第34章)監視者(オーバーシアー)

(第34章)監視者(オーバーシアー)
 
洋館の外の中庭。
3人がそのオレンジ色の鉄の柵の扉の前に
近づくとまた一枚のメモが貼ってあった。
その内容はどうやら以前、バーの隠し部屋で見つけたBSAA医療機関
ウィルス学者からのメールの続きの様だ。
「には『B型Tエリクサー』を含む植物細胞を他生物に植え付ける
事によって対象の意識と肉体を支配できる可能性有り。
またプラントE44の植物細胞の一部から
(恐らく濃縮されたB型T-エリクサーを含む)
いわゆるガスを放出させる未発達の特殊な器官が発見された。
更に御月製薬の元社員であり、研究者で後に感染して植物人間
(プラントデッド)となったトムが
実験的に製造していた『プラントE44』
と偶然誕生した『R型』、プラントリーチ(蛭)のみ元アンブレラ社員で
シェリーの父親のウィリアム・バーキン博士から採取されたと
噂されるGウィルスの遺伝子が検出されている。
故にB型T-エリクサーワクチンを早期に完成させるようお願いします。
手遅れになる前に……急ピッチで……。
コバルト・ローラン(2020年月日不明)」
「なあーさっき若村が壊したワクチンは??」
「はい!今回の『R型』暴走事件及びバイオテロに備えて既に
新型のB型Tエリクサーのワクチンは製造されています。
出発前に投与されたワクチンがそれです!」
「そうか……くそっ!俺達は平気でも『R型』は……」
その時、クエントの無線機が何度も鳴った。
クエントは無線に出るとBSAA代表のスティーブンからだった。
「こちら!スティーブン!先程、BSAA北米支部及び
全ての支部において『R型』のバイオテロの有事に備えて
警戒レベルが10にまで引き上げられました。
それとあとBSAA欧州本部のバイオテロ評価委員会により
『R型』『プラントE44』
『プラントリーチ(蛭)』の体内から検出された
B型T-エリクサーとして名前を改めて『T-seducer(シディユウサ)』
と呼び、新たなバイオテロの危険使用ラベルに
登録される事が決定しました!!
勿論、ワクチン投与も生存者が妊婦の場合は優先して投与させるよう
BSAA医療チームに指示しています!!」
「そうですか?これで支部を超えての作戦行動も……」
「しかし私達はなんとかしてこの洋館で『R型』を鎮圧させます!」
「そうですか?御武運を祈ります!」
と言うとスティーブンは無線を切った。
すると急に若村が両手で頭を押さえて苦しみ出した。
「うううっ!なんだ??まさか?『R型』のクソガキ!」
しかし若村の脳裏に語りかけて来たのは
HCFのスパイのリー・マーラだった。
「貴方のもっとも古い記憶は?
お母さんに自分の好きなゲームを捨てられた日?」
「なっ!リー・マーラ!何故だ?何故?『R型』と同じ事が出来るんだ!」
イスラム系の原理主義のテロリスト達は物心が付き善悪の区別がつき、
まともな教育を受ける前の幼い少年に偏った原理主義選民思想を教え、
武器の扱いを教えて、自らの忠実な駒にする方法が頻繁に行われている。
それ故に幼い事から洗脳された少年兵は自分の命が犠牲に成り、
死ぬ事に対して何の疑問を持たずにただ神を称えて身体に
大量の爆弾を巻いて自爆させ、大勢のアメリカ兵を射殺させている。
しかも私がその少年兵を殺しても、
少年を指揮していた彼らは神の王国へ行った。
つまり用済みの駒としか思っていないという現実がある。
若村!貴方が『R型』にした事は
イスラム原理主義のテロリストと同じ事だ。
偏った原理主義の思想を教える為に彼女が
大切にしていた宝物を奪い破壊した。
だから私は『R型』と精神を同調させる度に
大人に対する憎悪と憤怒を常に感じている。
つまり若村や反メディア団体ケリヴァーの
メンバーは『R型』に殺されて当然なのよ。
しかも『R型』はこの世界を完膚無きまで
破壊しようとしている事も知っている。
私も『R型』と同じくT-seducer(シディユウサ)
に感染した1種類を除いて12種類の動物や
人間の精神と同調し、貴方達の行動を常に監視していました。」
若村はしばらく下唇を噛みしめ、苦虫を齧り、
苛立ちの混じった表情を浮かべた。
「どうやらHCFのリー・マーラも『R型』のクソガキと同じ様に
T-seducer(シディユウサ)に感染した数種類の動物や人間の……。
その精神と同調して!テレパシーかなんかで!
俺達の行動を常に監視していたらしい。
しかも!あいつ自分の事についてもっと知りたくなったら。
洋館の地下2階のT字型の通路にある工事中の空き部屋を利用して
作ったHCFの仮設研究室に来いと偉そうに指示しやがった!
あいつは俺の思想が完全に間違っていると言いやがった!
俺の考えは!俺の思想は間違っていない!絶対に!絶対にだ!」
3人は中庭のオレンジ色の鉄の柵の扉を押してギィーと開けた。
烈花、クエント、若村の3人が中に入ると
そこは長四角の大きな広場だった。
そして長四角の中央の灰色のコンクリートの床には
ポツンと一人の金髪の女性シイナ・カペラが立っていた。
「あれ?……シイナなのか?……」
若村はシイナの余りの身体の変化に激しく戸惑った。
「シイナって確か胸とかお尻とか小さかったよな?」と烈花。
若村は自分が持っていたウィルス感染前の有りし頃の美しい肌に覆われた
小さな形の整った両乳房に小さな形の整ったお尻のスレンダーな身体の
シイナの写真と目の前の美しく変化したシイナを見比べ何故?
そんな風になったのか分からず首を傾げた。
クエントは恐らくこんな状況(バイオハザードが発生していなかったら)
きっと自分は(自分も烈花に隠しているが実は巨乳ファン)
喜んで彼女に近づき、おしゃべりしただろうが生憎、
彼女はB型T-エリクサーから名前を改めた
『T-seducer(シディユウサ)』
に感染し、別の生物に変異している以上、そんな悠長な事を
言っている暇はないな?とクエントは思った。
ついでにお隣に烈花がいる。彼女を怒らせたくない。
屋根裏部屋で若村が浴びたパンチを自分が食らったら失神は確実だろう。
間もなくしてシイナは静かに口を開いた。
「ようこそ!第一の真実の間へ。烈花!クエント!若村!」
「真実だと?シイナ!一体何を言っているんだ??」
「若村!烈花!クエント!ゲームをしよう!」
「なっ!まさか??」
「シイナ……まさか?貴方が?」
「若村!お前は今までメディアツールの抹殺を他の仲間達と共に
排除するように他の子供達やメディア企業の大人達に強要し、
多くの純粋な子供達やメディアツールを創っている大人達の心を傷つけ!
苦しめて来た!お前はその報いを受けなければならない!
そしてゲームのルールは異形の怪物化した私を異物として殺さず生かす事!
若村の手には闇を弱める光がある。しかしそれでは私を殺せない!
私を殺せば私は進化し、闇は強大となり、お前達!若村は確実に殺す!
故に若村!同じ過ちを犯すな!排除と更生の違いを知るのよ!」
「まっ!嘘だろ?あんたが?殺人鬼なのか?畜生!
どいつもこいつもイカれてやがる!」
「あんたは元気な女の子なのか?どう行く事だ??」
「間違いありません!貴方が犯人のクレーマータックですね!」
「若村の首には起爆性の首輪が付いている!私を殺せば首輪は起動し、
お前の頭は粉々になり、他人の排除しか考えない身勝手で
自己中心的な思考が詰まった小汚い脳漿と大量の血液が灰色の
コンクリートの床にぶちまけられる事になる!
私を生かし、若村を生かすか?殺すかは君達の選択次第!ゲーム開始!!」
シイナは口元を緩ませ、高らかにゲーム開始を宣言した。
そして自らの意志でシイナは異形の怪物に変身した。
美しい女性の姿から変身した姿はジェームズ・マーカス博士の
女王ヒル第1形態と第2形態を掛け合わせた原始的なグロテスクな姿に
Gの第4形態の特徴を融合させた部分を持つ異形の怪物となった。
その為、洋館の試着室で『R型』と共に出現した時の姿とは異なっていた。
頭部はまるでカタツムリのように変化した。
更に胸元まで伸びた金髪は複雑に絡み合い長い一本の角となった。
しかし茶色の眼球は異様に飛び出したカタツムリの角では無く
人間と同じ位置に真っ赤な瞳が存在していた。
口は変わらずそのまま下顎と上顎と共にビリッと大きく裂けた。
口内から無数の牙が並んだ筒状の舌が現われた。
丸い両乳房と深い胸の谷間に沿って無数の蔦が
複雑に絡んだ緑色の分厚い鎧に覆われた。
肉つきの良いしなやかな両腕は肥大化する事も無くそのまま長細くなった。
そして両手はまるでカタツムリの角の形をした
指の先から長く太い鉤爪が生えていた。
更に背中の皮膚は勝手にバリバリと裂け、4対の触手が生えて来た。
その4対の触手は大蛇アナコンダ程の太さで緑色をしていた。
下面にはピンク色の吸盤がびっしりと並んでいた。
更にY字型の吸盤の内側には無数のイバラ状の棘が生えていた。
更に背骨に沿ってまた大きく円形に裂け、内側から鋭利な無数の
巨大な白い湾曲した細長い牙を持つ、もう一つの口が現われる。
また肉つきが良い両足は足裏全体を付けて歩く
蹠行性から踵を浮かせた爪先立ちで歩く趾行性となった。
両足にはカタツムリの形をした指が10対あり、
指の先には長く白き鉤爪が生えていた。
胴体もスレンダーな体格を保ちつつも四つん這いとなり、
骨格が犬に近い形状に変化し、体躯は一軒家ほどまで巨大化した。
 
(第35章に続く)