(第41章)血筋

(第41章)血筋
 
バイオの世界・クイーン・ゼノビアの大ホール。
パーカー、クエント、烈花はクイーン・ゼノビアのホールの
天井に発生した時空の歪みからまるで津波のように押し寄せて来る
無数のカラクリの大群に圧倒され、3人は撤退を余儀なくされていた。
「何処へ撤退を?」
「プロムナードだ!」
パーカーは次々と襲いかかって来るカラクリ達の群れに
グレネードランチャーの弾を撃ち込みながらそう答えた。
クエントもマシンガンを連続で発射し、次々と襲いかかる
ラクリの群れをハチの巣にして行った。
「出来れば!広い場所がいい!一気にあいつらを片づける!」
「無茶をしないでください!」
烈花の言葉にクエントは心配になり、そう言った。
「とにかく!プロムナードに退避だ!」
パーカーの指示にクエントと烈花は素直に従った。
そして3人は武器を構え、攻撃を続けつつも、徐々に後退した。
パーカーは直ぐにプロムナードに続く扉を開ける為に
大きな円形の舵の形をしたドアノブを両手で力一杯回した。
「早くして下さい!どんどん増えています!」
クエントは大声で叫ぶとマシンガンの引き金を引き続けた。
マシンガンの弾を連続で喰らったカラクリ達は
片っぱしからハチの巣になり、粉砕されて行った。
「キリが無い!多すぎるだろうがよ!」
烈花は魔導筆を振り,『雷光』の文字を描いた。
『雷光』の文字から極太の稲妻が放たれた。
放たれた極太の稲妻は直線に立っているカラクリ達を粉砕して行った。
やがて階段に直撃した後、大爆発した。
「ちょっと!やりすぎです!船を沈める気ですか?」
クエントは顔を真っ青にし、早口でそう言った。
「すっ。すまん!つい!苛々して!」
烈花は魔導筆を構えながら、直ぐに謝った。
「よし!開いたぞ!」
パーカー、クエント、烈花は中に突入した。
分厚い扉が閉まった。
それからパーカーは再びもう一つのドアの
舵の形をした大きなドアノブを両手で回した。
しばらくして最初に入った分厚いドアが自動で閉まった。
やがてドコン!バコン!と何度も何かが衝突する音が絶えず聞こえた。
恐らくカラクリ達が最初に入った分厚いドアを破ろうとしているのだろう。
やがて最初に入った分厚いドアは中心の舵の形をしたドアノブの
円形の金属部分が大きくまるでゴムの様に曲がり、曲線を描いた。
同時に徐々に分厚いドアが風船のように急激に膨らんで行った。
「ちょっと!なんて奴!あんな分厚いドアを……」
「まさに数の暴力って奴だな。」
やがてプロムナードに続くドアを開けたパーカーがそうつぶやいた。
3人はそのまま幾つもの四角い通路を通り、プロムナードに突入した。
幸いにもプロムナードにはまだ時空の歪みは存在せず、
ラクリもまだ現れていなかった。
プロムナードはまさに嵐のような静けさだった。
3人はこのまま直進し、曲がりくねった
通路を抜け、階段を使って下へ降りた。
「ここからどうするんです?」
「あの扉の先にお望みの広い場所がある筈だ。」
パーカーは更にドアを開け、
烈花とクエントをプロムナードの奥に案内した。
そこは細長い商店街の様な場所だった。
烈花が何気なく顔を上げるとアーチ状の通路が見えた。
しかもアーチ状の通路の上に無数の時空の歪みが現われた。
同時に3人がいる一階の商店街になっている場所にも
無数の時空の歪みが現われた。
「おいおい、いつからここはカラクリ商店街になったんだ?」
「どうやら最近の様ですね」
「どんどん来るぞ!」
そして二階と一階で発生した
時空の歪みから再びカラクリが無数に出現した。
パーカーとクエントは
グレネードランチャーやマシンガンの引き金を引いた。
そしてグレネードランチャーの爆発音やマシンガンが発射される
連続した銃音がプロムナード中に響き渡った。
パーカーは急いでプロムナードの奥の
浮き輪の絵が描かれたドアを左右に開けた。
「この先のエレベーターに乗れば!確か船首甲板に出られる筈だ!」
「成程!船首甲板なら広い場所です!いけます!」
クエントとパーカー、烈花は石の床や壁で
作られた曲がった通路を駆け抜けた。
しかし天井に時空の歪みが発生した後、
一匹のカラクリがクエントとパーカーの背後を
一人歩いていた烈花の頭上から落下して来た。
 
牙浪の世界・奇巌石のある広場。
鋼牙、クリス、翼がそれぞれ持つ武器を使い、
無数のカラクリやレギュレイスと激しい戦闘を繰り広げている中、
ジルは邪美を救い出す為、レギュレイスに悟られない様に
慎重に彼女が縛られている奇巌石に向かって
ラクリ達を倒しつつも慎重に歩を進んで行った。
しかしジルはレギュレイスが翼を掴んだまま、
細長い両腕を白夜の空に掲げた後、
地面に向かって振り降ろす瞬間を目撃した。
やがて彼女の耳にドゴオオン!と大きな音が聞えた。
地面にはもくもくと土煙が立ち昇っていた。
やがて、割れた地面の瓦礫を突き破り、翼が立ち上がった。
ジルはホッと一安心した。
そしてジルは奇巖石まであと1mまで近づいた時、
レギュレイスは奇巌石に接近するジルを緑色の瞳で睨みつけた。
「おのれ!邪魔をするな!」
レギュレイスは左手の巨大な剣状の5本の鋭利な長い爪を振り上げた。
ジルはそれでも両手に短いソウルメタルの棒を両手で構えた。
レギュレイスは流石におかしくなったのか反射的に笑いだした。
「馬鹿な奴だ!たかかがその短い棒で白夜の力を得た私に対抗する気か?
無駄だ!間もなくこちら側(牙狼)も向こう側(バイオ)
の世界も我々、レギュレイス一族のものだ!」
「こちら側(牙狼)の世界にも!向こう側(バイオ)の世界にも!
貴方達の棲む場所などないッ!」
「愚か者め!忌々しい黄金騎士の御託を並べおって!」
急に怒りに駆られたレギュレイスは左手の巨大な剣状の
5本の鋭利な長い爪を勢いよく振り降ろした。
直ぐ近くでカラクリと闘っていたクリスは空を切る音に気付いた。
「ジル!逃げろおおおおっ!」
さらにクリスの絶叫に鋼牙も翼も気付いた。
鋼牙は目の前にいた3匹のカラクリの身体を十字に叩っ切った。
そしてレギュレイスの左手の巨大な剣状の5本の鋭利な長い爪が
両手に短いソウルメタル製の棒を構えたジルに向かって
スローモーションで振り降ろされて行った。
じわじわとジルの身体を真っ黒な巨大な爪の影が覆って行く。
しかしジルの脳裏には鋼牙やクリス、烈花、邪美、
新しいBSAAの隊員達にあたしの命は支えられている!
そして今!レギュレイス一族がこちら側(牙狼)の世界をそして!
あたし達が住んでいる向こう(バイオ)の世界を支配しようとしている!
でも!こちら側(牙狼)の世界にはクリス、鋼牙、翼!邪美!
向こう側(バイオ)の世界はBSAAの隊員、
パーカー、クエント!烈花がいる!
皆、大切な人達や自分達の世界を守る為に命を懸けて闘っている!
こんな奴に!あたし達が住む向こう側(バイオ)の世界も!
このこちら側(牙狼)の世界も!決して貴方に渡したりしない!
あたしは逃げない!鋼牙!クリス!翼!邪美!パーカー!クエント!烈花!
今この場で闘っているみんなも!あたしは守る!
あたしが幼いころから憧れていた……黄金騎士ガロと同じ……。
『守りし者』として!レギュレイス!
あたしはお前を倒す!そして2つの世界を守る!
ジルは躊躇なく短いソウルメタル製の棒を力の限り思いっきり振った。
その瞬間、彼女の鋼牙達を助けたいと言う
強靭な意志が思わぬ奇跡を起こした。
ソウルメタルの短い棒は急に蒼く発光した後、
鋼牙の牙浪剣に酷似した蒼く輝く両刃の長剣に変化した。
「うおおおおおおおおっ!」
そしてジルは迫りくるレギュレイスの巨大な掌を直線に切り裂いた。
「ぐおおおおおっ!馬鹿な!短いソウルメタルが変化を起こしただと!」
レギュレイスは悲鳴を上げ、切り裂かれた
自分の掌を緑色の目で唖然と見ていた。
ジルはその蒼く輝く両刃の長剣を白夜の闇を切り裂く様に空に掲げた。
そして高らかにこう宣言した。
「あたしは!BSAA隊員!ジル・バレンタイン
黄金騎士ガロの血筋を受け継ぐ者!」
ジルは青く輝く鋭い眼光で目の前にいるレギュレイスを見据えた。
「うおおおおおおおっ!」ジルは雄叫びを上げた。
さらにまるで周囲に黄金の嵐と一体に
なったかのように彼女の身体は一気に軽くなった。
ジルは地面を蹴り、一気に2mも跳躍しながら
蒼く輝く両刃の長剣を両手に構えた。
やがて彼女の身体は水平にレギュレイスの胸部に向かって接近して行った。
奇巌石のある広場が良く見える崖の上に白いスーツの男が立っていた。
ドラキュラ伯爵は蒼く輝く両刃の長剣を両手に構え、
2mも跳躍するジルの美しく勇ましい姿見ていた。
その時、彼の脳裏にある映像がフラッシュバックした。
脳裏の映像は中世の時代で自分の目の前に両涙を浮かべ、
悲しみの表情を浮かべている19歳の少女の顔が見えた。
彼は19歳の少女に向かって言い放った言葉を昨日の事の様に思い出した。
「また593年後に会おう!」。

 
(第42章に続く)