(第44章)悪霊

(第44章)悪霊
 
ジルは夕方に家に帰った後に夕食を作った。
その時、ふとジルは小学校のクラスの
希望書を書かないといけない事を思い出した。
あとは娘の健康診断もちゃんと受けないと……。
「あーあ、来年には入学ね」
ジルは自分の部屋のおもちゃの後片付けに行った
アリスの背中を見送りながら入学に必要な物は揃えなければと考えた。
今年は別の意味で忙しいわね。
ひとまず自分が唯一絶対神YHVAを殺して、
宇宙の卵を孵化させて、神になる前にまずはこのお腹の息子の
アナンタと娘のアリスをきちんと育てて、自立させないと。
ずっと先の話になるわね。
ジルは夕食のカレーライスを作り、アリスとジルの二人で夕食を取った。
鋼牙はまだBSAA医療施設でお世話になっていた。
勿論しばらくは安静である。
そしてジルとアリスは居間のテレビであの
『ゴーストエンカウンターズ』の最終回を見た。
今回は霊媒師(ただしインチキであり、一般人)
と共に悪霊の住まいとなる廃墟と化した
とある精神病院施設跡にお邪魔していた。
しかしインチキな霊媒師のせいで本物の悪霊達を刺激してしまい
酷い目に遭う様子が生々しく恐ろしくもカメラに映されていた。
例えばいきなり天井から舌が切断されて血を滴らせた
悪霊が天井から襲って来たかと思えばシクシク泣いていた少女の
顔が急におぞましく両目を見開き、口を開け、甲高い声で叫び続ける
等の多くの心霊現象に加え、ベッドや机が宙を飛び回り、
中には悪霊の自慢の長い黒髪を持ち上げられ、泣き叫び、
逃げ出す女性クルーの悲鳴も聞こえる始末だった。
アリスは両目を見開き、恐怖の余り全身を強張らせた。
更に逃げている内にまた一人、また一人と
仲間の取材クルーが姿を消して行った。
(もちろんやらせでは無く本物の悪霊の襲撃によって)
そしてとうとう番組司会者の男と女性クルーの二人のみとなった。
アリストジルが固唾を飲んで見守っていると。
再び精神病院の廊下の奥から白いおぞましい顔をした悪霊達が現われた。
その姿をテレビ画面で見たアリスは甲高い悲鳴を上げ、
ジルの胸に飛び込んだ。
ジルも思わず驚き、そのまま仰向けに倒れた。
その時、したたかにフローリングに頭をゴンとぶつけた。
いったあーい!くっそー!!
ジルは片手で頭を押さえ、のろのろと起き上がった。
テレビを見ると番組司会者の男と
女性クルーは悪霊の大群から逃げ出そうとした。
しかし逃げ道となる反対側の廊下の奥からも次々と悪霊が現われた。
たちまち2人は悪霊の群れに取り囲まれてしまい、もはや絶体絶命だった。
「あっ!取り囲まれちゃった!もう駄目!」
アリスは最悪の事態を想像し、両手で顔を覆った。
しかしジルはアリスに優しく呼びかけた。
「大丈夫よ」と。
そして悪霊の大群が番組司会者の男と
女性クルーに襲いかかろうとしていた。
次の瞬間、白い影が女性クルーの持っているカメラに映った。
それは白いコートに見えた。
「うおおおおおおおおおおおおおっ!」
驚いた女性クルーが周囲にカメラを向けると白いコートの男が
次々と銀色に輝く両刃の長剣で目にも止まらない速さで
悪霊達を次々と切り捨てて行く様子が映し出された。
そしてあれだけいた悪霊達はあっと言う間に消え去っていた。
アリスはテレビ画面で2人を助けた
白いコートの男を見るなり、笑顔になった。
「あっ!鋼牙おじさんだ!」
続けて黒い服を着た日本人女性もどこからともなく現れた。
そして黒い服を着た日本人女性は呆れ果てて怒り、
番組司会者の男と睨みつけた。
「全く!なんて馬鹿な事をしたんだ!」
「烈花!説教は後にしてくれ!ザルバ!
この精神病院の何処にあいつら悪霊が通る霊門がある!」
「この廃病院の建物を中心に地下へ続いている!」
「よし!地下へ急ごう!烈花は二人を保護してくれ!」
あんたなら霊障結界を破るのも容易だろう!」
「ああ、任せてくれ!鋼牙!残りの人達の救出を頼む!」
「分っている!」
そう言うなり白いコートの男はあっと言う間に廃病院の奥へ消えていった。
「カッコいいなぁ!鋼牙おじさん!」
アリスは目をキラキラと輝かせ、テレビを見ていた。
烈花は魔導筆を使い、廃病院に張り巡らされた霊障結界の位置を探った。
そして最初にゴーストエンカウンターズの
取材クルー達が踏み込んだ時は確かに
正常な建物だったが今や入り口だった筈の扉は消えて白い壁となっていた。
さらに階段を昇れば何階か着く筈なのにその先が階段の一部が消え、
白い壁となり、行き止まりになり、
もはや出口の見えない迷路と化していた。
しかし烈花は階段を昇った先の階段の階段の一部が消えて出来た
白い壁に『開現界』の文字を書き、「ハアッ!」と気合を入れると瞬時に
白い壁は砕けて消滅し、下の階へ続く道が現われた。
それを二人は茫然と見ていた。
そしてとうとう入口だった筈の白い壁も烈花の法術により、
消滅し、先の廊下に入口の扉が見えたので
番組司会者の男と女性クルーは大喜びした。
「やった!やった!」
「よしっ!これで出られる!」
しかし2人の喜びは直ぐに消えた。
「黙れ!大量の霊気を感じる!かなり怒っているようだ!
俺があいつらの迷路を壊したからな!
どうやら俺達を霊界へ引きずり込みたいらしい……
うっ!此処まで敵意をむき出しに!」
烈花は魔導筆を構え、身構えた。
やがて入口の扉の前の床や壁から
大量の白いおぞましい顔をした悪霊の群れが現われた。
同時に白くおぞましい顔をした悪霊の群れは
一斉に凄まじく甲高い叫び声を上げた。
そして白くおぞましい顔をした悪霊の群れは烈花と
番組司会者の男と女性クルーに一斉に襲い掛かった。
烈花は女性クル―と番組司会者の男が極限の恐怖におののいて
泣き叫ぶのを尻目に魔導筆を構えた。
「ここまで敵意を剥き出しにするならば!止む負えない!」
烈花は胸元に魔導筆を構えた。
「ハアッ!」と気合を入れ、魔導筆の先端から像に似た鼻と
2対の長い牙を持つ金魚に似た魔界竜の稚魚の大群を放った。
放たれた魔界竜の稚魚の大群は白くおぞましい顔をした
悪霊の大群を瞬時に覆い尽した。
間もなくして白くおぞましい顔をした
悪霊達は断末魔とも取れる甲高い絶叫を上げた。
やがて白くおぞましい顔をした悪霊達は
まるで身体を風船のように膨らませた。
白くおぞましい顔をした悪霊達は次々と破裂し、消滅した。
番組司会者の男と女性クルーは口をパクパクと開閉し、呆然と見ていた。
「行くぞ!ここにいたら追手が来る!」
烈花は茫然と足ている番組司会者の男と女性クルーの腕を掴んだ。
烈花は2人を半ば強引に引きずる様な形で入れ口まで強引に連れて行った。
烈花と番組司会者の男と女性クルーは無事に廃精神病院の外へ脱出した。
2人は消えた仲間のクルーの安否について尋ねたので烈花はこう答えた。
「心配無い!白いコートの男が必ず助ける!」
それから女性クルーは心身共に疲れ果てて、カメラのスイッチを切った。
テレビ画面は真っ暗になった。
それから真っ暗になったテレビ画面には
こんなテロップが映し出されていた。
「その後、消えた仲間の取材クルー達は無事、
白いコートの男に救出された。
我々取材クルーは烈花と言う日本人女性から、
全員正座させられ、長々と説教を受けた。
この番組は亡くなった土地で眠る幽霊に対し、迷惑で失礼な態度をとり、
不快に思わせ、幽霊に対する配慮が欠けた番組だった為、
この番組は高視聴率でありながら打ち切りとさせて頂きます。
長い間の御視聴をありがとうございました。」
こうしてゴーストエンカウンターズの番組は打ち切りとなった。
 
(第45章に続く)