(第28章)ポルターガイスト(後編)

(第28章)ポルターガイスト(後編)

 

「なんか音がしたか?」とすぐ隣のクリスティンに尋ねる。

「ええ、スペンス!なんか?パリン!って・・・・・」

すると辛うじて動けるようになっていたスペンスがパリン!と

割れた音がした方へ向かった。そこには楽しそうに笑う黒い影が何人か見えた。

しかもそいつらは―。棚の超厳重ロックを全て外してあの『プラントE46-23』

の苗から抽出した新型T-エリクサー(仮)

(E型特異菌遺伝子有り)の入った試験管を

次々と金属製の床に落としてパリン!パリン!パリン!と割れ続けていた。

スペンスは頭を両手で抱えて一言こう叫んだ。「この幽霊共!!」

その叫びに幽霊達は驚いたのかスペンスの方を白い目で見た。

しかし小馬鹿にしたようにスペンスを指さして笑った。

するとブチ切れたスペンスは今までで大声を上げた事も無い。

それはそれは凄まじい剣幕で怒鳴り付け幽霊を叱りつけた。

幽霊達は余りの彼の剣幕にたじろぎ、焦り、大慌てで怯え切った様子で

次々と壁の中にすーつと消えて行った。それから我に返ると割れた試験管を見た。

スペンスは「くそっ!」悪態を付き、更に「クソがっ!」と叫んだ。

それからスペンスは今ここでウィルス流出を入り口にいるみんなに

知らせたらパニックになった収拾が付かなくなる。それこそ幽霊の思うつぼだ!

考えろ!考えろ!どうする??どうすれば??そうだ!

確か緊急警報のスイッチがあった筈だ!それはえーと!!

そしてスペンスは思い出した。くそっ!あの萌博士を捕まえた

『プラントE46-43』のいる位置のすぐ近くだ!!

つまり!あの『プラントE46-43』の苗木の近くの壁っ!

またもしも警報を鳴らしたらあのプラントE46-43』

は過敏に反応するかも知れない。

そのせいで暴れ出したら。今捕まっているあの萌博士も!

俺もみんな体をズタズタにされて殺されるかも知れないし!

幽霊共のせいで!仮にボタンを押せたとしても作動しない可能性の方が。

でも誰かがやらなきゃ!時間が掛かり過ぎればウィルス感染が

徐々に肉体を侵食してしまう!!でも!このままじゃ!

例えボタンを押したとしても果たしてAI(人工知能)のアポロの通報で

誰かが来たとしても!間に合わない可能性の方が高い!だったら!そうだ!

確か『プラントE46-43』の苗木の近くの部屋の壁にレバーがあった筈!

それさえ!下げられれば!ウィルス漏洩対策の抗ウィルス剤とワクチン剤の入った

散布剤のガスがスプリンクラーから放出される筈だ!よし!決まったら!

あいつに見つからないように!慎重に先へ進もうとした。

その時、ふとあの入り口と出口の分厚い扉の方からクリスティンと

女の子話し声が聞こえた。まさか?女の子の霊?スペンスは気になるので戻って見た。

すると分厚い扉の窓に女の子がいた。大体10歳未満で。

ドアノブ型のナイトキャップを被っていて瞳は真っ赤だった。

その顔はとても可愛らしく少し肌が白く見えたがとても美しく思えた。

まるで人形の様に。

「貴方達を助けてあげる。私は魔女王ホラー・ルシファーを監視していたのよ!

あいつたら!幽霊達を唆してHCF内で盛大にイタズラ大会を始めちゃったのよ!」

「あっ・・・・はあ・・・・」とその場にいる全員が唖然とした表情で聞いていた。

「ここも!監視映像とその一部の機能が停止しているわ!

だから警告もきっとウィルス漏洩対策用のスプリンクラーも作動しないわ!完全に!

幽霊は電子機器に干渉出来るから。ほら―心霊スポットでよくあるでしょ?

いきなりスマホの明かりが消えたり。スマホが再起動を繰り返して停止したり。

あとは懐中電灯の明かりが消えたりとか色々とね。」

「じゃじゃ!どうすれば??」とスペンス。

「電源は私が何とかしてあげる!そっちはレバーか!ボタンを!」

「ああ、分かった!君の名前は??」

「名乗る程の者じゃないわ!元々目に見えない存在だから!」

そう答えると10歳未満の女の子は窓から消えた。

やがて何処からか甲高い耳が痛くなるような叫び声が聞こえた。

いや。何が起こったのかここからではさっぱり分からなかった。

更に電撃が走る音と共に電源が付かなかった監視カメラや

ID照合パネルの起動音が聞こえた。間も無くしてAI(人工知能)の

アポロの声がスピーカーから聞こえた。

「あっ!あれっ!おかしいです!この部屋だけオフラインで機能を停止していて

原因を調査中だったのに?急に回復しました!どうして?

いや!このウィルス兵器遺伝子改良実験室にて『新型T-エリクサー(仮)

(E型特異菌遺伝子有り)』によるバイオハザード(生物災害)を検知!!

ただちにウィルス漏洩対策のスプリンクラーを作動させて警報を鳴らして下さい!

幸いにも!全ての出入り口や通気口の全ては完全にロックされています!

まだウィルスは外部に漏洩してません!しかし早くしないと!

中にいる人達はウィルスに感染している可能性が非常に高いです!

急いで下さい!ロックは一体??誰が??」

「ああ、分かった!分かった!」

「うっ!ゴホッ!ゴホッ!もしかして??これ??病気???」

見るとクリスティンは激しく咳き込んでいた。

「クソっ!少しだけ寒気がするぜ!」

ダニエルは両手で身体を抱きかかえてブルブルと震えた。

「急がないと!みんなが危ないっ!プラントデッド化するっ!」

スペンスは素早く立ち上がり、一人勇気を持って慌てて走り出しそうになった。

しかし直ぐにこの『プラントE46-43』が潜んでいるかも知れないっ!駄目だ!

多分!あいつは物音に異常なまでに敏感だ!奴は元の超巨大植物の時と同じ僅かな

物音で繁殖相手の女と餌の俺のような男を見つけて捕食するか捕らえて繁殖する。

しかし今なら奴は萌博士をどこかに捕らえて。それで。まあー夢中だろう。

それなら無闇に音さえ立てなければ大丈夫だ!早くしないと!

しかも音を立てずに慎重に歩きながらかつ速足で転がっている

空き缶の音も蹴ったり踏んだらヤバいな!!紙も踏まないようにしないと!

そしてなるべく俺のばあちゃん並みに遅く歩かないと!

もし倒すならクロスボウがいるな!!今はここにはない!どうにかしないと!

くそっ!どうにでもなれっ!俺はここでは死にたくないっ!!行くぞ!!

行くぞ!行くぞ!行くぞ!動けよ!慎重に!

そう言い聞かせながらスペンスは歩き出そうとした。

歩き出そうとしたスペンスはふと思い立ち黒い靴を脱ぎ捨てて白い靴下になった。

靴底はきっと硬い。それにこの実験室内は金属で出来ている!

硬い靴底のコンコンと言う音で俺の居場所があいつにバレる恐れもあるんだ。

この方がいい。そして俺は一歩一歩と慎重に歩き始めた。

きっとあいつ舐める者のリッカーみたいに聴覚が以上に発達しているのかも知れない。

だとしたら音を立てない方のが一番だ!それにしても奴は

萌博士を捕らえて何処へ消えた??

スペンスは静かになり、物音も聞こえない

『ウィルス兵器遺伝子改良実験室』内をざっと見渡した。

実験室内は広い四角い空間と幾つかの部屋に区分されている。

周りには医療器具や医薬品の入った箱。

ウィルス実験用のシャーレや最新式の電子望遠鏡が置かれた棚や机が

左右の壁の隅に見える。目的の場所は目の前にあった。

開きっぱなしの『プラントE46-43』の苗木が植えられた畑になっている部屋。

どうやら急激に巨大化して成長したのは萌博士を襲った一体だけらしい。

他の苗は普通のウィルスに感染していてやや巨大化しているのを除けばその辺で

植えられている普通の野菜等の植物と全く見た目が変わらなかった。

さてと!その肝心の奴はどこにいるんだ??

スペンスはうす暗い実験室を注意深く見渡して奴を探した。

すると問題のそいつは案外早く見つかった。

しかもただのちっぽけな苗木から巨大な無数のイバラの棘を持つ。

無数の蔦とバラの花が咲いている幾つかの蔦にあの食虫植物のような内側

に無数の牙の生えた変異型プラントE46-43は更に萌博士を

捕らえてから僅かに2分でさらに成長した。

うわあーあれじゃ!本当にマジのリッカーじゃねえかよ!

こりゃ!マジで音を立てない方が良さそうだぜ!

変異型プラントE46-43は正にリッカーそっくりだった。

そいつは完全に人型をしていた。あるいは巨大なヤモリのように見えた。

しかし全身は剥離した無数の蔓が複雑に絡んだ皮膚が新たに形成された

分厚く太いまるで木の幹と思わせる筋肉組織が露出していた。

また骨格が変形し、4足歩行をしていた。

さらに緑色の背中からは多数のイバラの棘と薔薇の花弁が多数咲いていた。

また両肩から2対の枝状の突起物が生えていた。

そしてバカッと開いた無数のノコギリのように並んだ牙が内側に持つ太い長い

二等辺三角形の周りに小さな棘の付いたヒトデ状

の赤い花弁をくぱあと大きく開いていた。

花弁はさっきよりも更に妖しく強く真っ赤に輝いていた。

更に全身の薔薇の花弁もやはりより妖しく血液のように真っ赤に輝いていた。

それは暗闇にぼんやりと浮かび上がり、とても不気味だった。

 

(第29章に続く)