(第27章)暗黒塹壕の戦い(前編)

(第27章)暗黒塹壕の戦い(前編)

 

鋼牙と魔導輪ザルバが考察した結果、地方都市アッシュフィールドの

街で失踪した20代から30代の女性達で間違い無いと言う結論に達した。

しかし。どうして?ここに?彼女達が?その疑問は残った。

一方、裏世界に変わった直後の中から3列の円形のオレンジ色に輝く光が見え始めた。

真っ暗闇から無数の牙が生えた口が見えた。

「グルルルッ!」と獣の唸り声がした。

鋼牙は真っ赤なガラスの床を見ていた。

しかし不意に真っ暗闇の奥深くから何かの音が響き続けた。

ジジジジジジと言った電子音だった。

「なんだ?電子音?」と鋼牙は真っ暗闇の奥を見た。

その直後、ピイイイン!と甲高い音と共に極太のオレンジ色に輝く

光線が一直線に鋼牙に向かって高速で飛んできた。

しかし鋼牙は不意打ちにも関わらず冷静に超素早く前転して回避した。

極太のオレンジ色の光線は周囲に電撃を帯びたまま鋼牙の

黒い靴のかかとの底を僅かにジュッ!と焦がした。

「ザルバっ!さっきのは何だ?!」

「強力な魔力を帯びた荷電粒子砲の光線のようだ!!」

「荷電粒子砲?あれは確かアニメのゾイドのあれか?」

鋼牙は素早く立ち上がった。

すると今度は真っ暗闇から真っ赤に輝く光弾の周囲には真っ黒な

鋭利な槍状の棘に覆われた弾丸を放ち続けた。

しかもそれは鋼牙の四方八方から高速で迫って来た。

鋼牙はすぐさま白いコートの赤い内側から真っ赤な鞘から銀色に輝く

両刃の長剣『魔戒剣』を引き抜くと身体を一回転させた。

それから巧みに手首を高速で上下左右に振って全ての真っ赤な鋭利な

槍状の棘に覆われた弾丸を弾き飛ばした。

「ザルバ!敵の位置が分かるか?」

「ダメだぜ!奴は息を殺し!気配まで完全に消している!!

しかも全体像は真っ暗に完全に溶け込んでて見えない!!」

鋼牙は何とか目を凝らして周囲の真っ暗闇を見た。

その時、広場の中央のガラスの部屋が天井にあった。

しかもガラスの部屋には日本人の若い女性が閉じ込められていた。

その時、日本人は数時間前に『地方都市アッシュフィールド』の心霊スポット

『サウスアッシュフィールドハイツ』に心霊系動画の撮影の途中で失踪した

大学生ユーチューバーの『はるかまゆみ』だった。

茶髪の両頬まで伸びた丸いショートヘア。

細長い眉毛。茶色の美しい瞳。丸っこい低い鼻。ピンク色の唇。

形の整った美しい顔立ちに膨らみかけの丸い両胸は真っ白なタオルを

身体に巻いて隠されていた。

勿論、腰にも白いタオルが巻かれて丁度スカートに見えた。

「彼女は失踪したユーチューバ??以前、フィッシャーズが紹介していたな。

『サウスアッシュフィールドハイツ』に行く道中で」

そこにバアン!と言う音を立てて直ぐ近くの金網に覆われた

四角いもう一つの部屋が現れた。しかも部屋にはあの天魔ヴァルティエルが

輪廻転生を象徴する赤いバルブを回し続けながら今まで始めて

はっきりとした人間の言葉で鋼牙に話しかけてきた。

「私は天魔ヴァルティエル!レッドピラミッドシング!!

かつては赤の神スチェル・バラだった存在!!私は新たな教団の儀式を完成させて

魔人フランドールを聖母にして!完全な神を産ませる!

その為に『静かなる丘』の外の世界の都市に深い霧を発生させて空間を歪ませた。

そしてたくさんの罪深き人間達をここに呼び寄せた。」

「では?若村と言う男は知っている筈だ!彼も呼び寄せられた筈だ!

この『静かなる丘』に!!教団の信者か?」

「若村を閉じ込めていた刑務所の罪深き人々は『教団』の力に

よって運命の生贄として捧げられた。『教団』を操ったのはこの私でもある。

若村は地獄の天使達や異形の怪物を操れる。冴島鋼牙よ!どう考える?」

鋼牙は天魔ヴァルティエルの話から間違いなくアメリカニューヨーク刑務所の

赤い血と錆の裏世界を魔人フランドールを操るか何かして『教団』の

侵入の手引きをさせた。そして囚人達を『教団』が虐殺した?だが。

そう簡単に魔人フランドールを操れるとは思えない。

だが若村も地獄の天使達や異形の怪物を操れるとしたら?もしかしたら?

若村はただの『教団』の信者では無い可能性がある。

もしかしたら彼こそが『教団』の教祖かも知れない。

さらに鋼牙は天魔ヴァルティエルから更に情報を聞き出そう別の質問を投げかけた。

「天魔ヴァルティエルよ!他にも質問がある!!

今回のこの若村と反メディア団体ケリヴァーが魔人フランドールを利用して

起こした『静かなる丘』の一連の怪異事件。それだけじゃない!

今回!目の前にいるはるかまゆみ氏の失踪。

他にも最近ではアッシュフィールドハイツの近くでも怪異が起こっている。

実際。アッシュフィールドタイムズ紙の女性記者も失踪している。

更にさっきこの街に入る前にシェリル・メイソン刑事からゲームの

フェイスモデルや雑誌のモデルをしていた藤崎ゆかり氏も失踪している。

それにニューヨーク市内で数日前から過去の連続殺人事件

『ウォルター・サリバン事件』の犯人と同様の手口で20代女性

10人が斧や様々な凶器で殺害された後に心臓を抜き取られ。

次に7人の少女が別々の殺害方法で殺されている。

しかもそれぞれ共通して『284813』と言う数字が右腕に刻まれている。

被害者の17人全員にだ。更に全身の血を抜かれてミイラ化した若い女性の

遺体も発見されている。つまりあんたはまた人間の潜在意識に潜入して操り。

『第4のウォルター・サリバン事件』を起こしているのでは?

つまり何か別の儀式を人間にやらせている」

「・・・・・」と天魔ヴァルティエルは鋼牙の問い詰めに沈黙した。

「鋼牙。どうやら奴はノーコメントする気だぜ!」と魔導輪ザルバ。

「そうか」と鋼牙は静かにつぶやいた。

しかし意外にも天魔ヴァルティエルはこんなヒントじみた答えを鋼牙に返して来た。

「私は日本人の少年に世界を創世し直す方法を教えた。

日本人の少年は自らを魔人フランドールと同様に悪と善に引き裂いた。

悪は負の力。闇の力在り。世界の破壊と再生を望むものなり。

儀式は二つ行われた。」と。

「もう一つの儀式?まさか?21の秘跡か?」

「その21の秘跡は儀式の方法が間違っていた。

だから若村の神降ろしと同様に正しい儀式の方法を教えた。」

「やはりあんたの仕業だな。裏で糸を引いている。」

鋼牙は冷静にそう返した。しばらくしてー。

天魔ヴァルティエルはさらに「鋼牙が信じている『守りし者』としての

役目を試そうと話を持ち掛けてきた。

さらに鋼牙が「受けて立とう!」と答えると天魔ヴァルティエルは話を続けた。

彼はこの裏世界の真っ暗闇のどこかに潜んでいる敵を倒し。

6ケ月以上前に失踪していた女性達は全員妊娠してお腹が膨らみ救えないが

ガラスの中にいるはるかまゆみと言うたった一人の若い女性を救えるのか?

「これから汝を試そう!」と天魔ヴァルティエルはそう宣言すると赤いバルブを

回して自分の部屋とはるかまゆみが閉じ込められている真っ赤なガラスの部屋

天井近くまで引き上げて行った。彼らは天井からそれを見ていた。

「どうやら!奴は傍観を決め込むつもりだ!」

「別に構わん!とにかく今は暗闇に潜む敵を見つけないと!」

鋼牙は茶色の瞳で暗闇を目を凝らして観察した。

しかしまたもや暗闇から、真っ黒な弾丸がまるでマシンガンのように

連続音と共に一直線に飛んで来た。

しかし鋼牙は反射的に魔戒剣の銀色の刀身を盾にして防いだ。

更にビュウウッと空を切り、真っ赤に輝く球体が

飛んで来て鋼牙の頭上に落下して来た。

鋼牙はジグザグに右左右左と移動して全てを回避した。

更に真っ黒な鋭利な槍状の棘に覆われた真っ赤な弾丸が高速で

鋼牙に向かって飛んで来たので慌てて走り回って回避した。

「撃てぇ!撃てぇ!いけ!いけ!」と言う男の声が聞こえた。

まさか?人型クリーチャーなのか?くそっ!

何人いるんだ??せめて敵の数さえ分かればっ!!

鋼牙は倉庫の裏世界の真っ暗闇で正体不明の敵の攻撃を受け続けていた。

「投擲!」と言う男の掛け声と共にコロコロと

真っ黒な球体が鋼牙の方へ転がって来た。

次の瞬間、バチン!と破裂した。

同時に鋼牙は赤い煙と共に身体を吹っ飛ばされた。

鋼牙はうつぶせに倒れたが素早く前転して立ち上がった。

鋼牙は無茶を承知の上で真っ直ぐ暗闇の中に飛び込んだ。

そこに真っ黒な弾丸や真っ赤に輝く弾丸がマシンガンのように次々と

一直線に走る鋼牙の方へ向かって行った。

しかし鋼牙は焦らず全てを魔戒剣で弾き返した。

キィィン!ピイイン!と言う金属音がしばらく鋼牙の耳に聞こえた。

鋼牙は赤い床を駆け抜けた。

しかし次の瞬間、超高速で伸びてきた強靭な頭部が鋼牙の全身、正面に衝突した。

 

『静かなる丘』の表世界と裏世界の異世界の外の現世のニューヨークにある

秘密組織ファミリーの長でシモンズ家現当主のジョン・C・シモンズの大きな屋敷。

ジョンは80歳の老人のマルセロ・タワノビッチ博士と自分の部屋で会話していた。

「例のISLLのアルメイヤメディアセンターのコンピューターやアフリカ武装勢力

コンピューターサーバをハッキングしていた『オペラ座の怪人』と名乗るハッカー

作り出したコンピューターウィルスを分析した結果、

とても興味深く面白い事実が判明した。」

マルセロ博士はジョンに自ら分析した調査データの資料の束をジョンに渡した。

「このコンピューターウィルスは霊的な力で電子機器に干渉して『オペラ座の怪人

が送っているものと思われた。しかし実はこのコンピューターウィルスは

霊的な性質を分析する特殊なフィルターを用いた結果。

こいつの正体は『静かなる丘』の土着神に仕える天魔だと言う事が判明した。

しかも当時の『静かなる丘』の古い天魔の本によれば

『天魔イロウル』である事が判明した。」

イロウルユダヤキリスト教の恐怖を司る天使か・・・・」

「そうじゃな。実際、アフリカの武装勢力もISも恐怖の余り

大混乱してエライ事になっているそうじゃな。それにー。」

マルセロ博士は一呼吸おいて再び話し始めた。

「天魔イロウルは最近ではコンピューターウィルスの他にワンバック達と混じって

1999年に公開された映画でほら近未来のマンハッタンで未知の伝染病を運ぶ

ゴキブリを死滅させる為に白アリとカマキリの合成昆虫が三年後に進化して人間に

擬態して。遂に人間の女性との交配能力を手に入れると言う。なんじゃったか?」

ギレルモ・デル・トロ監督の『ミミック』とジーン・ゼゴンザック監督の

ミミックⅡ』だね」と言いながらマルセロ博士から一枚の写真を受け取った。

ニューヨーク市内の地下鉄のホームの隅に真っ黒なコートを着た体格の良い男が

不気味に佇んでいた。何をする訳でもなくただ静かに。暗いので確かに怖いな。

更に続けてマルセロ博士はジョンにこう言った。

「奴は複数の人間の男女を攫っているようじゃ。何をするか何となく想像がつくのう。

しかも『天魔イロウル』は『オペラ座の怪人』と深い繋がりがある。

恐らく彼に『21の新約の秘跡』の方法を教えておる。」

「天魔ヴァルティエルの仕業では無い様だね。

ただし今回の魔人フランドールを利用した神降ろしの儀式は

天魔ヴァルティエルとアキュラスの共謀であることは間違いない。」

しばらくしてマルセロ博士は両腕を組み、目をつぶり、考えた。

「わしが思うにあの天魔達はダリアの教団や移住者によって歪められた

『静かなる丘』の土着神を本来の姿に戻す方法を模索しているように見える。

その過程で一部の天魔達がこの現代のテレビやゲームやアニメや映画などの

キャラクターや怪物達。あるいは人間の文化や習慣や思想の知識と

知恵を身に着けて徐々に進化しているように見えてならんのじゃ。

彼らは人間の文化やキャラクターに模倣して擬態して人間社会に

紛れ込もうとしておる。楽園創造以外の目的があるのか?」

「どの道。その部分は連中に直接聞く他あるまい。一応方法はあるからね。」

 

(第28章に続く)