(第2章)神降ろしの儀式

(第2章)神降ろしの儀式

 

『静かなる丘』の街に続く道路。

魔人フランドールは既にあのアキュラスと天魔ヴァルティエルと言う正体不明の

存在に捕まり、おまけにエルザ・ウォーカーと言う

20代のフランス人女性の変身魔法も解かれて元の10歳未満の幼い

魔人フランドールの姿に強制的に戻されていた。

そして眠らされた魔人フランドールは小屋の四角い大広間の木の上の床に

仰向けに寝かされていた。近くにはゲーム雑誌が落ちていたが

アキュラスはそれをくしゃくしゃに丸めて何処かに捨てた。

更に木の床の上には真っ赤な恐らく『静かなる丘』の土着神を

この現世に呼び出す為の名状しがたい文章が書かれた2本の線で形作られた

円形の魔法陣が描かれた木の床にはオレンジ色の火の付いた白い蝋燭が2本。

赤い線の上に細長いものや太いもの。

つまりオレンジ色の火の付いた蝋燭が置かれ、三角形の布が置かれていた。

勿論、何かの儀式であることは疑いようは無かった。

その近くにはアキュラスと天魔ヴァルティエルが立っていた。

「さあ―儀式を始めよう!!」とアキュラスは何かの呪文を唱えた。

眠っていた魔人フランドールはいきなり意識が別世界に飛ばされて行くのを感じた。

意識の中で静かに瞼を開けた。目の前は暗闇で何も見えなかった。

どこなの?ここ?ここは?アキラ!アキラ!ここはどこなの?

やがて目の前が真っ白になり、視界がはっきりとした。

目の前には12歳の少年が立っていた。

「アキラ??」と魔人フランドールは問いた。

「アキラ?生きていたの?」と更に質問した。

アキラと言う名前の12歳の少年は無言で両腕伸ばして優しく

彼女の小さな身体をムギュッと抱き締めた。

「アキラ!アキラ!アキラ!」と何度も大声で叫んだ。

しかし魔人フランドールの脳裏に別の理性のある魔人フランドールの

人格(もう一人の自分)が警告を発した。

「違う!そいつはアキラじゃない!!こんな事は絶対に有り得ない!!

アキラは百年前に死んだ!」

すると魔人フランドールは自ら心の中にしまっていた酷い想い出を

思い出しかけてヒステリックに泣き叫び喚き散らした。

「いや!いや!思い出させないで!!あの記憶を!!止めろ!

止めろ!止めろ!そんな筈はないっ!アキラは本当は生きていた!

目の前にいるのよ!!目の前に!アキラ!アキラ!」

「違う!違う!そいつはアキラじゃないのよ!駄目よ!

そいつはアキラじゃない!アキラがいる筈は無いっ!

生きている筈がないのよ!よく思い出して!!」

しかしアキラを目の前で見ていた魔人フランドールは別の理性の

あるもう一人の魔人フランドール人格の正論に激しく戸惑い、

動揺し、パニックになった。そして感情的になり否定した。

「生きているんだ!止めろ!うるさいんだよ!消えろっ!!」

「生きてなんかいない!そいつはアキラじゃない!違うの!」

「嘘付かないでもう一人の別人格の私!!バカ!アホ!」

「違うのよ!そいつはアキラじゃない!人では無い者よ!」

「人じゃないって?ふざけないで!何だって言うのよ!!」

「そつは悪魔の化身よ!!そいつは心の闇の中の怪物よ!!」

「そんな訳ないでしょ?ねえ?アキラ?そうなの?」

魔人フランドールは不安を募らせてアキラを見た。

アキラは相変わらず立っていて退屈そうな表情をしていた。

魔人フランドールは苛立ちを募らせた。

「アキラ!!本当に本物なの?答えてよ!アキラ!!」

しかしアキラはまるで人形のようにしゃべらなかった。

すると魔人フランドールは泣きながらアキラに近づいた。

「アキラ!アキラ!アキラ!」と叫びながら。

とぼとぼと彼に向かって歩いて行った。

するともう一人の魔人フランドールの別の理性が力の限り大声で叫んだ。

「ダメよ!そっちに行っちゃ駄目!」

しかし魔人フランドールは本能と感情のままに動き出した。

彼女は速足でアキラへ近づいて行った。

「アキラ、アキラ、アキラ、アキラ、アキラ、アキラ、アキラ、アキラ!!」

「やめなさい!戻って来なさい!!戻るのよ!戻るのよ!」

魔人フランドールはいつの間に現れた白い床を時々、何でもないところで

つんめのって転びそうになりながら。ただただ必死に走り続けていた。

彼女は自分が願ったアキラの方へ走り続けた。

自分は家族や姉妹としての愛情や周囲の友達や遊び相手よりも本当はー。

心の奥底では異性の無償の愛と家族になる幸せを心の中に強く望んでいた事。

過去のトラウマのせいでそれが一切望めなくなった事。

また強く望めば過去のトラウマと同じくまた周囲の悪い人のせいで

異性の恋人の命が奪われる事を酷く恐れていた事。

そしてただ吸血鬼でスカーレット家のお嬢様で魔女だった私と付き合い。

愛したばっかりに悪い大人達に捕まり、住民達から酷い言葉を投げかけられ。

暴力を振るわれて全身血塗れになり、私の前で強がっても。

私の見えないところでシクシク泣いて小さな背中を震わせる姿を隠れて見ていた。

とうとうアキラは火刑にされた。私と付き合った理由で。

私は彼が泣き叫び、激痛で絶叫して木の柱に縛り付けられて。

自分の体が炎に包まれて。自分の肉が焦げる匂いを嗅ぎながら私の名を叫び。

そして灰になった。私は彼を助けようと駆け付けたが遅かった。

私は彼が処刑された時、何も出来なかった。

自分の無力さを知った。怪力を持ちながら何も出来ない。

彼の命を奪った小汚い大人!!あの憎っき少女!!

アビゲイル・ウィリアムズ!!あの女は決して許さない!!

セイラムの魔女狩りを主導して私の恋人の命さえも!!

決して許さない!憎いから!私は彼女を始めて目覚めた

『あらゆる物を破壊する程度の能力』で殺した。

彼女の体は風船のように破裂して死んだ。でもそんな自分にはっきりと恐怖を感じた。

私は紅魔館の地下に自ら閉じ籠った。対人恐怖症になった。

でも私は永遠にアキラの命を小汚い大人やあの憎っくき少女から救い出す事が

出来なかった負い目が背中にずしーんと重く圧し掛かって来た。

他にも負の感情が渦巻いていた。その時の地獄のような苦しみに満ちた感情。

もがき苦しんだ自分自身の心の闇。あらゆる感情と心の闇が全て剥き出しとなり、

魔人フランドールの心を激しく痛めつけて散々苦しめた。

だからこそ今日、目の前にいる12歳当時の姿の少年アキラに反射的に

痛みと苦しみから逃れる為に救いを求めた。

とうとう魔人フランドールはアキラの元に辿り着いた。

するとアキラは無言で両腕で魔人フランドールの小さな身体をしっかりと抱きしめた。

彼女は無意識の内に泣いていた。

魔人フランドールの両目から透き通った人間の涙を両頬から流した。

アキラは無表情でまるで人形のようだった。

「これで全ての円環が変わって行く!この爆発と共に!!」

アキラが闇の中でそう言った。魔人フランドールは。

「全てを!世界の排他的なキリストが嫌い!全て消し去る!」

暗闇の中でそう言った。直後にキーン!という耳鳴りがした。

同時に不意に魔人フランドールはハッと瞼を開けた。

続けて四角い大広間の床の円環の魔法人の外の大広間全体がオレンジ色に発光した。

彼女の身体から高熱を発した。その時にはアキュラスと天魔ヴァルティエルの

姿は消えていた。やがて『静かなる丘』の町外れの小屋は

オレンジ色に発光したかと思うと。ドオーン!!と大きな音を立てて爆発した。

小屋が爆発したと同時に赤とオレンジ色の火花が散り、巨大な炎の柱となって

夜空へ向かって高く高くどんどん勢い良く昇って行った。

それを遠くからアキュラスと天魔ヴァルティエルは眺めていた。

「どうやら彼女の内に秘めた魔力と心の闇は凄まじいですね!」

アキュラスの言葉に天魔ヴァルティエルは黙って宙に浮いていた。

アキュラスは笑顔でこう言った。

「これなら完全な神として産まれた時!とても強大な力を得られることでしょう!!

これで世界を救済出来ますよ!!これなら!他の唯一神や大天使や天使の連中や

魔王ホラー・ベルゼビュートがリーダーの魔獣新生多神連合の邪悪な偽りの

悪魔や天使も人間達も取るに足らない存在でしょう!この世界を支配するのは私達!

『静かなる丘』の唯一神のみです!!他の唯一神や大天使や天使。

魔獣新生多神連合もメディアで汚れ切った全ての文明も炎で焼き尽くして浄化した上で

魔人フランドールが産んだ完全なる神が新たに約束された楽園をこちら側

(バイオ)の世界にもたらすのです!フフフッ!

あとは神が育ち聖母から産まれるのを待つだけですねぇ!」

 

(第3章に続く)