(最終章)天使

(最終章)天使
 
翌朝のジルの隠れ家の入口前。
「お前達には本当に世話になった!そしてー。ありがとう。」
鋼牙は深々とジル、クレア、モイラに頭を下げた。
「いやーそれはあたし達の方よ!」
「ありがとう!ニューヨークの人々を守ってくれて!」
モイラも感謝の言葉を改めて述べた。
「いや、俺一人の力じゃない!
ニューヨークの人々を守る事が出来たのはモイラ、クレア。
あんた達が『人々の安全』を願い、『友を大切にする純粋な心』
を持って共に戦ってくれたからこそだ!!あんた達は強い!
何故なら守るべき者の顔が見えていたからだ!!」
「そんなー。あたし達は。」
「むしろホラーを封印して鋼牙を助けるのに必死で……」
クレアとモイラは恥ずかしそうに顔を赤くした。
「では、さらばだ!」
鋼牙はクルリと背を向けると力強い足取りで歩き始めた。
「まって!」
ジルが鋼牙を呼び止めた。
鋼牙は歩くの止め、振り向き、ジルの顔を見た。
「貴方の奥さん、御月カオリさん!見つかるといいわね!」
「ああ、俺達(牙狼)の世界に住んでいる俺の妻
『御月カオリ』は必ず見つけ出す!」
鋼牙は改めて決意の言葉を述べた。
そして再びクルリと振り向くと力強く歩き出した。
クレア、モイラ、ジルは徐々に遠くなって行く
鋼牙の白いコートの背中をずっと見送った。
「行っちゃった……」
「歩くの速くて、あっと言う間に」
「あれが鋼牙なのよ」
「憧れちゃうなー」
「彼、これからどうするのかしら?
夜にまた魔獣ホラーを狩って、本物の奥さんの御月カオリを探して」
「確かにTウィルス、始祖ウィルスと賢者の石の関係性について調べる
魔戒法師の調査団が来るから
その護衛の任務につくとか、言っていたわよね。」
「ああ、初めてであった時、話していた事ね。」
「色々大変だね」
「そうね、あたし達もガンバよ!」
「えっ?」
「何言っているのよ?月末処理よ!」
「………ああああっ!未書類が山盛りだああああっ!」
「普段からちゃんとしないからよ!」
「ちゃんとしているもん!守りし者だもん!」
クレアの一言にモイラはまるで今にも
鳴かんとするカエルの様に両頬を膨らませた。
「さーて、後片付けをして、そうこの鍵を掛けないと!」
「まーた、元の生活に戻るのかぁー」
「それが当り前なのよ」
ジルは自らの下腹部を右手で優しく撫でた。
「この子の為にもあたし!
BSAAのエージェントの仕事に出来るだけ復帰しなきゃ!」
「そうだね!その子の未来の為にも!」
モイラもジルの下腹部を優しい眼差しで見つめた。
「さーて、片付け!手伝うわよ!」
「やれやれ!」
それからジル、クレア、モイラは隠れ家に入り、
それなりに後片付けを始めた。
クレアとモイラを協力して何時間か分からない位、
長い時間を掛けて倉庫の後片付けを終えた。
ジルは倉庫の入り口に鍵を掛けた。
そして倉庫の鍵を大切にズボンのポケットにしまった。
ジルはクレアとモイラと別れて聖ミカエル病院へ向かった。
聖ミカエル病院に戻って来たジルを見た医師や
看護婦達はたちまち大騒ぎになった。
ジルは看護婦や医師に勝手に病院を抜け出し、
何週間か何日かいなくなった事を謝罪した。
しかもその最中にジルの担当の医師だったマルセロ・タワノビッチ氏が
急に病院を辞職し、担当の医師と患者がいないまま
ジルのカウセリングとリハビリの治療が完全にストップしていた。
だがマルセロ医師は自分が今まで治療したカルテと薬のリスト、
カウセリングの記憶を全て自分の弟子の
アシュリー・グラハムに渡していた。
それからジルの担当の精神科医はマルセロに変わって
アシュリーが行う事を病院側は決定した。
そして患者のジルも帰ってきた事でようやくBSAA復帰に向けた
リハビリとカウセリング治療が再開した。
しかしもう一つ問題が残っていた。
それによるとジルは妊娠しているらしいとの事である。
アシュリーは念の為に妊娠検査薬を試す事にした。
結果はジルの言う通り確かに妊娠していた。
他の医師達はますます困惑した。
アシュリーも正直、困惑しているものの
誰の子かはあえて聞かない事にした。
余り余計な事を考えると頭が混乱しそうだった。
何せ、あたしに精神科医の技術と薬の使い方を教わり、
自分の言葉と態度、高度な会話技術で精神を病んでいる患者の心を癒す。
自分自身の治療と方法次第でその患者の精神と肉体を救う事が出来る。
或いは救えないかも知れない。
つまるところ彼らの人生を救えるのも自分と患者自身。
両方が協力させる状況を創り出さなければいけない。
アシュリーはとてつもなく緊張していた。
それでも自分を信じてくれたマルセロの恩に報いる為にも
ジルの精神と肉体を救い出し、BSAAに必ず復帰させる!
彼女は心に固くそう誓った。
それからジルの病室の入り口の前で深呼吸した。
彼女はドアを開け、元気よく挨拶してジルの病室の中へ入って行った。
 
ニューヨークの公園の細長い道をスタスタと鋼牙は一人歩いていた。
そして細長い道の脇のフェンス越しの海にある小島にはアメリカの
自由を象徴する自由の女神が堂々と立っていた。
ふと鋼牙は足を止め、その自由の女神をまじまじと見た。
「へえー思ったよりもでかいんだな。」
ザルバも物珍しそうに自由の女神を見た。
「あれが自由を象徴する女神か?」
鋼牙はその時、脳裏に御月カオルが書いた女神と黄金の騎士を思い出した。
「カオル」
「必ず見つかるさ!」
ザルバは優しく鋼牙にこう語りかけた。
「ああ、必ず見つける!」
彼はそう自由の女神で決意を述べ、
また力強くアスファルトの道を踏みしめ歩き出した。
暫く歩いているとザルバが景気よくしゃべり始めた。
「そーいやー魔戒法師の調査団の中に烈花法師もいるとか聞いたなー」
「ああ、だが合流しなければ分からんさ!」
鋼牙は力強い足取りで歩き続けた。
暫く歩いていると一人の子供が現われた。
鋼牙はその子供に見覚えがあった。
そう、数日前にジルが姑獲鳥と闘う前の朝、
火事があった家から救い出した男の子だった。
男の子は恥ずかしそうに鋼牙に近づくと
天使のお守りを彼の掌にそっと乗せた。
「これは?天使の様だが。」
「魔除けの守もり!ジブリールって言うんだ!」
「ありがとう!有りがたく貰っておこう!」
鋼牙が優しく微笑むと男の子は満面の笑顔になった。
向こうには黒いフードを着た男女がいた。
多分、イスラムの両親なのだろう。
男の子はバイバイと鋼牙に手を振ると両親の元へ帰って行った。
鋼牙はそれを温かい眼差しを向け、見送った。
しばらくして鋼牙はまた力強くアスファルトの道を踏みしめ歩き出した。
 
牙狼バイオハザード2・闇に囁く者編・完結)
 
最後のおまけ
 
劇場版・牙狼GAROレッドレクイエムのエンディングテーマ。
 『GARO SAVIOR IN THE DARK
RED REQUIEM Ver』です。
最後のおまけは魔導輪ザルバ役の
影山ヒロノブ氏のアレンジバラードとなっております。
ゆっくりとお楽しみ下さい。
本当に長い間、『牙狼バイオハザード・闇に囁く者編』
を皆さん読んでくれた皆さん!!
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