(第1章)会談・光

(第1章)会談・光
 
此処は魔界にある魔戒騎士と魔戒法師の上位機関『元老院』。
城の様な建物の地下にある会議室では白い服を着た最高神官グレスと
その他多くの上級神官、そして優秀な魔戒騎士と魔戒法師。
しかも全て元老院直属の者達である。
更に今回はビッグゲストとして天界から来訪した
唯一絶対神『YHVA』に仕える大天使にして神の戦車
メルカバー』が円卓の椅子の上を浮遊していた。
メルカバーの特徴は。
頭部から巨大な金属と黄金の混じった鳥の翼が2対生えていた。
右腕には竜の形をした巨大な手。
左腕には細長い白い剣の形をした手があった。
更にもう2対の白い女性の手は祈る様に合わさっていた。
メルカバーは川のせせらぎの様な清らかな声でこう述べた。
「最近、真魔界及び彼らが住むこちら側(牙狼)の世界に存在する
我ら唯一絶対神や天使達にとって最も穢れた存在
『魔獣ホラー』らが突如、消失したとの事だが……」
「はい!メルカバー殿!この問題は我ら魔獣ホラー達を狩るのを
生業としている魔戒騎士や魔戒法師達に
とっては非常に深刻な問題なのです!」
「そうか!汝らはあの魔獣ホラー共を狩っていたなと聞いたな。
しかし我らにとってそれはさほど深刻な問題では無い!
汝らは所詮!穢れた異端者なのだからな!」
メルカバーは不敵な笑みを浮かべた。
しかし間もなくしてメルカバーは不安な表情になった。
「だが、汝らこちら側(牙狼)の世界とは
別に向こう側(バイオ)の世界に住む
外神殺しの力を持つ人間の女、その名前をジル・バレンタインと呼び、
そのデビルチルドレンの名前をアリスと聞く。彼女達の存在は我ら
『YAVA』に仕える天使達にとって不穏である大変嬉しくもある!」
「何故?親子達が不穏であり、大変嬉しくあると?」
グレス最高神官は落ち着いた口調でそう質問した。
「そう、あの親子は忌まわしくも汚れた
魔獣ホラーの存在を殺す事が出来るだろう。」
「いいえ!あの親子の力はあくまでも魔獣ホラーの存在を封印する力
魔獣ホラーの存在を殺す為の力ではありません。」
「それはどうかな?グレス最高神官」
「どういう意味です?」
「恐らくジル・バレンタインと言う女も彼女の一人娘の
まだ幼いアリスも本物の力がまだ未覚醒のままだろう!
完全に覚醒した時!」
「つまりあの親子が将来、魔獣ホラーの存在を全て殺すと?
残念ですがそれは不可能です!人間の邪心がある限り、
陰我は生まれ、彼らはあらゆる世界の現世に出現し続けます。」
「そう、陰我さえ!消し去れば彼らは存在出来ない!
ならば!いずれは我々の外神殺しとして利用させて貰おう!
その時が来ればジルとアリスのあの親子は我々、
唯一絶対神『YHVA』が御使いの天使達が迎え、天界へ連れて行こう!」
「天界へ連れ!親子はどうするおつもりで?」
「我々の外神殺しとして魔獣ホラー達を陰我共々、滅して貰う!
勿論、その間、我々はあの親子を管理・運用させて貰う!
勿論その時が来れば!汝らにも協力して貰う!
穢れ無き救いを求めるならば!」
「残念ですが!それはお断りします!
我々、元老院に勤務する魔戒騎士野魔戒法師達の仕事は
こちら側(牙狼)の世界と向こう側(バイオ)の世界、その他
平行世界(パラレルワールド)の人間達を太古から人間を
喰らい続けて来た魔獣ホラーの脅威から守り続ける事!
例え人間の心が醜く薄汚く穢れていようがいまいが
そんなものは一切関係ありません!
みな、平等に現在の世界を生きている
大勢の人々の命を守るのが我々の務めです!」
「そうか!忌々しい、薄汚い穢れた異端者め!」
メルカバーはニガヨモギを噛んだ表情になった。
「貴方達が私達の事を薄汚い穢れた異端者と何と言おうとも!
我々はジル・バレンタインとその娘のアリスの親子の
身の安全は必ず責任を持って保障します!よろしいですね?」
グレス最高神官は強い口調でメルカバーをけん制した。
そんなメルカバーとグレス最高神官のやり取りに周囲の上級神官、
優秀な魔戒騎士、魔戒法師達はあっけに取られた表情で見ていた。
「何なんだ……」と優秀な魔戒法師の一人。
「まるで別次元の闘いの様だ」と優秀な魔戒騎士の一人。
上級神官達はそのやり取りを無言で聞いていた。
そしてかつて港町の管轄で魔戒法師として勤務していたが
今までの功績が認められた事により現在は元老院直属の
魔戒法師として出世した烈花法師も椅子に座っていた。
グレス最高神官……助かります!良かった……これで……。
烈花は驚きつつも安堵した表情を浮かべた。
グレス最高神官は続けてこうも話した。
「我々としては魔戒法師や魔戒騎士の業務を再開させ、
元の状態に戻す必要があります。
こちらの件に関しては我々、元老院が対策を考えます!
故にご心配なく!我々には神の救済は不要です!」
グレス最高神官は話のついでにメルカバーにそう釘を刺した。
メルカバーは一瞬、不快な表情を見せた。
「汝らの言い分は解した。と言う事にしておこう。」
「よろしいです!メルカバー殿!」
「しかし今回の魔獣ホラーが引き起こした
異常現象の存在は我らにとって看過は出来ぬ!」
「我々は魔戒騎士、法師達の業務を再開させる為に独自に動きます!
貴方達は我らの業務再開作業の邪魔をしないで頂けますか?」
「困った連中だ!先程、申した筈!」
「さっき聞きました!同じ説明を繰り返しても
返って来る答えは同じです!」
グレス神官は毅然とした態度でそう返した。
メルカバーは僅かに苛立ちを募らせた。
「仕方あるまい!次の議題に移るとしよう!」
「分かりました!烈花法師!真魔界で
例の魔導具『眼球』で撮影した映像を!」
「了解しました!」
烈花は緊張した表情で顔を強張らせて立ち上がった。
そして彼女は懐から魔導具『眼球』を取り出し、宙へ放り投げた。
すると魔導具『眼球』は赤く輝き始めた。
同時に円卓のテーブルの中心に巨大なスクリーンが現われた。
スクリーンには岩だらけの灰色の大地に
灰色の空が広がる真魔界が映された。
やがて真魔界の広大な灰色の大地が上下に激しく揺れ始めた。
更に分厚い灰色の大地が轟音と共に蜘蛛の巣状にヒビ割れた。
間も無くして分厚い灰色の大地は隆起した。
同時に粉々に砕け散り、無数の灰色の小石が宙を舞った。
その後、分厚い灰色の大地を突き破り、千の頭を持つオレンジ色に輝く
巨大な大蛇がニュルニュルと天に向かって高く、高く伸びて行った。
続けてオレンジ色の千の瞼が次々と開き、オレンジ色に輝く眼を覗かせた。
更に千の口を大きく開き、甲高い声で吠えた。
「キシャアアアアアアアアアアアアアッ!」
その映像を見ていたメルカバーは忌々しそうにつぶやいた。
「チッ!ゲスな蛇め!あの大アバドンと共に消滅したかと思えば
魔獣ホラーの始祖メシアに新たな生命を与えられ、
転生したな!忌々しい!」
「如何やら知っているようですね!
あれは真魔界を地下から支える真魔界竜『アナンタ』です!」
「元々は、いや奴の前世は多神連合に与していた
大蛇『シェーシャ』だったものだ!」
「成程!転生したんですか?」
「ああ、そうだ!例の闇の魔導書のせいでな!忌々しい!」
メルカバーは吐き捨てる様にそう言った。
「これを復活させたのは魔王ホラー・ベルゼビュート」
黒いスーツ姿の男・ジョン・C・シモンズの姿があった。
メルカバーはそれをまたニガヨモギを噛んだような表情で見ていた。
のちに会議は無事終わり、メルカバーは天界へ帰って行った。
 
(第2章に続く)