(第10章)脱走

(第10章)脱走
 
「ふわあーあっ!」
NGO組織テラセイブの本部に
朝の7時頃に出勤したモイラ・バートンは大欠伸した。
そこにテラセイブに勤務する同僚の男が物珍しそうにモイラを見た。
「珍しいな?寝不足か?」
「うん、色々あってさ、昨夜」
モイラはまだ両腕を天井まで突き上げ、背伸びをした。
それから彼女はクレアの隣のディスクに座った。
モイラは仕事を始めたもののどうにも集中出来なかった。
彼女は昨夜の出来事を忘れられなかった。
パズズと名乗る魔獣ホラーに襲われた時、
失踪したジルが現われて変身してパズズを倒した。
「まるで特撮のヒーローだったな。」
一方、クレアもやはり昨夜の出来事を忘れられなかった。
クレアは黄金騎士ガロ、冴島鋼牙とメリーと言う名前の魔獣ホラー。
「あの冴島鋼牙って言う人はジルの従兄妹いたなんて知らなかった。」
「クレア。例の薬品を製造している製薬会社の資料は何処?」
「あっ!御免なさい!」
ぼーっとパソコンの画面を見ていたクレアは
モイラの声に我に返り、大慌てでその
例の薬品を製造している会社のデータ資料をガサガサと探し始めた。
それからようやく資料を見つけ、モイラに渡した。
更にモイラに話しかけた同僚の男が今度は親しげに話し掛けて来た。
「なあ?知っているか?」
「ふえっ?ああっ!知っているわよ!
夜中に真っ黒の縞模様の服を着た少女の都市伝説でしょ?」
「実は俺、アイザックの独自の調査によれば」
アイザックは一枚の資料をクレアに渡した。
クレアはアイザックに渡された資料を読んだ。
「ふむふむ、真っ黒な縞模様の服の少女が目撃されたのは全部で10件ね」
「しかも例の真っ黒で縞模様の服の少女に遭遇した者は
必ず何の痕跡も残さず失踪している。」
「確かに怪しいわね。」
「それで俺の妻の二コルが911の通報センターに勤めていて。
彼女の話によれば何日か前に男から通報があって。
それで通報の後に警察やレスキュー隊が駆けつけたが。
既に彼は家から何の痕跡も残さず失踪していて。
しかも通報した男が連れ込んだと思われる女がこう言っていたらしい。
「『さあーあたしとひとつになりましょう?』と」
「うっ!不気味ね!」
「しかもそのセックスは不完全とも言っていたらしい。
それでこの不気味な失踪事件には必ず若い20代から30代、
50代の男性がその真っ黒で縞模様の服を着た少女と
一緒にいるところを近所の人達の目撃証言があるんだ。
さらにここ最近、聖ミカエル病院を中心に
真っ黒な縞模様の服の少女が夢に現れたと言う
20代、30代、50代の成人女性の証言を沢山ネットで集めたんだ!
もちろん君がその例の夢を見た事もモイラから聞いたよ。
更に夢の目撃者は回答した成人女性全てを含めて。
200人近くまで昇る事が分かった。もちろん君も含めてさ。」
「200人の女性達があたしと同じ夢を?」
「これはやっぱり何か大事件が起こりそうな気がする。」
「うーん、この200人近くの夢の証言と男性の失踪事件は。
少なくともデータを見る限り、何も無いとも言い切れないわね。
ただこれがバイオテロか薬害事件に発展する危険性があるかどうか?」
「それじゃ流石のテラセイブも動けないよな。」
「でも気になるからあたしも調べて見るわ。」
「やった!ありがとう!クレア!」
そしてアイザックとクレアはやりかけの仕事に戻って行った。
 
ニューヨーク・マンハッタンの一角にある大きな屋敷。
素体ホラーである芳賀真理はこの大きな屋敷に
住む上級ホラー・シェイズに仕えていた。
彼女は真魔界から人間界に通じるゲートを通り、彼に呼び出された。
最初、彼はとても優しかった。
何せ人間界で魔戒騎士や魔戒法師に襲われたら必ず守ってやると。
そう我々、素体ホラーはそれだけ弱い存在なのである。理由は簡単だ。
素体ホラーは陰我(人間の邪心や欲望、憎しみ、怒り等)
が宿った物体(オブジェ)
を通って真魔界から人間界に姿を現した時の初期の姿である。
そして人間や動物、物、時の流れに憑依してシェイズの様なホラーとなる。
対して人間にも動物にも物にも時の流れにも憑依しない
素体ホラーの真理は人間の姿に擬態する以外の
特殊な能力は何も持っていない。
それ故、魔戒騎士や魔戒法師に一撃で封印されるか最悪の場合、
他の上級ホラーに捕食されてしまう危険があった。
だからこそ真理以外の陰我のあるオブジェから出現した
素体ホラーの多くは人間、動物、物、時の流れに憑依して
それぞれの宿主の陰我に応じた能力と形態を獲得する事によって
ある程度、魔戒騎士や魔戒法師と闘う事が出来る。
素体ホラーの真理は外敵の魔戒騎士や魔戒法師から守ってくれる
陰我に応じて形態と能力を獲得したシェイズが必要だった。    
だからこそ真魔界で上級ホラーに仕えようと努力した。
上級ホラーに仕えれば魔戒騎士や魔戒法師の毎夜の襲撃も無く。
人間を喰らいたいだけ喰い、
悠々自適な人間界の生活が約束されると思っていた。
しかし人間界の現実は真理が真魔界で抱いていた夢の生活には程遠かった。
現実は悲惨だった。(他のホラー達からみれば)
シェイズはジェレミーグレイと言う男の女性を支配したい
強欲なサディズムに反応して憑依した事を
自慢げにペラペラとあたしに話して聞かせた。
さらにSMプレイが好きだと言う悪趣味を持っていた。
もちろんあたしもその被害に遭った。
彼は事ある事にあたしをプレイルームと言う場所に連れて行き。
赤いロープで私の両手首を縛り、
そうだ黒い服を脱がせて全裸にするのも言い忘れていた。
グレイはそんなあたしの胸元まで伸びた茶髪、顔や
全身の死人の様に透明感のある青白い肌をうっとりとした表情で眺めた後、
あたしの両足太腿を両手で大きく広げさせた。
そして欲望赴くままに自らの腰を激しく上下に振り続けるのである。
あたしは死人のような青白い肌に覆われた
大きな両乳房を激しく上下に揺らし続けた。
あたしは両瞳を水色に爛々と輝かせ、
獣のような唸り声を含んだ高い喘ぎ声を上げ続けた。
続けて彼は背後から両手であたしの大きな丸いお尻を掴んだ後、
ガンガンと激しく突き上げる様に腰を前後に振り続けた。
その度にあたしの大きな両乳房は激しく前後に揺れ続けた。
あたしは突き上げる様な性的快楽に獣の様に激しく興奮した。
あたしは口を大きく開け、大きく獣のような
唸り声を含んだ高い声で喘ぎ続けた。
それから魔獣ホラーが活発に活動する夜になるとあたしは仕えている
彼の屋敷の外にいる旨そうな人間の女を誘い、屋敷に招いていた。
勿論、彼の夕食の食材調達が真理の仕事である。
しかし夕食の食材が手に入らず戻ってくれば
彼は日中の優しさとは正反対に激昂し、
あたしをプレイルームに無理矢理連れて行き
、両手足首を赤いロープで縛りつけて
罰としてあたしの黒いスカートを捲り上げて、
大きな丸いお尻を500回叩き、
痛みで泣き叫ぶあたしの姿を見て楽しんでいた。
そして鞭で打たれて傷つき、お尻の皮膚が裂けてどす黒い血を流し、
泣き晴らした表情のまま真っ暗な地下室に戻されるのである。
しかも食事も非常に粗末で本来、魔獣ホラーは
人間の肉、血、魂を喰わなければ生きていけない。
グレイから与えられる食事は自分が喰った
人間の白い砂状の食いカスが山盛り、一杯分、
ペット用の銀色の皿に乗せられたものだった。
しかも彼の夕食の材料になる人間の女が手に入らなければ
その栄養価に乏しい白い砂状の食いカスすら一日抜かれる事があった。
彼とのセックスは最高だった……でも……
こんな生活に耐えられる自信が自分には無い。
だから……あたしは今夜!彼の食材となる人間の女をこの屋敷に
連れて来た後、その食材の人間の女とSMプレイや
セックスを楽しんでいる合間に地下室からこっそり
壁、天井、床、置物の陰に潜み、
バレない様に彼の大きな屋敷から逃げ出す事にした。
 
(第11章に続く)