(第46章)ASDとPTSD

(第46章)ASDとPTSD

 

ブレス保安部長はエアの自室を後にした後そのままアッシュ博士の所へ行った。

医療施設の診察にてブレス保安部長はアッシュ博士に息子のエアの症状を伝えた。

彼は間違いなくASD(急性ストレス障害)を発症していると伝えた。

ASD(急性ストレス障害)は生死や人間の尊厳に関わるようなトラウマを

経験した際に体験をはっきりと思い出したり、悪夢として現れたり、その為、

覚醒状態にとなり、体験した事を避けたりする傾向が続き、数日から長くとも

4週間以内に自然治癒する一過性の障害だと。ただ余りにも長期に渡って

持続する場合は心外傷後ストレス障害(PTSD)の疑いもあると言う。

この手の心的外傷は抗うつ剤ベンゾジアゼピン系の抗不安薬睡眠薬

回復を遅らせてしまう。特にベンゾジアゼピン系の薬一番回復を遅らせる。

今回はこちらで短期間の心理療法が出来るセラピストを自室へ向かわせるか?

心理療法の出来る施設に入れるか色々方法があるが?

どうするかとアッシュ博士に尋ねられたので

ブレス保安部長はあれこれ考えた末にこう返した。

「できれば自室から始めて徐々に外へ出られるようには?」

「よろしい。だが完全回復までは4週間はかかる。もしも心的外傷後ストレス障害

(PTSD)の場合は6ケ月か何年も回復するのに時間が掛かるだろう。

とにかくまずは4週間は保安部隊の仕事は休ませてもらおう。

あんな魔女王ホラー・ルシファーと死闘したんだ精神も肉体も疲れきっている。

今の彼には休息が必要だ。それと完治あるいはある程度のトラウマを克服するまでは

トークスとは接触させない方が良いだろう。彼は精神不安定だ。

彼女に対して暴力を振るったり、性的暴行を加える危険性も十分に考えられる。

トークスを傷付けてしまったらもう取り返しがつかなくなる。

あと『母親』『親子』『結婚』とかの言葉も本人が

凄く嫌がるようなら禁句(タブー)にした方がいい。

後は他の研究員や隊員、職員、スタッフも必要以上に深い関係に

ならないようにした方がいいな。特に男性は一番気おつけないと。」

「わっ!分かった!仲間の保安隊員にはそう伝えておく!」

「こちらもダニア博士にエアの症状の可能性を報告して。

他の職員、スタッフ、研究員の世話係や健康管理係達にも必要以上にストークスと

深い関係にならないよう細心の注意を払うように報告しておこう。」

「いつも!いつも!すまないアッシュ博士!」

「なーに。ライトパターソン空軍基地以来の親友じゃないか!!」

そうアッシュ博士が答えるとやや落ち込んでいたブレス保安部長も

少しだけ元気を貰った気がして自然に笑った。

その後、アッシュ博士の指示でエアの精神の症状が

ASD(急性ストレス障害)なのか?

PTSD(心的外傷後ストレス障害)なのか?いずれかを見極める為に

専門の精神科医をエアの自室へ送った。

それからしばらくはその専門の精神科医の報告を待ち、ソファーで仮眠した。

しかし間もなくしてAI(人工知能)アポロが緊急の呼び出しの警告の

「ビービー」と言う音が仮眠室に響き渡った。

アッシュ博士はすぐさまソファーから飛び起きた。

そしてAI(人工知能)アポロは例のスパニッシュハーレム時空の歪みの

惑星のような空間からリー・マーラと日本人女性の分子生物学者1名。

オーストラリア人の分子生物学者1名と研究員3名と警備員の生き残り1名が

帰って来た事を報告した。更にAI(人工知能)アポロは日本人の分子生物学者の

赤式留菜博士が脱皮した『メトロイド』の成体の雄個体と交尾した為。

彼女の体内に受精卵が変異した卵を保有しているが既に

出産の準備の段階に入っているらしい。のちにその映像も送られたが

あいにく多忙な為、勿論見てはいない。AV(アダルトビデオ)じゃないんだから。

それに私はエアの精神状態も観なきゃいけないし。他に仕事は山積みだ。

呑気に見ている余裕は無い。代わりに仕事の報告書の作成に必要だから

腕の端末機に保存した。ついでに表示して確認した。

彼女は両肩から背中まで伸びた黒髪のツインテールの長い髪型。

薄い直線の細長い眉毛は右側だけで左側は黒く艶のある前髪に隠れていた。

ぱっちりとした茶色の瞳。丸っこい美しい鼻。ピンク色のぷっくりとした唇。

ややふっくらとした両頬。形の整った顔立ち。

更に豊満な丸い両胸(バストは95cm)は白い服に覆われている。

むっちりとした身体に両腕を真上に伸ばしていた。

また別の報告によれば彼女は『メトロイド』の成体の雄個体に

裸にされて仰向けに押し倒されて、カエルのように開脚させられて

長い間、四つん這いと仰向けを交互に繰り返して交尾させられたようだ。

またあの『メトロイド』の成体の雄個体は白い仮面を被った

黒いマントの怪人の手によって人間の遺伝子とDNAが人為的に

導入されて遺伝子操作された形跡をダニア博士から『メトロイド』の

成体の雄個体から発見したと電話で報告して来た。

アッシュ博士は静かにこうつぶやいた。

「一体?白い仮面を被った黒いマントの怪人は何故?

そんな人為的な遺伝子操作をしようとしているのだろうか?

一体??その怪人の目的と真意は何なんなのだろう?

まさか?新世界の神になりたいとか?そんな理由なのだろうか?」

アッシュ博士は色々考えながら医療施設の分娩室へ急いだ。

とにかくまずはあの子を助けないと。

 

HCF保安部隊のエア・マドセンの自室。

エアは精神科医と最初は「誰とも話したくない」と拒否したが

自室の扉を通して部屋の中にいるエアと落ち着いて会話している内に少しづつ

短い間だけ安心して心を開いて話を精神科医にした。

彼は自分の辛い体験と大好きな母親を失った現実を受け入れたくない。

それから大人になりたくない。と言う主張を聞いた。

精神科医はエアに好きなだけ話をして決して

遮らず最後まであの話を黙った聞き続けた。

そこで『母親』と『結婚』『親子』と言う

言葉を交えてエアと話しを精神科医を行った。

結果、彼は『母親』と『結婚』『親子』と言う言葉に

強い拒否反応は一切示さなかった。

ただ彼は母親に依存しており、『共依存』の状態だった事が分かった。

そして今、彼は急に愛着の対象を失った事でトラウマを抱えている事も分かった。

更に母親のアンヘラ意外にもストークスの女性が持つ母性の部分に

依存している事もようやく明らかとなった。

だからストークスを必死に今まで守ろうとしたのであろう。

人間は自分より力の強い他人と接触するかあるいは他人から

擁護して貰う事によって自分の欲求を満たして満足感を得る行動を取る事がある。

これを心理学では『共依存』と呼ばれる。恐らく魔女王ホラー・ルシファーは

始めて彼と出会った時にエアの心の中にある母親や女性に

対する『共依存』に気付いていたのかも知れない。

更に言うならば魔女王ホラー・ルシファーがエアの母親のアンヘラに

憑依出来たのもエアとは逆に父親、つまり夫であるブレス保安部長と

息子のエアに『依存』していたからかも知れない。

つまりつまり夫であるブレス保安部長と息子のエアに『依存』していたのなら。

魔戒騎士や法師のホラー用語で言う『陰我』は『他人に対する個人の依存性』

の事を言うのかも知れない。つまり魔戒騎士や法師のホラー用語で言う『陰我』

は『他人に対する個人の依存性』の事を言うのかも知れない。

もっともこれは精神科医があくまでも推測しただけで真実かどうかは断定出来ない。

そもそも『共依存』の状態にある人間は他人の行為を得る為に自己犠牲を払いながら

献身的な行動を脅迫的に行ってしまう。つまりアンヘラもエアもこの状態にあった訳

であり、母親のアンヘラは息子のエアの好意を自分に引き付ける為。

一方でエアは恋人ストークスの好意を自分に引き付ける為に

『献身』や『自己犠牲』を脅迫的に行なっていたと言う事になる。

他人をコントロールしようとして親子の行動は自己中心的な部分も多く。

そしてアンヘラが『自己犠牲』を脅迫的に行い、結果、魔女王ホラー・ルシファー

に憑依され、母親アンヘラは死に残されたエアは依存対象の母親のアンヘラを失い。

今完全に他人との関係を拒み、心を閉ざしているのである。

更に言うならば反メディア団体ケリヴァーのメンバー達も同じであろう。

彼らは若村の言うテレビ、ゲーム、スマートフォンあらゆるメディアを排除しなければ

純粋な子供達の未来は守れないと言う自らの個人的な価値観をメンバー達に伝え、

そうする事によってメンバーになった彼らはテレビ、スマートフォンあらゆるメディアを排除しなければ子供達の純粋な未来を守れないという強迫観念に駆られている。

そして若村の言う事に共感して依存している。

ついでにプラスチック人形やビニール人形も命の無いおもちゃだと

無理矢理思い込まされている。これもまた強迫観念である。

木のおもちゃじゃないと絶対駄目だと若村に思い込まされているのだ。

そして若村もそうやって他人を支配して自己中心的に自分のやりたい

ワガママに反メディア団体ケリヴァーの活動をしている。

つまり、そうやって他人に同じ価値観のある人間に依存しなければ何も出来ないのだ。

ついでに魔獣ホラーも人間の肉体と魂に依存しなければそこまで強くないのかも知れない。一方、精神科医は医療施設に戻り、アッシュ博士にエアの診察結果を報告した。

アッシュ博士は両腕を組み、深く長い間、考え続けた。

成程、彼は母親に『依存』しているのか?

この強い大人になる事への拒絶感。そして誰も失いたくない。

闘いたくない。つまり全ての根本的原因が『共依存』にあると判断した。

ただやはりPTSD(心的外傷後ストレス障害)の可能性は否定しきれない。

やはりまずは4週間か6か月かはエアの精神状態と健康をしっかり管理しないと。

アッシュ博士は今後の予定を精神科医と話し合って決める事にした。

エアは自室の扉を隔てて長い時間をかけて精神科医と話している内に

ゆっくりと自分の心の中でもやもやしたものが消えて行くのを感じた。

 

HCF研究開発主任ダニア・カルコザ博士の自室。

ダニア博士は大きな金色の柱と縁取られた黒色の王座に座って

目の前の大きなモニター画面をじっと見ていた。

それは先程アッシュ博士に送った『人間の遺伝子とDNAが

人為的に導入され遺伝子操作された形跡のデータ』と発見された最初の

メトロイドの成体の雄個体の特徴や戦闘能力のデータ』。

更に『幼体のメトロイドのデータと抜け殻のデータ』をダニア博士は

茶色の瞳で長い間、見ていた。そして両腕を組んで考え事をしていた。

ちなみにその遺伝子操作された形跡は何かと言うと人間のDNAと

遺伝子が組み込まれている他にも実際にカンブリア紀に実在していた

古代エビ『アノマロカリス』のDNAと遺伝子も発見されていた。

確かに間違い無い。そいつは生物分類学的に正式に従うなら品種改良された

『全くの新種』。つまりあの『メトロイドの亜種』は白い仮面を

被った黒いマントの怪人が意図的に造り出したものだと言う事だ。

何故?そんな存在を造り出したのか?結局のところ目的は不明だ。

また『メトロイドの亜種』の子供を身籠った

赤式留菜博士は分娩室で出産を予定していた。

しかしアッシュ博士は彼女の膣と子宮が変形して長い尻尾が生えており、

先端の開口部から一度に複数卵を産み落とす可能性にいち早く気付き、

直ぐに分娩室の隣の広大な使われていない部屋に直ぐに移したそうだ。

更に彼女は両手から銀色の10対の鉤爪が生えて来て。

口内の人の歯もにノコギリのように鋭い歯に変化していたそうだ。

自我も危うく意識も不透明になり、更に腹部も大きく膨らんでいる。

そして青く輝く助骨が左右に現れた。続けて長い尻尾の先端の開口部から

大量の『メトロイドの亜種』の卵を産み落としたので止む負えず隔離の為に

部屋全体に冷凍ガスを散布して大量の『メトロイドの亜種』の卵と恐らく

通常型に存在していたであろう『クイーン』

と化した赤式留菜博士ごと休眠状態にした。

そこまで回想してダニア博士は憂鬱になり、深ーく溜息をついた。

ダニア博士は憂鬱になり、深ーく溜息をつくとAI(人工知能

アポロは「大変残念ですが。適切な処置でしたよ。」と慰めた。

 

(第47章に続く)