(第68章)堕ちた天使

(第68章)堕ちた天使

 

赤き太陽の呪いにかかったアキュラスは教会で詩音の必死の反撃の抵抗に遭い。

撃退され、全身にショットガンと火炎放射機の攻撃を受けて全身傷だらけになりながら

教会の汚れたタイルの床と赤い椅子が隅に置いてある部屋の穴を抜けて逃亡していた。

アキュラスは穴を抜けて通気口中を移動した末に教会の外の遊園地に出た。

そこはメリーゴーランドの辺りの場所だった。

更にアキュラスは再び強い立ち眩みを起こしてフラフラと歩き続けた。

そしてブツブツ小言を呟き続けた。

「嫌だ。死にたくない。自ら呪われて破滅したくない。

物を殺したくない。同族を殺したくない。どうすれば??

神は助けてくれない。裏切られた。若村も裏切った。

僕は呪われている。クソっ!クソっ!僕は死を認め、知った。」

そこにチリリン!と鈴の鳴る音がした。アキュラスは見た。

目の前にピエロ(道化師)が立っていた。ピエロはシルクハットを被って

真っ赤な丸い鼻を付けていて僕をパントマイムで笑わせようとした。

しかしアキュラスは全員、笑えなかった。

彼は怒り、大きく獣のように唸り、威嚇した。

ピエロは「おおっ!」と両手を挙げて、驚いていた。

それからフッ!と両手を背中に隠していた。

続けてバッ!と背中から両手を出した。

両手には赤い人形と緑の人形を付けていた。

道化師が持っているその赤い人形と緑色の人形はそれぞれ

高い声と低い声で子供のようにしゃべり始めた。

アキュラスは興味を示した。

「やあ!アキュラス君!僕達は『魔獣新生多神連合』が一柱。

魔獣ホラー・アスモディ!!君は酷く困っているね?」

「あれでしょ?『赤き太陽の呪い』でしょ?死にたくない??

生きたいんでしょ??方法を知りたい?生きる方法!」

するとアキュラスは藁にも縋る思いでアスモディに向かって叫んだ。

「方法!?方法があるのか??この呪いを解く方法が??」

魔獣ホラー・アスモディは両手の赤い人形と緑の人形を

器用に動かしながらアキュラスに向かって楽しそうにしゃべり始めた。

「あるよ!あるよ!あるよ!でも!それには・・・・。

君も魔獣新生多神連合として入る事!君は進化体だ!!

君はもう若村の言いなりじゃない!自由なんだ!」

アキュラスは迷い始めた。

まさか?自ら敵視していたメディア社会と魔獣新生多神連合に生きる為に入るなんて。

馬鹿げている!!なんでだ??でも!こいつは信用出来るか分からないけど。

生きたいッ!生きて子孫を残したい!!呪いが解けるなら!!

呪いが解けて!自らの破滅が回避出来るなら!!

だけど!悪魔共に入ったら僕は堕天する!!神を裏切る!!

そうだ!でもなかなか決心が付かない!!どうすれば??

すると魔獣ホラー・アスモディはしびれを切らして「うーつ」と言う顔をした。

次の瞬間、魔獣ホラー・アスモディは真っ赤な鼻から強烈な光を放った。

魔獣ホラー・アスモディの赤い鼻から放つ強烈な

真っ赤な光を直視したアキュラスはぼーつとした表情になった。

静かに赤い人形と緑の人形はそれぞれしゃべり始めた。

「君の心の中にある本当の声」と緑の人形。

「それは他人を裏切ってまで自分だけ生き残ろうとする。

君の本性は呪いを消し去って手当たり次第たーくさん!たーくさん!

人間の女を抱いて自分の性欲を満足させて!

たーくさんの子供を産ませようとしている!

誰が死のうが君には一切関係無い。報いなど受けたくない。

若村も仲間が死んでも自分だけ人間の女と共に生き残るんだ!

これが君の本性だよ!!」と赤い人形。

アキュラスは自分の醜い本性を暴かれ酷く戸惑った。

「僕は・・・そうだ!その通りなんだ・・・・僕は・・・・。

ウフフフフフッ!アーッハッハッハッハハハハハハッ!!

呪いを解いて!!僕は堕天するんだ!!若村なんかクズだあああっ!!

アハハハハッ!!アーッハッハッハハハハハハ!!

僕は!!魔獣新生多神連合に入るんだ!!僕は自由なんだ!!

いつまでも負け犬の反メディア団体ケリヴァーと

若村共の下で働けるかあああああっ!!アハハハハハハッ!!」

魔獣ホラー・アスモディはアキュラスの反応に強い手応えを感じた。

この術は本来は人間を喰らう為に使うのだが今回は魔獣新生多神連合の

仲間としてアキュラスを引き入れる為に術の力は弱めてあった。

そして魔獣ホラー・アスモディは嬉々としてその場で楽しそうにはしゃいだ。

更に再び自らの真っ赤な丸い鼻を丸く発光させた。

そして真っ赤に発光する丸い鼻にあの太陽の聖環の紋章が浮かんだ。

どうやら魔獣ホラー・アスモディもまた『進化体』のようだった。

アキュラスは魔獣ホラー・アスモディの真っ赤に輝く赤い鼻と太陽の聖環と

見ている内に「悪い事をしたけどわざわざ報いを自分が受ける必要は無い」

と気付いた。どうせガルヴァスター・D・スカーレット伯爵夫人の言うように

『命に重さ』は無いからだ。今は彼らの命は軽いが自分の命は重いのだ。

間も無くしてあの『赤き太陽の呪い』による強い立ち眩みを起こした。

アキュラスはまた危うく転倒しかけた。

しかし自分の心と肉体の中でパリン!!とガラスが割れる大きな音が聞こえた。

そして『赤き太陽の呪い』の強大な力が完全に消滅したのを感じた。

同時にさっき感じていた強い立ち眩みを徐々に軽くなり、直ぐに消え去った。

アキュラスは自分の足でしっかりと立てるようになった。

「まさか?本当に?呪いを消し去るなんて・・・。なんて強大な力だ!」

アキュラスは魔獣ホラー・アスモディの術の力と技に驚いていた。

彼はようやく。ようやく運命から若村の破滅から自由だ。

アキュラスは大喜びした。よし!僕は本当の意味で自由だッ!!

魔獣ホラー・アスモディはうやうやしくお辞儀をすると自己紹介をした。

「初めましてアキュラス!」と赤い人形。

「僕達は魔獣新生多神連合が一柱!魔王ホラー!!

アスモディだよ!!これで僕達の仲間だよ!!」

アキュラスも改めて魔王ホラー・アスモディに自己紹介をした。

「僕は!僕は魔獣新生多神連合が一柱の堕天使アキュラス!!

これで?いいかな?もう!堕ちたし!!」

「うん!上出来だよ!」と赤い人形。

「もっと!もっと!自身を持たなきゃ!」緑の人形。

「ああ!そうだね!」とアキュラスは笑った。

アキュラスの反応に魔王ホラー・アスモディは素直に喜んだ。

しかしアスモディは心の裏ではアキュラスの弱みに付け込んで

自分の言う通りに洗脳して仲間に出来た事に異常なまでの優越感に浸っていた。

そして魔王ホラー・アスモディは床に真っ赤に輝く太陽の聖環を出現させた。

不安そうに彼を見ていたアキュラスに魔王ホラー・アスモディは

赤い人形と緑の人形で素直に「だいじょうぶだよ!」

「これは門(ゲート)なんだ!!」

「それは魔獣新生多神連合本部の魔王ホラー・マーラ事、

マルヨさんの屋敷に通じている。」

「マルヨさんは良い悪魔だよ!直ぐに君の望むたーくさん!

たーくさんの若い女達がいて!!自分の性欲も満足させて!!

たーくさんの子供を産ませていい!!快楽と自由に満ちた楽園だよ!!」

アキュラスは魔王ホラー・アスモディの口車に乗せられてそこへ行く決心をした。

「うん!行くよ!!」と嬉しそうに興奮した口調でアキュラスは大声で答えた。

アスモディは「うんうん」と頷いた。

「じゃ!!転送するよ!!」と赤い人形。

「楽しんで行ってね!!」と緑の人形。

アキュラスは魔王ホラー・アスモディの力によって『静かなる丘』

の遊園地から魔獣新生多神連合本部の

魔王ホラー・マーラ事、マルヨの屋敷に転送された。

魔王ホラー・アスモディは「ふーつ」と息を吐いた。

「さーて!ガルヴァスター・D・スカーレット伯爵夫人様の

ご依頼の反メディア団体ケリヴァーの幹部暗殺命令も終わったし。」

「あの若村の人形もスカウト出来たし。さーてと。

僕もジョン様の秘密組織ファミリーの大きな屋敷に戻って

反メディア団体ケリヴァーの幹部暗殺とアキュラスの

スカウトが成功した事を報告しなくちゃ!!」

魔王ホラー・アスモディはウキウキと両腕を上下に振った。

やがて自分も魔王ホラー・ベルゼビュート事、ジョン・C・シモンズと

ガルヴァスター・D・スカーレット伯爵夫人に依頼された

反メディア団体ケリヴァーの幹部暗殺とアキュラスの

スカウトも成功した事も報告すべく。

自分の足元に真っ赤に輝く太陽の聖環を出現させた。

そして彼もまた遊園地からジョン・C・シモンズがいる

秘密組織ファミリーの本部のある大きな屋敷に自らを転送させた。

アキュラスと魔王ホラー・アスモディは『静かなる丘』の遊園地から姿を消した。

 

『静かなる丘』のアレッサの部屋。

エイダ、エア、鳴葉は扉の窪みにはめる鉄板の数が足りない事に困っていると。

さっき入って来た茶色の扉から茶髪の白いコートの男が入って来た。

エアは写真で顔も知っていたし、エイダは話はレオンから実は聞いていた。

そう、あの魔獣ホラーを狩る魔戒騎士の最高位の黄金騎士ガロ、冴島鋼牙だった。

鋼牙はおもむろに右腕を伸ばした。指には銀色の大きな髑髏の指輪が嵌められていた。

「成程!あんた達も俺様達もここに辿り着いたって訳か?」

カチカチと急に大きな銀色の髑髏がしゃべり始めた。

しかしエアもエイダも鳴葉も魔人フランドールも今まで有り得ない現象に

完全に慣れて適応してしまったせいか全員ノーリアクションだった。

「ふーむ。成程。この異世界で色々見過ぎちまったようだな。

はあーさて!俺様の名は魔導輪ザルバ!

どうやらシェリル刑事とここに残留思念として残っている

アレッサ・ギレスピーに導かれたって事は!当然!足りない鉄板はあるな?」

「ああ、はい!ここにあります!」とエア。

「鉄板ならもう既に」と鳴葉。

「ここにあるわ!」とエイダ。

そして3人は扉の窪みを指さした。

鋼牙は扉の方を見た。

扉の窪みには『父親の鉄板』『母親の鉄板』『虐待の鉄板』が嵌められていた。

そしてあと2つの窪みがあった。鋼牙は白いコートの内側から

『種族の鉄板』『操り人形の鉄板』を残り2つの窪みにはめ込んだ。

するとガチャアアッ!と大きな音がした。

どうやら鍵が外れたらしい。

エアと鳴葉は『いっせーの!』の掛け声でと同時にした。

同時にガチャアッ!と開いた。その先は真っ暗で何も見えなかった。

エアとエイダがライトを付けた。その時、鳴葉は奥の方を指さした。

その先は長四角の七色の輝く壁や床や天井に覆われた短い廊下だった。

5人はそのまま先へ進んだ。しかし次の瞬間、魔人フランドールを

除いてエア、エイダ、鋼牙、鳴葉の4人は床が開いた事で下の階へ落下した。

エアと鋼牙はそれぞれエイダと鳴葉を

お姫様抱っこしたまま下の階にどうにか着地した。

「おいおいここはどこだ?」と鋼牙。

「どうやら落とし穴みたいですね。」とエア。

鋼牙とエアはそれぞれお姫様抱っこしていたエイダと鳴葉を床に降ろしてやった。

周囲は真っ赤な壁と天井と床の四角い部屋だった。

「ここはなんだ?」と混乱するエア。

「ねえ?あれは何」と鳴葉が指を差した。

「これは??箱かしら?」とエイダは近付いた。

部屋の中央のテーブルにはひとつの箱が置かれていた。

そのテーブルに置かれていた箱はパズルの箱だった。

どうやら木箱で出来ているらしい。

鳴葉はつい好奇心でそのパズルの木箱に触れようと手を伸ばした。

その時、鋼牙は今まで聞いた事のないような

太い凄まじい怒号に似た大声でこう叫んだ。

「その箱に触るなああああああああっ!」と。

鳴葉は全身をビクンと震わせて短い悲鳴を上げた。

それからバタンと尻もちを付いた。

 

(第69章に続く)