(第36章)排除と更生(後編)

(第36章)排除と更生(後編)
 
烈花、クエント、若村がシイナと延々と10時間以上も
闘いを続けている内に徐々にシイナの動きは最初の
高速移動に比べて遅く感じる様になって来た。
つまりシイナは明らかに弱体化していたのである。
その証拠に突進するスピードや恐竜の様な長い尾を振り回す
スピードが最初の時よりも格段に遅くなり失速していた。
クエントは「シイナさんは巨体故に余り長く闘えない」
と烈花と若村に伝えた。
どうやらシイナも自らの傷口が大きくなり闘いが不利だと悟ったようだ。
「よろしい!ならば!私を捕まえて若村の首輪の鍵と次のステージへ
続く鍵を手に入れるのだ!逃がせば自動で首輪は爆発し、そいつは死に。
『R型』を止める術を永遠に失う!捉えて見ろ!」
そう叫ぶなりシイナは金髪の若い少女の姿に戻った。
更に彼女は長い四角の中庭のコンクリートの床を強く蹴り、
長い四角い部屋の奥まで全速力まで走って行った。
「くそっ!待つんだ!」
「逃がしませんよ!」
「うわああああっ!早く捕まえてくれ!ここで死にたくねえ!」
烈花とクエントは素早く逃げ出したシイナのあとを追った。
やがてシイナの目の前には長い四角いコンクリート
広場の途中で道が無くなっているのが見えた。
しかもその下は30m以上の高いコンクリートの崖の上だった。
どうやらフェンスも何も付いていないらしくそのまま走れば
確実に彼女の身体は30mの崖下へ落下して、
彼女ならうまく着地して逃げられてしまうだろう。
それを見越してシイナは口元を緩ませてニヤリと笑った。
烈花もクエントも直ぐにシイナの口元を見て意図に気付いた。
「マズイ!崖から飛び降りて逃げる気です!」
「くそっ!逃がすかっ!急げ!走るぞ!」
烈花とクエントが荒々しく息を切らせて、
全速力で逃亡するシイナのあとを追跡した。
しかしシイナの脚は想像以上早く
2人が全速力で走ってもなかなか追いつかなかった。
やがてシイナは中庭の広場の崖っぷちまで来た。
「ああ、マズイ!逃げられます!」
「ちくしょおおおおっ!」
烈花とクエントの悔しい顔と焦るかを顔を見ると
シイナは勝ち誇ったように笑った。
彼女は高らかにこう宣言した。
「ゲームオーバー」と。
シイナは助走をそのままに30m以上の
高いコンクリートの崖から飛び降りるべく飛んだ。
「そうはいかないよ!」
シイナの目の前に黒い軍服を着たゾイ・ベイカーが現われた。
流石にシイナも驚き、止まろうとした。
続けてゾイは両腕で逃がさない様にシイナの身体をがっちりと掴んだ。
「うおおおおおおおおっ!」
ゾイは下半身をバネにしてシイナの身体を
勢いよく後方へ後方へ一気に押し返した。
シイナも両足を踏ん張り、ゾイの押し返しを
止めようとその場に留まろうとした。
しかし直ぐに根負けしてしまい、
シイナの身体はゾイにより大量の土埃を上げ、
一気に中庭の長く四角い広場の中央まで押し返された。
それからゾイは両腕でシイナの身体を抱えたまま軽々と持ち上げた。
そしてゾイはシイナの身体を背中に乗せた後、シイナの右腕を
持っていた両手を勢いよく振り降ろした。
そしてシイナの身体は勢い良くグルリとゾイの背中近くで半回転し、
仰向けに灰色のコンクリートの床にドガアアン!
と大きな音を立てて、叩きつけられた。
同時に叩きつけられたコンクリートの床は一部が
大きく砕け散り、深く抉れ、クレーターが出来た。
続けてゾイはシイナの身体に馬乗りとなった。
ゾイは仰向けに倒れた状態のまま茶色の瞳でゾイを見た。
それから静かに口を開き、こう言った。
「お見事だよ!ゾイ・ベイカー君はどうする?
私の裏の顔を知ってしまった為に失望しているんでしょ?
私がクレーマータックだと!」
「ああ、そうだ!答えろ!何故?あんなゲームをしかけた!目的は何だ!」
ウフフフフフッ!シイナは不敵な笑みを浮かべた。
間も無くしてシイナは静かに口を開いた。
「生の尊重!ましてや!
他人の創った物すら尊重出来ない者に生きる価値は無い!
反メディア団体ケリヴァーの連中は『R型』の大事にしている
テレビ番組を尊重しなかった!だから!あの洋館が反メディア団体
ケリヴァーの更生した4人を除いて全員の墓場となった。
「悪いがお前はゲームオーバーだ!お前の行き先は
我々秘密組織ファミリーのコールドスリープ
(冷凍冬眠)カプセルの中だ!」
するとシイナはクスクスと笑い出した。
「私がゲームオーバー?つまり?ゲームは終わり?」
「そうだ!これであんたのゲームは途中で終わりだ!」
「これでゲームは終わり?有り得ん!まだクエントと烈花の
2つのゲームが残っている!そして新たなゲームは始まったばかりよ!」
「何だと……ふざけるな!お前のゲームはもう終わりだ!」
ゾイはとうとう感情的に成り、凄まじい口調で
シイナを激しく怒鳴り付けた。
しかしそこに冷静にクエントが話を始めた。
「残念ですが……クレ―マータック、シイナさんの言う通りです。
まだゲームは続いています。私と烈花さんの!
そして恐らく『R型』のゲームも!」
「そう!その通りよ!馬鹿なクエントおじさん!あともうすぐでね!
 子供の大事な宝物を奪って壊そうとするね!
小汚い大人達が支配する世界に終末が訪れるの!
そう!黙示録の奈落の穴かここで開き!この腐りきったクソみたいな!
世界を破壊しつくして滅する流氷の堕天使が地の底から這い出て来るの!」
「そう言う事だ!この洋館と地下施設がある!ラクーンフォトレスト森の
何処かで奈落の穴が開けば!間違い無く!『T-seducer(シディユウサ)』
を満載したクリオネ型のあの巨大BOW(生物兵器
がこの世界に解き放たれるだろう!」
「状況は悪くなる一方ですね!
早く『R型』を止めないと!あの子は本気で!世界を!」
「くっ!洋館の地下施設に巨大なBOW(生物兵器)だと!
言えっ!言えっ!本当に『R型』が自分で作ったのか?」
「その通りよ!さあー早く私をけったいな麻酔で眠らせて
コールドスリープ(冷凍冬眠)に閉じ込めて!
その件の地下施設へ急ぎたまえ!」
シイナはゾイにクリオネの模様が刻まれた鍵と
起爆性の首輪を解除する鍵を渡した。
「急げ!世界滅亡のカウントダウンは次の日の朝だ!
世界は滅ぶか?滅ばないか?選択は君達次第!ゲーム開始!!」
そう言うとシイナは再びニッコリと笑った。
ゾイは静かな口調でシイナにこう言った。
「分った!もう寝ろ!あんたに同情した私が馬鹿だったよ!」
ゾイは手を伸ばし、クリオネの鍵と起爆性の首輪を
解除する鍵をシイナの手からひったくる様に取り上げた。
続けて『R型』の捕獲支援する為に持っていた対BOW(生物兵器)用の
麻酔薬が込められた特殊弾が内蔵された
ハンドガンの銃口をシイナの胸元に向けた。
そして素早くハンドガンの引き金を引いた。
ダン!ダン!ダン!ダン!ダン!ダン!ダン!ダン!ダン!ダン!
同時にハンドガンの銃口から計10発の特殊弾は発射された。
シイナの胸部に対BOW(生物兵器)用の
麻酔薬が込められた特殊弾が直撃した。
彼女は小さく呻き、やがて静かに瞼を閉じ、
麻酔の作用で意識を完全に失った。
間も無くしてヘリのプロペラの音が聞えた。
バラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラ。
烈花とクエントが暗い夜の上空を仰ぐと
回収ヘリがホバリング飛行していた。
しかも良くヘリの機体を見ると秘密組織ファミリーの
シモンズ家の紋章が付いていた。
「ファミリーの回収ヘリのようですね!」
間も無くしてヘリの中から白衣を着た数人の作業員が出て来た。
更にヘリから大きなコールドスリープ(冷凍冬眠)カプセルをひとつ
台車に乗せてクレーンの様なものでゆっくりと降ろして行った。
「あの子は私達が回収する!大丈夫だ!
HCFの連中とは違って悪い様にはしない!」
ゾイは気絶しているシイナを二人の作業員が
重そうに抱えてコールドスリープ(冷凍冬眠)
カプセルの中に入れる様子を見た。
ゾイはシイナから貰ったクリオネの模様が付いた鍵と
起爆性の首輪を解除する鍵を烈花とクエントに渡した。
烈花はその起爆性の首輪を解除する鍵を受け取ると直ぐに
若村の首に付いている首輪の鍵穴に入れ、解除した。
若村はホッと一安心したらしく安堵の表情に変わった。
クエントはゾイから渡されたクリオネ
模様が付いた鍵を見るとこう言った。
「これが!多分!あそこの納屋にあった
小部屋のあの鍵に間違いないでしょう!」
ゾイは無線でジョンと会話していた。
「任務は完了です!しかし再び問題が発生してしまいました!
『R型』が巨大BOW(生物兵器)を用いてこの世界の破壊、
秩序の崩壊を企んでいる事が判明!
私はそれを止めに行く必要があります!」
「了解したよ!ゾイ!ヘリの中に一度戻りたまえ!
武器や備品を揃えて置いた!
なお!世界の安定の崩壊は我々シモンズ家にとって大きな損失となる!
BSAAのエージェントと協力し、
世界の崩壊を防ぐ事を新たな任務とする!」
「了解しました!ありがとうございます!では!交信終了!」
 
(第37章へ続く)