(第42章)祈祷

(第42章)祈祷
 
バイオの世界・クイーン・ゼノビアのプロムナードの通路。
クエントとパーカー、烈花は石の床や壁で
作られた曲がった通路を駆け抜けた。
しかし天井に時空の歪みが発生した後、一匹のカラクリが
クエントとパーカーの背後を一人歩いていた烈花の頭上から落下して来た。
「うおおおおおおっ!」
烈花は突然の不意打ちに驚くものの
そのままカラクリと取っ組み合いになった。
ラクリは烈花の上に馬乗りになり、無茶苦茶に剣状の両腕を振り回した。
烈花は右手に持っている魔導筆で法術を発動させ、赤い光線で攻撃した。
しかしカラクリは身体を振り回し、激しく暴れ続け、
烈花の攻撃を妨害し続けた。
それ故、烈花の魔導筆から放たれた赤い光線はカラクリの腕の表面や
仮面の頬をかすめ、天井や壁に直撃し、大穴が開いた。
「こんちくしょう!」
烈花は肌が露出した太腿を振り上げ、
ラクリの後頭部を靴の爪先で蹴り続けた。
更に彼女は容赦なく左拳でカラクリの右頬を何度も殴りつけた。
ラクリはそのまま真横に弾き飛ばされ、
近くに置いてあった鉄の箱に衝突した。
そして烈花は再び太腿を振り上げ、再び襲いかかろうとする
ラクリの胸部を黒い靴底でドコン!と踏みつけ、抑えつけた。
間髪いれず右手に持っている魔導筆の筆先から赤い光線を放った。
赤い光線はカラクリの仮面の顔面に直撃し、たちまち全身が粉砕された。
その直後、思わぬハプニングに見舞われた。
周囲に飛び散ったカラクリの恐らく仮面の一部であろう、
僅かな小さい破片が烈花の右太腿の皮膚を切り裂いた。
「ぐわあああっ!」
彼女は右手で負傷した右太腿をかばい、その場に尻餅をついた。
「烈花さん!」
烈花の悲鳴に気付いたクエントは直ぐにエレベーター前に入る
パーカーを置いて、再び細い角を曲がり、烈花の悲鳴がした方へ急行した。
曲がり角の先には右太腿から僅かに血を流し、烈花が倒れていた。
「烈花さん!」
「くそっ!これじゃ!レヴィアタンが使えね……。ううっ。寒い。」
クエントが駆け付けると明らかに体調がおかしかった。
「これは?毒?」
クエントが烈花の顔を良く見るとほんのりとピンク色の血色の
良い肌は消え失せ、まるで死人の様に真っ白になっていた。
更に高熱も出ているらしく額に汗をかき、
時折、苦しそうな唸り声を上げた。
「レギュレイス……の毒だ……俺はもう駄目だ……俺を置いて行け!」
烈花法師はか細い声でクエントにそう言った。
「嫌です!置いて行けません!」
「早く!行くんだ!」                                                                   
「断ります!」
クエントは自ら両肩に烈花の腕を乗せて、立ち上がった。
「もう、駄目だ!俺がレギュレイスと同化されたら……
お前達を殺してしまう」
それでもクエントは諦めようとはせず、烈花を抱えて立ち上がろうとした。
次の瞬間、ドコン!ドゴン!と石の床から音がした。
「なっ!まさか?」
やがて石の床に2つのクモの巣状のヒビが入り、
大きな音と共に巨大な穴が開いた。
中から2匹のカラクリがまるで白アリの様に這い出て来た。
クエントはマシンガンを両手で構え、引き金を引いた。
しかし既に乾いた音しかしなくなっていた事からどうやら弾切れらしい。
彼はマシンガンを投げ捨て、腰のホルスターから
ハンドガンを取り出し、引き金を引いた。
ダアン!ダアン!ダアン!
銃音と共に幾つかの弾丸は地面に辺り火花を散らした。
だが何発かはカラクリの額に直撃し、
そのまま倒れ、黒い霧を放ち、消滅した。
 
牙浪の世界。
ジルは青く輝く鋭い眼光で目の前にいるレギュレイスを見据えた。
「うおおおおおおっ!」
ジルは雄叫びを上げながら地面を蹴り、一気に2mも跳躍した。
そして蒼く輝く両刃の長剣を両手に構えた。
彼女の身体は水平にレギュレイスの胸部に向かって接近して行った。
「そんな……馬鹿な……」
ジルは蒼く輝く両刃の長剣をレギュレイスの胸部に向かって左右に振った。
その後、彼女は地面に着地した。
ジルは大きく深呼吸した。
同時に蒼く輝く両刃の長剣の平の部分を手の甲に乗せ、
サーッと手を後ろ側に引っ張った。
暫く静寂が流れた。
次の瞬間、レギュレイスの機械的な皮膚に覆われた
長四角の胸部がX字型に深々と切り裂かれた。
「ぐわああああああああああああっ!」
レギュレイスは激しい激痛の余り、凄まじい声で悲鳴を上げた。
「何故だ?何故?魔戒法師でも無い!魔戒騎士でも無い!
矮小な人間ごときに!この!畜生があああああっ!」
レギュレイスは悔し紛れに口を大きく開けた後、
無数の棘に覆われた舌はまるで弾丸の様にジルに向かって放った。
そこに翼が現われた。
「そこは危ない回避するんだ!」
ジルは翼の言う通りに大きく側転し、
自分に迫り来る無数の棘に覆われた舌を回避した。
翼はジルの代わりに魔戒槍でその無数の
棘に覆われた舌を切り落そうと考えた。
しかしレギュレイスの口から放たれた
無数の棘に覆われた舌は予想以上に早く動いていた。
無数の棘に覆われた舌の鋭利な先端は白夜騎士ダンの白い鎧に直撃した。
更に恐ろしい事に無数の棘に覆われた舌の鋭利な先端は白夜騎士ダンの
この世界の金属とは異質でダイヤモンド以上に
固いソウルメタル製の白い鎧を周囲に無数の火花と
破片と鮮血を撒き散らし、いともたやすく貫いた。
そして白夜騎士ダンの白い鎧の中にいる翼の胸部に突き刺さった。
しかも突き刺さった無数の棘に覆われた舌は
レギュレイスの口から分離した。
やがて分離した無数の棘に覆われた舌は蛇の様にウネウネと動いた後、
ズルズルと白夜騎士ダンの鎧を纏っている翼の体内に侵入した。
やがて背中の白い鎧を突き破り、
8対の無数の棘に覆われた昆虫のような脚が生えて来た。
「うっ!ぐああああっ!ぐああっ!ああああっ!」
翼は体内に侵入したレギュレイスの細胞に
侵食される過程で起こる激痛で何度も絶叫した。
「翼!クソっ!なんてこった……あの舌?
人間に寄生しているのか?」クリス。
「翼!嘘でしょ?酷い……なんて奴なの……」とジル。
「翼!ジル!鷹燐の矢を翼に渡すんだ!」
鋼牙は直ぐに鷹燐の矢をジルに向かって投げた。
ジルは鋼牙の声を聞き、鋼牙が立っている方に青い瞳を向けた
彼女は直ぐに鋼牙が投げた鷹燐の矢に気付いた。
彼女は白夜の空で弧を描きながら飛んでくる鷹燐の矢に手を伸ばした。
しかしレギュレイスは一足早く気付いていた。
レギュレイスは嘲笑した後、口を大きく開け、
再び無数の棘に覆われた舌を伸ばした。
そして無数の棘に覆われた舌は飛んで来た鷹燐の矢に絡みついた。
ジルは精一杯手を伸ばしたが結局、鷹燐の矢には届かず駄目だった。
レギュレイスは舌で鷹燐の矢を掴むと
意気揚々とレギュレイス一族復活の儀式に必要な
生贄として奇巖石の上に縛られていた
邪美の方へ地響きを立てて、歩いて行った。
「これで!我々一族は復活し!この二つの世界は我々一族のものとなる!」
レギュレイスは無数の棘に覆われた舌を振り上げ、
鷹燐の矢の鋭利な先端を邪美に向けた。
「くそっ!邪美!畜生!ペイルライダーも!すでに弾切れだ!
どうすれば?どうすれば?畜生!畜生!何か!何か方法が!」
クリスは必死に周囲を見渡した。
すると目の前に翼が持っていた白夜槍があった。
クリスはためらわず飛び付いて持ち上げようとした。
しかしソウルメタルで出来ている白夜槍は普通の人間では
隕鉄の様に重く、幾ら歯を食いしばって力を込めても、
持ち上がる事は無かった。
だが、クリスは諦めなかった。
何度も何度も歯を食いしばり、
白夜槍を持ち上げようと両腕と両手に力を込めた。
畜生!持ち上がれ!持ち上がれ!邪美法師が危ないんだ!
早く!早く!クリスは心の中で何度も祈った。
レギュレイスは鷹燐の矢の鋭利な先端を邪美の胸部に狙いを定めた。
その合間にもクリスは心の中で祈り続けた。
持ち上がれ!持ち上がれ!俺は守りし者だ!
皆と同じ!邪美も!誰も死なせない!
もう……あの洋館事件やラクーンシティ
事件の様に大勢の人々を死なせない!
俺達が!大勢の人たちの命を守る!邪美も!皆も!
すると不思議な事にあんなに隕鉄の様に
重かった白夜槍は羽毛の様に一気に軽くなった。
「うおおおおおおおおおおっ!届けええええええっ!」
クリスは白夜槍を肩に担いだ。
そして助走を付け、鷹燐の矢を持つレギュレイスの
無数の棘に覆われた舌に向かって力の限り投げつけた。
白夜槍は白夜の闇と冷たい絶望の空気を切り裂き、高速で飛んで行った。
「馬鹿な!また人間がソウルメタルを持ち上げるだと!」
そして白夜槍の鋭利な先端は無数の棘に覆われた舌を瞬時に切り裂いた。
同時に鷹燐の矢は再び天高く宙を舞った。
「うおおおおっ!今度こそ!取ってやるわあああっ!」
ジルは大きく跳躍し、腕が千切れんばかりに伸ばした。
そしてジルは鷹燐の矢をしっかりと手で握りしめた。
だが、その間にも翼の全身はレギュレイスの細胞が侵食され続けていた。
「ジル!鷹燐の矢を翼の胸に向かって投げろ!
ジルは自分の胸に突き刺すように翼に伝えるんだ!
急げ!間に合わなければ!翼はレギュレイスと同化してしまう!
俺を信じろ!」
鋼牙は力の限り、そうジルに伝えた。
 
(第43章に続く)