(第5章)脱皮

(第5章)脱皮
 
ノートンとジョナサンは目玉の異生物に遭遇する事無くノートンの部屋に辿りついていた。
ノートンは慎重にドアを開けた。
何故なら、もしかしたら目玉の異生物が潜んでいるかもしれないからだ。
「よかった。どうやら侵入していないようだ。」
ノートンは安心しホッと一息ついた。
うわあああああっ。
「うわあああっ!なんですか?ジョーダンさん!」
いきなりジョーダンがいきなり大声を上げたのでノートンは心臓が飛び上がるほど驚いた。
ジョーダンは震える指で彼の部屋の中央を指さした。
ノートンが見るとそこには。
「何てことだ。」
そう部屋の中央の赤いカーペットには目玉の異生物がうつ伏せに倒れていたのだ。
目玉の異生物の4本の赤い触手と赤い視神経に似た胴体。
赤い尾の先端の3本の長く赤い触手が赤いカーペットの上にだらりと広がっていた。
「まさか?眠っているのか?」
ジョーダンは恐る恐る、目玉の異生物に近づいた。
彼はおもむろに懐から鉛筆を取り出し、ツンツンと目玉の異生物の赤い皮膚をつついた。
しかし目玉の異生物はその場からピクリとも動かなかった。
ジョーダンは背中に円形の大きな裂け目がある事に気が付いた。
ノートン見て見ろ」
ノートンが見るとまさかと言う表情をした。
「つまり最初に我々が捕獲しようとした個体は」
「幼虫だった訳だな」
「だとしたら、既に脱皮して、成虫になっているのか?」
「いや、やはり私の仮説が正しければ。」
そう言うとノートンは目玉の異生物の抜け殻の横を慎重に通り、
部屋の奥の研究所になっている部屋に入って行った。
しばらくしてガサガサと  紙を動かす音が聞えた。
どうやら何かを探しているらしい。
だが、困ったな。もし脱皮して強くなっていたら麻酔銃も通用しないかもしれない。
ノートンが戻って来た。
彼は一枚の資料をジョーダンに見せた。
「これはなんだ?」
ジョーダンは図々しくもノートンの顔を押し退け、その資料を見た。
「実は最初の素粒子加速器ワームホールから出現した後に素粒子加速器
広い実験室の天井のダクトに付着していた赤い細胞組織をDNA分析しました。
結果、あの目玉の異生物は原始的な昆虫で無変態をする紙魚に類似した生物だと判明しました。」
紙魚?あの日本の古本屋に大量に這い回っているあの気持ち悪いあれか?」
「そうです。あいつは脱皮する事で巨大化している可能性があります。」
「だったら?奴は紙魚の様な奴だろ?普段何処にいるのか分かるか?」
「はい、紙魚は薄暗く目立たない場所に住みつきます。」
「行動は予測できるか?」
ノートンは唇を噛み考え込んだ。
そう、あいつは雌雄同体の紙魚に類似した昆虫だと言う事が分かった。
そして奴は体内で卵を作り、他の生物に寄生するのに必要な宿主を探している筈だ。
「よし、まずは彼女を探して見ましよう!」
「彼女って?まさかアシュリーの事か?」
ノートンの言葉にジョーダンは大慌てでそう言った。
 
ジムは後悔の念を強く感じ、両手で頭を抱え苦悩した。
ジョナサンは自分達が行った過ちに気付いて両手を抱えて苦悩するジムを安心させようとこう言った。
「大丈夫だ!アシュリーを一刻も早く保護して、目玉の異生物を俺達が懐中電灯で
ワームホールを発生させる台座に奴を追い込み、素粒子加速器を起動させれば
俺達の勝ちだ!大丈夫だ!悪夢は直ぐ終わる!俺達でこの悪夢を終わらせよう!」
その後、ジムは黙って頷いた。
しばらく黙っていたジムはこうつぶやいた。
「多分、ここで失敗すればもうあいつを追い返す機会は無いかも知れない。
あの素粒子加速装置がある広い実験場が危険な場所だと学習したとしたら?
もう二度とこの素粒子加速器のある部屋に踏み込んだりはしなくなるだろう。」
ジムのつぶやきを聞いたジョナサンは唇を噛み、彼にこう言った。
「大丈夫だ!我々は有利な立場にある。
あいつはこの素粒子加速器を開発した俺やスタッフ君の脳から知識を得ていない。
奴が知っているのは男女の関係とその人間側の僅かな知識のみだろう。
どこかで設計図を見るだろう。それにアシュリーは絶対に無事生き残っている。
つまりあいつは俺達が造った素粒子加速器については何も知らないんだ!だから勝機はある。だろ?」
ジョナサンはそう言うと笑顔になった。
するとジムはようやく悪夢を終わらせる希望を見出したのか、僅かに笑った。
「でもまずはアシュリーの行方を探さないとな。」
クソ!奴は一体?何処の天井のダクトの中にいるんだ?
しばらくしてジムは必死に今画面に映し出されている監視カメラの映像を忙しなく確認した。
だが、幾ら他の監視カメラを探しても目玉の異生物は影も形も見当たらなかった。
もしかしたら?監視カメラが設置されていない部屋に逃げたのかも知れない。
ふとジョナサンはこう言った。
「そうか!何処か使われていない部屋に逃げたんだ!」
ジムはジョナサンの提案にポンと拳を叩いた。
「確か?この極秘研究所には監視カメラは最低限の数しか設置されていない。
監視カメラの無い場所は確か6ヶ所はあった筈だ。」
ジムは極秘研究所の見取り図を取り出し、監視カメラが設置されていない6ヶ所の場所を指さした。
「もしかしたら。あの目玉の異生物は既にこの極秘研究所の迷路の様に
入り組んだダクトを隅々まで知り尽くしているかも知れない。」
「だとしたら。何処に潜んでいるかなんて。監視カメラだけでは全く分からないぞ」
ジムは苦虫を噛んだ表情をした。
「利口なやつだ。」
ジョナサンはそうぽつりとつぶやいた。
「つまり監視カメラの無い6ヶ所の場所をしらみつぶしに探すしかないな。」
「そうだな、だが見つかるのか?」
ジョナサンは彼女が無事見つかるかどうか不安だった。
「とにかくしらみつぶしに挑戦してみよう。大丈夫必ず見つかるさ。」
ジムは彼女が見つかるか不安なジョナサンを励ました。
ジョナサンはジムの優しい言葉に僅かに希望を見出した。
その後、ジムとジョナサンはお互い協力し、監視カメラが設置されていない6ヶ所の内、
6か所の場所を長い時間を掛けて行方不明になったアシュリーと
脱皮して巨大化した目玉の異生物をしらみつぶしに探し続けた。
しかし未だに発見できずにいた
やがてジムとジョナサン疲労困憊の末に監視カメラが設置されていない最後の場所へ辿りついた。
 
(第6章に続く)