(第9章)英傑(前編)

(第9章)英傑(前編)
 
「大変!」
再びアンダーソン家では。
母親のエミリー・アンダーソンは
息子のスコット少年の部屋のテーブルに置かれた手紙を
トーマスおじさんとヨハネスお爺ちゃんに見せた。
2人は手紙を無言で読んだ。
手紙にはこう書かれていた。
『パパの好きなウルトラマンスコットの存在をおじさんと
お爺ちゃんが認めてくれるまで家に帰りません!』
「何故?神の事を信じないんだ?」
「こんなに息子の……将来を心配しているのに……どうして……」
「とにかく探さないと!日が暮れてしまうわ!」
「ああ、急ごう!もうすぐで悪魔が動き出す!」
母親のエミリー、ヨハネスお爺ちゃん、トーマスおじさんは
慌ただしく消えた息子スコット少年を探して家を出て行った。
 
夕方、沈む夕日をバックにカラスがカアカア鳴き、飛んでいた。
そして公園のブランコの上にスコット少年が座り、
キーキーと音を立ててブランコを漕いでいた。
やがてブランコに座っているスコット少年の前に
一人の筋肉質な男が現われた。
やがてグルルルッ!とまるで獣のように低く唸り始めた。
スコット少年は怖くなり、そっとブランコから降りると
一歩一歩、ブランコの後ろに下がり、筋肉質の男と距離を取った。
「おじさん?誰?」
「フフフフッ!旨そうな子供だあああっ!」
筋肉質の男は口元を緩ませ、両目を大きく開いた。
「うわっ!なんなんだよ!」
スコット少年は強い恐怖と危機感を覚え、そのまま後ろに下がった。
しかし地面の小石に躓き、転んで尻餅を付いた。
筋肉質の男は舌舐めずりしながら徐々にスコット少年に近づいていった。
「うっ!うわああああああああっ!」
 
別の場所では烈花と霊魂が話していた時、不意に霊魂は
息子であるスコット少年の叫び声が聞えたのか?
一目散に叫び声がした方へ飛んで行った。
もちろん烈花にもスコット少年の叫び声が
聞えていたので急いで霊魂の後を追った。
間もなくして公園のブランコの近くで腰を抜かして動けない
スコット少年と筋肉質な男がいた。
「あいつは!魔獣ホラー・ウォスカ!」
烈花もこの魔獣ホラーについては知っていた。
あいつは凄まじい怪力を持ち、子供を好んで捕食する凶暴なホラーだと。
その息子の危機に霊魂は烈花にある想いを脳裏に訴えた。
俺も息子を守る為に闘いたい!あの『時の中を走り抜けて』を吹いてくれ!
『無理だ!あいつは人間の魂を貪り食う!
 お前では奴の怪力を止めるのは不可能だ!』
しかし霊魂は続けてこうも訴えた。
『俺は守りし者としての願いを叶えてくれ!』と。
『守りし者?何故?その言葉を知っている?』。
彼女は霊魂の思わぬ言葉を知っている事に驚き、瞠目した。
もしかして?彼は……鋼牙の親父の冴島大河の霊魂に会ったのか?……。
そうか大河の霊魂はこの若い霊魂の事を案じ、
『守りし者』の教えを説き……。
魔戒法師である俺と引き合わせてくれたのか?よしっ!
彼女は直ぐに決断し、魔導筆を横笛に変形させた。
そして『時を走り抜けて』と吹き始めた。
霊魂は青緑色に輝きを更に強くした。
同時に自ら息子を守りたいという想いを高めた。
ウォスカはいきなり聞こえた笛の音色に足を止めた。
「何だ?やかましい音だ!誰だ?」
苛立ちを覚えたウォスカは振り向いた。
青緑色の霊魂は金色に輝いた。
ウォスカは眩しさに両手で顔を覆った。
そして金色の光が不意に消えた時、そこに現れたのは!
銀色のトサカに黄色のクリスタルの瞳。
真っ赤な筋肉質のがっちりとした体格。
腰に青と黄色に輝く星の付いたベルト。
太く逞しい赤い両腕と両足を持つ光の戦士!!その名は!!
スコット少年が叫んだ。
ウルトラマンスコット!」
「デュワッ!」
突如現れた光の戦士にウォスカは驚き、一歩、後退した。
「なんなんだ?あいつ?」
ウォスカは獣の様に低く唸り警戒した。
ウルトラマンスコットは大地を蹴って走り出した。
彼は両腕を広げ、全身をウォスカの筋肉質な身体に叩き付けた。
「うおおおおおっ!ぐっ!」
ウォスカは驚きつつも自慢の怪力でウルトラマン
スコットの筋肉質な赤い巨体を受け止めた。
ウォスカは歯を食いしばり耐えた。
「デュウウッ!」
ウルトラマンスコットはウォスカを押し続けた。
ウォスカは徐々にまた一歩、また一歩と土煙を上げて、後退して行った。
「ぐっ!くそっ!たかが霊魂如きにっ!」
ウォスカは甲高く咆哮した。
そしてウルトラマンスコットを軽々と持ち上げ、投げ飛ばした。
彼はうつ伏せに叩き付けられた。
「さてと!喰うか!うっ!ぐっ!くそっ!」
ウルトラマンスコットは両腕を伸ばした。
彼はウォスカの両足をしっかりと掴んだ。
そして立ち上がりざま、ウォスカを勢い良く地面にうつ伏せに叩き付けた。
続けてジャイアントスイングで10周以上振り回し、投げ飛ばした。
「ぐえっ!ぐおおおっ!」
ウォスカは公園のコンクリートの壁に激突した。
「よし!いいぞ!やっつけちゃえ!ウルトラマンスコット!」
スコット少年はウルトラマンスコットに声援を送った。
ウォスカは粉々になった瓦礫から立ち上がった。
「うっ!くそっ!容赦しないぞ!父子共々!食い殺してやる!」
ウォスカは筋肉質な男の姿から本来の魔獣ホラーの姿へ変身した。
真の姿は醜悪な鬼の様で、筋肉質な裸の上半身に両肩に2対の細長い角。
鋭く尖った両耳に両手には無数の細長い針が生えていた。
ウルトラマンスコットはそんなウォスカの
変身に臆する事無く立ち向かって行った。
ウォスカは両手の無数の細長い針を
ウルトラマンスコットに向かって伸ばした。
無数の細長い針はまるでロープの様に
ウルトラマンスコットの右腕に巻き付いた。
ウォスカは右手を引っ張った。
するとウルトラマンスコットの身体は
ウォスカの方へグイッと引き寄せられた。
同時にウォスカは黒いズボンの履いた太い左足を振り上げた。
続けて左膝をウルトラマンスコットの下腹部に叩き付けた。
ウルトラマンスコットは赤い筋肉質な
身体をくの字に曲げ、ふっとばされた。
すかさずウォスカは猛然と走り出した。
そして追い打ちをかける様に左拳を
ウルトラマンスコットの顔面に叩き付けた。
「グオオッ!グッ!」
ウルトラマンスコットは両手で下腹部を押さえ、
めまいで僅かに足元をぐらつかせた。
しかし直ぐに持ち直し、お返しと言わんばかりに
ウルトラマンスコットは赤い左拳をウォスカの下腹部に叩き付けた。
「グオオッ!何故だ?たかが霊魂如きに!」
動揺を隠せないウォスカに対しウルトラマンスコットは
渾身の右ストレートをウォスカの顔面に叩き付けた。
「ぐおおおおおおおっ!」
ウォスカは再び吹っ飛ばされた。
その後、大量の土煙を上げ、仰向けの状態のウォスカの
筋肉質な全身は硬い地面に容赦無く叩き付けられた。
その時、スコット少年をようやく見つけた母親のエミリーと
トーマスおじいさんとヨハネスお爺ちゃんが駆け付けていた。
最初は頑張って声援を送るスコット少年の姿が目に入った。
続けて醜悪な鬼の様な姿をした異形の怪人と赤い戦士の姿が目に入った。
「オーマイゴッド……悪魔だ!」
「悪魔と闘っているのは?もしかして?ウルトラマンスコット?」
「嘘……信じられない……」
エミリーはその光景を見て、驚きと感動を覚えた。
ウルトラマンスコットはフラフラと立ち上がるウォスカに
トドメを刺すべく両腕を十字に組んだ。
「デュワアアアッ!」
十字に組んだ両腕から青く輝くグラニウム光線が放たれた。
グラ二ウム光線はウォスカの分厚い胸板に直撃した。
ウォスカは激痛で苦悶の声を上げた。
 
(第10章に続く)