(第7章)対決

(第7章)対決
 
「何をされたか分かるか?」
「分からない」
ジョナサンに続いてジムの質問に対し、急にノートンはそう答えると押し黙った。
しばらくしてジョーダンはノートンの代わりにこう説明した。
ノートンが言うにはあの目玉の異生物は無変態をする紙魚に類似した原始的な昆虫に類似しているそうだ。」
「つまり脱皮する度に2mから3m、4mと巨大化し続けるのか?」
ノートンは溜息をつき、頷いた。
「もしかしたら巨大化した分、さらに強くなっているかも知れない。」
「彼女は裸にされていました。服を破って無理矢理脱がせた形跡がありません。
8次元から来た生物ですから恐らく彼女の衣服の構成物質を
完全に分解させて消滅させる光線か何かを放つのかも?」
「つまり下手をすれば人間の肉体の構成物質を分解するかも知れない。」
ノートンの説明にジョーダンはそう言うと懸念の表情を浮かべた。
ジムは何気なく監視カメラのモニターを見た。
素粒子加速器の広い実験室の監視カメラに目玉の異生物らしき姿が小さく見えた。
目玉の異生物はダクトから這い出ると再び視神経に似た赤い胴体を
素早いスピードでくねらせ、4本の赤い触手をカサカサカサ!と交互に動かしていた。
そして広い素粒子加速器の床や天井を縦横無尽に這い回り、獲物を探していた。
「なんてこった。最初は2mだったのに3mまで巨大化してやがる。」
ジムは信じられない表情でその目玉の異生物の姿を見た。
「なあ下腹部のゼラチン状の伸縮する短い触手はなんだ?」
ジョナサンはまさかと言う表情でノートンに質問した。
「分からない、恐らく産卵管の様な器官だろう。」
ジョナサンは成程と首を上下に振った。
その時、ジムは皆に床に伏せるように指示した。
あの目玉の異生物が床や天井を素早くしかも縦横無尽に這い回れる以上、
ここの素粒子加速器のコントロールルームはガラス張りでその先が実験室だ。
万が一あいつがガラスに張り付けば、ここに我々の居所が知られる恐れがある。
床に伏せたジムはヒソヒソ声でこう皆に行った。
「成程、それにこれはチャンスだ。
今から我々はあの目玉の異生物を8次元の世界へ追い返す作戦を始めよう。」
「方法はあるのか?」
「まず、あの目玉の異生物をどうにかしてワームホールのある台座まで追いたてる。
そして奴が台座の上に乗ったら素粒子加速器のスイッチを押し、8次元の世界へ送り返す!」
「更にスイッチを押す前に目玉の異生物に見つかってもアウトだな。」
ジョーダンの言葉にジムはそう付け加えた。
「大体、どうやって奴を追いたてる?あいつゴキブリ以上に素早いんだぜ!」
「実験室には照明装置があるか?」
「いや、全くない、作業に必要な明かり以外無い。」
「懐中電灯が頼りだな。」
ジョナサンは手に持っていた懐中電灯を強く握った。
「無謀だが、動き疲れて床に着地したところで懐中電灯を利用して台座まで追いたてよう。」
「よし!決まりだな!絶対に決着を付けるぞ!」           
「彼女の事は心配するな。」
ジムはそう言うと懐中電灯と赤いスイッチをチラッと見た。
「まさか君が押すのか?」
「そうだ。物理学者の私に役割だ。」
ジムはニッコリと笑うとさらにこう話を続けた。
「それに信用できないと言う理由だけでジョーダンとノートンを縛りつけて君だけで
あの素早い目玉の異生物を素粒子加速器の台座に追い立てるのは合理的じゃないぞ。」
確かに彼の言う通りだと思った。
しかし、ジョナサンの心は揺れていた。
この二人を信用できるのか?
いや、今がチャンスだ!何としても二人に協力して貰い、あの忌まわしい目玉の異生物を追い払う。
今のところそれしか選択肢は無い。
ジョナサンはそう納得させ、2人の協力を申し出た。
2人は快く協力をしてくれると言うが。
果たして本当なのだろうか?
その後、ジョナサンは懐中電灯をお尻のズボンのポケットにしまった。
「なあ、その人間の衣服や肉体の構成物質を分解する例の光線は何処から発射すると思う?」
ジョーダンは懐中電灯をお尻のズボンのポケットにしまうとこう答えた。
「恐らく巨大な眼球から発射されるのでは?」
「そうか!それなら目玉を狙えばその光線の発射を阻止できるな。」
そしてジョーダン、ノートン、ジョナサンは早速懐中電灯を持ち、
素粒子加速以外の機械整備室を通って素粒子加速器のある台座のある部屋に降り立った。
全員、さっきまで部屋の中で聞こえていた目玉の異生物の甲高い鳴き声が急に止んでいる事に気付いた。
「静かだな……」とジョーダン。
「気付けてくれ!天井のダクトや壁の隙間から奇襲攻撃を仕掛けて来るかも知れない。」
ジムも無線で静かな声でそう警告した。
ジョーダンはシーンとなった広い素粒子加速器の実験場の何処かに
潜んでいる目玉の異生物の姿を探し、目の前にある大きな発電機を懐中電灯で照らした。
次の瞬間、目の前にある大きな発電機と床の大きな隙間から目玉の異生物はいきなり飛び出して来た。
ジョーダンは不意をつかれ、心臓が飛び上がり、「おおおっ!」と思わず大きな声を上げてしまった。
しかし直ぐに冷静になり、懐中電灯を目玉の異生物の巨大な眼球に向けた。
目玉の異生物は眼球に激痛が走り、ジタバタともがき苦しんだ。
「あの視神経に似た赤い尾の先端の3本の長い触手に気お付けるんだ!当たったらヤバいぞ!」
すかさずジョナサンが懐中電灯で援護しながらそう警告した。
その時、視神経に似た赤い尾の先端の赤い3本の触手の内1本がジョーダンの頬を僅かにかすめた。
ノートンも怯む事無く、勇敢に前進し、懐中電灯を目玉の異生物に向け続けた。
目玉の異生物は苦し紛れに今度は赤い視神経に似た胴体を大きく激しく右にくねらせた。
その拍子に赤い視神経に似た胴体の先の赤い尾の先端の3本に分かれた
長く赤い触手が彼の横にいたジョナサンの右脇腹に3本とも全て直撃した。
彼の身体は横に宙に飛び、金属性の壁に叩きつけられた。
うっくっ!くそっ!呼吸が……。
ジョナサンは息が詰まり、呼吸がしにくくなっていた。
しかも脇腹がズキズキと痛んだ。
どうやら肋骨を3本程、骨折したらしい。
だがそれでもジョナサンは荒い息を上げ、ようやく呼吸を整えると再び両手で上げた。
実際それだけでも肋骨が3本程、折れている為、脇腹に酷い激痛が走った。
だがジョナサンは歯を食いしばってそれに耐え、目玉の異生物の眼球に懐中電灯を向け続けた。
目玉の異生物はジョナサンとジョーダン、ノートンが向けた懐中電灯の光により激痛と熱さで苦しんだ。
しかし目玉の異生物はなんとか反撃すべく眼球を緑色に光らせ、緑色の色の光線を放った。
緑色の光線は周囲の発電機や金属製の箱を構成している金属物質を完全に分解し、次々と消滅させて行った。
 
(第7章に続く)