(第48章)祝歌(キャロル)

(第48章)祝歌(キャロル)
 
閑岱近くの森を抜けた広場。
ドラキュラは一人残った鋼牙とザルバの目の前で禍々しく
冒涜的な外神ホラー・ニャルラトホテプの姿に変身した。
彼が言うにはこの変身したホラーの姿も
あくまでも千の仮面の中の一つに過ぎないらしい。
どうやら彼は伯爵騎士ニャルラトホテプと呼んでいるらしい。
タコそっくりの頭部は毒々しい紫色で
細長い男性器のような形状をしていた。
さらに上部は半透明のフードで覆われていた。
フードの内部には2つの眼窩があり、中には燃える様に
爛々と輝く真っ赤な眼を持っていた。
白いスーツは変化し、分厚い毒々しい紫色の鎧に覆われていた。
更に胸部を初め、鎧の表面は毒々しい紫色の分厚い外骨格で出来ており、
外骨格以外の部分は白い内臓が剥き出しになり、
内臓も強固な硬い金属で出来た機械のような形をしていた。
両腕は毒々しい紫色の円形の外骨格の鎧に覆われている。
両腕の表面は無数の棘に覆われていた。
両手の5本の指の先端は赤い短い爪が生えていた。
両肩から幾つもの横線の入った長い四角推の突起を2対生やしていた。
さらに背中から太く捻じれた長いタコの脚に似た4つの触手が生えていた。
4対の触手はまるで踊る様にあっちこっちにクネクネと動かしていた。
両脚も分厚い外骨格の鎧に覆われていた。
両脚の外側に両腕の外側と同じく無数の棘に覆われていた。
両足の5本の指の先端は赤い短い爪が生えていた。
ニャルラトホテプはひし形の大きな口をパックリと開き、
上顎から細長く鋭利な牙を生やした。
続けて名状し難い音色をした甲高い咆哮を上げた。
そしていつの間にか手には赤く不気味に輝く
重厚な両刃の長剣『狂血剣』を持っていた。
鋼牙も魔戒剣を天空に構え、ひと振りした。
彼の頭上に円形の裂け目が現われた。
円形の裂け目から黄金の光が差し込んだ。
狼の唸り声と同時に鋼牙は狼を象った黄金の鎧を瞬時に身に纏った。
黄金騎士ガロである。
また銀色に輝く魔戒剣は黄金に輝く牙浪剣に変化した。
鋼牙は緑色に輝く瞳でニャルラトホテプを睨みつけた。
勿論、彼はニャルラトホテプの姿を見ても
決して発狂し、一時的狂気にはならなかった。
鋼牙は冷静に両手で牙浪剣を構えた。
ニャルラトホテプも両手で狂血剣を構えた。
「うおおおおおおおおおおっ」
鋼牙は雄叫びを上げた。
不意に高らかな声で旧支配者のキャロルを日本語で歌い始めた。
「『天を仰げ、空高く、今宵、星が戻る。
目覚めよ。我が主よ。封印はすでに無く』」
同時に2人は目にも止まらぬ速さで動き始めた。
鋼牙とニャルラトホテプは牙浪剣と狂血剣を左右に何度も振った。
2つの両刃の重厚な長剣は激しく何度も衝突し続けた。
何度も衝突する度に大量の火花を撒き散らした。
鋼牙は雄叫びを上げ、牙浪剣をニャルラトホテプの
頭頂部目掛け、勢いよく振り降ろした。
ニャルラトホテプは狂血剣を頭上に構え
火花を撒き散らし、攻撃を防いだ。
続けざまニャルラトホテプは分厚い外骨格に
覆われた太く逞しい右脚を振り上げた。
振り上げた太く逞しい右脚は鋼牙の黄金の狼の下顎を蹴り上げた。
彼は真上に吹き飛ばされたものの後転し、高い空から地面に着地した。
「これならどうだ!」
鋼牙は銀色に輝くライターを懐から取り出した。
その後、牙浪剣の黄金に輝く刀身にかざした。
ライターをカチッと鳴らし、緑色に輝く魔道火を着火した。
そしてスーツと腕を動かし、
ライターに着火した魔導火を牙浪剣の刀身に浴びせた。
たちまち牙浪剣は緑色に輝く魔道火に包まれた。
鋼牙は両腕を大きく広げた。
同時に狼を象った黄金騎士ガロの鎧は緑色に輝く魔導火に包まれた。
烈火炎装である。
「はああああああああっ!」
彼は魔導火に包まれた牙浪剣を地面に向かって振り降ろした。
同時に三日月の形をした緑色に輝く魔導火の刃を放った。
三日月の形をした緑色に輝く魔道火の刃は
仁王立ちをしているニャルラトホテプに迫った。
ニャルラトホテプはひときわ大きく
高らかに歌いつつも両手で狂血剣を構えた。
「『主が戻る。人よ知れ。新しき恐れよ。
真の名を。主は示す。闇を望め。希望は無い。』」
同時に緑色に輝く魔道火の炎の刃は狂血剣の刀身に吸収された。
「なにっ!魔導火を吸収しただと!」
鋼牙はガロの鎧の中で動揺した。
ニャルラトホテプはが持つ狂血剣は赤色に輝く魔道火に包まれた。
同時に禍々しく冒涜的なニャルラトホテプの紫色に輝くホラーの鎧は
深紅に輝く魔道火に包まれ烈火炎装になった。
「馬鹿な!烈火炎装だと!?」
そして魔導火に包まれた狂血剣を地面に向かって振り上げた。
同時に三日月の形をした深紅に輝く魔道火の炎の刃を放った。
そして深紅に輝く魔道火の炎の刃は鋼牙に直撃した。
「うわあああああああああっ!」
鋼牙は凄まじい爆発音と共に身体をくの字に曲げた。
全身の黄金に輝くソウルメタルの鎧のメッキはバリバリと剥がれ落ちた。
更に彼は剥がれ落ちた黄金に輝く鎧の
メッキを周囲に撒き散らし、吹き飛ばされた。
撒き散らされた黄金に輝くメッキはまるで
星の屑のようにキラキラと夜の闇を照らした。
更に高熱で溶け出し、黄金のガロの鎧の所々が破損した。
「無知なる人から。主は取り戻す。星々が破滅する。運命の時が今。」
彼が立ち上がる頃には溶け出した
ソウルメタルの鎧がポタポタと地面に落ちていた。
彼は絶叫し、地面に両膝を付けた。
彼は高熱による火傷により想像を絶する激痛を感じていた。
「うっ!ぐあああああああっ!」
ニャルラトホテプは無情にも悲鳴を
上げている鋼牙に向かって歌い続け、攻撃を続けた。
「『至上の星辰と至高の恐怖よ。遍く全てより、海からも、空からも』」
ニャルラトホテプは再び狂血剣を大きく水平に振った。
「くそっ!こいついきなり外さなくなったぞ!」とザルバ。
放たれた深紅に輝く三日月の魔導火の炎の刃は
鋼牙の黄金に輝く鎧に覆われた右肩に直撃した。
右肩の黄金の鎧のメッキはバリバリと剥がれ落ちた。
更に高熱で溶け出したソウルメタルの鎧は液状となった。
そして僅かに出来た小さなヒビ割れの隙間に入り込んだ。
鎧の中の鋼牙の魔導衣を焼き、
そして皮膚にこびりつき、火傷を創り出した。
「ぐああああああああああああっ!」
右肩に火傷による凄まじい激痛を感じ、悲鳴を上げ続けた。
鋼牙は激痛のショックで意識が遠のいた。
しかし彼は類い稀な精神力を持って、歯を食いしばって耐えた。
ニャルラトホテプは楽しそうに笑いつつ
まだあくまでも歌をずっと歌い続けていた。
「『主は戻り、人は知る、新しき恐れを。
天仰げ、空高く、今宵、星が戻る。』」
さらに彼は右肩から全身にかけての激痛で身動きが出来ない
鋼牙に向かって再び狂血剣を水平に振った。
再び深紅に輝く三日月の魔導火の炎の刃が放たれた。
「マズイ!鋼牙!回避するんだ!」
「分かっている!」
鋼牙は自分の首に向かって迫り来る深紅に輝く三日月の魔道火の
炎の刃を回避しようと全力で首を
そして背中をアーチ状に折り曲げた。             
深紅に輝く三日月の魔道火の炎の刃は
狼を象った黄金の仮面の鼻先をかすめた。
しかし直後、時間差で放たれたもう一つの深紅の三日月の魔道火の
炎の刃が黄金の鎧を纏っていない黒い腰の部分を深々と切り裂いた。
「ぐあああああああああああっ!」
彼は絶叫し、再び激痛の余り意識を失いそうになった。
無論、黒い腰の部分は鎧で守られていない為、容易に鎧の中の
彼の腰の魔導衣、皮膚、肉、神経を焼き尽くし切り裂いた。
故に鋼牙はまた激痛の余り、意識が再び遠のいた。
「永劫は終わった。我らの主の目覚め。狂気と恐怖と悲嘆と。」
しかし彼は不屈の精神力で歯を食いしばり、
耐え抜き、ようやく立ち上がった。
「『世にもそれが満ちぬ場所はない。星々が破滅する定めの時が今、
至上の星辰と至高の恐怖を遍く全てより、海からも、空からも、
天仰げ、空高く、今宵星が戻る、恐れよ。主は来る。』」
既に鋼牙の黄金騎士ガロの鎧は短時間でソウルメタルの
鎧の一部はあっちこっちにヒビが入り、破損していた。
旧支配者のキャロルを歌い終わった。
ニャルラトホテプはニヤニヤと笑いこう言った。
「私が破壊する者だとしたら?黄金騎士ガロ!冴島鋼牙!君は何者かね?」
鋼牙は全身や右肩に凄まじい激痛が何度も走り続けるのを感じつつも
ボロボロの黄金騎士ガロの鎧を引きずり、歩き出した。
彼は歩きつつも緑色の瞳でニャルラトホテプを睨みつけた。
「お前が破壊する者だとしたら……俺は……」
彼は再び牙浪剣を両手で構えた。
そして夜の森の周囲を震わせ、高らかにこう叫んだ。
「俺は!守りし者だあああああああっ!」
鋼牙は牙浪剣を地面に向かって振り上げた。
次の瞬間、凄まじい爆音と共に牙浪剣の刀身から放たれた
剣圧の刃は凄まじいスピードで地面を抉り、
ニャルラトホテプに向かって飛んで来た。
「馬鹿な!」
彼は完全に不意をつかれ、両手で狂血剣を構え、攻撃を防いだ。
しかしそのまま吹き飛ばされ、木々と次々と薙ぎ倒した。
ニャルラトホテプの身体は大量に掘り出された土砂、
岩、木の破片で埋められていた。
やがてその大量の土砂と木の破片を吹き飛ばし、素早く立ち上がった。
 
(第49章に続く)
 
おまけ動画。
ドラキュラ伯爵事、ニャルラトホテプが歌っていた旧支配者のキャロル
(再UPしたけれどこの曲自体の著作権どうなっているのか?
大丈夫かちょっと心配です)