(第3章)捕食

(第3章)捕食
 
ニューヨーク市・マンハッタンにあるとある2階建ての家。
「もっ……もしもし?」
一人の背の高い美しい金髪の女性のケイトが
自宅の電話の受話器を手に取り、恐る恐る話しかけた。
そして電話から愛らしい女の子の声が聞えて来た。
ケイトは顔面が引きつり、血の気が引いた。
ピンクの唇は紫色になり、細かく痙攣していた。
彼女は完全に怯えきっていた。
続けて自分の背後で何者かの気配を感じた。
ケイトはゆっくりと振り向いた。
彼女の背後には外国製の人形がぽつんと立っていた。
「お姉ちゃん怖い?ウフフフフフフッ!」
外国製の人形は愛らしく、しゃべり、邪悪な笑みを浮かべた。
外国製の人形の邪悪な微笑みにケイトは背筋がぞっとした。
外国製の人形は耳まで裂けた大きな口を開いた。
口内には無数の鋭利な牙が並んでいた。
外国製の人形はまるで野獣のような咆哮を上げた。
その後、ケイトに飛びかかって来た。
「いっ!嫌ああああああああっ!」
ケイトの絶叫は外国製の人形の鋭利な牙が
首筋に深々と食い込み、断ち切られた。
彼女はそのまま仰向けにカーペットの上に倒れた。
外国製の人形は鋭利な牙でケイトの
全身の皮膚に次々と噛みつき、肉を抉り出した。
彼女の身体から噴き出した鮮血は電話や壁、床に広がり、辺りを濡らした。
ケイトはまともな呼吸をする事すら出来ず、ヒューヒューと息を吐いた。
ケイトの両瞳には涙を浮かべていた。
神様!私の魂を救い下さい!
ケイトは静かに神に祈り、そして瞼を閉じ、息絶えた。
やがて捕食を終え、外国製の人形は起き上がった。
先程、ケイトが倒れていた場所には大きな血溜まりだけが残されていた。
そう彼女の肉体は食い尽されたのだった。
再び外国製の人形は不気味な声を上げ、笑った。
うふふふふふふふふっ!
 
同時刻、ニューヨーク市・マンハッタンにある人気のない公園。
真夜中。
誰もいない公園のブランコに一人の
真っ黒で縞模様の不思議な服を着た少女が
無言でキィーキィーと音を立ててブランコを左右に漕いでいた。
そこに髑髏の模様が付いたTシャツを着た一人の男が現われた。
男の名前はアル・リース。
アルは穏やかな笑みを浮かべた。
「おじさんの所に来ないかい?」
その声は穏やか笑みに反して、邪悪な響きを帯びていた。
しかし少女はアルの声など最初から聞こえていないと言う
素振りで未だにブランコを前後にキィーキィーキィーと漕ぎ続けていた。
「無視する気か?!」
アルはいきなり手を伸ばし、少女の手首に手錠を掛けた。
そして自分の腕にも掛けた。
「来い!来るんだ!」
アルは無理矢理、少女をブランコから立ち上がらせた。
しかし少女は相変わらず無言だった。
その上、まるで感情が無いかのように無表情だった。
アルは少女の顔と姿を良く見た。
茶髪のポニーテール。
茶色の眉毛。
青い瞳。
美しい顔。
少女がブランコから立ち上がると美しいプロポーション
大きな丸い両胸にお尻。
「まさか?あのBSAAの女性隊員の娘な訳?無いよな?」
彼が動揺するのも無理は無かった。
何故なら少女の姿はBSAA隊員の
ジル・バレンタインの面影があったからである。
そのジルの娘らしき少女の年齢は間違いなく大体16歳位の未成年だった。
確か彼女の年齢は30歳位だった。
しかし彼女に娘がいたという話は聞いた事がない。
アルはジルの娘らしき少女の名前を尋ねた。
「お嬢さんの名前は?」
すると16歳のジルの娘らしき少女はこう答えた。
「ソフィア。ソフィア・マーカー」
「ソフィアって言うのかい?可愛い名前だね!」
しばらくしてアルは邪悪な笑みを浮かべた。
ちなみにアル・リースは10歳から16歳の未青年を誘拐し、
監禁容疑で10年以上前に逮捕歴があった男である。
彼は長い間、刑務所暮らしをしたのにも関わらず、
未だに改心せず、また同じ罪を重ねようとしていたのである。
アルは性懲りも無く卑しさに満ちた気持ち悪い薄ら笑いを浮かべていた。
その時、バキイイッ!と大きな音がした。
ソフィアは右手で左手首に掛けられている手錠を掴み、
16歳の少女とは思えない怪力で自分の手首にかけられた手錠を破壊した。
「うっ!おいおい!冗談だろ?」
アルは完全に動揺した。
いきなりソフィアの口許が憎々しくひきつった。
「我は魔獣ホラーの新たな始祖シュブ・二グラス!
我は新たな真魔界の創造と永遠の存続を司る者!
お前のような矮小な人間の男、如きに従う程、愚かでは無い!」
その言葉は16歳の少女とは思えない周囲の空気を揺らす様な
重低音となってアルの耳に届いた。
「なあっ!何を言って……」
流石のアルも恐怖を感じ、ソフィアから一歩二歩、後退した。
次の瞬間、ソフィアの両瞳と口がオレンジ色に輝いた。
「うっ!眩しい!」
アルは急に視界がオレンジ色に染まり、何も見えなくなった。
やがてアルは両瞳と口に何かが侵入するのを感じた。
アルは背筋が凍りつき、全身に恐怖を感じた。
ソフィア・マーカーは両瞳と口からオレンジ色の触手を瞬時に伸ばした。
そしてオレンジ色の触手をアルの両瞳に侵入させたのだった。
しかも断末魔の悲鳴さえ上げる暇すらなかった。
キーンと言う甲高い音、とピチュピチュと言う怪音が聞えた。
やがて静かとなり、ソフィア・マーカーの両瞳と口から
生えていたオレンジ色の触手はいつの間にか消え失せていた。
代わりにソフィア・マーカーの目の前にはー。
灰色に石化したアルの肉体がまるで石像の様に立っていた。
ソフィアは右掌でアルの顔面を掴んだ。
バリッ!
ソフィアはアルの顔面をまるで仮面を剥がすかのように引き剥がした。
ソフィアは大きな口を開けた。
バリッ!バリッ!パキッ!パキッ!ゴクッ!
ソフィアは仮面の様に引き剥がした
アルの顔面をまるでせんべいの様に食い尽した。
続けてソフィアは大きく口を開け、
両肩、胴体、腰を続けてバリバリと食い尽した。
ソフィアは小さくゲップをした。
ソフィアが地面を見ると石化した両腕と両足が転がっていた。
ソフィアは石化した右腕を拾うと再びバリバリと食い尽した。
続けて石化した左腕を拾うとまたバリバリと食い尽した。
残りの両脚も全てバリバリと喰い尽した。
それからソフィアは立ち上がった。
彼女の身体から真っ黒な植物の蔦の様な筋が
山羊の形に一瞬だけ浮かび上がり、すぐに消えた。
ソフィアは邪悪な笑みを浮かべた。
ソフィアはくるりと背を向けた。
ソフィアは静かに歌い出した。
 
彼女が歌った曲は『キラキラ星』だった。
ソフィアはゆっくりと歩き出した。
そして公園のある出口の先にある暗闇の中を
ゆっくりと時間をかけて歩き去って行った。
 
(第4章に続く)