の気力も湧かなかった。動く気力すら湧かなかった。

それからエアは自分の母親が残した数々の言葉を思い出した。

『当然!私のこの『R型計画』で反メディア団体ケリヴァーを全滅させて

トークスを救おうだなんてバカげた考えは『私は絶対に正しい正義だ』

と思っても息子の貴方は違う筈よ!』

『そう!それでいいのよ!人は違った個人の考え、信念、正しさの在り方。

自分なりの正義と善意!みんな違ってバラバラでいいの』

『貴方が私から独り立ちして自立した時に自分自身で迷いながらも周りの人々の

助けや理不尽な仕打ちの中で希望と絶望をの中で

自分が正しいと思った道を歩みなさい。それが母親の大事な。大事ないいつけです。』

『大丈夫よ!今はママはエアの前からいなくならないわ!でもね

!もう貴方は立派な20代の大人!もうママの助けは必要ないの!

貴方は一個人の人間としてお父さんや保安部隊の仲間達と責任と誇りを持って

このHCF保安部隊の仕事を元気なうちにやり続けないといけないの。

ママだって貴方といつまでも一緒にいたいけれど人間は必ず歳をとって

80か90歳で必ず死んでしまうの。

あるいは不意の事故やアクシデントで死んじゃうかも知れない。

人間なんてね。いつ何処で何日、何時、何分に死ぬかなんて

あたしにも貴方にも誰も分からないのよ。』

『だから私がいま生きている内に貴方の恋人ストークスの

幸せを第一に考えているの!たとえ私が死のうと!貴方が。そして幸せな・・・・・。

家族が作れれば!私はそれだけでもこの世界で命を懸ける価値があるのよ!

私は貴方達の幸せの為に自分が出来る事を精一杯してあげたいのよ!

それが私の人生!私の命を懸けた人生なのよ!

親子の幸せを強く誰よりも願うのは当たり前なのよ!』

そこでエアはフラッシュバックで母親アンヘラの精一杯の笑顔を思い出した。

同時に母親アンヘラにギュッと抱き締められた感触と匂いを思い出した。

そして母親アンヘラの最後の遺言を聞いた。

『エア!エア!ストークスとちゃんと一緒にしっかり!生きるのよ!!

あと私の息子として産まれてくれてありがとう!!夫も愛しているわ!!

お願い!最後にそれを忘れずに伝えるのよ!!いい?!

最後の約束よ!!じゃあね!愛している!!』

そしてエアの脳裏に自分の母親が最後に見せた

愛情が込められた笑顔をはっきりと思い出した。

その自分の母親の笑顔は誰よりも、いや世界一輝きに満ちた美しさであると同時に

一人の女として、あるいは生き物として死の直前に見せた最も生命溢れた太陽のような

あの母親の笑顔。そしてエアはまた大粒の涙を流した。

更にエアの脳裏に魔女王ホラー・ルシファーの身体が無数の真っ赤に輝く線となり

母親アンヘラの身体の中に侵入して行く瞬間がフラッシュバックした。

それからエアは絶叫した。

「うわああああっ!止めろ!止めろ!思い出させるなあああっ!」

彼は両手で頭を抱えて、胎児のように身体を丸くしてベッドの上に

横になり、そのまま背中を震わせた。そしてシクシクと泣き続けた。

やがてエアはそのままベッドの上で眠ってしまった。

10時間余り、エアは悪夢を見る事も無くすやすやと静かに寝息を立てて眠り続けた。

きっと泣き疲れて眠ってしまったのだろう。今思えばそんな感じだ。

しかしやがてエアはふと目を覚めて無線機のスピーカーを見るとマッドの声がした。

エアは無線機のスイッチを押して耳を当てた。やがてマッドの声がした。

「エア?いいか?実はあんたが休んでいる間。

実は俺達は旧米陸軍研究所跡地を調査していたんだ。

当時の細菌兵器の研究実験資料は終戦後かその戦争中に全て地下の暖炉や

焼却炉に放り出されて燃やし尽くされほとんど残っていねえんだ。」

「知っている。例の旧米陸軍研究所跡地の噂。

魔人フランドールから聞いてネットでも調べた。」

「まだ幼いのに色々物知りなんだなー」

「まあーな。でも確か彼女は吸血鬼だから」

「長生きって事?じゃ!色々豊富な知識がある訳か。

AI(人工知能)のアポロやHCFの上層部の命令でエイダ・ウォン

アメリカのメイン州にあるかつて観光地として栄えていた街の

『静かなる丘』に向かったらしい。

理由はあの反メディア団体ケリヴァーの活動の原点となった秘密の部屋があるらしい。

あと最近じゃ。この『静かなる丘』のおかしな力が原因か良く分からんが。

大体、6ケ月前からアメリカ全土で濃霧が発生していて。

しかも濃霧から正体不明の捻じれた身体をした

でかい怪物の目撃情報が相次いでいるんだ。

マッドは無線を通してエアに『他にも得体の知れない

人型の生物や奇妙な集団の目撃情報もある』と言う話をした。

更にマッドによるとある大学生が失踪した際に現場に残っていたカメラに

奇妙な生物と女子大生が。そのー。どこかの異世界に時空の歪みか何かで

攫われた後に多分撮ったと思われる映像がネットの動画サイトで。

グーフィが見つけた。あの濃霧の中にいた巨大な怪物と思われる姿が

部分、部分でチラチラ映っていたようだ。それで今ー。」

「そちらの映像はあるのか?なら!送信してくれ!なんか気になる!」

「いいが!何だかあれだぞ!」と歯切れの悪い返答のあとに

マッドはその噂の動画をエアの保安部隊専用の端末機に送信した。

エアは直ぐにマッドが送信してくれた例の謎のネット動画を再生させた。

その再生させた映像にはまずどこかの倉庫の地下の様子が映し出されていた。

どうやらこの映像が何故かネット動画サイトに流出していたようだった。

 

(第42章に続く)