(第49章)小芋(スモールポテト)その2

(第49章)小芋(スモールポテト)その2
 
烈花とクエントは妊娠した5人の妊婦の担当をした
中年の産婦人科医の医師のいる待合室に向かった。
それから中年の産婦人科医の医師は2人におずおずと自己紹介をした。
「こんにちは!私はクリフ・ギリガンです!」
「こんにちは!クエントと烈花です!」
するとクエントは烈花を小突いた。
烈花はゴンと拳でクエントの坊主頭にゲンコツを炸裂させた。
クエントが痛みに呻き、両手で頭を押さえている内に烈花は口を開いた。
「それで5人の赤ん坊の遺伝子の検査の結果は?」
「実は信じられないのですが。
5人全員の遺伝子が一致!つまり父親は同一人物と言う事です。」
「父親が同一人物?つまり兄弟?」
「母親が5人共違いますが、いとこ同士でしょうか?
それと別の遺伝子も検出されまして……」
「別の遺伝子とは?」
「タコに似た生物の遺伝子で……」
クエントはようやく痛みが治まったので話し始めた。
「そのタコに似た遺伝子こちらに送ってくれますか?」
「構いませんよ!」
クリフ医師は遺伝子検査のデータをクエントの端末に送信した。
クエントはジェネシスに端末の入ったチップを装着した。
それからチップ内の遺伝子のデータをジェネシスで解析した。
するとクエントの表情は少し青くなった。
「まさか……クイーンゼノビアの……」
「なんだ!一体!」
「あのクイーンゼノビアとは?」
どうやらクリフ医師は知らないらしい。
「フムフム、ですがジェネシスの自動遺伝子解析の結果。
このタコの遺伝子は間違いない!こいつは!ウォールブリスターですね!」
「まさか?BOW(生物兵器)ですか?」
「はい!どうやらそのようです!」
「ウォールブリスターってなんだ?」
クエントはウォールブリスターの画像を出した。
烈花とクリフ医師は見た。
「うわ!!」
「まさか?こんな奴が……」
ウォーブリスタ―の画像は以下の通りである。
飛び出た目玉に異様に長い腕を持った醜悪な怪物だった。
更にクエントはこう話を続けた。
「更に他にもどうやらミミックオクトパスの
遺伝子も検出されたようですね!!
ミミックオクトパスはマダコの一種です!
擬態のレパートリーは豊富なんです……。
だから……恐らく犯人は……」
「こいつが人間の姿に化けていると?」
「もしかしたら?人体実験に利用されたのかも?」
「御月製薬北米支部の仕業だろうか?」
「さあー関連性は不明です!」
「でも!早く逮捕しないと!」
クリフ医師はうーんと大きく唸った。
 
数時間後、烈花とクエントは産婦人科を出た。
2人は遺伝子が解明出来たものの犯人に
繋がる手掛かりが見つけられず頭を抱えていた。
烈花はBSAA北米支部のオフィス連絡し、
これまでの捜査をジルに報告した。
「まさか……ウォールブリスターの遺伝子が?」
「何故?何かの人体実験かしら?
とすると何処かの極秘研究所から脱走した。」
「多分。それは無いと思います。
恐らく意図的に組織が逃がしていたとしたら?」
「まさか?ウィルス兵器を感染させないで?どうしてそんな事を?」
それからふと烈花のクエントの横を4組の夫婦が通り過ぎた。
「なんでしょう?」
「なんだかかなり怒っている感じだったな……」
産婦人科に戻って見ましょう!」
クエントと烈花は3組の夫婦のあとを付いて行った。
やがて産婦人科に戻るとクリフ医師を取り囲んで
何やら酷い糾弾を始め、罵倒し、クリフ医師に詰め寄った。
「一体!どうなっているんだ!」と夫らしき男性。
「貴方は人工授精で妊娠させたんじゃないの?」妻らしき男性。
更にもう一人の別の夫も口を開いた。
「あの奇妙な赤ちゃんは!きっと火星人のDNAだろ?えっ?」
その夫婦のやり取りを聞いていたクエントはピンと来た。
「成程!人工授精であのーそのー」
「火星人の遺伝子を赤ちゃんに組み込んだのか?」
烈花は混乱し、腕組みをした。
「仮に火星人だとしても?火星人は人間に化けるものなのか?」
更に2人が考え込んでいる間にも3組の夫婦達は
どんどん怒鳴り、大声を上げてますますクリフ医師に詰め寄った。
そこにたまたま通りかかった
「ちょっと!みなさん!止めて下さい!ここは病院ですよ!」
アシュリーの怒鳴り声と3組の夫婦の怒鳴り声が混じり、
ますます騒がしくなった。
「俺達も止めないと!」
「いや……はいっ!」
クエントと烈花は喧嘩している
アシュリー医師と3組の夫婦達の間に割って入った。
それからしばらくすったもんだのもみくちゃ状態
になってどうにかその場を収めようとした。
もはや産婦人科は戦場と化していた。
ふとクエントはコソコソと産婦人科内を
うろついている茶髪に茶色の瞳に丸顔の冴えない表情の男が目に入った。
何気なくクエントはその男に呼びかけた。
「そこの君!」と。
その瞬間、男はいきなり全力疾走で走り出した。
クエントはすかさず彼を追跡した。
男は産婦人科医の出口に向かって全力疾走し続けていた。
しかし不意に自分が置いていたバケツに足を引っ掛け、
うつ伏せに豪快に転んだ。
息を切らせ、追いついたクエントは
産婦人科医の床を滑空するその男の背中を抑えつけた。
その時、不意に背中に違和感を覚えた。
クエントはバッと彼の白いシャツを捲り上げた。
するとその男の背中にはタコの頭に良く似た形に変形した
背中に両肩にはオレンジ色の突起が生えていた。
「貴方が……」
しばらくして烈花が気付いて、駆け付けた。
更にクリフ医師や喧嘩していた
3組の夫婦達にアシュリー医師も駆け付けた。
「嘘っ!!」
「えええっ!この冴えない男が?」
「火星人なの?うっそーよ!」
「違います!人間なのよ!真っ当な人間!」
アシュリーは倒れている男を立ち上がらせた。
「貴方は?」
「僕は―。ダリン・ブラント!!」
すかさず烈花は素早くダリンに手錠を掛けた。
「逮捕する!いいな!」
 
BSAA北米支部の聴取室。
クエントは逮捕したダリンの事情聴取を始めた。
「ダリンさん!貴方は何故?そのような身体を?」
するとダリンは両手の5本の指をグネグネと折り曲げ伸ばし、
落ち着かない様子でキョロキョロと周囲を見た。
「ダリンさん聞いていますか?」
「ええ、僕はえーとと言うか?なんで?僕が?」
クエントはダリンの質問に質問を返され、イライラした。
貴方は5人の女性に自分の精液を利用して受精させた。
それもクリフ医師の力を借りて!」
「ふーん酷い言い草だね!
背中があんな風な形をしていると恋愛しちゃいけないの?
人を見かけで判断するんだ!ふううううーん!」
ダリンはキョトンとした表情でまたクエントに質問した。
「じゃ!『GODZILLAニュートラルワールド』って本を読んだ?
あの本には宇宙怪獣と人間の混血児の金髪の美女が主人公なんだけどさ」
「はい、知っていますよ!ゴジラファイナルウォーズの続編だとか?
その主人公の女性の父親がケーニッヒギドラで
彼の反重力光線の威力が恐ろしく強くて。
あのカイザーギドラを撃破したバーニング・G・スパーク熱線が競り負けて
彼の反重力光線がゴジラの胸部をかすっただけで
深い傷を負ったと書いてありました。」
「そうそう母親は分子生物学者の音無美雪で!
演じていた女優の菊川怜は凄く美人なんだ!
あと!その主人公の女性は怪獣と人間は共存出来ると考えているんだ!
そうそう、その主人公の女性は実は
カメラマンの人間の男性と結婚していて子供がいてね。
主人公の女性が怪獣と人間の共存を
目標に掲げたNGO団体を設立するんだ!
活動はNGO団体のテラセイブと良く似ていてさ!
怪獣による襲撃被害に遭った村や町に支援物資を届けたり、
無害な小型の怪獣を保護したり、怪獣の生態を調査したり。」
「はいはい、そうですね。
ですが貴方はさっきから私の質問に答えていません!」
 
(第50章に続く)