(第18章)遊戯(ゲーム)

(第18章)遊戯(ゲーム)
 
烈花は悔しそうに顔を歪め、苛立ちを募らせた。
「落ち着いて下さい!『R型』は私とゾイさんが
目覚めた時には既に逃げ出していました!」
「すまん!力になれなくて……」
ゾイは罰悪そうにクエントの顔を見た。
「いいえ!貴方のお陰で烈花さんは助かりました!
情けないのはむしろ私の方です!」
そう言うとクエントまで罰の悪い表情をした。
「あんた達がそんな顔をする必要なんか……」
罰悪そうな表情のクエントやゾイの顔を見るなり、
自分まで情けなくなってしまった。
とうとう烈花も罰悪そうな表情になった。
その時、ピーピーピーと言う無線の音が聞えた。
ゾイは黒い服かの内側から無線機を取り出した。
そしてスイッチを押し、耳に当てた。
「はい!ジョン様!ゾイです!」
それからゾイとジョンは無線で話していた。
「えっ?状況が変わった?あの子は政治の道具じゃないんですよ!
まさか民主党多数党内幹事の依頼?ハイ!分りました!
保護します!しかし約束して下さい!あの子を戦争の道具にしない事を!」
「ありがとうございます!では!」
ゾイは無線機を切った。
クエントは心配そうにゾイの顔を見た。
するとジは静かに口を開き、話し始めた。
「私も人助けしている!名前はシイナ・カペラ!
実業家のタスク・カペラの一人娘だ!
そして彼女の母親はシモンズ家出身だ!
そして娘のシイナは今!Tエリクサーに感染して怪物化している!
ジョン様は現在、シイナ・カペラを保護した際に
遺伝子治療を行う準備を整えているようだ!
最新のクリスパーキャスティ9と言う
ゲノム編集技術を用いて特定の遺伝子を破壊して
遺伝子機能を停止させて、遺伝子が自己修復する機能を利用して
別の特定の遺伝子を導入して改変する手法が使われるらしい。
だけど、ジョン様はシイナを人質にして、共和党に金を送るのを
止めさせように米民主党多数党内幹事から依頼を受けたらしい。
あと彼女の母親は多数の資金を反メディア団体ケリヴァーに裏で
提供している事を突き止めていて。それでその裏金の一部が
彼女の父親に無断でやっていたらしい。
これから夫婦は会見で色々、説明した後に謝罪するつもりらしい。」
「何故?謝罪を?」
「実は『反メディア団体ケリヴァーがバイオテロを企んでいる』
と言う内容の情報がマスコミ達にリークされたのさ!」
「多分、HCFのリー・マーラですね」
「更に夫に黙って資金を提供していたなら。
それは夫も怒るだろうな!俺なら絶対にブチ切れる!」
烈花はまるで酒にでも酔った様にそう言った。
「それで!今、夫婦の立場は危うい!
更に娘もケリヴァーのメンバーであり、しかも無理矢理入れられた事実も
マスコミ関係者達に追及されていて!かなり母親を追いこまれている!
そしてジョン様は娘の命を利用して共和党に金を送るのを止めたら、
娘を治療するように取引を持ちかけた。そう言う事だ!」
「そうですか?あの実業家が」
「そう言えば民主党を中傷するCMを見たな」
「ファミリーの間ではシイナの母親は裏切り者だ!
そして今は世間ではメディア社会の裏切り者とネットやテレビで
批判や怒りの声が上がっているとさっきジョン様から聞いた。
「それもやっぱり、彼女の父親が民主党じゃなくて
共和党に味方したから?」
「政治の事は余り良く知らないが。
少なくともシモンズ家は民主党の政権を支持している。
それとひとつだけ聞かせてほしい。
あんたが持っているT-エリクサーのワクチンで『R型』を救えるか?」
「正直!まだ実例が無いので核心は持てませんが。」
「クエントが製造!じゃなかった!えーと??」
「無理をしなくていい!すまん!気を遣わせたようだ!」
「なあにいーっ!うっ!ぐぬぬぬぬっ!」
烈花はゾイの返事に何故か悔しそうに歯ぎしりをした。
「まあまあ、烈花さん!」
悔しがる烈花をクエントはなだめた。
「それと……少なくともエヴリンの様な悲劇を防げれば問題ない……
だが……」
ゾイは急に口を固く結び、黙り込んだ。
「もしかして?R型が言った事が引っ掛かっているのでしょうか?」
「ああ、あの子は『穢れた人間、いや大人を排除して
新たな千年王国を作る』と言っていた。
あの子はまるで唯一絶対神YHVAを名乗っているようだった。」
「名乗ってはいませんが自分の事を神の戦車と言っていました。」
「そうだな!とにかくあの子を止めないと!んっ??」
不意にゾイはズボンのお尻のポケットの中に何か入っている事に気付いた。
そしてゾイがポケットの中から取り出すと
一個のテープレコーダーが入っていた。
「テープレコーダー?」
「なんでそんな物が??んっ??」
烈花もズボンのポケットの中に何か入っている事に気付いた。
そして彼女はポケットの中を手で探った。
するとゾイと同じ型のカセットテープが出て来た。
「俺にも入っているぞ!どうなっているんだ?」
「私のポケットにもです!一体?これは?」
クエントもズボンのポケットからテープレコーダーを取り出していた。
「とにかく順番に再生してみよう!」
ゾイはそう提案した。
まずはゾイのカセットテープを再生させた。
間も無くして何処か機械的な男性の声が流れた。
「ハローゾイ!ゲームをしよう!
君はカペラ家の令嬢、シイナ・カペラを探すように
ジョン・C・シモンズに命令されたね!
そしてジョンは御両親には自分の娘を大金や
御両親の権力で縛りつけた揚句に
娘の意思を尊重しない愚かな行いによって!
人間であった彼女の存在は抹消された』と言ったね!
でも君はジョンにこう反発した。
『仮にHCFの医療チームが彼女を回収すれば彼らは
異形の怪物となった彼女を利用して『E型』や
『R型』の悲劇が繰り返される蓋然性が高い』と。
君のゲームはHCFが回収する前にシイナ・カペラを
生きたまま救い出す事、君は大人の責任として!
19歳の子供と大人の狭間の彼女を救えるか?
シイナ・カペラを生かすか?殺すかは?選択は君次第だ!」
そこでテープレコーダーは止まった。
続けて烈花もテープレコーダーを再生した。
「ハロー!烈花!ゲームをしよう!
君はかつて偶然にも『R型』を産み、その母親となった。
そして君は今、この洋館で反メディア団体ケリヴァーの
酷い仕打ちによって暴走し、この洋館は地獄と化した。
君は自分が真の母親故に『R型』を殺したくないと思っている。
君のゲームは既に大人に対する信用を失い、
復讐の権化と化した『R型』を説得し、自ら真の母親だと伝える事だ。
『R型』を信用させ、母の愛情を与える事が出来るか?
『R型』を生かすか?殺すか?選択は君次第だ!」
続けてクエントもカセットテープを再生させた。
「ハロークエント!ゲームをしよう!
君は烈花が真の母親として『R型』を説得した後に
復讐の力から解放する術を知っている。
それはT-エリクサーのワクチンだ!
だが気お付けたまえ!『R型』はこの復讐の力を大層気に行っている!
哀れな汚れた人形にケースを壊されないよう守りたまえ!
壊されればゲームは詰む。だが、忘れるな!!
哀れな汚れた人形を『守りし者』として救い出したくば!
哀れな汚れた人形に敵意を持たず!
『R型』にした精神的、肉体的苦痛を与え、
大切なものを平然と踏みにじる大罪を許し、仕返しをしない事だ!」
そこでクエントのテープレコーダーは止まった。
 
(第19章に続く)