(第21章)音楽の謎解き(後編)

(第21章)音楽の謎解き(後編)
 
クエントと烈花はしばらくバーの
不自然に置かれた棚の前で考え込んでいた。
間もなくしてクエントが動いた。
「もしかして?」
クエントは不自然に置かれた中位の本棚に近づいた。
続けてクエントは右肘を中くらいの棚の横に付けた。
そして力一杯どんどん押して行った。
するとそこからカクテルが置かれた棚の隠れていた中身が現われた。
そこには白い楽譜が置いてあった。
烈花がクエントの傍を通り、楽譜を手に取った。
「如何やらピアノのものだ!」
「曲は?やはりベートーベンの月光ですか?」
「皮肉にもシューベルトの魔王だ!」
「グランドピアノを使ってみましょう!」
クエントはグランドピアノの前に楽譜に置いた。
烈花は赤い椅子に座った。
「弾けますか?」
「ああ、笛とか大抵の楽器なら弾けるさ!」
烈花は自信満々に笑って見せた。
烈花は両手と指先で巧みにピアノの弾き、シューベルトの魔王を演奏した。
その指の動きはまさにプロのピアニスト顔負けの巧みな技術があった。
烈花は調子に乗って美しい歌声で魔王を歌い始めていた。
しかもそれは日本語であり、それは何処か力強く何処か切ない歌声だった。
クエントも「おおっ!」と声を上げ、烈花の歌に聞き惚れていた。
しかし烈花の歌声が大きすぎてピアノの音は少し小さく聞こえていた。
「これ?開くかな?」
クエントは少し不安になった。
やがて歌い終えると同時にジャン!ジャン!ジャン!
とピアノの最後の旋律がバーの部屋内に響いた。
するとピアノのすぐ傍の奥の真っ黒な壁が
ガラララと音を立てて上へ昇って行った。
そして開いた先には狭い隠し部屋があった。
烈花はぎょっとしてその奥の真っ黒な壁が開いた方を見た。
「わっ!開いた!どんな仕掛けだ??スゲー!!」
「どんな仕掛けかさておき、中へ入って見ます!」
そう言うとクエントは烈花を置いて中へ入って行った。
クエントが中に入ると隠し部屋の横は
ガラスになっており、外の森が良く見えた。
更に奥には男性の彫刻が置かれており、その下部の台座には
金色に輝くエンブレムが貼り付けられていた。
クエントはそれを何気なく外した。
するとズズズズとまた開いていた壁が閉じた。
同時に彼は隠し部屋の中に閉じ込められてしまった。
烈花が慌てて隠し扉になっている壁の外側を
バンバン叩き、ドカドカと蹴る音が聞えた。
「おい!おい!大丈夫なのか?」
しかしクエントは冷静に烈花を落ち着かせた。
かれは隠し扉になっている壁の内側から声を掛けた。
「大丈夫です!すぐに出られます!」
そう言うとクエントは食堂の大きな暖炉に飾られていた
小さなウッドエンブレムを取り出し、張り付けた。
するとまたズズズズと閉じていた壁はまた上に昇って行った。
「フム!そう言う事だったんですね!」
ふとガラスの壁の反対側にメモが貼ってあったのにクエントは気付いた。
クエントは何気なく手に取り読んだ。
それは以前、いや?いつ届いたのか分からない
BSAA医療機関のウィルス学者からのメールだった。
「緊急・植物人間トム(プラントデッド)と『R型』の胎児に含まれる
B型TーエリクサーからE型特異菌の遺伝子を検出。特に胎児……)
(そこから文章が途切れている)
クエントはそのメモを回収した。
間もなくしてクエントは隠し部屋から出た。
「さて!これは!多分!食堂のあそこですね!」
クエントは金色に輝くエンブレム、
つまりゴールドエンブレムをまじまじと観察した。
裏にはすり合わせた様な傷跡が付いていた。
嵌めこむ場所はもう分っていた。
そして再び烈花を連れて食堂に続く長々とした廊下を戻り、
食堂に戻って行った。
食堂の奥の大きな暖炉の上に飾られていた小さなウッドエンブレムの
入っていたくぼみにゴールドエンブレムを嵌めた。
すると食堂の黄金の女性の絵が飾られた近くに置いてあった
茶色の時計がボーンボーンボーンと3回鳴った。
続けてズズズズと茶色の時計が横に大きく動いた。
烈花は時計台に隠れていた四角いくぼみの中に光る物を見つけた。
そしてクエントが駆け付け、ゆっくりと
慎重に手を伸ばし、手に取って見せた。
それは赤色の館の鍵だった。
クエントは赤色の館の鍵を良く見ると盾の形をした模様が刻まれていた。
「盾の鍵ですね!」
「じゃ!開く扉がこの洋館の何処かに?」
「そう言う事です!ですが……」
クエントはさっきバーの隠し部屋で手に入れたメモを取り出した。
「そのメモは?」
「はい!さっき!隠し部屋のガラスの壁とは
反対側の壁に貼ってありました。
どうやらBSAA医療機関のウィルス学者が
送ったと思われるメールのメモです!」
「分りません!ただ……少しマズイ事に『プラントデッド』化した
トムと『R型』が持つB型T-エリクサーに
E型特異菌の遺伝子が検出されました。
つまり……『R型』にはB型T-エリクサーを含む植物細胞を
他の生物に植え付ける事によって
対象の意識と肉体を支配できる可能性があります!
これは本来のE型特異菌の能力です!」
「つまり?あの子もその『E型』エヴリンと同じ能力を?」
「はい!そうでしょう!今後!他の反メディア団体ケリヴァーの
人に接触するのは当面注意した方がよいでしょう!」
「ああ、俺はB型T-エリクサーのワクチンを投与したから……」
「さあ、分りません!貴方の肉体にまだ種子細胞が……って!
あっ!残っていたB型T-エリクサーも
種子細胞も完全に無くなりましたね!
じゃ!安心ですね!えっ?ちょっと!烈花さん!」
「なーどうやら真相に近づく手掛かりを手に入れたな!」
烈花は食堂の木のテーブルの上の茶色の
タペストリーの皿を取って横に置いた。
すると一枚のメモが現われた。
2人は直ぐにメモを確認しようと読み始めた。
「報告ありがとう。君が送信した『R型』の実戦データと
B型Tエリクサーに感染したいわゆる感染変異。
もしくは突然変異データも無事受け取った。
我々、HCF上層部もこの結果には満足している。
と言いたいところだが……。
例の『R型』もとい『E型』の事の事故の調査を忘れぬように。
いわゆる子供型生物兵器の欠点や問題点を過去のE型暴走事故と
照らし合わせて検証するように。
そうしないとE型事故調査委員会の連中がうるさいんだ。
お陰で眠れない!では頼んだぞ!私の平和は君にかかっているのだ!
もうあいつらの催促ウンザリだ!
HCF上層部マイケル・ケイラーからの返信」
「やはり反メディア団体ケリヴァーと『R型』を利用してE型と同じ事故を
再現してE型のあの事故の原因を突き止めようとしていた。」
「じゃ!最初のクエントの推測は当たっていた訳か?」
「いえ!まだ結論付けるのは速いでしょう!
それに過去にジルやクリス達が潜入した
1997年の洋館と同じ構造だとしたら?
他にも書斎やテラス、厨房、2階の個室、剥製室とまだいっぱいあります!
調べればまた別の手掛かりが見つかるかも知れません!」
「またか……」と烈花はまた溜息を付いた。
 
(第22章に続く)