(第88章)幻影

おはようございます。
畑内です。
ゴジラの自作小説を載せます。

(第88章)幻影

 東京地球防衛軍本部。
 ゴードン上級大佐、ガーニャ、ジェレル、
蓮はアヤノが監禁されている独房からレイが目撃された場所に辿りついていた。
 そこに窓を覗いているロシア人がいた。
レイだ。
 ガーニャはレーザ銃を取り出し、
「もう!逃げられないぞ!」
と大声を上げた。
しかしレイは冷静な表情ですぐ傍の椅子に腰かけると
「知ってる?ここ昔、会議室で使われていたらしいけど……今は全く使っていないそうよ!」
と微笑んだ。
「もう!逃げられない!おとなしく投降するんだ!」
とジェレルはガーニャ、ゴードン上級大佐の先頭に立ちレーザ銃を向けた。
長い沈黙の末、蓮は静かな口調で
「なあ……教えてくれ!第3の堕天使は何者なんだ!
お前はあいつに脅されてここでG塩基を組み込んだ細菌兵器を撒こうとしたんだろ??
奴の目的はなんだ??」
しかしレイは無言でまだ微笑んでいた。
蓮は諦めず
「その第3の堕天使の正体はロシアの
考古学者のジョアン=ハスチネイロだろ?あいつが変身したのを俺は見た!
その時、奴の身体はオレンジと暁色をしていた!どういう事だ?」
しばらくの沈黙の後、レイはとうとう口を開き
「あいつは『悪意』そのものよ!
他者の悪意に付け込んで知的生物を利用する『死神』とも『悪魔』とも言うわ!」
「そもそも奴の目的はなんだ!」
「奴の目的はこの世に住む生物達の自我を食い殺すことよ!」
「おい!気を付けろ!」
「奴の妄想に耳を傾けるな!」
とジェレルとガーニャは蓮の先頭に立ち、レーザー銃をレイに向けた。
「あたしもいつか……彼の様に赤い龍になれると思っていた……
邪魔な連中を殺して彼に渡せばすぐだと!
でもあたしは自分の悪意に付け込まれて操られていただけ……」
とレイはカバンらしき物から
「これ!お返しするわ!」
と言うと4冊のファイルを机の上に投げ捨てた。
 ガーニャが見るとそれは
アメリカの国防総省ペンタゴンから盗まれた
ゴジラに関する極秘文章が収められたファイルだった。
「やっぱりお前が?」
「だからアメリカの地球防衛軍の格好をしていたのよ!気が付かなかった?」
「気が付いていたさ……狙いはこの俺だろ?だからアヤノを罠に嵌めた!違うか??」
と思わずジェレルはレイのレーザ銃を向け、怒りに駆られ大声を上げた。
「そうよ!でも!あたしは精神に異常をきたし殺人癖を持つ彼女のクローンの失敗作……
だから……『MJ12』に協力しているMWM社の関係者達は、
あたしや他のクローン失敗作を捕まえて!自分達や他の種を守る為に強制的に不妊手術を施した!
だから子孫は残せないの!」
そしてレイは服のポケットからレーザ銃を取り出した。
「武器をそこに置くんだ!何故ここで返した!どういう事だ!」
とガーニャ。
「そのファイルの文章があの最強の暗号のナバホコードだったから……
全く専門外で解けなかったの……ガブリール・キルバスキーさん!いやガーニャさん!」
「お前はアヤノのクローンか?ノスフェラトゥは人間の死体としか融合できない筈だ?」
とゴードン上級大佐
「あたしは本当にアヤノさんのクローンよ!
確かにノスフェラトゥは人間の死体としか融合出来ないけど、
個体として生命を持つ前の受精卵にノスフェラトゥの体細胞を融合させれば、
ノスフェラトゥと人間のハーフのクローンとしての個体が生まれる事が最近の研究で分かったの!」
しばらくの沈黙の後、最後にレイは静かに
「もう……あのディスプレイ殺人は終わりにしようと思うの……
これ以上そんな事をやっても子孫を残せない以上!無意味だから……」
と口の中にレーザ銃の銃口を押し入れた。
「おい、やめろおおおおおっ!」
とジェレルは絶叫した。
しかし何もかもが遅すぎた。
レイはレーザ銃の引き金を引き、口の中で発砲した。
レーザ光線は口の中から後頭部まで貫通した。彼女は即死した。

 地下研究所アルカドラン爆破まであと2時間。
 ガイガンと一心同体になっている洋子の意識は
ジラの巧みな頭脳戦略に追い詰められ、絶体絶命の危機に陥っていた。
 追い詰められている洋子の意識を助けようとゴジラはジラの背後から飛びかかった。
 しかしジラはまるでゴジラの気配を察知したかのように反射的に振り向き、
飛びかかって来たゴジラの腹や胸に何十発もの火球を口から吐き出し、軽く弾き飛ばした。
 その時、洋子の意識は、ジラの逆三角形の頭部の頂上に
一人の女性と思わしき顔がはっきりと浮かんでいるのを確認した。
洋子の意識は直感的に
「もしかして?『白虎』の巫女?」
すると女性は
「お願い……あたし達、アトランティスの住民達を!あの『朱雀』の力でここから解放して!」
と洋子の意識に訴えた。
 ジラはグルル……と唸り声を上げると無理矢理、
自分の皮膚から浮き出た『白虎』の巫女と『百虎』の怪獣、
アトランティスの住民達の顔を体内に取り込もうとした。
しかし彼女達は抵抗し、
「あの力で開放して!朱雀の巫女さんと青龍の魂を持つ怪獣さん!」
洋子の意識は
「駄目よ!あなた達の存在が永遠に消えるかもしれないのよ!」
『百虎』の巫女は苦悶の表情で
「構わないわ!私たちは閉じ込められた意識の幻影。本当の魂ではない!」
と訴えた。
それから彼女達の願いに反応するように周りの大勢のアトランティスの住民達も
「解放してくれ!」
「もう!ここは嫌だ!」
とまるで蜂の巣を突いた様に口々に洋子の意識に訴えた。
 ジラは怒りの咆哮を上げ、無理矢理体内に彼女と
アトランティスの住民達の怨念を体内に取り込もうとした。
 洋子の意識は迷っていた。
それでも彼女や彼女とアトランティスの住民達はあくまでも
「開放してくれ!」
と訴え続けた。
ガイガンはそのジラの浮き出た顔の声を分析し、
女性の言葉の意味を理解すると、赤いモニター画面は
「複数の人の顔……分析結果!ジラの身体の一部。『敵』。抹殺!」
から
「女性の声……分析結果!ジラの身体の一部。非攻撃対象?=救出??」
と表示が変わった。
一方、洋子の意識はあまりの悲しみに耐えられず両目に涙を溜め、
顔をクシャクシャにしながらガイガンのコンピューターの回答をじっと見ていた。
そうこうしている内にとうとうジラの頭部に浮き出ていた
『百虎』の巫女とアトランティスの住民達の顔は最後に
「オネガイ……ノゾミカナエテ……」
と言い残してジラの体内にズブズブと取り込まれ、姿を消した。
 それからようやくジラは全身を震わせ、憤怒の形相でガイガンゴジラを睨みつけた。
 洋子の意識は決断を迫られていた。
 そして悲しみと苦悩の末、彼女が下した決断は?

(第89章に続く)

では♪♪