(第36章)装甲

(第36章)装甲
 
クラーケンの右掌のオレンジ色に輝くキャノン砲の真っ赤な光弾を
昆虫に似た2対の緑色の太い触角の付いたマスクに直撃し、
5mの高さから落下したジルは異形の戦士アンノウンの
鎧が強制解除され、完全に失神していた。
失神している間、ジルの意識は再び10年前と同じ内なる魔界にいた。
そこは人間の精神世界のようなものでその先は
魔獣ホラーが生息する真魔界に繋がっていると言う。
「貴方は警告を無視した」
急に背後から声がしたので驚き、ジルは背後を振り返った。
自分の目の前には10年前、かつて自らの闇と
ラクーンシティの事件のトラウマを克服する為に死闘を繰り広げた
内なる影であるもう一人のジルの姿があった。
「貴方の陰我を狙った魔獣ホラー、いや外神ホラー。
ドラキュラ伯爵と言う名の仮面を被ったニャルラトホテプと貴方は
契約を結んでしまった。もう生きても死んでいても一生、
貴方の肉体も魂も彼らから逃れられない。」
「分かっているわ……」
「その結果、貴方の内なる魔界に他の魔獣ホラー達が
アンノウンと呼ぶ、緑の異形の戦士の魔獣装甲が現われる様になったわ!
貴方は今までその魔獣装甲を纏った状態でホラーと戦って来た。
でも、その魔獣装甲は純粋な魔獣の鎧と
比べると不完全であり、余り強く無いわ!
でも完全体になれば……その時、貴方は人間じゃなくなるわ!
全身の筋肉の発熱と筋肉が引き裂かれる様な激痛に気お付けなさい!
それは賢者の石が貴方の全身の細胞をゆっくりと侵食しているからよ!」
「じゃ!」
と言いかけた時、ジルは10年前と
同じようにフラッシュバックに襲われた。
そしてジルは意識が元に戻り、人間界へ帰って行った。
次の瞬間、上空で大爆発が起こった。
驚き、ジルは上空を見上げた。
黄金騎士ガロの鎧を纏った冴島鋼牙がクラーケン
が放った真っ赤な光弾を受け、大爆発を起こしているのが見えた。
「鋼牙!」
そして大爆発の後、ジルと同じく黄金騎士ガロの鎧は強制解除された。
同時に冴島鋼牙は元の白いコートの姿に戻った。
続けて彼はジルの隣の金属の床にドシャッ!音を立て、仰向けに落下した。
「鋼牙!くそっ!」
クレアは腰のホルスターからハンドガンを取り出した。
そして両手で引き金を素早く引いた。
次々と銃口からホラー封印の法術が込められた特殊弾が放たれた。
クラーケンは左手の多数の吸盤の付いた
長い触腕を鞭の様に巧みに上下左右に動かした。
そして10発のホラー封印の法術が込められた特殊弾を全て撃ち落とした。
「クソッ!」
続けてクレアは背中から
『ウィンチェスターM1887』を改造した魔戒銃を取り出した。
そして両手で構え、引き金を引き、
ホラー封印の法術が込められた特殊弾を撃ち、
スピンコックをして使い切った
ホラー封印が込められた特殊弾は自動で俳莢された後、
次のホラー封印が込められた特殊弾を自動で装填を繰り返し、
何度も何度もクラーケンをに向かって発砲を繰り返した。
しかしクラーケンはハンドガンと同様に高速で
左手の無数の吸盤の付いた長い触腕を高速で上下左右に振り、
全ての特殊弾を撃ち落として見せた。
「無駄じゃ!お前達の武器の性能も特性も!
お前達の行動も全て分析済みじゃ!うっ!ぐっ!」
クラーケンは苦しそうに大きく呻いた。
「クッ!仕方あるまい!賢者の石の力を少々使いすぎたかのう。
うむ。まだ!足りない様じゃな!
そう、外神ホラーとして精神も肉体も不完全のようじゃな!
今日はおとなしく退くかのう。」
「まっ!待ちなさい!」
「逃が……すか……」
鋼牙とジルは満足に動けない状態にも
関わらずどうにか立ち上がろうとした。
しかし二人とも全身が痺れ、立ち上がるのは困難を極めた。
ジル・バレンタイン!自らの手で実の娘である始祖ホラーであり、
外神ホラーのソフィア・マーカーを手に懸ける事ができるかのう?
いずれ、敵か?味方か?次に再会するのを楽しみにしておるぞ!
フハハハハハハハハハハハハハッ!」
クラーケンは高笑いをすると全身を瞬時に赤い粒子に変えて姿を消した。
「消えた?」
「ザル……バ……」
「駄目だ!あいつ自らの邪気まで消してしまった!
これ以上の追跡は不可能だぜ!」
「なんて……奴なの……」
「そうだ!モイラ!うっ!ぐあっ!」
鋼牙はマルセロに捕えられたモイラの事を思い出し、立ち上がろうとした。
しかしまだ全身が痺れている為、そのままうつ伏せに倒れた。
クレアはモイラに駆け寄り、両手首と全身の
ロープをナイフで切り、自由にした。
「あっ!ありがとう!クレア!」
モイラはようやく立ち上がった。
「怪我は?」
「大丈夫だよ!彼には逃げられたね。」
「ええ」とクレアは肩を落とした。
「くそおっ!くそおっ!」
ジルは悔しさを滲ませた。
そして拳でガンガンと上下に振り、金属の床に何度も叩き付けた。
その度に金属の床はクレーター状に大きくへこんだ。
ジルは心身共に疲れ果て、その場に倒れたまま動けずにいた。
鋼牙も同じだった。
「協力して!」
「もちろんだよ!」
クレアはジルを。モイラは鋼牙を背負った。
「すまない」
「くそっ!くそっ!」
それからモイラとクレアは鋼牙とジルを車に乗せた。
モイラは車を走らせ、一度、ジルの隠れ家に戻った。
鋼牙とジルはベッドの上と毛布を敷いた床の上にそれぞれ寝かせた。
2人は直ぐにジルと鋼牙の治療を始めた。
 
翌朝。
どうにか元の体調を取り戻した鋼牙は昨日の夜、逃げ出した
マルセロの行方を追うべくクレアと共に聖ミカエル病院へ向かった。
そしてクレアは受付の看護婦にマルセロ・タワノビッチ先生の事を尋ねた。
しかしマルセロは既に聖ミカエル病院を退職していた。
更に引っ越しをしていて何処へ行ったのか?
受付の看護婦はおろか病院内のほとんどの人間は
何故?急に退職したのか?理由は全く分からないと言う。
ジルはマルセロに完封無きまで叩きのめされ、
敗北したショックから塞ぎこんでいた。
「大丈夫?」
心配したモイラはジルに尋ねた。
「うん、大丈夫よ……」
ジルはなるべく明るく振る舞おうとした。
しかし笑う事が出来ず、その表情は引き攣ったままだった。
「御免なさい。笑う事が……」
「いや、いいんだよ!ジル!」
モイラは慌てて笑顔になった。
彼女はどうにかジルに元気を上げようと色々考えた。
「どう?体調はどう?あの例の症状は?」
「あれからしばらくは無いわ……でも……」
「大丈夫だよ!きっと!鋼牙がなんとかしてくれるって!……ねえ?」
モイラはジルを元気つける為に精一杯、笑った。
するとようやくジルは僅かに微笑んだ。
そこに鋼牙とクレアが現われた。
「さて!全員!揃ったな!」
ザルバは軽く咳払いをするとマルセロの正体や
ソフィア・マーカーまで順々に話し始めた。
 
(第37章に続く)