(第49章)死闘

(第49章)死闘
 
ニャルラトホテプは名状し難い甲高い咆哮を上げた。
そして狂血剣を地面に向かって振り上げた。
凄まじい爆音の後に狂血剣の刀身から放たれた剣圧の刃は
凄まじいスピードで地面を抉り、鋼牙に向かって飛んで来た。
鋼牙も両手で牙浪剣を構え、攻撃を防いだ。
鋼牙の身体はそのまま吹き飛ばされた。
そして次々と木々をなぎ倒し、大岩の塊に衝突し、粉々に砕け散った。
やがて粉々に砕け散った大量の大きな石と小石。
木々の破片、土を吹き飛ばし、鋼牙は素早く立ち上がった。
「ぐおおおおおおおおおっ!」
「うおおおおおおおおおん!」
ニャルラトホテプと鋼牙はお互い絶叫した。
両手に牙浪剣と狂血剣を構え、駆け出した。
ニャルラトホテプは狂血剣を右斜めに振った。
鋼牙の右肩の黄金の鎧に叩き付けた。
「ぐああああっ!うおおおおおっ!」
ニャルラトホテプは右斜めに振った狂血剣の鋭利な刃は
大量の火花を撒き散らし、右肩の黄金の鎧の一部を砕いた。
鋼牙は右肩に激痛が走った。
しかし鋼牙は牙浪剣を左斜めに振った。
そしてニャルラトホテプの紫色に輝く左肩のホラーの鎧に叩き付けた。
「ぐああああっ!」
鋼牙が持つ牙浪剣の鋭利な刃は大量の火花を撒き散らし、
左肩の幾つもの横線の入った長い四角錐の突起の一部を砕いた。
ニャルラトホテプは左肩に激痛が走った。
ニャルラトホテプは狂血剣を水平に振った。
狂血剣の鋭利な先端は鋼牙の胸部の鎧を大量の火花と
キラキラと輝くメッキを周囲に撒き散らし、水平に切り裂いた。
同時に黄金に輝く鎧の切れ口から真っ赤な血が噴き出した。
鋼牙も牙浪剣を構え、水平に振った。
牙浪剣の鋭利な先端はニャルラトホテプ
紫色に輝く外骨格のホラーの鎧を大量の火花と
キラキラと輝くメッキを周囲に撒き散らし、水平に切り裂いた。
同時に分厚い外骨格の鎧の切り口から汚らしいどす黒い血が噴き出した。
もはや人間の血では無かった。
ニャルラトホテプは再び両手で狂血剣を構え、鋼牙の脳天に振り降ろした。
鋼牙は狼を象った鎧の中で雄叫びを上げた。
「うおおおおおおおおおおっ!」
鋼牙は牙浪剣を水平に勢い良く振った。
そしてパキイン!と言う音と共に彼の脳天に向かって
振り降ろされた狂血剣の深紅に輝く両刃の重厚な長剣を切断した。
「やああああああああああああっ!」
続けて鋼牙は自らの身体をその場で捻り、半回転させた。
牙浪剣の鋭利な先端をニャルラトホテプの
分厚い鎧の外骨格の鎧の右胸を刺し貫いた。
「ぐあああっ!畜生があああああっ!」
既に牙浪剣はニャルラトホテプの分厚い外骨格の鎧の右胸を貫き、
弱点の心臓、そして背中まで貫通していた。
それに関わらず彼は名状し難い凄まじい咆哮を上げた。
さらに鋼牙の腰の黄金のバックルに付いている
赤い三角形の紋章を力任せに拳で殴りつけた。
「ぐあああああっ!」
鋼牙は身体をくの字に曲げた。
その瞬間、頭上に円形の裂け目が現われた。
狼を象った黄金騎士のガロの鎧は
鋼牙の身体から離れ、円形の裂け目に吸い込まれた。
どうやら彼は鋼牙の鎧を強制解除したらしい。
結果、鋼牙は白いコートの男の姿に戻った。
ニャルラトホテプも禍々しく冒涜的な姿をしたホラーの鎧の姿から
白いスーツを着たドラキュラ伯爵の姿に戻った。
それでもドラキュラ伯爵と冴島鋼牙は
黄金騎士ガロの鎧を。ニャルラトホテプの鎧を失い。
更に狂血剣と牙浪剣を失っても暫くお互い拳で殴り続けた。
ドラキュラ伯爵は力任せに鋼牙の顔面を拳で殴りつけた。
鋼牙の口からビシャッと真っ赤な血を吹き出した。
鋼牙はお返しと言わんばかりにドラキュラ伯爵の顔面を殴りつけた。
ドラキュラ伯爵の口からをビシャッと汚らわしいどす黒い血を吹き出した。
ドラキュラ伯爵は再び鋼牙の顔面を再び殴った。
鋼牙の口からビシャッと真っ赤な血が吹き出した。
鋼牙はまたドラキュラ伯爵の顔面を殴りつけた。
ドラキュラ伯爵の口からビシャッと汚らわしいどす黒い血を吹き出した。
鋼牙は右フックでドラキュラ伯爵の右こめかみを勢い良く殴りつけた。
ドラキュラ伯爵は口と鼻から汚らわしい
どす黒い血をぶちまけ、首を大きく曲げた。
しかしドラキュラ伯爵も直ぐに鋼牙と同じく
右つま先を跳ね上げて腰を回転させ、
腕を引き、鋼牙の左こめかみを左フックで殴りつけた。
鋼牙は口と鼻から真っ赤な血をぶちまけ、首を大きく曲げた。
ドラキュラは強く半歩踏み込み、爪先を上げ、身体を回転させた。
そして爪先を跳ね上げ、腰を回転させた。
内側に捻る様に左拳を突き出し、自分の全体重を乗せた。
ドラキュラ伯爵が放った右ストレートは鋼牙の右胸部に炸裂した。
バキバキと大きな音を立てて、彼の肋骨が数本へし折れた。
鋼牙もまた強く半歩踏み込み、爪先を上げ、身体を回転させた。
そして爪先を跳ね上げ、腰を回転させた。
内側に捻る様に右拳を突き出し、自分の全体重を乗せた。
冴島鋼牙が放った左ストレートはドラキュラ伯爵の左胸部に炸裂した。
彼の左胸部からバキバキと大きな音が聞えた。
どうやらドラキュラ伯爵も数本肋骨がへし折れたようだ。
ドラキュラ伯爵は左足を半歩踏み込み、腰を右に回した。
鋼牙も左足を半歩踏み込み、腰を左に回した。
そしてほぼ同時にお互い左右の踵を地面に付ける様に体重移動させた。
その後、お互い腰を左右に回してボディブローを炸裂させた。
ドラキュラ伯爵が放った左ボディブローは鋼牙の左腹部に直撃した。
鋼牙が放った右ボディブローはドラキュラ伯爵の右腹部に直撃した。
2人は身体をくの字に曲げつつも、お互い距離を取り離れた。
ドラキュラ伯爵は右の足を半歩踏み込み、急接近した。
全く同じタイミングで鋼牙も左の脚を半歩踏み込み、急接近した。
ドラキュラ伯爵は腰を右に回し、右の手を引いた。
鋼牙も腰を左に回し、左の手を引いた。
ドラキュラ伯爵は右の踵を地面に付ける様に体重移動をした。
鋼牙も左の踵を地面に付ける様に体重移動した。
「うおおおおおおおおおおおっ!」
「があああああああああああっ!」
そして鋼牙は腰を左に回して左の拳を振り上げた。
ドラキュラ伯爵も腰を右に回して右の拳を振り上げた。
鋼牙が放った左の拳のアッパーはドラキュラ伯爵の下顎に直撃した。
ドラキュラ伯爵が放ったの右の拳のアッパーは鋼牙の下顎に直撃した。
鋼牙はドラキュラ伯爵の右アッパーで
殴られた勢いで真上に吹き飛ばされた。
そして仰向けに彼の身体はドスン!と地面に落下した。
続いてドラキュラ伯爵は鋼牙の左アッパーで
殴られた勢いで真上に吹き飛ばされた。
そして仰向けにドスン!と地面に落下した。
やがてドラキュラ伯爵はおぼつかない足取りで立ち上がった。
鋼牙もおぼつかない足取りで立ち上がった。
やがてドラキュラ伯爵は唐突に苦しみ始めた。
同時にドラキュラ伯爵の肉体は赤く発光し、大量の赤い粒子を放ち始めた。
「うっ!ぐああっ!どうやら私もここまでのようだ!冴島鋼牙!
私はお前達!魔戒法師や魔戒騎士を憎悪していた!
だからお前達を悲しませて、絶望の淵に突き落とす為!
私と同志達は多くの魔戒騎士や魔戒法師達を惨殺した!
これは私から大切で一番欲しい
ジャンヌ・ダルクを目の前で奪い取った復讐だった!
お前だって目の前で大切な奥さんや数々の物品を
奪われたら憎悪するだろ?復讐したいと思うだろ?」
「ああ、だが俺はお前とは違う!!
例え憎悪に駆られても!復讐はもう二度としない!!」
彼は数年前のある事件を思い出した。
鋼牙はかつて閑岱の地でコダマの闇討ちにより、
邪美法師が目の前で爆死する瞬間を見た際に自分は怒りと
憎悪に駆られて時間制限を無視しつつも復讐の為にコダマと闘い続けた。
その末にガロの黄金のソウルメタルの鎧が暴走し、心滅獣身体に変身した。
しかも鎧に自らの心と肉体を喰わせ、
暗黒の淵に身を委ねそうになった事も。
ちなみに邪美法師は事件後、
魔界の森にある魔戒樹の力で新しい肉体を転生され、
復活し、今は第2の人生を歩んでいる最中である。
「フフフフッ!そうだったな!お前ならそうだろうな!
冴島鋼牙!その綺麗事が一生言い続けられる自信があるのかね?」
「ある!俺は決して同じ過ちは繰り返さない!!」
「だが、私は過ちを犯した。私は人間では無い!魔獣ホラーだ!」
そしてドラキュラ伯爵は性欲の陰我が断ち切られ、
消滅する直前、こう言い残した。
「これだけは本当だ!私は593年前からジャンヌ、ジルを愛していた!
なあ、冴島鋼牙!私は…ジルを…ジャンヌを…幸せに出来た……のか?」
しかしそのドラキュラ伯爵の問いに対し、
答える事が出来ず、鋼牙は黙りこくった。
「私…は…彼…女の…事を……し…あ…わ…せに……。
何……故?……我の……質門に答えぬ!こ…た…え…よ……。
うっ!ぐあああああああああああっ!」
ドラキュラ伯爵は断末魔の叫び声を上げ、
肉体は赤い粒子となり、消滅して行った。
それから鋼牙も足元がふらつき、
意識を失い、うつ伏せに芝生の上に倒れた。
 
(第50章に続く)