(第70章)形態を維持するか?それとも失うか?

(第70章)形態を維持するか?それとも失うか?

サンドラの体から飛び出した暁色と青黒い色の
総数16本の触手は好き勝手な方向にビシャビシャと動き回り、
不気味に蠢いていた。
ガーニャはその様子を見た瞬間、顔面蒼白になりかすれた声で
「なんだ……これは?」
凛は
「彼女の因縁や心の闇に巣食っている魔獣よ!」
蓮は顔面蒼白のガーニャに左目をつぶってウィンクをしながら
「つまり彼女の悪の心の化身ってやつさ!」
と答えた。
凛は
「悪の心……単にその一言だけでは語れないわ……」
とつぶやいた。
ガーニャは
「これから?どうするんだ??」
その時、凛と蓮は突然、何か気配を感じた様子で暁の壁を見上げた。
暁の壁からは何か暁色の液体らしきものが見えた。
すると蓮は
「マズイな……早く現実世界へ!」
と言いかけた時、凛が暁のクリスタルの莢の中に
閉じ込められているサンドラの方を指さし、大声でガーニャに
「急いで!暁の『あいつら』が来るわ!」
蓮は信じられないという表情で
「馬鹿か?正気か?」
ガーニャは少し迷ってはいたがやがて決意した表情で凛と共に
暁のクリスタルの莢に閉じ込められているサンドラの方へ走り出した。
その様子をあわてて蓮は
「ちょっと待て!死ぬ気か?」
と言いながらその2人の後を追いかけた。

ジェレルは網走厚生病院で救助した長野先生の地元の警察の連絡により、
国際警察の本部の隣にある別の病院へ特殊な救急車に乗せられ運ばれた。
ジェレルの容体は非常に安定していて、医師達は宇宙人のレイに襲われた時、
幸いにもアヤノがすぐに救助へ駆けつけた為、凍傷もかなり浅く、
下腹部の内臓にわずかに食い込んだ程度で済んでいたから大丈夫だろうと誰もが思っていた。

やがて救急車で病院に着くと早速、最新のエコー(超音波)検査で腹の中を撮影し、
宇宙人のレイがもしかしたら卵を産み付けていないか徹底的に調べた。
その結果、卵は見つからなかったが、腹の傷から青黒いクリスタルと
カニを掛け合わせたような物体が発見された。
医師達はそれを3D(三次元コンピューターグラフィックス)により、
その部分だけを立体映像として画面に映し出した。
美雪と神宮寺博士も、立体的に青色に着色された蜘蛛に似た8本の触手と、
丸まった細長い紐に似た尻尾の先端に小さなハサミに似た芽の
ある生物の画像をまじまじと見つめていた。
その青黒いクリスタルとカニを掛け合わせた様な全体像は
過去に東京で猛威をふるった微小デストロイアの姿を彷彿とさせた。
「これは……例の宇宙人の子供?」
「いや、宇宙人の生体組織の原始的な細胞だろう。
信じられん……ガーニャさんのスケッチにあった、
裂けた下顎に蛇かカニに似た頭部から生えた2本の触覚……間違いないな!
この原始的な細胞の一部は過去のデストロイア
同じウィルスの様な微小構造体で出来ているらしい……」
と言い掛けた時、看護婦が神宮寺博士の所へ走って行き
「金田トオルさんと言う人から連絡が……」
とそっと耳元で囁いた。
それから神宮寺博士は
「わかったすぐに行く!」
と返事をすると美雪達に
「失礼!」
と一言声をかけ外へ出て行った。

洋子はレベッカのものすごい剣幕に圧倒されしばらく黙りこんでいた。
レベッカ
「あたし達は人間の女性の死体と一体化してその遺伝子を複合させて、
いわば人間になって他の人間と混血することができるわ……
このとき、事故や殺人で死んだ人間は生き返っているのとは大して変わりはしないわ!
だけど混血では宇宙人としての自らの形態は次第に失われていってしまう。
自分たちの形態を維持していく為にこのウィルス計画は進める必要があるのよ!」
洋子は避難所のテレビで見たことを思い出し
「でも!あなた達が実験台にしたサンドラは!
血を大量に吐いて……体中に腫瘍が出来て……死にかけているのよ!」
しかし目に涙を浮かべ必死に訴える洋子の言葉を無視しレベッカ
「それでも!あたし達はX星人みたいに支配だとか権力は求めていないわ!」
長野先生は極度のこう着状態の中、拳銃をレベッカに向け、
「それは知っているわ……この地球に住む人類やゴジラ族、ギドラ族そしてあたし達種族は、
X星人や他の宇宙人達によって……家畜や食料、生物兵器として利用されて来たわ……」
レベッカ
「そうよ!X星人達はあたし達を牛や豚と同じ
家畜かあるいはX星人の軍用生物兵器の研究材料としか思っていない!
あたし達だって!もっと自由に人生を全うして最後まで生きる権利があるわ!」
再びアヤノは
「それは!X星人やミュータント、カイザーも同じ筈よ!」
しかしレベッカはそれに関係なくますます早口になり
あたし達のウィルス計画が完成すれば!
人類もミュータントもカイザーさえも不要よ!
それにいつまでもX星人のクローンに頼っている訳にもいかないから……
今は男性を襲って混血児を、特にミュータントとの混血児を増やしていかないと!
いずれはサンドラが作ったウィルスを使って宇宙人の特徴のみを強化させていくわ!」
しかし長野先生が
「あなたのやり方は間違っている……それこそ不自然だと思わないの?
種族の形態を今のまま次の世代まで維持するのは不可能だわ!
あたし達の次の世代は宇宙人本来の能力や形態は徐々に減って……
やがて失っていく!それでいいじゃない」
と静かな声で言った。

(第71章に続く)