(第5章)魔犬(ケルベロス)

(第5章)魔犬(ケルベロス
 
マンハッタンにある秘密組織『ファミリー』の本部に当たる大きな屋敷。
既に庭の片隅にある時計台は午後7時を回っていた。
そして空は既に太陽が沈み、無数の星が瞬く暗黒の夜となっていた。
美女とのセックスを満喫したジョン・C・シモンズ
一人、屋敷を出て、庭を歩いていた。
暫くして長い草の生えた茂みから微かに
グルルルと犬の唸り声が聞えて来た。
続けてガサガサと左右に大きく茂みが揺れた。
やがてジョンの背後の茂みから一匹の黒と
茶色のドーベルマンが飛び出して来た。
ジョンは振り向き様に右脚を上げ、
回し蹴りでドーベルマンの横面に蹴りを入れた。
ドーベルマンは「ギャン!」と声を上げ、
硬いアスファルトに身体を叩き付けられた。
暫くしてドーベルマンは素早く立ち上がった。
そして牙を剥き出し、大きく唸った。
「グルルルルルッ!」
「アンブレラ社製のBOWのケルベロス
にでもなったつもりかい?ゾルバリオス!」
そう名前を呼ばれたドーベルマンは唸るのを止めた。
やがてハアハアと息を吐き、ピンク色の舌を出した。
「フフフッ!相変わらずの洞察力と反射神経だな。ベルゼビュート!」
ジョンはこの犬がただのドーベルマンでも
ケルベロスでも無い事を知っていた。
奴は死肉ホラー・ゾルバリオス
また人間では無く犬の肉体に憑依しているのか?呆れた奴だ!
「フン!親友のお前なら俺の事が分かっているだろ?
人間よりも優れた嗅覚で味わう血の匂い!!
鋭い牙と頑丈な顎で肉を切り裂き、骨まで喰らう快感!!
そして断末魔の最後の吐息まで漏らさずに聞き取れる長い耳!!
最高だぜ!!試して見ろよ!!」
「悪いが正直、犬の肉体は扱い辛くてね。」
ジョンはハハハハッ!と笑った。
「そうそう、あんたも知っているだろ?
ニャルラトホテプの細胞の一部、つまり賢者の石さ!」
「ああ、知っているよ!その賢者の石とTウィルスを
組み合わせた新型ウィルスが我ら
メシア一族の同胞の身体を蝕んでいる事をね!」
ジョンは茶色の瞳でゾルバリオスを睨みつけた。
「おいおい」と声を上げ、裂けた口を大きく釣り上げ、ニンマリと笑った。
「このT-エリクサーは凄いんだぜ!何せ!
一本の針から少し体内に入れるだけで強大な力が簡単に手に入るんだ!」
「御月カオリに注射して貰ったのか?」
「そうさ!あの人間の女はT-エリクサーを利用して
不老不死の世界を創ろうとしている!それに強大な力があれば!
レギュレイス一族やゼドム一族を殲滅させられるだろう!」
「フフフフッ!それじゃ!魔戒騎士や魔戒法師は?」
「もちろんお前にも真戒騎士にも魔戒法師にも絶対!
負けたりはしないッ!」
ゾルバリオスはそう豪語した。
直後、ドーベルマンの肉体がスイカの様に弾け飛んだ。
そのドーベルマンの肉体から飛び出した真の姿はー。
巨大なドーベルマンの形をした猛犬が前脚を上げて
二足歩行になった様な形態をしていた。
更に顎は醜くパックリと大きく裂け、
鋭い牙はますます狡猾に伸びきっていた。
顎から間断無く滴り落ちる唾液は硫酸の様で
庭の生い茂った草はジュウジュウと音を立てて焼けた。
草は緑から茶色の変色し、原形も留める事無く溶けて行った。
ゾルバリオスはこれまでにも増して甲高い雄叫びを上げた。
甲高い雄叫びは夜の空気をビリビリと震わせた。
ジョン・C・シモンズも変身した。
彼の真の姿は巨大な蠅の姿をしたホラーだった。
頭部は巨大な蠅の頭部。
両目は真っ赤に輝く複眼。
更に狼の様に耳まで裂けた大きな口。
上顎には6本の門歯、2本の犬歯、8本の小臼歯、4本の大臼歯。
下顎には6本の門歯、2本の犬歯、8本の小臼歯、
4本の大臼歯が生えていた。
また狼の様な黒い鼻を持つ。
両肩には真っ黒な円形の昆虫に似た外骨格を持つ。
両腕には真っ赤な分厚い鎧の様な昆虫に似た外骨格に覆われている。
両手には短い赤い爪が10対生えている。
両胸部から真っ赤な分厚い昆虫の外骨格に覆われた
もう一対の両腕が伸びていた。
両手には10対の短い爪があった。
最初は前屈みの姿勢だったが背筋を伸ばし直立した。
背中から真っ黒な髑髏の模様の付いた
黄色の蠅の前翅と平混翅をバサッと大きく広げた。
腹部は分厚い外骨格に覆われ、
巨大な真っ黒の丸みを帯びた昆虫の腹部となった。
両脚も黒く分厚い外骨格に覆われ,
両足から短い赤い10対の爪を生やしていた。
そして彼は芝の上に堂々と立っていた。
ジョンの正体、魔王ホラー・ベルゼビュートである。
「フン!真の姿になったところで俺には勝てん!」
ゾルバリオスは耳まで裂けた口を大きく広げた。
やがて口内が徐々に熱を帯び、真っ赤に輝いた。
間もなくしてゾルバリオスは賢者の石の力を
見せつけて自分の強さを誇示する為、
口内から次々と真っ赤に輝く火球を8発放った。
8発の火球はベルゼビュートの身体に着弾し、
爆発を起こし、炎に包まれた。
全身は黒い煙と炎で全く見えなくなっていた。
しかしベルゼビュートは8発の全ての火球を
まともに受けたのにも関わらず、全く無傷だった。
何故なら全身の真っ黒な鎧の様な分厚い外骨格が
8発の火球の爆発をいとも簡単に防いでいたからである。
「ぐっ!まさか!賢者の石の力だぞ!」
ゾルバリオスは自分の8発の火球攻撃がベルゼビュートの
真っ黒な分厚い鎧の様な外骨格に防がれたと
気付くや否や悔しそうに顔を歪めた。
「どうした?賢者の石はその程度のものかい?」
ベルゼビュートはせせら笑いそう挑発した。
「なんだとおおおおおっ!なら!これはどうだぁッ!」
ゾルバリオスは彼に挑発され、怒りの甲高い咆哮を上げた。
続けて再び耳まで裂けた口を大きく開け、
醜くパックリと割れた顎を更に大きく開いた。
やがて口内に3mの巨大な火球を創り出すと、
ベルゼビュートに向かって放った。
放たれた3mの巨大な火球はベルゼビュートに真っ正面から着弾した。
そして巨大な真っ赤に輝く火柱が上がった。
続けてこれまでで一番、凄まじい衝撃波と爆発音が周囲の空気を震わせた。
ゾルバリオスは「フフフッ!」と笑った。
やがて高笑いに似た甲高い遠吠えを上げた。
「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!」
間もなくして火球は消え、周囲は燃えて黒くなった芝生、
そして抉り出された土の破片と黒い煙と土埃に覆われ、何も見えなかった。
しかしーその中からベルゼビュートのせせら笑いが聞えた。
「それで全力か?ゾルバリオス?」
やがて黒い煙と土誇りの中から悠然とさっきの3mの火球を
真正面から受けたにも関らず、再び全身の分厚い外骨格で火球を防ぎ、
傷一つも無いまま堂々とベルゼビュートはそこに立っていた。
ベルゼビュートは真っ赤に輝く複眼でゾルバリオスを見た。
「ぐっ!くそっ!」
ゾルバリオスは警戒し、一歩二歩、後退した。
やがてゾルバリオスはベルゼビュートにこう問いかけた。
「お前、ジル・バレンタインとアナンタを利用してメシア一族を救済して
外神ホラー、T-エリクサーの脅威から救い出すのが目的だったな?
だが!本当にそれだけなのか?」
暫くジョン事、ベルゼビュートは黙っていた。
「どうなんだ?親友だろ?俺達?」
ゾルバリオスは茶色の瞳で真摯にベルゼビュートを見た。
やがてベルゼビュートは重々しく口を開いた。
その瞬間、ベルゼビュートは親友の
彼だからこそ素直に言えるだろうと考えた。
彼はこの時は自分を偽らず、まずは自分の過去の話を始めた。
更にもう一つの目的についてもー。
 
(第6章に続く)