(第6章)怨念

(第6章)怨念
 
白いコートの男は白いコートの内側から赤い鞘を取り出し、
銀色の輝く剣を引き抜くと外国製の人形に向けた。
外国製の人形は青い宝石のような瞳で白いコートの男を睨みつけた。
やがて耳まで裂けた大きな口を開いた。
そして無数の鋭利な牙を剥き出し、獣のように唸った。
「魔戒騎士!魔戒騎士!冴島鋼牙!人間許せない!
殺す!殺す!殺す!殺す!食い殺す!殺してやる!」
外国製の人形は冴島鋼牙と言う背の高い白いコートを着た男に
敵意をむき出し、大きく獣のような咆哮を上げた。
それは甲高く力強い声だった。
「ホモオオオオオオオオッ!」
外国製の人形は全身を節と凹凸のある巨大な茶色の甲羅に覆われた。
更に外国製の人形は両頬から短い棘に覆われた
2対の鋏状の突起が生えて来た。
両肩にも2対の長い角を持つ巨大な岩石の三角形の装甲に覆われた。
両腕は茶色の甲羅に覆われて太く逞しかった。
さらに上半身は異様に発達し、
歪ながら巨大なゴリラの様な体躯をしていた。
細長い逆関節の鳥に似た足を持ち、
膝にも円形の茶色の甲羅に覆われていた。
さらに両足の表面も茶色の甲羅に覆われていた。
「ホモオオオオオオオオオッ!」
すると鋼牙の指に嵌められた魔導輪ザルバは冷静にホラーの解説を始めた。
「奴は魔獣ホラー・メリー。
こいつは人間に捨てられた古い外国製の人形に憑依し、
電話を使って、お前さんが良く知っている『メリーさんの電話』をする。
そして電話を使って徐々に接近する様に伝え、散々恐怖を煽った挙句に
家の中に侵入して人間に襲い掛かり肉体を貪り喰い尽くす。
全く!悪趣味な奴だぜ!」
「ああ、そうだな。」
鋼牙は銀色に輝く魔戒剣を自らの頭上の夜空に掲げた。
そして頭上でひと振りした。
彼の頭上に円形の裂け目が現われた。
円形の裂け目から黄金の光が差し込んだ。
ドラム缶の上からこっそりと顔を出していた
クレアは眩しさの余り、思わず両瞼を閉じた。
しかし狼の唸り声が聞えたのでクレアは恐る恐る瞼を開けた。
「あの鎧は何処から来たの?」
クレアの視界には狼を象った黄金の鎧を纏った鋼牙が目に入った。
黄金騎士ガロである。
更に銀色に輝く魔戒剣は黄金に輝く牙浪剣に変化していた。
クレアは首を傾げた。
外国製の人形から真の姿、メリーに変身した後、
まるでゴリラの様に4足歩行を駆使し、走り出した。
そして巨体に関わらず素早く動き、鋼牙に向かって猛然と突進して来た。
鋼牙は少しも動揺せず、両足をしっかり地面に付け
一歩も動かず堂々と立っていた。
メリーは太く茶色の甲羅に覆われた右腕振り上げると
岩石のような巨大な拳を鋼牙に叩き付けた。
咄嗟に鋼牙は牙浪剣を盾にした。
オレンジ色の火花を散らし、
黄金の鎧を纏った彼の身体は遠くへと吹き飛ばされた。
しかし鋼牙はそのまま地面に落下し、火花を散らし、着地した。
「なんて!馬鹿力だ!」
「こいつは凄いな!」
「ホモオオオオオオオオッ!」
メリーは再び甲高い咆哮を上げた。
茶色の甲羅に覆われた右腕を振り上げた。
鋼牙は素早く横跳びした。
ズドオオン!
地面が砕ける大きな音がした。
振り降ろされた右腕の岩石のような巨大な拳は地面を深々と抉っていた。
しかもそこには巨大なクレーターが出来上がっていた。
「オイオイ……こいつは」
「勘弁してくれ……」
続けて左腕を振り上げ、3本の細長い鉤爪を振り回した。
3本の細長い鉤爪はオレンジ色の火花を散らし、
鋼牙の黄金の鎧の胸部を切り裂いた。
「うわああああっ!」
鋼牙はクルクルと身体を回転させ、地面に激突した。
続けてメリーは耳まで裂けた大きな口を開いた。
再び猛然と鋼牙に向かって突進して来た。
「うおおおおおおっ!」
鋼牙は雄叫びを上げた。
黄金の鎧を纏った右脚を振り上げた。
「グオォォオン!」
鋼牙の振り上げた黄金の鎧に覆われた
右脚の爪先はメリーの下顎に激突した。
そのままメリーの巨体は真上に吹き飛ばされた。
鋼牙は力強く両足で地面を蹴った。
両足を曲げ、大きくジャンプした。
「うおおおおおおおおおおおっ!」
鋼牙は力強い雄叫びを上げ、両手で牙浪剣を構えた。
「がはあっ!」
メリーは苦しそうに呻いた。
鋼牙の牙浪剣はメリーの胸部の真っ赤に輝く核を刺し貫いた。
続けて鋼牙は両手で手首を捻った。
同時にメリーの胸部にある真っ赤に輝く核は粉々に砕け散った。
メリーは甲高い悲鳴を上げた。
ドゴオオオン!と凄まじい音を立ててゴミの山に落下した。
暫くメリーは巨大な両腕と両足を見境なく振り回し、
ゴミの山のてっぺんで暴れ回った。
同時に鋼牙、クレア、ザルバの脳内に魔獣ホラー・メリーの。いや。
あの外国製の人形に宿っていた意識が際限なく入り込んで来た。
それは苦しみと悲しみと憎悪に満ちた悲鳴のような凄まじい感情だった。
「憎い!憎い!憎い!何であたしを捨てたの?
憎い!殺す!殺す!殺してやる!あたしを捨てないで!
何度も叫んだのに!一人じゃ!寂しい!さみしいよぉ……」
「それがお前の本当の意識か?」
鋼牙は懐からライターを取り出した。
ライターから緑色に輝く炎がカチッと音を立てて吹き出した。
続けてライターの緑色の炎を牙浪剣の両刃の長剣の刀身に向けた。
たちまち牙浪剣は緑色の炎に包まれた。
そして鋼牙は大きく手首を捻った。
全身の黄金に輝く鎧はたちまち緑色の炎に包まれた。
烈火炎装である。
「お前を捨てた持ち主に対する憎悪と怒りと悲しみの陰我!
この俺が解き放つ!永遠に!!」
鋼牙は緑色の炎に包まれた牙浪剣を真下に振った。
牙浪剣の切っ先が地面に触れたと同時に緑色に輝く
炎の三角形の刃が地面を削り、ゴミの山共々、
メリーの巨体を真っ二つに切り裂いた。
「ぐあああああああああっ!」
メリーは断末魔の悲鳴を上げた。
「ぐ……あ……」
メリーの巨体は緑色の炎に包まれ、やがて燃え尽きて灰化した。
やがて灰化したメリーの魔獣ホラーの肉体から
黄金に輝く外国製の人形が出て来た。
しかもその表情は驚く程、
安らかで邪悪な陰我から解放された喜びに満ち溢れていた。
「ありがとう!黄金の騎士さん!
あたし今まで大切にしてくれた持ち主に
『ありがとう』って言いたかった!本当はそうだったんだ!
なんか身体がすっごくかるーい!大空を自由に飛んで行けそう!」
そう言うと外国製の人形は背中から鳥のような白い翼を生やした。
外国製の人形は天使のような歌声で
日本の曲『翼をください』を歌い始めた。
続けて外国製の人形は背中から伸びた
白い鳥のような翼を力強く羽ばたかせた。
外国製の人形は夜空に向かって浮上し、
天高く何処までも高く上昇して行った。
外国製の人形が天高く小さくなっても
翼をください』は聞こえ続けていた。
外国製の人形が空高く飛び、完全に姿を消す頃には『
翼をください』は自然に止んでいた。
鋼牙の頭上に再び円形の裂け目から黄金の光が差し込んだ。
自然に両瞳から涙をこぼしながら
ドラム缶から立ち上がったクレアは鋼牙を見た。
そこには既に黄金の鎧を解除し、
白い背の高いコートの姿に戻った冴島鋼牙の姿があった。
彼はさっきの闘いの時の真剣な表情とは一変し、
穏やかで優しい表情を浮かべていた。
ふと鋼牙は穏やかな表情を保ちつつも思い出した様子で口を開いた。
「ところでザルバ。メリーの気配を察知する前の例の話だが……」
「烈花にレヴィアタンの召喚術を教えた
ヨブ法師を殺害したのが魔獣教団のホラーで。
しかもそのレヴィアタン
這い寄る混沌の魔獣の化身のひとつだと言う話だろ?
確かに奴は混沌と矛盾の塊の様な存在だが!
あくまでも可能性があると言うだけの話だ!」
鋼牙の質問に思わず呆れた表情でザルバはそうカチカチと答えた。
 
(第7章に続く)