(第16章)生物

(第16章)生物
 
鋼牙は銀色のフェンスから見える
マンハッタンの摩天楼を茶色の瞳で真摯に見つめた。
「残念だったな。御月製薬の社長の
御月カオリはこちら側(バイオ)の世界の住人だった。」
「ああ、ザルバ!俺の妻の御月カオルは
こちら側(バイオ)の世界にいるだろうか?」
「カオルが俺達、向こう側(牙狼
の世界から異世界に引きずり込まれてからもう3年か」
「ああ、既に息子の雷牙は8歳だ。
早く異世界に引きずり込まれたカオルを見つけたい。」
「やれやれ、元老院からの指令で例の魔獣ホラーの幼体の討伐。
こちら側(バイオ)の世界に存在する分子機械の事前調査。
それに加えてまさかジルといい、カオルといい、
こんな人探しの旅までする事になるとはな。」
「ジルは見つかった。今度はできるだけ早くカオルを見つけて
ちゃんとガロの称号を息子の雷牙に継承しなければいけないな。」
「慌てるなよ。鋼牙。まだ18年も修行の期間あるんだ!」
「だが、それまでに間に合うのだろうか?」
ザルバに励まされるも鋼牙は
また同じように家族と暮らせるか不安を隠せずにいた。
 
マンハッタンの摩天楼の中心にある聖ミカエル病院から
休憩と外食の為に自宅の帰路に着く、
精神科医マルセロ・タワノビッチの姿があった。
やがてマルセロは自宅のすぐ近くにあるアパートの
ゴミ捨て場の中で一人寒さに震えている女性を発見した。
女性は静かに瞼を閉じ、胎児の様に身体を丸めて眠っていた。
マルセロが良く見るとその女性の肌は
死人の様に透明感のある青白い肌をしていた。
顔も全身も。女性はマルセロの気配を感じ、静かに瞼を開けた。
女性の瞳はまるで獣の様に爛々と水色に輝いていた。
「成程」
マルセロは死人の様に青白い肌と水色の瞳、
黒い服からすぐに同胞の人間に模倣とした
素体ホラーだと言う事が分かった。
「一体?ここで?」
「逃げ出したの……」
素体ホラーの女性は弱々しくか細い声で答えた。
「もう、疲れたの。お腹も空いたし……」
「おい!しっかりするんじゃ!」
マルセロは静かに瞼を閉じ、意識を失いかけている
素体ホラーの女性に大慌てで呼びかけた。
しかし完全に意識を失った。
「マズイ!このままじゃ!同胞が飢え死にする!」
マルセロはぐったりとした素体ホラーの女性を両手で抱き抱えた。
そしてすぐに立ち上がった。
足早に自宅のドアを開け、迷わず彼女をアパートの中に入れた。
マルセロはストーブを付け、フカフカのソファに彼女を寝かせた。
暫くして冷めたくなっていた彼女の身体が温まり、
ようやく生きる活力を取り戻した。
マルセロはソファの隣に座り、意識を取り戻した素体ホラーの女性を見た。
「あんた!運が良かったのう!わしがいなければ!
今頃、翌朝には凍え死んで肉体が消滅する所じゃったぞ!」
マルセロは椅子から立ち上がった。
「ちょっと待てのう!確か自家製の非常食が!」
彼はガサゴソと近くの箪笥の扉を開け、閉めして、探し始めた。
「おじいさんもホラー?」
「そうじゃ!同胞じゃ!」
マルセロは木製のテーブルの引き出しから
青緑色の液体が入ったカプセルを5つ取り出した。
マルセロは5つのカプセルの内、一本を開けた。
「これは自家製の人間の魂で作ったアンプルじゃ!」
真理はマイケルから試しに受け取り、ゴクッとひと飲みした。
味は少し甘い程度だった。
とりあえずマズイものではない事が分かった。
「全部飲みなさい!」
マルセロは優しく言った。
ちなみのこのアンプルの材料の人間の魂はこのニューヨークの片隅で
人に迷惑ばかりかけているゴロツキやホームレスから奪ったものだ。
本来は自分の仕事が多忙を極めた時に飲むつもりだった。
もちろん人間共には申し訳ないが。
我々魔獣ホラーも人間の肉、血、魂のいずれかを
ちゃんと食わなければ彼女の様にいずれ飢え死にしてしまう。
つまり人間が他の動物の肉や魚を喰う様に
魔獣ホラーも人間を喰わなければ長く健康に生きていられないのである。
つまり生物は生きている限り、
何か喰わなければ飢えて死ぬのは常識なのだから。
真理はあっという間に5本の人間の魂のサンプルを飲んだ。
お陰で真理は本来の魔獣ホラーとして生きる活力を取り戻した。
そして空腹も完全に満たされた。
 
ニューヨーク・マンハッタンの一角にある大きな屋敷。
自分に仕えている真理が自分の屋敷から無事に逃げ出す事に
成功した事も知らないジェレミーグレイは呑気に彼女が招き寄せた
アナと言う名前の美しく若い女とSMプレイやセックスを楽しんでいた。
それから数分後。
「フフフッ!ありがとう!楽しかったわ!!」
アナと言う美しい女性は全裸の姿で両胸まで伸びた茶色の髪を振り乱した。
そしてピンク色に染めた顔をグレイに向けた。
青い瞳で真摯にグレイの顔を見た。
「こちらこそ!最高だったよ!アナ!」
グレイはアナの下顎をクイッと上げた。
続けてピンク色の唇にキスを交わした。
「ううっ!うん!うっ!」
グレイは自らの口を穴の口の中に入れ、ディープキスを交わした。
彼とのキスを終え、アナはグレイから離れた後、愛らしい表情を浮かべた。
「じゃ!帰るわね!」
「その必要はない!」
グレイの返答にアナは少し戸惑った。
「それってどういう事?」
「君は私の最高のステーキーだと言う事さ!」
やがてアナはいつの間にかグレイの瞳が
水色に爛々と輝いているのに気付いた。
さらにグレイは獣のような唸り声を上げた。
「キシャアッ!キシャアン!」
「ちょっと?なんなのあんた?」
アナは愛らしい表情から一転、恐怖の表情に変わった。
彼女の顔から血の気が引き、真っ青になった。
「嫌ああああっ!」
アナは悲鳴を上げ、入口まで走った。
そしてドアノブを乱暴にガチャガチャと回した。
どうやらいつの間にか鍵が掛けられているらしい。
幾らアナが体当たりしても扉は残念ながらビクともしなかった。
「お願い!開けて!開けて!助けて!助けて!」
「どうしたんだい?アナ?
今までSMプレイとセックスを何十回、何百回して。
世界一好きだと言ったのは君じゃないか?」
グレイは瞳を爛々と水色に輝かせ、笑った。
「君の筋肉はさっきのSMプレイで完全に引き締まった!
何日もかけて君の身体に鞭を打ったおかげでね!
そして今日、何度もセックスをしたおかげで十分体温も上がった!」
さあーどんな味がするのか?美食家の私は楽しみだよ!」
「ノーノーノー来ないで!」アナは首を左右に振った。
グレイは口を大きく開け、1対の鋭利な挟角を出した。
それから背中から8本の細長い串状の爪が生えた
真っ赤な太い脚を素早く動かし、アナに接近した。
続けて一対の鋭利な挟角をアナの剥き出しのほんのりと
紅潮した深い胸の谷間にズブリと突き刺した。
「あううっ!くっ!くっ!」
アナは胸部の激痛で何か喋ろうとするが出来なかった。
グレイは鋭利な挟角を通してアナの肉、血、魂を養分として
ドクドクドクドクと音を立てて吸い取って行った。
暫くアナは恐怖で顔を歪めていた。
やがてアナは恐怖の表情から恍惚の表情に変わった。
それはまるで体内から捕食されて行く感覚に酔いしれるように。
アナはまるで理性のタガが外れた様に
大きな甲高い声で喘ぎ、荒々しく息を吐いた。
「ああっ!ああっ!ああっ!ああっ!
ああああっ!あああっ!あああっ!ああっ!」
アナは青い瞳をうつろにしたまま恍惚の表情でグレイを見ていた。
暫くしてほんのりピンク色に紅潮した肌に覆われた美しい裸体は
下半身から徐々に白い砂へと変わって行った。
ズザザザザザザザザザッ!
アナの上半身の美しい形の大きな丸い両乳房から
恍惚とした表情をした顔に向かって騒がしい音を立てて
まるで砂時計の様に崩れ落ちた。
グレイが見るとそこには美しい裸体をしたアナの姿は無く、
ただの白い砂の山が高く積み上げられていた。
グレイは机の上に無造作に置かれていたアナの白いパンツを手に取った。
グレイは自分の鼻をアナの白いパンツに押し付けた。
そして彼女の匂いを鋭い嗅覚で嗅いだ後、囁くようにこう言った。
「これで君は私の体内で永遠に一緒だよ……」
 
(第17章に続く)