(第36章)奇病の正体

(第36章)奇病の正体

「クソ!クソ!クソオオッ!」
 人間のまま意識を失っていたウィルソンは再び目覚め、
両拳で床を叩き、悔しさを滲ませた。
凛は仰向けに倒れているウィルソンに近づいた。
彼は顔を上げて憎らしい表情で凛を見上げた。
両目は青い複眼で口元には怒りで歯をむき出しにしていた。
「ウィルソン。そんな事をしたって何もならないわ。」
凛は静かにそう言った。
「ウルサイ!近づくな!お前に俺の気持ちが分かってたまるか!」
ウィルソンはそう激しく吠えた。
 その時、ドアが開き、アメリカのCDCや国連の医療チームが現れた。
「何故だ?何故ここにウィルソンがいる事が分かったんだ?」
「親父だ……親父のスパイのCIAのエージェントが突き止めたんだ。畜生!」
ウィルソンは抵抗したくても出来ない自分に腹が立ち、何度も悪態をついた。
 しかし彼は担架に乗せられ、アメリカのCDC
国連の医療チームにより、外に運び出された。
覇王と蓮が幾ら何処に連れて行くのか尋ねても誰一人返事をしようとはしなかった。
さらに医療チームの一人は凛にウィルス感染の精密検査を受ける事を執拗に要求した。
覇王は丁度、島上ルーシが残した『危険なウィルスに対する抗体が発見された』
と言う大戸島洋館地図の裏に書かれた文章の
真相を確かめられると考え、検査を受けさせた。
結果、彼女は感染しておらず、
しかも体内には何故かBウィルスに対する抗体が存在する事も判明した。
凛と続けてウィルス検査を受けた覇王と蓮も解放された。
 部屋の奥では、カナダの地球防衛軍本部のハッキングに
使用していた機材が見つかり、
ウィルスが付着していないか検査を受けた後、
MBIの蓮と覇王が証拠品として押収した。
 その後、4人はレンタカーに乗り、
一度、 大戸島のホテルに戻ろうと車を走らせていた。
大戸町からホテルに続く交差点に差し掛かったところで覇王は急に車を停めた。
「どうしたんです?」
「人が倒れている」
そう蓮の質問に答えると素早く覇王は車を降りた。
道路にはアメリカ人らしき男性が気絶していた。
彼の傍には島上冬樹と思われる日本人も倒れていた。
まさか?このアメリカ人の男が島上冬樹を襲ったのか?
「とにかく救急車を呼ばなくては!」
覇王はすぐさまレンタカーの助手席にいた蓮に携帯で救急車を手配するように頼んだ。
 覇王と蓮、山岸、凛、真鍋は病院にレンタカーで到着した。
しかしまだ、気絶した男はまだ精密検査の
最中なので大勢無患者のいる待合室で待たされた。
蓮と真鍋、山岸、覇王は待合室の所
にある大きなテレビを見ていた。
テレビでは大戸島テレビのニュースレポーターが
大戸島ビルの前でレポートをしていた。
「1954年以降、怪獣の襲撃の無かった
平和な大戸島はたちまち怪獣テロの脅威にさらされることになりました。」
まさか4時間後の大事件って……。
山岸は誰かが頭の中で言った言葉を思い出した。
「現在!大戸島ビルは封鎖・隔離され、
アメリCDCや国連の医療チームの管理下にあります。
先程、SPB隊員の護衛の元、ビル内部の調査が行われました。
それによると今回の怪獣テロ事件で死者は10名以上、
怪我人はSPBの隊員の2名とされています。
テロに巻き込まれ怪獣化した人は7人。
アメリCDCや国連の医療チームは隔離の
検疫所で怪獣テロに使われた病原菌の特定を急いでいます。」
多分、ロシアのガーニャさんが言っていたバイオテロだろう。
「やっぱりあのBウィルス。もう被害が……手遅れだったのね……。」
精密検査を終えたばかりの凛はテレビのニュースを見て、早く情報を
日本の地球防衛軍達や国連や政府機関に伝えられなかった事を後悔した。
もっともっと早く伝えられれば大勢の命を救えたのに。
「何か知っているようだな?」
覇王が見ると凛は涙を滲ませていた。
凛はうなずくと小さなノートパソコンを取り出し、
分子機械や 昆虫のDNAに関するデータを覇王と蓮に見せた。
「成程、これがBウィルスか?
恐らく ブルーアイ計画の邪魔をする人間を抹殺するウィルス兵器だな」
凛は無言で頷いた。
「ええ、ドラクルはウィルス兵器の他にもゴジラや怪獣達を抹殺する為に
究極の生物兵器を密かに製造していたのよ。」
「まさか。信じられない……」
しばらくして覇王と蓮、真鍋、山岸、凛の前に看護婦が現れた。
気絶した2人の男の精密検査の結果が出たので来て欲しいとの事だった。

 大戸島近海の無人島。
 意識を失った初代ゴジラのクローンの頭部は輝く巨大な虹色の胸部に取り込まれた。
ドックンドックンと心臓の不気味な鼓動が聞こえた。
円筒状の無数の牙のある口が大きく開き、名状しがたい言葉を発し続けた。
ゴジラはそれを聞いた瞬間、
この名状しがたい言葉は旧モンスター語だとすぐに分かった。
何故だ?旧モンスター語は、
既に地球上の怪獣達は一匹たりともその存在すら知らない。
モンスター語をいとも簡単に翻訳した小美人でさえ理解不可能な言語だ。
ゴジラは何故、初代ゴジラのクローンがこの言葉を知っているのか不思議だった。
そう、旧モンスター語を話せる怪獣はごく一部に限られている!
まさか?あれは?異形の神々の副王ヨグーソートスなのか?
だが、ゴジラはその姿をまじまじと見ている内に、
本物のヨグーソートスでは無いと分かった。
本物のヨグーソートスならばあの様な姿では無く、 沸騰するように
泡立つ光り輝く無数の集合体と触角を備えた不定形の怪物なのだから。
恐らく人間達がネクロノミコンを使って不完全な召喚の儀式を行ったのだろう。
あの無数の虹色の球体の腫瘍や、怪獣達が感染していた
奇病も不完全な召喚の儀式の一環だろうか?
人間共はヨグーソートスを召喚させる為に
例の奇病を怪獣達の間に流行させていたとしたら?
なんてことだ。
 一方、砂浜の中に密かに身を隠していた
リヴァイアサンは三角形の兜を被った頭部を砂の中から露わにした。
そして初代ゴジラのクローンを取り込んだ巨大な虹色に光る
円筒状の怪物を殺そうと猛スピードで砂煙をあげて、
三角形の兜を被った頭部を胴体に叩きつけようと試みた。
だが攻撃を察知した虹色の生物は一本の触角を伸ばした。
そしてリヴァイアサンの頭部に叩きつけた。
リヴァイアサンはたちまち遠くに弾き飛ばされ、砂しぶきを上げて砂浜に落下した。
ゴジラが砂浜から起き上がったリヴァイアサンを見ると、
頭部の兜に深々とヒビが入っていた。
まさか放射熱線も弾く強固な皮膚にヒビを入れるとは……。
ゴジラがそう思ったのも束の間、 リヴァイアサン
攻撃目標をゴジラに変更し、襲い掛かった。

(第37章に続く)