(第27章)意識

(第27章)意識
 
マンハッタンにある日本の製薬企業『御月製薬』の北米支部
地下深くにある極秘研究所『ハイブ』の実験室内にある
診察室のテーブルの上に手記を置いて開いた後、ボールペンで書き始めた。
「Tウィルスは始祖ウィルスとヒルのDNAを組み合わせて
作り出された人工のウィルスである。.
一方、賢者の石、未知の細菌はアフリカ
にある太陽の階段の土壌の奥深くで発見された。
御月製薬はTウィルスと共にこの未知の細菌の研究を続けている。
そしてこの賢者の石、未知の細菌はカオリ社長の説明によれば。
賢者の石、未知の細菌は一般的には『球菌』の一種である事が分かった。
また賢者の石と例のTウィルスを組み合わせた事で元の
Tウィルスの欠陥が修復され、完全なTウィルスとなったと言う。
そもそもわしは魔獣ホラー故にTウィルスに関しては無知じゃ。
じゃが!賢者の石については知っておる。
あれはドラキュラ伯爵事、外神ホラー・ニャルラトホテプの細胞じゃ!
恐らくドラキュラ伯爵事、ニャルラトホテプは面白半分で
始祖花の生えた階段の地下深くに植えたに違いない!
賢者の石とTウィルスを組み合わせた『T-エリクサー』
既に他の魔獣ホラーに投与する実験が始まっておる。
パズズ、メリー、シェイズ、姑獲鳥に。
そして何匹かはウィルスによる肉体強化がされたそうじゃ!
しかし確かカオリは不老不死の薬を作りたい筈じゃ。
何故?人間では無く他の魔獣ホラーに?
まさか魔獣ホラーをBOW(生物兵器)として利用する気なのか?
新聞では『生物兵器ビジネスには一切関わらない』とコメントしていたが。
そそれこそ彼女は言葉巧みに世間を欺瞞したかったのじゃろう
実際、御月製薬はわしを含めたパズズ、メリー、シェイズ、
姑獲鳥の他にも残りの生きた魔獣ホラー達と過去に失敗作とされた
アンブレラ社・ヨーロッパ製のBOW(生物兵器
フロッガー』を利用した新型のH-BOW(魔獣生物兵器
の試作品を製造・研究しておる。
じゃが、人間の力で現存の魔獣ホラー達はおろか
魔獣ホラー化したBOW(生物兵器
フロッガーを完全に制御する事など、できはすまい。
何故なら我々、魔獣ホラーは陰我と欲望の通りにしか動かない。
そもそも我々、魔獣ホラーに人間の考えや価値観は全く通用せん。
それは現存のアンブレラ社・ヨーロッパ製のBOW(生物兵器
フロッガー』とやらが魔獣ホラー化しても同じ事じゃ!
さて、『T-エリクサー』は果たして人類や我々、
魔獣ホラーにとって光をもたらすのか?
それとも破滅の闇をもたらすのか?
そこまで書くとマルセロは手記の次のページを開いた。
 
ジルの隠れ家。
クレア・ベイビーとジルはそれぞれのベッドで朝から軽く寝ていた。
ふとジルはベッドから目覚めた。
彼女は静かに上半身をベッドから起こした。
しかしどこか様子がおかしかった。
ジルはベッドから立ち上がった。
彼女は無意識の状態のまま隠れ家の
倉庫の扉に手を付け、押して開こうとした。
しかし突如、彼女の脳裏に女の子らしき声が聞えた。
「ママ!ママ!お願いだから!正気に戻って!戻って!」
再びジルはハッと目が覚めた。
「うーっ!」
完全に意識を取り戻し、目覚めたジルは大きく唸った。
ジルは反射的にベッドの方を見た。
幸いにもクレア・ベイビーは愛らしい表情を浮かべ、すでに起きていた。
「あれ?あたし……何で入口の扉の前に立っているの?
ベッドの上に寝ていたのに?」
ジルはベッドから扉に移動する間の30分間の記憶の空白が気になった。
なんだか?30分間、記憶が無い。何で??
それにさっきの女の子の声?一体誰?まさか??
クレア?そんな筈は無いわよね……。
ジルは起き出したクレア・ベイビーが泣き出す前にベッドに駆け寄った。
それからジルは両腕で優しくクレア・ベイビーを抱き上げた。
「よしよし」
クレア・ベイビーを上下に優しく揺すり、ニッコリと笑った。
ああぶう!あぶっ!あぶぶっ!
クレア・ベイビーは楽しそうに笑い、両腕を振った。
暫くしてクレア・ベイビーは静かに泣き出した。
おぎゃっ!おぎゃっ!おぎゃっ!おぎゃああっ!
ジルはクレア・ベイビーがお腹をすかせている事を瞬時に理解した。
それはまるで母性本能の様なものだった。
ジルは粉ミルクをコンロに乗せた鍋で大体、殺菌の為、
摂氏70度位の水道水のお湯で溶かした。
それから十分、ミルクを冷ました後、哺乳瓶に入れた。
ジルは泣いているクレア・ベイビーを優しく抱き寄せると
ほ乳瓶をクレア・ベイビーの口に近付けた。
クレア・ベイビーはほ乳瓶に吸いつき、
美味しそうにミルクをごくごく飲んだ。
その様子をジルは我が子の様に嬉しくなった。
彼女はほ乳瓶でミルクを飲む、
クレア・ベイビーの愛らしい表情に癒された。
同時に今までの魔獣ホラーとの闘いの疲れがどこかに吹き飛んだ気がした。
そしてミルクを飲ませた後、ちゃんと抱っこし、背中を優しく叩いた。
暫くトントントンと叩いているとクレア・ベイビーは小さくゲップをした。
後はベッドに寝かせて、おむつを取り替えた。
子守歌を歌い、ようやくクレア・ベイビーを寝かせた。
丁度良く、鋼牙とモイラが静かに
音を立てない様に入口のドアを開け、中へ入っていた。
「どうだ?」
「ええ、モイラの育児の本のおかげでどうにか……」
ジルはベッドの上のクレア・ベイビーの愛らしい寝顔を見た。
その安らかな表情はまるで天使の様だった。
モイラは何故か気持ちが沈み、顔をうつむいていた。
「どうしたの?」
モイラは両目に涙を溜め、静かに口を開いた。
「この近くの会社のコンテナの中で男女の死体を見たんだ……」
「如何やら姑獲鳥の仕業の様だ。」
「ああ、あの人間の女と男の肉体から魂を無理矢理、
引き剥がして捕食されたようだ!
しかも!やっこさん!相当、頭にきていたようだ!
倉庫内のあらゆる車やらコンテナやら破壊し尽されていた。
被害は甚大だぜ!」
「実は明日はバイオテロを考える国連の会議があるんだ!
それでBSAA代表と洋館事件の生存者でクレアのお兄さんの
クリス・レッドフィールド。それとテラグリジアパニックの生存者の
パーカー・ルチアー二に。あと国連事務総長
御月製薬の社長の御月カオリ。
各国の国のトップがたくさん集まるんだ!だから。
どうにか今日の内に姑獲鳥を封印して。
クレアが赤ちゃんから成人に元通りになって。
それに今、あたしテラセイブで働き始めてまだ新人で……だから……」
モイラは顔をうつ向いたまま自らの不安を打ち明けた。
「それにこの後、あたしがどうにか会議の資料をまとめないと」
ジルはポンとモイラの肩に右手を置いた。
「大丈夫!クレアは今日中に元通りにするわ」
「えっ?本当?よかったああっ!」
モイラはようやく安堵の表情を浮かべた。
「ああ、必ずだ!お前は会議の準備に専念してくれ!」
鋼牙もパッと顔を上げ、明るくなったモイラの顔を見た。
「そうだ!ジル!クレア・ベイビーを一人で世話した感想は?」
鋼牙の指に嵌められていた魔導輪ザルバは意地悪な笑みを浮かべ、
ジルの顔を見た。
「ええっ!ええと……」
ジルは恥ずかしくなり、顔を紅潮させた。
「悪く無かったわ。いい経験だったと思った。」
ジルは静かに微笑んだ。
しかし直後、またあの忌まわしい脳幹への鋭い痛みに襲われた。
続けてキイイイン!と言う甲高い耳鳴りが聞え始めた。
続けて全身の筋肉が発熱した。
更に全身の筋肉が引き裂かれる様な痛みが襲った。
また今までとは違う症状が現われた。
ジルは意識が急速に低下し、自我が保てなくなった。 
「ジル!しっかりしろ!」
「ああっ!まただ!」
モイラは慌ててジルを抱き上げ、ベッドの上に乗せた。
「さっきより!酷くなっている!どうしよう!」
「どういう事だ!ザルバ!」
「分らん!彼女の全身の細胞内の賢者の石が何かに共鳴しているようだ!」
「まさか?ジルと意識を同化させるつもりか?あいつは?」
やがて脳幹の鋭い痛みも甲高い耳鳴りも全身の筋肉の発熱。
引き裂かれる筋肉の痛みも順々に治まった。
ようやくジルの意識は急檄に戻り、自我を正常に保つ事が出来た。
彼女はようやく上半身を起こした。
「あたしの全身の細胞内の賢者の石に何が起こっているのか。分らない。
でも!まるで自分の頭があの子の頭の様な気がして……」
彼女は全身を震わせ、そう口にした。
鋼牙とザルバは無言で考え込んだ。
 
(第28章に続く)