(第5楽章)時計じかけのオレンジの交響曲

 
秘密組織ファミリーの本部に当たる長の住む大きな屋敷。
ファミリーの長であり、シモンズ家の現当主のジョン・C・シモンズは
珍しく四角い窓から月明かりに照らされてやや明るくなった夜空を見上げた。
ジョンは片手に持っていたグラスから赤ワインを一口飲んだ。
「今日は外出しないの?あたしはあの寄る辺の女神の彼女のおかげで
転生したあの魔王ホラー・マーラの仮面舞踏会に行くの!
あと!お友達のアマンダとアズキは彼女に宛がわれた
寄る辺の女神としての役割を順調に果たせているわ!」
背後から声をかけられてジョンは振り向いた。
するとかつての恋人ですでに一児の母親になっていた
芳賀真理は胸元がぱっくりと開き、白い肌の深い胸の谷間が
露出したとてもセクシーな真紅と青のドレスに身を包み立っていた。
さらに真理は真っ赤に縁取りされた鳥の仮面を被って素顔を隠していた。
「アズキもアマンダも彼女に宛がわれた寄る辺の女神の役割をこなしている。
いずれ我々と人間との間の子供達がこちら側(バイオ)の世界を闊歩する日も近いね。
あと!そういえば!今回もまたもう一体の僕の分霊が現世に復活したようだ!」
「魔王ホラー・ベルゼビュート、もう一体の貴方の分霊って?」
「魔獣ホラー・バエル!彼はかつて向こう側(バイオ)の世界で一戦を交えた。
おっと!冴島鋼牙とな!あのルナーケンの兄であり、僕の分霊、つまり
僕の大事な親族であり、家族なのさ!だから僕はルナーケンや
今回出現したバエルがニューヨークで何処で何をするのかは分かるのさ!」
「まさか本当に分霊が?あのかつて第3の世界
(真女神転生Ⅳファイナル・ロウルート)
で支配者の唯一絶対神YHVAに敗れてあのメシアの涙のエイリスの手によって
魔王であり、悪魔だったべルゼバブから魔王ホラー・ベルゼビュートに
転生した後に身も心の一部から2つの分霊となる魔獣ホラーを生み出したって話。」
「その通りさ!僕の分霊ではないシェイズよりも良い子だった。
ただ子供っぽい乱暴さはあったがね!良く真魔界で聞くだろ?」
「ええ!へえー可愛い子供達だったんだ!」
真理は短い付き合いながらもジョンの言葉に嘘が無い事は分かっていた。
彼はシェイズとは全く正反対で人間の女でもホラーの女でもジェントルマンだった。
「じゃ!可愛い息子に会いに行きたいってないの?」
「うーんどうしようかな最近忙しいし……それに大人の快楽を楽しむのは構わないが。
見知らぬ男を抱いて妊娠したらどうするつもりかね?子育ては凄く大変だぞ!」
「あたしは子育てはとても苦労するけど凄く楽しいから構わないわ。
それに相手の男がただのクズだったらさっさと食い殺してあげる!
ああ、あと!早くしないと彼、また黄金騎士ガロの冴島鋼牙に陰我を
断ち切られてまた真魔界に強制送還されちゃうわよ!娘のルナーケンには?」
「娘のルナーケンとは過去にこのニューヨークに出現して
既に黄金騎士ガロの冴島鋼牙の手によって封印されている。
一応会って話はしたが……息子バエルにはな……。」
とジョンは困った表情を浮かべた。
それを真理はそのジョンの困った表情を妖艶な笑みを浮かべ、見ていた。
 
ニューヨーク市内の警察署では謎の激しい爆発によりハラショーに
驚いてまるで蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。
何百人ものミリセント(おまわり)が驚きと困惑の表情を浮かべ、
警察署の外に出て、俺が破壊した拘置所の壁がある
反対側の方にどやどやと集まっていた。
しかも連中ときたらいきなり空いた大穴にマジでビビっていたし、
何人かの警官達は穴の空いた大きな壁をポカンと見ていた。
俺はそれを近くの大きな破片の陰に隠れてクスクスと笑った。
そしてさっさとその辛気臭い場所からオサラバしようと歩き出した。
しかし勘の良いミリセント(おまわり)が大きな破片から
そっと出てくる俺を見逃さなかった。「おい!いたぞ!」
すると一人のミリセント(おまわり)の言葉に反応して
恐ろしくも素早く俺を捕まえようと一斉にこっちに向かって来た。
流石の俺を本気で仰天し、大慌てで警察署の庭の中を死に物狂いで走り続けた。
そのあとをミリセント(おまわり)達が追ってくる。
勿論、ミリセント(おまわり)達も必死だ。
きっと俺はあの例のイスラム系のテロリストの一味か何かと考えたに違いない。
何せ派手にぶっ飛ばしたからな。ああ!兄弟よ!やっちまったぜ!
それから俺は(不思議な事に息は長い間、走っても平気だった。)
長い間、警察署の庭の中を走り抜いた挙句、近くに近くにフェンスが見えた。
俺は芝生を大きく踏んだ。そして何故?そうしたのか自分でも分からないまま。
大きく飛んだ。そして俺の身体はフワッと宙へ飛んだ。
我が兄弟アレックスは自由の為に飛んだのだ。
彼はいとも簡単に10mの高さのフェンスを飛び越えた。
彼は前転して10mの高さから落下した。
そして華麗に警察署の外の道路のコンクリート上に着地した。
続けて警察署の建物からミリセント(おまわり)が何か出てきた。
彼らに気付かれる前に俺は獣のように唸った。
自分は見えていないが俺は夜の暗闇の中、自分の茶色の瞳が
緑色にらんらんと輝いていた。更に兄弟よ!俺は変身した!
アレックスの身体は突如、真っ赤な光沢のあるボディと四駆の
黒いタイヤ、大きなフロントガラスのついた4つの窓。
白とオレンジ色のヘッドライトにサイドミラーがあった。
彼は主に白く輝くヘッドライトで周囲を見ていた。
信じられない事に俺は若い男や若い女が乗り回すような
ハラショーにイカした赤いセダンに変身していたのだった。
赤いセダンに変身した俺の周囲をミリセント(おまわり)が探していた。
しかしさっきまで人間の姿をしていた俺を見つけられず彼らは各々舌打ちをして
「畜生!」と声を上げ、「逃げられたああっ!」
と精一杯ミリセント(おまわり)が悔しがっていた。
当然ながら俺は最初から逃げていない。赤いセダンだ。
しかし連中ときたらフフフ!目と鼻の先に俺がいるのにさぁー。
全く気が付いていないんだ!兄弟!間抜け面だぜ!本当に!」
ミリセント(おまわり)達は俺を探すのをあきらめて各々警察署へ引き返して行った。
そして俺がミリセント(おまわり)達が全員警察署へ入って行くのを見計らって
エンジンをかけて慎重に静かにタイヤをきしませて走り去った。
間も無くして警察署からゆっくりと遠ざかり、すぐに交通道路へ出た。
つまり意外にも短い間に脱出に成功したのである。
俺もしばらく自由を満喫しようと街中をドライブした。
行く先々には幾つものコンビニやアパート、
2階建ての赤黄緑の屋根の付いた家が見えた。
俺は最初に警察署で魔獣ホラー・バエルに
憑依される前にあいつとの約束を思い出した。
確か『変異型賢者の石』と言う荷物をこちら側(バイオ)の世界に住むニューヨーク
の町中のできるだけ大勢の若いチボーチカ(女)の胎内に運ぶのが仕事だったな。
(人間と魔獣ホラーの進歩の為だかで)だから俺は出来るだけ
大勢のチボーチカ(女)と同意した上で楽しいパーティをした。
いや!兄弟!楽しいパーティを装って荷物を運んだのさ!
俺はチボーチカ(女)達を色々なホテルや宿に誘った。
そして『変異型賢者の石』を運ぶ為に何回も何回も誘っては
抱いて、誘っては抱いてを飽きる事無く繰り返し続けた。
とうとう俺は1万人というギネス記録を達成した。
(もっとも申告していないから公式ではない)
勿論一万人の顔は一人一人完全に覚えていない。ただー2人の。
自分が美人だと思って印象に残ったチボーチカ(女)
の顔や身体は何故か良く覚えていた。
1人目は胸元まで伸びた艶のある茶髪。細長い茶色の眉毛。
少し丸っこく団子の形をした美しい鼻に少しふっくらとした両頬。
そしてピンク色の唇。また茶色の茶髪の左右から
覗いている両耳もなぜか印象に残った。
2人目は飛びっきりの美女で黒い艶のある長いポニーテールの髪。
キリッとした細長い眉毛。力強い印象を与える茶色の瞳。
極端に小さな可愛らしい丸い両胸も印象的に残った。
そして2人の美女の事を色々と思い出している内にその2人の美女が
あの反メディア団体ケリヴァーのメンバーだという事を話してくれた事を思い出した。
どうやら2人共、両親にテレビやゲーム、携帯、パソコン等のメディアの排除と
自然主義を訴える運動に無理矢理、参加させられて嫌気がさしていたそうだ。
2人の美女のご両親はそれぞれ彼女自身で参加と
不参加の選択する自由を奪い取ったのだ。
2人の両親は自分達の自己満足に満ち溢れた都合と
価値観を押し付け、ついでに自分達は
『自分の娘たちは自分がプログラムした通りに忠実に動いている』と考えて
特に気にかける事も無く、ましてや自分がした行為が本当に正しいのか?
きちんと考えることすら最初から放棄して、あとは放任、ほったらかしだ。
きっと2人のご両親は2人の娘達を
時計じかけのオレンジ』だと思い込んでいるのだ。
俺はそう考察をしながらとある道路の交差点を曲がり右左右左
となんとなく走り続けていると短い男の悲鳴が聞こえた。
続けてピュンピュンピュンと言う音とカチカチと言う音が同時に聞こえた。
(多分、サイレンサー付きのハンドガンを撃ちまくって弾が
切れたのだろうと俺はすぐに直感した。)
続けてグルルと言う唸り声がしたので行って見た。
すると筋肉質なガタイの良い男が一人冷めたアスファルトの上で
腰を抜かして尻餅を付いて情けなくブルブル震えていた。
俺は危うく大声で笑っちまうところだったが自分の笑い声が
ラクションになってしまうのでグッとこらえた。
そして怯え切った筋肉質のガタイの良い男を見下しているのはー。
間違いなく!!俺の分霊であり!父上である!魔王ホラー・ベルゼビュートだった!
蠅に似た頭部の両眼は真っ赤に輝く複眼。黒い狼の鼻。
両肩に円形の昆虫に似た外骨格を持ち、両腕は真っ黒な分厚い鎧の
ような昆虫に似た外骨格に覆われていた。両手には短い爪があった。
「まさか?君が僕を殺す為に反メディア団体ケリヴァーが雇った
プロの殺し屋だったなんてね!ヒンドル君!これから若いアメリカ人の金髪の
かわいこちゃんと日本人の肉付きの良い女の子と
一緒に過ごす筈だったのにー。とっても残念だったよ!」
ベルゼビュートは巨大な口を勢いよくバカッと開いた。
続けてヒンドルと言う筋肉質のガタイの良い男を黒髪の頭部からガブリと噛みついた。
そしてベルゼビュートは軽々とヒンドルの身体を真上に
持ち上げるように下から上へ勢いよく頭部を動かした。
するとヒンドルと言う筋肉質でガタイの良い男は瞬く間にベルゼビュートの
口内へ消え去り、腹の中の胃で瞬く間に消化され、捕食されたのだった。
それも一飲みにあっさりである。
ちなみに捕食された彼の衣服も肉体も跡形もないので。
ここに彼がいた証拠すら何も残っていなかった。
勿論、ハンドガンも腹の中でまとめて消化してしまったので凶器すら残っていない。
そして同時に俺事、アレックスのお腹の虫がグーツと鳴った。
とにかく俺もベルゼビュートみたいに人間の血、肉、魂でも
何でもいいから食いたくなった!つまりとても腹が減ったのだ!
さてさて魔獣ホラーは朝から昼にかけて日光のある時間。
つまり君達、兄弟達が学校や仕事をしている間、我々魔獣ホラーは
憑依した人間に成りすまして活動し、餌となる人間を物色している。
そう、さっきの「殺し屋ヒンドル君」を綺麗に衣服もハンドガンも
残さず肉体を食い尽くして平らげたのも魔獣ホラーが生きる為だと教わった。
兄弟!俺も父上も人間を喰らい続けなければ生きていけねえのさ!
だって兄弟!動物の肉や魚の肉を食うのは当たり前だろ?兄弟!
勿論、俺も何かを喰わなきゃ!飢え死にしちまうんだ!
だからよぉ!飢えて死ぬ前に何か喰わなきゃなぁーっ!!
 
(第6楽章に続く)