(第32章)偉大なるイースの種族

 (第32章)偉大なるイースの種族

対テロ特殊部隊のSPB(スピーシ・パック)はバイオテロが発生したビルに突入して行った。
尾崎とゴードン上級大佐は部隊の先頭に立ち、真っ暗な廊下を進んだ。
「生存者はいるのかしら?」と杏子。
「いるとしたら何とか……」
キラキラ光る。小さな星よ。
「えっ?歌?」
心臓がドキッと鼓動するのを感じたジェレルがそう言った。
「なんだ?英語の歌?TWinkleTwinkle Littlestarか?」とニック。
そう、その歌声はまるで複数の人間が歌っているかのように陰気で真っ暗な廊下に反響していた。 
 「なにこれ?怖い」
さすがの杏子も心臓が縮む思いに駆られ、両腕に鳥肌が立った。
SPBは思い思いの武器を構え、暗い廊下を進んだ。
貴方は一体何なの?
廊下の壁や床には大量の血痕がべったりと付着していた。
「死体は?」 
 世界の上でそんなに高く。 
「まさか消えたのかしら?」
そう、杏子やニックが会話している間も『TWinkleTwinkle Littlestar』 は響いていた
まるでお星のダイヤモンドの様に燃える太陽が何も無くなった後。
「いや、なんだよ!この破滅的な歌は?」 
 ニックはうんざりした表情で小さくぼやいた。
そしてSPB(スピーシ・バック)の7人の隊員は扉に辿りついた。 
 小さな光を放ち出す。夜じゅうずっときらきら。 
『TWinkle Twinkle Littlestar』の歌声は扉の先の部屋から聞こえているようだった。
対テロ特殊部隊の先頭にいた尾崎とゴードン上級大佐は、
後方にいた5人の隊員に「いいか?」と合図をした。
5人、全員覚悟を決めて、無言で頷いた。
尾崎とゴードン上級大佐はバンと思いっきり扉を蹴り飛ばし部屋の中に突入した。
同時に『TWinkle Twinkle Littlestar』の歌声はふっと止んだ。
尾崎は中が真っ暗闇で何も見えなかったので
 レーザー銃の先端に備え付けられている明かりで部屋を照らした。 
尾崎が照らした明りの先には青い腫瘍に覆われた
 成人男性が4つ足でノロノロと這っていた。
その男性は立ち上がった。そして青い複眼で尾崎の顔を捉えた。
尾崎の隣で杏子は茫然と怪物を見ていた。

SPBに出動命令が下る数時間前。東京の地球防衛軍のアヤノの部屋。 
「私のことは分ってくれましたか?」 
「ええ、でも信じられないわ。」
アヤノは僅かに動揺を隠せない様子でスノウの顔をただ茫然と見ていた。
「そう私は偉大なるイースの種族です。
 我々は何でも知っています。
 そして貴方達人間、ミュータント、ノスフェラトゥ達の未来も。」
「じゃ一つ教えて、カナダのホムンクルス計画やあたしの
誘拐事件を調べる事になんで快く協力してくれたの?なによりも貴方の目的は何?」
「目的はまだ話せません。 少なくとも我々は客観的に この世界の異常な出来事を捉えています。」
「異常な出来事って何よ?」
「あまり深く知りすぎない方がいいです。貴方の身が破滅するかもしれません。」
スノウは懐からドリンクの入った瓶を取り出した。
「多分、軍の仕事とかで色々疲れているからだと思います。
 ほら人間の言葉でよく言うでしょ?病も気からとね。」
「呼び声や悪夢の事を知っているのね?」
アヤノは表情が少しばかり曇り、無言になった。
「ええ、でも安心して下さい!私が特製の元気になる
健康ドリンクを持って来ました。 
 これを飲んで元気になれば、悪夢も毎晩見無くて済みますし、
 名状しがたい呼び声も怖くなくなりますよ。」 
 スノウは笑顔で言った。 
「そう言うなら頂こうかしら?」 
アヤノはおずおずとドリンクの入った瓶を手に取ると静かに飲み干した。 
「どうですか?」 
アヤノは全身が熱くなるのを感じた。
同時に心臓の鼓動が高まるのを感じた。
顔も火照って両頬がピンク色に染まっていた。
 なんだかすごく眠い。でも・・・。
 スノウはそれを察知するとアヤノをベッドに連れて行った。
「眠いですか?ちょっと眠ってください。
 悪夢を見るかもしれませんがじきに収まります。なにも心配はいりません。」
スノウはそう言うとアヤノを横にならせ、上着と下着を一気に全て脱ぎ捨て裸になった。
アヤノもそれに応じた。
ふとスノウはアヤノの部屋にテロ対策の為に監視カメラが
設置されている事を思い出した。
だがそればかりは対テロ監視の規則の事もあり、
今更、誤魔化しようがないので目をつぶることに決めた。
とりあえず不審がられてもどうにか言い訳をしよう。

スノウは携帯をとりだした。
まるで狙った様に着信音が鳴った。
「もしもし、私だ!スノウだ。
そちらの方の計画は順調か?」
 「はい、島上冬樹を追っている秘密結社
ラクルの殺し屋を拘束、これから彼の尋問を開始します。」
声は英語でどうやらアメリカ人らしい。
アメリカ人は話を続けた。
 「ル―シさんの報告では、目標の音無凛さん、山岸雄介さんの留守中、
貴方がアヤノさんに飲ませた薬とはまた別の 薬を部屋に置いてきたとのこと。」
 「よし、計画通りだ。後は目標の様子を観察してほしい。
 飲むそぶりを見せなかったら、きっかけを与えろ。
いいな、必ず飲ませるんだぞ。
 この任務は我々の種の存続を左右する重大なものだ! 心して作業をすることだ!」
 「了解!ボス!」
偉大なるイースの種族の仲間と思われるアメリカ人の男は携帯を切った。
 アヤノの部屋の天井のスピーカからアナウンスが聞こえた。 
「SPB隊員は直ちに地球防衛軍本部のオペレーション室に集合するように」
「いけない。出動命令ね!行かなきゃ!」
 アヤノはアナウンスを聞くなり、慌ててベッドから起き上がった。
「そうだな。速くSPBのメンバー達の顔も見たいし」 
スノウはのんびりとした動きでイスから立ち上がった。
そして2人は部屋を出ると地球防衛軍轟天号専用ドッグに 向かって走って行った。

(第33章に続く)