(第2章)襲撃

(第2章)襲撃  
 
アシュリーがガラス張りの素粒子加速器のコントロール室から極秘研究所の
監視カメラに繋げる作業をしている間にマックスがおずおずとこう言った。
「あの?トイレに行っていいですか?」
「なあ、良く得体の知れない異生物が研究所の中をウロウロしているのに良くトイレに行こうと思うな。」
呆れた表情のボビーはそう言った。
しかしマックスは仕方が無いだろうと言う表情でこう反論した。
「しょうがないだろ?これは生理現象なんだから!」
「いいぞ、さっさと戻ってこいよ。」とグラップ。
マックスは席を立ち、あたふたと広い研究所の展望台のドアを開けて、出て行った。
目玉の異生物は研究所の部屋の天井のダクトを通して
自分を捕獲するか否か相談している8人の研究員と警備員の会話を盗み聞きしていた。
目玉の異生物はこの世界の人間の事を全く知らなかった。
しかし目玉の異生物は他の人間の脳を奪えば人間側の知識を沢山得られる事を本能的に理解していた。
人間の事が知りたくてたまらない目玉の異生物はトイレに行ったマックスの脳から
人間側の知識を沢山奪い取ろうと天井のダクトを伝ってあとを追った。
急に尿意に襲われたマックス・ケルビアンはトイレを探して長い間、
普段誰も入らない空き研究所内の廊下を彷徨歩いていた。
そしてようやく古びた男子トイレを見つけた。
「やった!トイレだぜ」
マックスは嬉々とした表情でトイレのドアを開けた。
そして男性用小便器に立つと、速やかに下着のパンツのチャックを下ろした。
ジャーと音を立てて用を足した。
彼は大きく溜め息を付き、安らかな表情をした。
彼はふと何かを思いついた。
よし、すぐに戻ったら早速、ジョナサンに相談してみよう。
目玉の異生物は男子トイレの部屋の天井のダクトからマックスのふさふさした赤い髪のつむじをじっと観察した。
そして我慢できず赤く長い昆虫のような口吻は天井のダクトを突き破り、
マックスのふさふさした赤毛の髪のつむじの上にグサリと突き刺さした。
マックスは痛みで僅かに呻いた。
ズルズルと音を立てて、目玉の異生物は突き刺さった口吻を通してマックスの脳みそを吸い取った。
マックスは次第に口を開き痙攣させた。
やがて彼の脳みそを吸い終えるとブズリと口吻を引き抜いた。
目玉の異生物はマックスから吸収した脳内の情報から男女関係や
人間側の巨大望遠鏡の開発技術に関する知識を手に入れた。
だが急に赤い胴体からギュウウッと大きな音が聞こえた。
目玉の異生物はこの世界に現れてからずっと空腹だった。
しかもマックスと言う男の脳を奪うだけでは満腹にはほど遠かった。
目玉の異生物は早速、男子トイレの天井のダクトを伝って新たな獲物の脳を求めて移動を開始した。
だがその途中、目玉の異生物はノートンの部屋の天井のダクトに辿りついていた。
そして何か面白い物は無いかと巨大な眼球でノートンの部屋を見渡した。
やがてノートンのベッドの上に開きっ放しになった人体の本を見つけた。
目玉の異生物がそれを眼見した。
そこに書かれていたのは男性の生殖器と女性の生殖器の絵と説明が書かれていた。
目玉の異生物はそれを読み、人間の男性器の形態と生殖方法を瞬時に理解した。
開きっ放しになっている本の隣でノートンが特殊な機械と顕微鏡で自分の赤い皮膚組織を分析していた。
 
ガラス張りの素粒子加速器のコントロール室。
ジムはなかなか帰って来ないマックスを心配した。
その後、ジムは彼を探して展望台のすぐ下の階にある男子トイレの中に入って行った。
「マックス!マックス!何処だ?」
やがて明りがあるので懐中電灯を消し、男性用小便器の近くの青いタイルの床を見た。
そこには何とマックスらしき人物が倒れていた。
「マックス!何があったんだ?」
すぐに声を上げて駆け寄ったジムはうっぐっ!と片手で口を押さえた。
彼は目をぱっちりと開けて息絶えていた。
しかも彼の頭蓋骨には大穴が空き、既に乾いた大量の血と脳漿がトイレのタイルにこびりついていた。
ジムは吐き気を堪え、大慌てで男子トイレの外に出た。
「大変だ!早くみんなに知らせないと!」
直ぐに彼は足元がもつれバランスが崩れそうになるのを
何とか自分の足で支えつつ大慌てで皆のいる上の階へと走り去った。
 
ガラス張りの素粒子加速器のコントロール室の下の階にある男子トイレから血相を変えて戻って来た
ジムは偶然、ガラス張りの素粒子加速器のコントロール室のある通路で
ジョーダングラップ、ボビーと鉢合わせした。
「丁度、あの目玉の異生物の皮膚片の分析結果を読んでいるんだ!静かにしてくれないか?」
ノートンはジムが余りにも騒がしくて不満を抱き分析結果の紙を持ったまま自分の部屋から出て来ていた。
それでも構わずジムは大声で必死にジョーダンとノートンにこう訴えた。
「マックスが下の階の男子トイレで死んでいたんだ!」
その後、ノートンとジョーダンと後に極秘研究所の監視カメラに繋げる作業を
終えてガラス張りの素粒子加速器のコントロール室から出て来た
ジョナサンとアシュリー、ボビーとグラップを連れて男子トイレに案内した。
ノートンは「うっ酷い……」と小さくつぶやいた。
マックスはジムの言う通り、目をぱっちりと開けて息絶えていた。
しかも彼の頭蓋骨には大穴が空き、既に乾いた大量の血と脳漿がトイレのタイルにこびりついていた。
「こんな酷いわ!一体誰が?何の為に?」
アシュリーはショックの余り、両手で顔を覆い、すすり泣きながらそう言った。
「きっと!あの目玉の異生物の仕業だろう…」
そう言いつもノートンはマックスの死体をまじまじと見ながらそう言った。
「とにかくここは無防備で危険だ!一度、素粒子加速器コントロール室に戻って対策を考えよう!」
警備員のグラップはこの男子トイレにまだ目玉の異生物が潜伏している危険があり、
このまま無防備な状態で男子トイレに留まるのは危険だと警告した。
ドン!ドン!ドン!ドン!
「何?」
アシュリーは物音がした天井を見上げた。
「まさか?奴か?」
ジョーダンは再び天井を見上げた。
ジョナサンもジムも天井に注意を払った。
ボビーとグラップは腰のホルスターから拳銃を取り出した。
一瞬の沈黙。
突如、ガシャンと音を立て、金網に大穴が空いた。
金網が外れたダクトの中から巨大な眼球がギョロリとジョーダン達の方を見た。
 
(第3章に続く)