(第39章)龍王(前編)

(第39章)龍王(前編)
 
千の口を開き、アナンタは一斉に咆哮を上げた。
「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
再び鋼牙は内臓が酷く撹拌される不快感に襲われたが気にも留めなかった。
鋼牙は牙浪剣を両手でしっかりと構え直した。
ドン!と鋼牙は黄金の鎧の足を力強く踏みしめた。
「うおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
鋼牙は一気に巨大なコロシアムの天井近くまで飛び上がった。
そして前転し、両手に構えた両刃の黄金に輝く長剣
『牙浪剣』を振り降ろした。
振り降ろされた牙浪剣はアナンタの
分厚いオレンジ色に輝く鱗に覆われた頭部に直撃した。
ガキイン!と大きな金属音と共にオレンジ色の鱗が大量に飛び散った。
「グググッ!グギギギギ!」
アナンタは不快な鳴き声を上げた。
続けてオレンジ色に輝く鱗に覆われた頭部を激しく左右に振り回した。
鋼牙は激しく左右に身体を振り回された。
そして牙浪剣はアナンタの頭部から抜けた。
鋼牙は吹き飛ばされ、巨大なコロシアムの
分厚い壁に身体を叩き付けられた。
更に鋼牙は分厚い床に一直線に落下した。
鋼牙は素早く立ち上がった。
「随分!固い奴だ!」
すかさず鋼牙の指に嵌められた魔導輪ザルバはこうアドバイスをした。
「鋼牙!奴は法術やソウルメタルに一定の耐性を持っている!」
「つまり一定のダメージを与えないと封印出来ないのか?」
「そうだ!鎧の装着時間は99・9秒」
「それ以内に一定のダメージを与えないと封印出来ないのか?」
「そうだ!急げ!時間が過ぎれば!」
「ああ、分っている!もう!あれはこりごりだ!」
そう言うなり鋼牙は再び両手で牙浪剣を構え直した。
アナンタは一斉に千の口をガバッと開いた。
同時にまるで木の実のように千個もの
オレンジ色に輝く高熱の火球が現われた。
「マズイ!鋼牙!」
鋼牙は牙浪剣を眼の前に構え、両脚を大きく広げた。
そして出来るだけ力強く分厚い金属の床を踏みしめた。
アナンタは千の口から一斉にオレンジ色に輝く高熱の火球を吐き出した。
やがて吐きだされた高熱の火球は鋼牙の立っている
コロシアムの分厚い金属の床に雨あられと降り注いだ。
ドガアアアアアアアン!ズゴオオオオオオオオン!
凄まじい爆発音と共に巨大なコロシアム全体が
地震のように大きく上下に激しく揺れた。
更に巨大コロシアムの分厚い金属の床はたちまち火の海に包まれた。
そして真っ黒な煙と爆炎が巨大コロシアム全体に充満した。
アナンタは千のオレンジ色に輝く眼で真っ黒な煙と爆炎と
火の海となった金属の分厚い床を静かに見据えた。
やがて真っ黒な煙と爆炎の中からー。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
冴島鋼牙の雄叫びが聞えた。
間も無くして真っ黒な煙と爆炎を切り裂き、鋼牙が現われた。
鋼牙は牙浪剣を両手で構え直し、アナンタに高速で突進した。
しかしアナンタは慌てず騒がず冷静だった。
更にアナンタの両目が真っ赤に発光した。
次の瞬間、鋼牙は急に空中で停止した。
更に黄金の鎧に覆われた両腕はまるで瞬間接着剤の様にがっちりと
黄金に輝く鎧の胴体に張り付き、一切身動きが出来なくなった。
「なっ!ぐっ!これは?」
鋼牙は懸命に抗うが動く事は不可能だった。
しかし鋼牙は再び雄叫びを上げた。
「うおおおおおおおおおおっ!」
続けて鋼牙は勢い良く両腕を広げた。
バチインと言う音と共にアナンタが仕掛けた金縛りの術は自力で解かれた。
自由に動ける様になった鋼牙は反撃しようと
再び牙浪剣を両手で真上に振り上げた。
次の瞬間、アナンタはオレンジ色に輝く細長い尾で
鋼牙の黄金の鎧の隙間の青い部分の見える横腹に勢い良く叩き付けた。
「ぐあああああああああああああああああっ!」
鋼牙は再び弾き飛ばされ、
巨大コロシアムの分厚い壁に凄まじい音を立てて激突した。
そして鋼牙は転がる様に分厚い壁から
分厚い床に向かってゴロゴロと落下した。
「どうしたの?黄金騎士ガロの力はその程度なのかな?」
アナンタは千の口でせせら笑った。
千のせせら笑いは巨大なコロシアムの分厚い壁に反響した。
鋼牙はどうにか立ち上がった。
鋼牙は黄金に輝く牙浪剣を天に掲げた。
続けて巨大コロシアムの分厚い天井に向かって力強くこう叫んだ。
轟天!」
次の瞬間、鋼牙の背後で黄金に輝く円形の輪が現われた。
更にその黄金に輝く円形の輪からサラサラの真っ赤なたてがみに
黄金の鎧を纏った魔戒馬・轟天が現われた。
そして鋼牙は素早く轟天に跨った。
続けて轟天はいな鳴き声を上げた。
「ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒン!」
同時に分厚い鎧に包まれた大きな2本の前脚で立ち上がった。
そして2本の足の巨大な黄金のヒズメを
巨大なコロシアムの分厚い床に叩き付けた。
2本の足の黄金のヒズメから強力な衝撃波が発生した。
しかしアナンタは吹き飛ばされる事無く平然としていた。
鋼牙の持っていた牙浪剣は再び黄金に輝いた。
牙浪剣は巨大な斬馬剣『牙狼斬馬剣』に瞬時に変化した。
鋼牙は「ハッ!」と声を上げ、両脚で轟天の腹部を叩き、走らせた。
轟天は鋼牙を乗せ、凄まじいスピードで走らせた。
そして分厚い金属の床を力強く踏みしめ、轟天は大きく飛翔した。
鋼牙は轟天に乗ったまま身体を大きく捻った。
続けて巨大な牙狼斬馬剣を半円に大きく水平に振ろうとした。
次の瞬間、先を読んでいたアナンタは巨大な花に似た頸部を
広げたコブラの頭部にある巨大な口を大きく開けた。
同時に一発にオレンジ色に輝く高熱の火球を放った。
放たれた高熱の火球は空中で回避する間も無く
鋼牙と轟天にもろに直撃した。
大爆発と共に空中でオレンジ色の業火に包まれた。
轟天と鋼牙はそれぞれバラバラになって吹き飛ばされた。
そして轟天と鋼牙は分厚い壁にそれぞれ激突した後、分厚い床に落下した。
鋼牙と轟天は素早く起き上がった。
同時に牙狼斬馬剣を片手に持ったまま轟天の上に跨った。
再び轟天はいな鳴き声を上げた。
そしてまた黄金の分厚い鎧に覆われた2本の前脚で立ち上がった。
再び2本の黄金のヒズメをコロシアムの分厚い金属の床に叩き付けた。
同時にさっきとは異なる色をした衝撃波が発生した。
それはさっきよりも金属音は気が遠くなる程、長々と聞こえ続けた。
衝撃波の色は緑色で太く長かった。
同時に鋼牙の持っていた牙狼斬馬剣は更に巨大化した。
それは大人一人が乗れる程のまるで
スケートボードを彷彿とさせる形に変形した。
牙狼斬馬剣である。
鋼牙はぐぐもった声で大きく唸った。
そして大牙狼斬馬剣を片手で重そうに掲げた。
続けて鋼牙はまた「ハッ!」と轟天の腹部を蹴り、
アナンタに向かって走らせた。
牙狼斬馬剣を荒々しく息を切らせて構えながら雄叫びを上げた。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
鋼牙を乗せた轟天はアナンタに突撃して行った。
 
(第40章に続く)