(第37章)快楽

(第37章)快楽
 
牙浪の世界・閑岱のジルが借りている部屋。
鈴法師は烈花法師の体内にあるドラキュラの毒を浄化させた後、
ホッと一息付き、ジルとお茶を飲んで休んでいた。
しばらく鈴とジルはお茶を飲み終え、それぞれ机に置いた。
「実は伝えるべき事が一つあります。」
「それは何?」
鈴は暫く黙っていたがやがて口を開いた。
「ジルさん落ち着いて聞いて下さい。
貴方の胎内に植え付けられたドラキュラの細胞。
私達、魔戒法師達が賢者の石と呼んでいる物のほとんどは
貴方の卵子に憑依して子宮をゲートに始祖ホラーに変化しました。」
「ええ、それは鋼牙とザルバに聞いたわ」
「そうですね。それで貴方の卵子に憑依しかった残りの賢者の石は
胎内の血管を通って全身を巡り、血管内で分裂した後、
人間達が呼ぶミトコンドリアの形態になりました。
その後は貴方の細胞の内部に寄生した後に何故か休眠しました。」
ジルは鈴の説明にしばし唖然となり、
両目をパチパチ瞬き、口を半開きにした。
「ジルさん。心配しないで下さい。
休眠状態なので貴方は今のところ人間のままです。」
それを聞いたジルは安堵の表情を浮かべた。
しばらくして鈴はなるべくさりげなくジルにこう質問した。
「個人的に聞いてみたいのですが。
彼とセックスした時どんな風に気持ち良かったんですか?」
鈴のさりげない質問にジルはふと夢心地になり、鈴に話して聞かせた。
「ただ全身が燃える様に熱くなって……汗が噴き出てきて……。
あたしとあいつはまるで野生の獣になった様に凄く気持ち良くて。
ただひたすら吠える様に喘いで叫んでいたわ。」
それであたしは四つん這いのまま後ろから
激しくあいつに突かれ続けた末にね。
ドロリとした熱い液体が何度も自分の胎内に注入されて。
その瞬間に自分の下腹部と胎内の筋肉が何度もキュッ!キュッ!キュッ!
って縮み続ける感触が最高に気持ち良かったの!
オーガ二ズムって言うのよ。」
「ほえー凄い体験ですね。」
鈴は夢心地のまま語るジルの話に興味津々と耳を傾けていた。
「あのオーガ二ズムが忘れられないけど。もっと忘れられないのが……。」
ジルは自分の右胸をぎゅっと掌で握った。
「あいつに乳首を強く吸われた感覚。凄く強烈だった。
その時、ふと思ったの。
あいつ、本当はお母さんがいなくて寂しかったんじゃないかって?」
「それは鋼牙さんに聞きました。ただ魔獣ホラーは基本的に
あたし達を同じように愛情を注いでくれる母親はいません。
でもドラキュラは少し考え方が違うようですね。
メシアは確かにホラーの始祖であり、母親のような存在かも知れません。
でも満足に愛情を注いで貰えず、一匹反発して。
多分、貴方なら自分や他のホラー達に新しい始祖つまり母親を
メシアの代わりに産み出せると純粋に信じたからではないでしょうか?」
「あたしがあいつらの母親を産む存在なんて。」
その時、ジルは何故かまるで遥か遠い中世の時代に
ドラキュラとセックスをした経験があるかのような
運命的で不思議な感覚に囚われていた。
 
バイオの世界・クイーンゼノビアホール。
クエントとパーカーは先程、無線でクリスから
明日起こる出来事について聞かされていた。
「それは?つまり?EAのデッドスペースのUSG石村の
ネクロモーフ大量発生よりも酷い事になると言う事ですか?」
「頼むから何でもかんでも映画やゲームに例える癖は止めてくれないか?
言っておくが洒落にならないぞ!」
パーカーはクエントを諌めた。
「はい、そうですね!ところで烈花さんはどうしているのですか?」
クリスはハハハッと笑いこう答えた。
「自分の部屋で暫く瞑想していた様子だったが。さっき戻って来た。
どうやら向こう側(バイオ)の世界の大量の時空の歪みを通って
明日の白夜の結界と共に現れるカラクリ達から
お前達や世界を守る為に行くそうだ。」
「来てくれるんですね!」
最初の白夜の結界と共にクイーン・ゼノビアに出現する
大量のカラクリが攻め込んで来る話を聞き、かなり暗い表情をしていた。
しかし烈花がクイーン・ゼノビアに来ると聞いた
クエントの表情はパッと明るくなった。
「まさに地獄に仏とはこの事ですよ!パーカー!」
「ああ、だが一人で大丈夫なのか?」
「俺も心配したんだが。
本人は俺が幾ら言っても『大丈夫』と言い張るんだ。
『守りし者として俺はパーカーとクエントを
全力で守ってカラクリと闘う!』
って意気込んでいたよ。
やれやれだよ。全く……」クリスは困ったようにそう答えた。
「つまりさっきの話をまとめるとこうですね。
明日の白夜に結界が出現する。そして大量のカラクリ達が現われて
白夜の力で真の姿を発揮したレギュレイスが向こう側(牙狼)の世界
とこちら側(バイオ)の二つの世界を
支配する王になろうと企んでいると。」
「しかもあいつが変な儀式で一族を復活させたら。」
「最終的に向こう側(牙狼)の世界とこちら側(バイオ)
の二つの世界は永遠の闇に包まれて、奴ら一族の支配下になっちまう。」
「それどころか!向こう側(牙狼)の世界とこちら側(バイオ)の世界は
白夜の結界とレギュレイスが明日に行う復活の儀式によって
大量のカラクリと言う眷属達がたちまち
それぞれ二つの世界を覆い尽すそうです。」
「おい!それはラクーンシティやテラグリジア以上の
深刻なバイオハザードじゃないか?」
パーカーも事の重大さに気付き、大声を上げた。
「あんな奴らと衣食住して永遠に暮らすのなんて絶対に嫌ですよ!」
クエントは不快感を露わにした。
「俺も!嫌だ!お断りだ!」
パーカーもぶるっと全身を震わせた。
彼は自分の部屋や外に不気味な仮面に黒い服に両腕に剣を付けた
あいつらが自由気ままにウロつくのを想像するだけで
全身に嫌悪感や不快感が一気に駆け巡るのを感じた。
さらにクリスは鋼牙や翼達から聞いたレギュレイス一族の復活の鍵を握る
鷹燐の矢の話をした。その鷹燐の矢は天空に放てば
忌まわしいクソったれのレギュレイスごと白夜の結界にを貫き、
無数に湧いたカラクリを消滅させる事が出来る。
しかし鷹燐の矢はもろ刃の剣であり、
万が一レギュレイスに鷹燐の矢を奪われ、
生贄になる人間の人間の身体を貫き、地面に突き刺さった時。
レギュレイス一族は完全に復活し、さっき言った通り
2つの世界は無数のカラクリに覆い尽され、人類は滅亡する。
パーカーは鷹燐の矢が生贄の人間の身体でも地面でも無く、
あのクソったれの不快なカラクリ野郎を産み出す
レギュレイスの身体をクリスや鋼牙達が
ケツから脳天まで串刺しにした後に白夜の結界が
スッキリと破壊される事を強く願わずにはいられなかった。
そうすれば明日の白夜の次の日の一日は安心してこの船で
のんびりしていられるし、今後、世界中何処の町中に行っても
あの不快なカラクリの姿も仮面を被った顔も見なくて済む。
パーカーはそう思った。
 
牙浪の世界・閑岱。
「おい!待て!鋼牙!正気か?」
「ああ、彼女はソウルメタルを操れるここでは唯一の人間の女性だ。」
「だが、お前の大河の剣術をジルに教えるなんて……」
「反対か?」
鋼牙の無愛想な質問にザルバは眉をひそめた。
暫く黙っていたがザルバはようやくゆっくりと口を開いた。
「いいだろう!だが彼女に後悔はさせるなよ!」
「ああ後悔などさせない!」
鋼牙は白いコートの赤い内側から赤い鞘を取り出し、
魔戒剣を抜き青空に掲げた。
「この剣に誓って!」
それから数時間後。
鋼牙はあの練習場になっている広場にジルを呼んだ。
彼は己の父親・大河の剣術を教えた。
ジルは肘を曲げて、上腕を顔の横に付けた。
その後、ソウルメタル製の棒を手の甲に乗せ、
サーッと手を後ろ側に引っ張った。
鋼牙は剣の振り方や素早く剣を左右に振る
方法を徹底的にジルに教え込んだ。
ソウルメタルの棒が余りにも短いので
鋼牙のやり方だと長さが足りなくて難しいだろう。
とザルバに指摘され、
鋼牙は彼女のやりやすいようにアレンジを加えたからである。
するとジルは短時間でメキメキと剣の腕を上げて行った。
彼女の青い眼は鋭く、真剣そのものだった。
彼女は次々と大河の剣術を完璧と行かないまでもほとんど覚えてしまった。
これも冴島家の血筋を受け継いでいるからだろうか?
素早くソウルメタルの短い棒を振るう
ジルの姿を見ていたザルバは驚きを隠せないでいた。
 
閑岱の森の中にある時空の歪みの前。
烈花法師は向こう側(バイオ)の世界に続く時空の歪みの前に立っていた。
そして烈花の目の前には邪美法師が見送りに来ていた。
「魔戒通信の記者には黙っておくし!こっそり結界も張ってあるよ!」
邪美師が笑顔でそう言うと烈花法師は
感謝の気持ちを込め、パンと両手を叩いた。
「邪美姉!かたじけない!もうあいつらに
変なスクープを取られるのは御免だ!」
「ふふっ、お前の向こう側(バイオ)の世界の恋人クエントの話は
閑岱や元老院でもここ一週間位、話題になっているからね。」
邪美法師は笑った。
「ははっ……じゃ!言ってくるよ!」
烈花は苦笑いを浮かべるとクルッと振り向き、
時空の歪みに向かって歩き出した。
「行ってらっしゃい!無茶は程々にするんだよ!」
「ああ、分かっているって!行って来るよ!」
烈花法師は向こう側(バイオ)の世界に続く
時空の歪みに向かって歩き出した。
 
(第38章に続く)