(第22章)狂信

 
(第22章)狂信
 
牙浪の世界・人里近くにある廃ビル。
ビルのエントランスの中は真っ暗で一寸先も見えないものの床に置かれた
蝋燭の灯りによりぼんやりと明るく周りが見えていた。
そこに茶色の鮮やかな黒い光沢模様の服を着た背の高い男が現われた。
背の高い男はブツブツとエントランスホールの
中央に立ち何かを言っていた。
「人間界の物質的な創造はすべて悪である魔獣ホラーが産み出したもの!
だから全ての人間や物体には陰我が宿りやすい!
故に人間達が人間界で生きていると言う事は
地獄で罰を受け続けている事と同じなのだ!
人間界や我々真魔界を創り出したのは始祖ホラーメシアでは無く!
本来はソフィア・マーカーから産まれた下級のホラー達
(人間に憑依する前の素体ホラー)に過ぎない!
人間達は人間界と言う地獄の檻の中で魂が救われると言う事は永遠に無い!
我々魔獣ホラーの餌として一生、
子羊の様に檻の中で飼われ続けているのだからな。」
それから茶色の鮮やかな黒い光沢模様の服を着た背の高い男は
右膝を冷たい床に着け、両手を合わせ、こう祈りを捧げた。
「どうか……私を……邪悪な魂を……お救い下さい!」
祈った後、茶色の鮮やかな黒い光沢模様
の服を着た背の高い男は立ち上がった。
彼は粘着質の糸で両手両足を縛られたツインテールの茶色の髪を
両肩まで伸ばした全裸の女性の目と鼻の先まで接近した。
女性は口を半開きにし、うつろな茶色の瞳で背の高い男を見た。
背の高い男はスーツと全裸の女性の背後に回った。
そして全裸の女性の大きな丸いお尻を両手で掴み、
突き出させるように引っ張った。
「うっ!あっ!」と女性は小さく喘いだ。
背の高い男は獣の様な太い唸り声を上げ、
腰を何度も激しく前後に振り続けた。
その度に女性は荒々しく狂った様な甲高い声を上げ続けた。
更に全裸の女性の屹立した小さな丸い両乳房は前後に激しく揺れ続けた。
数分後、背の高い男は全裸の女性の顔をまじまじと見ていた。
女性は額に汗を滲ませ、両頬を紅潮させていた。
更に口から下顎まで涎を垂れ流し、荒い息を上げ続けていた。
「私に食料として飼われた魔戒法師の可愛い子羊よ!
私に捧げる魔導力と肉体はあるか?」
すると女性は恍惚の笑みを浮かべ、頭を上下に振った。
背の高い男はガバッと口を上げた。
続けて口内から細長い口吻が飛び出し、女性の額にグサリと突き刺さった。
ジュルジュルと吸入音を立て、
女性の中身の液化した肉体と魔道力を全て吸い尽した。
たちまち女性の身体は骨と皮だけになり、死亡した。
それから背の高い男は骨と皮だけとなった哀れな女性の遺体を
よっこらしょと抱え、部屋の正面にある大人一人分が入れる程の
ダストシューターの中にまるで
生ごみを投げ捨てるかのように無造作に放り投げた。
「全てはジル・バレンタインにこの身を捧げる為に」と。
 
閑岱。
山刀鈴は元老院から来訪した四道法師を連れ、兄の山刀翼の部屋に現れた。
「あっ!貴方は!四道法師!」
翼は四道法師の突然の来訪に驚き、畳から立ち上がり、深々と頭を下げた。
暫くして鈴は四道法師から受け取った黒い封筒を2枚取りだした。
「これは!黒の指令書!」
「そう、あたしと兄ぃの分!」
一般に元老院、または番犬所から
ホラー討伐等の指令書が魔戒騎士や法師に送られる。
指令書は2種類ある。
赤の指令書は通常勤務の際に新たに出現したホラーの討伐や
魔戒騎士達の闘大会ザバックの正体などに用いられる。
一方、山刀兄妹が貰った黒の指令書は500年に一度の大災厄の等、
魔戒馬が使用出来き、更に一気に何全体ものホラーを倒せる黄金騎士や
銀牙騎士の実力者の協力が必要な時に用いられる。
しかも黒の指令書を受け取った魔戒騎士や法師に拒否権は存在しない。
「なんで……俺達兄妹に……」
「それの事だが……」
四道法師は一呼吸すると重々しく口を開いた。
「最近、伯爵ホラードラキュラが真魔界から
人間界に出現した事を知っているね。」
「はい」
鈴は邪美法師がドラキュラに襲われ、そして向こう側の世界から来た
ジル付け狙っている事を思い出した。
「そして現在!ドラキュラの主張を
元にした魔獣教団が水面下で動き始めている。」
「魔獣教団?」
「魔獣教団は創立から16年と日が浅いが魔界黙示録を教典としており、
その主義は『始祖ホラーメシアから解放され!
新たなホラーの始祖ソフィア・マーカーの手により!
賢者の石を持つソフィア・マーカーの子供として生まれ変わり!
真魔界の大地はソフィア・マーカーと
ドラキュラにより統治されるのだ!』と。
「何なの……それ……」
「そのドラキュラの教団の信奉者は1000体。
全てはかつてホラー喰いの魔戒騎士、暗黒騎士キバ共々、
始祖ホラーメシアに喰われたホラー達がドラキュラの手により、
真魔界で発生した時の乱れの混乱に乗じて復活させたらしい。
しかも本部は真魔界の深層部の何処かにあり、場所は困難を極めている。
今回も水面下で魔界黙示録の救いを成就させる為、
邪魔となる何百人もの魔戒騎士や
魔戒法師を次々と暗殺しているようだ。
しかも今でも真魔界では新しい信奉者が現われ、
そして陰我のあるオブジェをゲートに人間界に侵入し、
事情のある人間に救いの手を差し伸べる形で憑依している。
「成程。」
「君達は元老院が特定した人間界の
とある廃ビルに潜伏する教団に所属しているホラー
を討伐し、真魔界の深部にある本部に着いての情報をどうにかして
収集したいと言うのが元老院の神官からの指令だ。」
「成程!分かりました!」
「今夜中にホラーの討伐と情報収集の為に現場に向かいます。」
翼と鈴はそう答えた。
指令が下った日の夜、鈴は自分の部屋で最近、
布道レオから提供された魔導衣を着ていた。
彼から提供された魔導衣の見た目は茶色の皮で出来た地味なスーツだった。
だが布道レオ法師から貰った新しい魔導衣は
彼女の体格にピッタリとフィットした。
しかし少し胸がきつかった。
暫くすると自動で茶色の皮の魔導衣の表面がカシャカシャと変化した。
その後、魔導衣の表面はかつ彼が対魔獣ホラー武器として開発した
号竜の材料にも使われた魔戒超合金に覆われた。
その魔戒超合金に覆われた茶色のスーツの全体は銀色に輝く横線
と下地の茶色の皮と相まって銀と茶の縞模様になっていた。
それはまるでムカデの節の様だった。
両肩には逆に茶色の横線が入った長四角の肩パットが取り付けられていた。
頭部も四角い兜の様なヘルメットで覆われた。
さらに目の部分は横線に光るスリッドが3列もあった。
この魔導衣は主に強いホラーと闘う魔戒法師の為に
布道レオが試作品として開発したものである。
スーツを覆う魔界超合金はホラーの攻撃やホラーの返り血を防ぎ、
更にスーツを着ている法師の魔導力で自由に動き、手、足等に己の魔導力を
集中させる事により、ホラーを殴りや
踏みつけるだけで魔獣ホラーを粉砕し、封印する。
また強度の高いホラーの外殻も破壊できるらしい。
 
数時間後、人里近くにある廃ビル。
「ゴルバ!ホラーの気配は?」
「うむ!一体だけじゃ!」
するとゴルバは何故か深くため息をついた。
翼と鈴法師は無言で廃ビルの中へ入って行った。
廃ビルの中は真っ暗で一寸先も見えなかった。
そして床には四角形に赤い蝋燭台と蝋燭の明かりが並んでいた。
どうやらここは広い円形のエントランスホールの様だ。
「不気味だな」と翼。
確かにここは陰気で不気味な場所だ。
鈴はそう思った。
2人は蝋燭の明かりに導かれるように周囲を見た。
中央に背の高い男が膝をついて祈りを捧げていた。
「これは……何と惨い……」
翼は周囲の狂った光景に思わずつぶやいた。
鈴も周囲の狂った光景に言葉を失った。
周囲には蝋燭の明かりに照らされ、
20人余りの全裸の若い女性の姿が見えた。
しかも全員、一般の女性では無く、全員、魔戒法師達だった。
彼女らは魔導衣を全てはぎ取られ、全裸で粘着性の茶色の糸で
両手首や両足を縛られ、様々なポーズを取らされていた。
蝋燭の明かりで照らされた肌は汗ばみ紅潮していた。
全員、何故か恍惚の笑みを浮かべ、小さく息を吐いていた。
「生きているの?皆?」
「どうやらそのようだ」
股正面の壁には大人が入る程の
大きなダストシューターが備え付けられていた。
「まさか?ここって?」
鈴の質問にゴルバは淡々とこう答えた。
「うぬ、ここは、あやつの食糧倉庫の様じゃ。」
「うっ!わっ!」
鈴は悲鳴に近い声を上げた。
 
(第23話に続く)