(序章)白蛇

(序章)白蛇
 
ニューヨーク市・マンハッタン。
ある日の深夜、911緊急通報センターに緊急の通報が掛って来た。
「はい、こちら911です」
通報して来たのは若い男だった。
しかも何かに怯えて血迷った様に叫び続けていた。
「落ち着いて下さい!住所と名前を教えてください!」
男の通報に対応した二コルは落ち着いた口調でそう呼びかけた。
だが、男は完全にパニック状態となっていた。
「畜生!畜生!ただ若い姉ちゃんとセックスを楽しんでいただけなのに!」
すると若い女の声が聞えて来た。
「なんで?さっきベッドの上で不完全だったけど。
一つになったじゃない?何を今更、恐れているの?」
「くっ!来るな!来るなあああっ!」
「さあ、あたしと一つになりましょう!完全に!」
「やめろ!ぐっ!ぐあああああああああああああっ!」
男の断末魔の絶叫とキーンと言う甲高い音。
ピチュピチュピチュという奇怪な音が次々と聞こえて来た。
やがて男の絶叫も甲高い音も奇怪な音も止み、何も聞こえなくなった。
「もしもし!もしもし!もしもし!」
彼女は何度も電話越しに呼び掛けた。
しかし一切反応は無く、ツーツーツーと
言う切れた電話の音しか聞こえなくなった。
その後、彼女の通報により、
警察とレスキュー隊が男の家に向かう事になった。
しかし通報して来た男は結局、名前も住所も何も言わなかったので
警察は911の通報から男の電話に逆探知し、
男の名前と住所を突き止めた。
通報した男の名前はリーキィ・クロス。
彼は何十件ものわいせつや売春容疑で逮捕されている困った男だ。
間も無くして彼の家に着くと拳銃を持った
警察官数名が彼の家に突入し、安全を確認した。
続けてレスキュー隊も突入し、通報者のリーキィ・クロスの姿を探した。
しかし幾ら家の隅々まで探しても彼の姿は何処にもなかった。
また更に一緒にいてセックスをしていたと
される女性の姿も影も形も見当たらなかった。
 
同じくマンハッタン北東部のスパニッシュ・ハーレムの
建設中の高級マンションの工事現場。
「ドゴオオオオン!」
突如、巨大な高級マンション
豪華な外壁が凄まじい爆音を立てて砕け散った。
高級マンションの骨組みは大きく左右に円形に歪み、
豪華な外壁は大きな穴が開いた。
せっかく何十万も費用を掛けて作った
高級マンションは文字通り、水の泡である。
やがて大きく開いた高級マンションの穴から
人間の上半身らしき頭部が飛び出して来た。
真っ白な顔にはつり上がった目があり、女性の口があった。
またその下部には2列に並んだ4つの乳房があった。
さらに頭部には白いコートを羽織った背の高い男が堂々と立っていた。
「うおおおおおおおおっ!」
白いコートを羽織った背の高い男は両手で
銀色に輝く両刃の長剣を白い頭部に突き刺した。
ギエエエエエエエエエエエエッ!
女性のヒステリックな甲高い悲鳴が聞えた。
同時に女性の顔の口元は怒りで大きく釣り上がった。
さらに二列に並んだ4つの乳房の真ん中がバカッと裂けた。
四枚の花弁が開く様に乳房がまくれ上がった。
その中は血の様に真っ赤で無数の細かい牙がびっしりと生えていた。
やがて大きく開いた高級マンションの穴から
人間の上半身らしき頭部に続いて
全身が真っ白で白い鱗に覆われた太い胴体と白い尻尾が飛び出した。
その姿は巨大な白蛇の怪物だった。
巨大な白蛇の怪物はそのまま白いコートを羽織った背の高い男を
頭部に乗せたまま高級マンションから落下した。
凄まじい爆発音が聞えた。
やがて地面は落下の衝撃で大きな土埃の柱が上がった。
更に白くて太い白蛇の怪物の胴体は落下地点に落ちていた
ショベルカー、ブルドーザ、
トラック等の工事用の機材を無差別に押しつぶした。
白いコートを羽織った背の高い男は
そのまま白蛇の頭部からジャンプした後に
地面に両足を付けて着地した。
倒れた巨大な白蛇は素早く鎌首をもたげた。
を真っ白な顔を白いコートを羽織った背の高い男に向けた。
さらに元々釣り上がっていた両目は怒りでますますつり上がり、
真っ白なコートを羽織った背の高い男を睨みつけた。
「おのれ!魔戒騎士!」
すると真っ白なコートを羽織った背の高い男の指に
嵌められていた髑髏の指輪が冷静に解説を始めた。
「鋼牙!こいつは白蛇ホラーシュレタイン!女だからって油断するなよ!」
「分かっている!」
鋼牙は両手で銀色に輝く両刃の長剣を夜空に掲げた。
頭上でひと振りした。
彼の頭上に円形の裂け目が現われた。
やがて円形の裂け目から黄金の光が差し込んだ。
そして狼を象った黄金の鎧が落下した。
ガルルッ!とまるで獣のような唸り声がした。
「チッ!黄金騎士ガロ!」
「男たぶらかし、喰らうその邪悪な陰我!この俺が断ち切る!」
そして銀色の両刃の長剣は黄金に輝く剣に変化した。
魔戒剣から牙浪剣へ。
「ここで!食い潰してくれるわああああっ!」
シュレタインは再び二列に並んだ4つの乳房の真ん中がバカッと裂けた。
四枚の花弁が開く様に乳房がまくれ上がった。
その中は血の様に真っ赤で無数の細かい牙が
びっしりと生えた大きな口を開いた。
同時にそのまま鋼牙を呑み込もうと
地面をズルズルと這いずり、接近して来た。
鋼牙は慌てず騒がず、冷静に緑色に輝く瞳でシュレタインの血の様に
真っ赤で無数の細かい牙がびっしりと生えた大きな口を見据えた。
続けて牙浪剣で空中にオレンジ色に輝く
不思議な紋章を描いたあと周囲を円で囲った。
次の瞬間、その円に囲った紋章からオレンジ色の衝撃波が放たれた。
シュレタインはそのまま口内にオレンジ色の衝撃波を
まともに受け、白蛇の身体は遥か遠くへ弾き飛ばされた。
シュレタンインは再び鎌首をもたげた。
黄金騎士ガロの鎧を纏った鋼牙は暫く黄金の光に包まれていた。
やがて黄金に光が止んだ。
シュレタインは瞠目した。
狼の鎧を纏った黄金騎士ガロはサラサラの真っ赤な
たてがみに黄金の分厚い鎧に身にまとった大きな馬に跨っていた。
魔戒馬・轟天である。
「ヒヒヒヒヒヒヒヒン!」
轟天は天に向かって甲高いいな鳴きを上げた。
同時に黄金の分厚い鎧に包まれた2本の大きな前脚で立ち上がった。
続けて前足の巨大な黄金のヒズメを地面に叩き付けた。
すると前足の巨大な黄金のヒズメから強力な衝撃波が発生した。
シュレタインはその強力な衝撃波により
巨大な白蛇の身体は地面に叩き伏せられた。
鋼牙の持っていた牙浪剣は再び黄金に輝き始め、
牙浪剣は巨大な斬馬刃に変形した。
その長さはシュレタインの大きな口よりも更に巨大で長かった。
牙狼斬馬剣である。
再び鋼牙を乗せた轟天はいななき声を発した。
その後、再び両脚で立ち上がった後、凄まじいスピードで走り出した。
「小癪な!」
シュレタインは再び起き上がり、鎌首をもたげた。
再び、血の様に真っ赤で無数の細かい牙が
びっしりと生えた大きな口を開いた。
そして轟天もろとも鋼牙を呑み込もうと
地面をズルズルと這いずり、襲い掛かった。
轟天は四つの両足の黄金のヒズメで地面を蹴り、大きく跳躍した。
鋼牙は轟天に乗ったまま身体を大きく捻った。
続けて巨大な牙狼斬馬剣を半円に大きく水平に振るった。
巨大な牙狼斬馬剣の鋭利な刃はシュレタインの
両方の巨大な口の根元に食い込んだ。
「うおおおおおおおおおおおっ!」
鋼牙を乗せた轟天は猛スピードで真っ直ぐ
シュレタインの真横を一気に駆け抜けた。
ガリガリガリガリガリ」と大きな音がした。
同時に巨大な牙狼斬馬剣の刃はシュレタインの口の根元から、
白い胴体、白い尾の先端に至るまで瞬時に真っ二つに切り裂いた。
「ぐえええええええええええっ!」
シュレタインは身体を真っ二つにされながらも断末魔の叫び声を上げた。
やがてシュレタインの身体は白蛇の身体に沿って爆発四散した。
鋼牙を乗せた轟天は地面に着地すると半円を描いて
ドリフト走行しながら止まった。
やがて黄金騎士ガロの鎧を纏った鋼牙の頭上に円形の裂け目が現われた。
黄金騎士ガロの鎧と轟天は円形の裂け目に吸い込まれ消えた。
バサッ!
白いコートを羽織った背の高い男の姿に戻った鋼牙は地面に着地した。
「ふう。全く!とんでもない大物を引っ掛けたな。ザルバ!」
相変わらず鋼牙はぶっきらぼうにそう言った。
「そうだな!おっと!鋼牙!休んでいる時間は無いぜ!
またホラーの気配だ!」
 
光あるところに漆黒の闇ありき。
古の時代より、人類は闇を恐れた。
しかし暗黒を断ち切る騎士の剣によって、人類は希望の光を得たのだ。
 
牙狼バイオハザード2・闇に囁く者編
             (第一章に続く)