(第48章)小芋(スモールポテト)その1

海外テレビドラマ『X-ファイル』のキム・マナーズ氏。
ヴィンス・ギリガン氏。ジョン・シバン氏。フランク・スポト二ック氏。
クリフ・ボル氏。ヴィンス・ギリガン氏。そしてクリス・カーター氏に
(第1章)恋酒と(第47章)小芋のエピソードをオマージュとして捧ぐ。
                     
(第48章)小芋(スモールポテト)その1
 
更にトリニティが通う幼稚園の
カラオケ大会と転生の卵の孵化から約3カ月後。
ジルのお腹は妊娠3カ月で既にお腹が少し出ていた。
そして病院のエコー検査で男の子がある事が判明していた。
出産予定日も決まり、全ては順調だった。
但し現在、妊娠初期に見られるつわりがピークを迎えていた。
なのでたまに気持ち悪くなり、時々、
いきなり吐き気に襲われる事もあった。
その為、BSAA北米支部では彼女の体調と今後の出産に
備えて、しばらくエージェントの仕事を休む事になった。
マツダ代表からはストレスを感じず無理をしない程度に
事務仕事をするよう命令を受けた。
ジルは自分のオフィスでたまった資料等の整理や
報告書の確認をする事務仕事をしていた。
そして資料を整理して決められた箱に入る傍らふと新聞が目に入った。
「遂に火星人!地球侵略開始か!?」
と言う大袈裟な記事の見出しの後、こう続けて書かれていた。
ニューヨーク市内で両肩にオレンジ色の突起を持ち、
背中がタコの頭に良く似た形に変形した赤ん坊が生まれている。
産まれたのは5人で、現在、警察や医学者が調査している。」
「うん?奇妙な事件ね!でっち上げだといいけど……」
ジルは何となく新聞の記事に不安を覚えた。
何故なら赤ん坊の両肩にオレンジ色の突起はかつて
クイーンゼノビアで見た事のあるフジツボに良く似ていた。
いや、単なる思い過ごしであって、気にし過ぎなのかも?
ジルがそう思った矢先、ジルのオフィスの近くで
鋼牙とジョンの声が聞えた。
彼女は思わず自分の扉に耳を付けて盗み聞きした。
かつてのラクーンシティで身に付けた
どうしても止められない彼女の癖である。
「何の用だ!ジョン!まさか?」
「別に人間を捕食しに来た訳じゃない!実は……な……」
ジョンは言葉を切った後、また話し始めた。
「実は僕の声を真似て、
僕の姿に変身して成りすました可笑しな人間がいてね。
僕の同胞の芳賀真理がその人間に騙されて、それでセックスして、
その可笑しな人間の子供を出産したんだ!」
「なんだって?まさか?魔獣ホラーを?」
鋼牙の驚く声に続いて魔導輪ザルバの声が聞えた。
「おおい。おいおい人間はともかく魔獣ホラーを欺くなんて……」
「僕も2000年以上、魔王ホラーとして生きて来たが……。
こんな事は初めてさ!正直驚いている!!」
ジルは2人の会話を聞き、驚いていた。
「そんな……悪魔さえも欺く人間なんて……」
「しかも驚くやなかれ!実は他にも真理と同じ様に
見た目と声に騙されてセックスして妊娠した
人間が他に4人いるんだ!気になるだろ?」
「ああ、確かに気になるな!」
「俺様達魔獣ホラーを欺く人間、気になるな!」
そこに別の人物の声が聞えた。
「やあ!ジョン・C・シモンズさん!
例の件なら既にクエント・ケッチャムと
烈花法師が事件の解明に向かっていますよ!」
その声はマツダ代表だった。
「そうか!流石!BSAA!行動が速いですね!」
「とりあえず彼らに任せて見ましょう!」
そのマツダ代表と鋼牙とジョンの一連の会話を聞いていた
ジルはがっかりした表情を向けた。
「そう、あたしは妊娠中だから今日は出番なしか……」
ジルはオフィスの机に戻り、渋々と資料や報告書の整理の仕事を続けた。
ふあーっ!退屈だけど!仕方ないなぁ!
 
ニューヨーク市内、聖ミカエル病院の産婦人科の病棟にあるとある病室。
早速、件の調査を開始した烈花とクエントは実際に成りすまし
被害に遭った人間の女性の元を尋ねた。
最初に成りすまし被害にあった人間の女性の名前は。
バフィー・キラーと本人は名乗っていた。
しかし本名はトリスリーナ・カヴァナーである。
つまり未婚の母である。
彼女は金髪に三つ網のポニーテールに美しい茶色の瞳をしていた。
更に耳にはピアスを付けていた。
更に両手には十字架を握っていた。
「やあーバフィ!」
「こんにちは貴方BSAA?」
「そう!BSAAのクエント!こっちは烈花さん!」
「BSAAが何で?刑事さんにも話しましたし!」
「君と付き合っていた男はどんな人でしたか?」
すると待っていましたと言わんばかりにパッとバフィの顔が明るくなった。
「あたしエリックに会ったの!」
「エリックとは?まさか?ブレイドの事ですか?」
バフィはうんうんと何度も頷いた。
「そうよ!きっとあたしの子はヴァンパイアよりももっと強いのよ!」
ニコニコ笑い、バフィはそう言い切った。
「本当に?確か実在しない人物の筈では?」
烈花が質問した途端、まるで毛を逆立てた猫の様に怒り出した。
「ちょっと!信じていないのね!絶対!そうだったんだから!
ちゃんとあの刺青もあったのよ!サングラスもしていたし!
間違いないわ!絶対!誰が何と言おうと!あれはエリック様なのよ!」
すると烈花は閉口した。
「どうやら本気で信じているようですね……」
クエントも小さく呟き、バフィを見た。
彼女は何度も何度も繰り返し、繰り返し、
自分の子供の父親はエリックだと断言し続けた。
仕方なく二人は信じたフリをした。
それから魔獣ホラーである芳賀真理の病室へクエントと烈花は足を運んだ。
芳賀真理の病室に入ると彼女はベッドの上に座り、本を読んでいた。
ちなみに本のタイトルは『GODZILLAニュートラルワールド』である。
「こんにちは芳賀真理さんですね!」
クエントに声を掛けられ、真理は静かに顔を上げた。
そしてクエントと烈花を見た。
胸元まで伸びた茶色の髪にほんのりとしたピンク色の肌をした
顔に茶色の瞳でクエントを見ると優しく微笑んだ。
クエントはドキッと心臓が動いた。
すると烈花はクエントの横腹をギュッと抓った。
いたいっ!烈花さん!
クエントは痛みで顔を僅かに歪ませ、
それを誤魔化そうとぎこちなく笑って見せた。
すると真理はフフッと笑いこう言った。
「隣の魔戒法師さんはやきもち屋さんなのね!」
「そんな事はどうでもいいっ!あんたに聞きたい事が……」
すると真理はフウッと息を吐いた。
「魔獣ホラーであるこの私が人間に騙されるなんて……」
「人間なら魂の有無で見分けられるんじゃ?」
「ついでにホラーの邪気や気配でもな!」
「魂は無かった!正確には無いように見えたのよ。
ホラーの邪気も気配もなかったわ!でも!
しばらくしてホラーの邪気と気配を感じたから……本物だと……」
「あのーその時、ホラーの邪気と気配以外に何か?」
その時、ふと思い出したように真理はこう言った。
「そう言えば……僅かだけど賢者の石を……でも……」
烈花はクエントの方を見た。
それから烈花とクエントは残りの3人の女性に事情聴取した結果、
やはりそれぞれ3人の女性は夫婦である事から。
どうやら犯人は夫に成りすましている可能性が浮上した。
「どうなんだ?まさか?別人に変身を?」
「もしかしたら?シェイプシフターかも知れません!
きっとホラーを欺く時は賢者の石の力を使って
魂を隠したり邪気や気配を消したり出来るとしたら?
人間や魔獣ホラーを騙す事も……」
「賢者の石の力か?可能性はあるな……」
烈花は犯人の能力をメモ帳にまとめた。
「犯人は賢者の石の力を使って、人間の魂を隠し、
邪気や気配を放出し、魔獣ホラーを騙す。
一歩、人間の魂を出し、邪気や気配を消し、他の人間を騙す。
そして何らかの方法で別人に変身する訳である。以上!」
 
(第49章に続く)