(第34章)悪魔

(第34章)悪魔
 
地上の御月製薬北米支部前。
烈花とクエントは逮捕した御月カオリをBSAA特殊部隊に
身柄を引き渡した後、しばらく二人は
BSAAの特殊車両内で待機していた。
間もなくしてクエントの無線からある通信が入った。
しかも無線をした通信兵はBSAA北米支部のエージェントに所属し、
BSAA内でクエント、ジル、クリスと同じく魔獣ホラーの存在を知る
唯一の人物、パーカー・ルチアー二からだった。
「こちらパーカー!ジャッカスどうぞ!」
クエントは無線機を耳に当てて応答した。
「はい!こちらジャッカス!一体?どうしたんですか?」
「魔獣ホラー絡みの事件だ!10分前にニューヨークの
廃工場付近をうろついていたホームレスが
巨大な蝿の姿をした悪魔とその……なんと言えばいいか?……
大天使が戦っているのを目撃した……らしい……」
「大天使?どう言う事ですか?」
「ホームレスが言うには大天使ハ二エルと言っていたらしい。」
「何故?大天使ハ二エルがこちら側(バイオ)の世界に?」
「知らん!ただホームレスが言うには
何んか用事があったのは確かのようだ。
そして我々が駆け付ける直前、天から大きな金色の雷が落ちて……。
現場に到着してみたら……エライ事になっていたぞ!」
パーカーはクエントの端末機にある映像を送信した。
「うっ!これは……」
「まさか?こいつは!」
クエントと烈花は驚きの余り声を上げた。
端末機に送信された映像には恐らくヘリから撮影したのだろう。
廃工場の付近のコンクリートに固められた
地面がひし形に深々と抉れていた。
だがその現場にはホームレスが目撃したと
される巨大な蝿の姿をした悪魔はいなかった。
一方、大天使ハ二エルはパーカーの話によると。
その極太の雷の一撃で完全に消滅したらしい。
「嘘……ですよね……まさか大天使が殺されるなんて……」
「ああ、俺もにわかに信じられんが……事実だ!!」
間もなくしてパーカーは別のBSAA隊員に話しかけられたらしい。
「ちょっと待ってくれ!何か報告があるらしい……」
そう言うとパーカーは無線機を持ったままBSAA隊員と話し始めた。
やがて無線機を通してパーカーの声が聞えて来た。
「なにっ!なんだって?ニューヨーク郊外の
売春婦が何者かに襲撃された?」
「ウィルス兵器とBOW(生物兵器
か魔獣ホラーの仕業かはっきりしないのか?
「生存者は?何だって!ゼロ?一人もいないって言うのか?」
「それは間違いないんですか?」
するとそのBSAA隊員と話し終えたパーカーは答えた。
「どうやらそうらしい……
何者かが売春宿を襲撃され、全員死亡したそうだ!
客も売春婦の大人も少女達も!受付の女も男も!
一人残らずだ!なんてこった!畜生!」
「私達も現場に行きます!」
「と言う事は烈花法師も一緒か?」
「失礼な!俺はクエントの行く所なら例え火の中、
水の中、風の中、ついて行くんだ!」
烈花は少し憤慨し、答えた。
「ハハハハッ!悪かった!
クエントはあんたが一生添い遂げると決めた男だもんな!」
パーカーと通信を終えた烈花とクエントは
BSAAの特殊車両に乗り、現場へ向かった。
 
一時間後。
クエントと烈花は襲撃事件のあった現場に到着した。
BSAA特殊車両から烈花とクエントが降りると
目の前に森に囲まれた売春宿が見えた。
しかし2階建ての家はあっちこっちの木の板がボロボロに砕け、
トタンやコンクリートの壁が剥がれ落ちていた。
更に入口のドアは真っ二つにへし折れていた。
「まさか?M-BOW(魔獣生物兵器)の仕業か?」
「いや!あり得ません!既に私達が10匹全て殲滅しました!」
「来たか!遺体は既に俺達が回収した!」
クエントと烈花の前に太い両腕の太った男がいた。
彼が連絡を入れたパーカー・ルチアー二である。
「これが!問題の遺体だ!ぞっとするぞ!」
パーカーは運び出された被害者の遺体に掛けられている白い布を取った。
「うっ!わっ!」
「これは……かわいそうに……」
クエントはのけぞり、烈花は悲しい表情をした。
遺体は19歳の少女で血液と体液が全て吸い出されていた。
しかもそれだけでは無く、何者かに襲われた際に
体内に注入された消化液で全身の脂肪と肉が消化され、
液化させられた後に全て吸い出されていた。
その為、19歳の少女の遺体は骨と皮だけを
残した無残なミイラの姿のまま死亡していた。
「彼女が持っていたビデオカメラを確認したところ。
確認できたのは一本の節のあるピンク色の太い管と細長い針だけだった。
そしてどうやら犯人は天井を突き破り、天空へ逃亡した様だ!」
パーカーは売春宿の屋根に開いた大きな穴を指さした。
クエントはホラー探知機能が搭載された
ジェネシスで売春宿の周囲の森を捜査した。
しかし既に魔獣ホラーの邪気は完全に消失していた為、検出されなかった。
またBSAA特殊部隊とパーカーは危険を
承知の上で犯人の魔獣ホラーの捜索を行った。
しかし当然ながら見つかる事は無く、何も成果は得られなかった。
これに対して烈花法師はこう意見をパーカーとクエントに述べた。
「恐らく、人間を捕食する際に自らの邪気を消していたのかも知れない。」
「成程、それでジェネシスや魔導輪や
魔導具のホラー探知を逃れると言う訳か?」
「ああ、こんなことを出来るのは上級ホラーだけだ!
つまり高い頭脳がある強敵だ!」
「だとしたら……私達の力と頭脳では
どうにも勝てないかも知れませんね。」
クエントは両腕を組み、パーカーは困った表情で頭を掻いた。
 
再び御月製薬北米支部にある極秘研究所ハイブに舞台は戻る。
ジルと鋼牙は慎重に地下へ続く長い長い階段を下へ下へと進んで行った。
「やはりアナンタも究極の破壊の神が幽閉されている部屋に?」
「恐らくな。なんだか余りいい感じはしないな。」
ザルバがカチカチとジルにそう呟いた。
「あたしもそう思うわ。昔からそうなの。」
ジルの言葉に鋼牙も「分った」と言う表情をした。
「よし!この先は慎重に気お付けて進もう!」
ジルと鋼牙の二人は慎重に長い階段を下りて行った。
やがて長い階段を降り切ったところで目の前に上に
階よりも更に広い実験室実験室があった。
実験室の四角い部屋の隅には無数のカプセルが並んでいた。
「これは一体?」
鋼牙は物珍しそうに無数のカプセルを見た。
だが全てのカプセルは空だった。
「もしかしたら?10体以外の他のM-BOW
(魔獣生物兵器)を入れる為に置かれたのかも?」
「成程!結局は使わなかった訳か」
「残念だが……仕方あるまい!」
鋼牙は実験室の隅に並んでいる無数のカプセルから離れた。
ジルは広い実験室を調べて見たが特に気になる物は無かった。
そして何人科の研究員のディスクを見て回り、引き出しを
中から下へ丁寧に順番に調べて回った。
「ん?これはなんだ?」
鋼牙はとある研究員の引き出しから一枚の資料を見つけた。
ジルは横からその一枚の資料を覗きこんだ。
間もなくしてジルの顔にみるみる驚きの表情が浮かんだ。
「ちょっと!どうなっているのよ!
アフリカの太陽の階段以外の場所に賢者の石じゃないホラーの細胞が
ゲルマンティック海溝の水深9000mの深海にあるのよ!
この資料によるとその正体は………。」
「魔王ホラー・ベルゼビュート、しかも奴の細胞から
ジ・アビスウィルスが検出されているとデータがある様だぜ!
場所は超深海のコキュートス洞穴だ!」
「何故?奴がこちら側(バイオ)の世界に?」
「じゃ!一時的にあたし達(バイオ)の世界にいた訳ね!」
「以前、偶然にも翼の魔導具のゴルバ爺さんから聞いた話だが……。
大昔、奴は魔戒騎士達との死闘の末に
異世界の深い海の底に一時的に幽閉されていた。
だが白夜の魔獣レギュレイス一族復活の危機から
俺達(牙狼)の世界を守る為に
魔戒法師と先代の白夜騎士ダンによって幽閉状態から解放された。
そして真魔界から魔獣ホラーの大軍勢を連れて
白夜の俺様達の世界(牙狼)に現れ、
魔戒騎士と魔戒法師と共闘したようだ。」
魔導輪ザルバの説明を聞いた後、鋼牙はその一枚の資料を押収した。
鋼牙は2人目の研究員の引き出しからまた何かを手に取った。
ジルも覗き込んで見るとそれは映画のポスターだった。
 
(第35章に続く)