(第43章)正体

(第43章)正体
 
ニューヨーク市内、秘密組織ファミリーの本部に当たる大きな屋敷。
大きな屋敷の地下室の黒い牢屋の中には
芳賀真理とジョン・C・シモンズが立っていた。
「ジョン!急に呼び出して何なの?」
真理は急に呼び出された事に戸惑い、じっとジョンを見ていた。
何で呼び出したのだろう?もしかして?プロポーズ?まさか?
真理は顔を赤くして両手で左右の頬を隠した。
間もなくしてジョンは口を開いた。
「君に本当の正体を伝えたい。」
続けてジョンはいきなり右腕を高速で伸ばした。
ドスン!!と言う音と共に高速で伸ばされたジョンの右腕は
真理の下腹部にグサリと突き刺さった。
「うっ!ぐえっ!ジョン様……何を……」
「動かないでくれ!直ぐに楽になる!」
ジョンは真理の下腹部に潜り込ませた右手をモゾモゾ動かした。
真理は額にしわを寄せて、微かに高い声で喘いだ。
「あっ!はっ!んっ!はっ!何をしてっ!ひいいん!はっ!」
やがてジョンは何かを掴んだ様に右手をぎゅっと握った。
そして真理の下腹部から右腕を引き抜いた。
真理はハアハア息を吐き、
力無く地下室の冷たいタイルに尻餅を付いた。
真理は頭を上げた。
するとジョンの右手には真っ赤な大きな毛玉が握られていた。
真理は首を傾げた。
「それは何?」
「これはかって君を痛めつけていたシェイズの肉体の一部だ!
これを他の魔獣ホラーの体内に植え付ける事によって
他の魔獣ホラーを何者でも無くしてしまう。
シェイズは何者でも無くなった魔獣ホラーに『下級ホラー』
で自分に従えば望むものが手に入ると言って仲間、いや道具にする。
分かりやすく人間の言葉で言えば『洗脳』だな。」
「嘘!あたしは下級ホラーじゃないの?」
「そうだ!君は下級ホラーでは無い!本当の君は上級ホラーだ!
これが君の体内に植え付けられていなければ!
君を従者にして、君に乱暴した時点で即座に返り討ちに遭うだろう!
だが!こいつのせいで君は辛い目に遭った。
すまない!もっと早く気づいていれば……。
そうすれば!あのゾルバリオスに襲われた時、
君が怖い思いをせずに済んだだろう。」
「もういいのよ。それは済んだ事よ!」
真理は静かに立ち上がった。
やがて真理は酷い頭痛に襲われた。
真理は激痛の余り、両手で頭を強く押さえた。
彼女は激痛の余り、大きく呻き、その場に屈みこんだ。
「ああっ!があああああっ!ぐううううん!」
ジョンは激しい頭痛で屈みこんだ真理に力強くこう呼びかけた。
「真理!思い出せ!
君が本当の魔獣ホラーだった頃の記憶を!君は下級ホラーでは無い!」
真理は激しい頭痛のせいで今にも頭が割れそうだった。
「ぐううっ!あたしはっ!あたしはあああっ!ぐおおおおん!」
真理は頭の中で何かが蘇りそうな気がした。
しかしそれはまだぼやけて漠然としていた。
真理はぼやけて漠然とした何かは徐々に形になった。
それは白い粉?白い砂?自分自身?
彼女はまだはっきりと分からないものの確実に思い出しつつあった。
だから必死に本来の自分を取り戻そうと思いだそうとした。
しかし思い出そうとする度に頭痛は酷くなって行った。
今にも頭が割れて死にそうだった。
やがて自分自身の姿がイメージとしてはっきりと現れた。
「あたしは!あたしはっ!あたしはあああああっ!」
次の瞬間、真理の目の前は真っ白になった。
ジョンは激しい頭痛に苦しみながらも本来の姿を
思い出そうとする真理を黙って見守った。
間も無くして突然、真理の全身が真っ赤に輝く始めた。
どうやら賢者の石の力も混じっているものの
彼女の邪気と魔獣の力を全身の肌で感じ、そしてこう確信した。
「そう。君の本当の名は?」
間も無くして真理の全身を包んでいた真っ赤な光は消えた。
ジョンの目の前にはいつも胸元まで伸びた茶髪。
今や顔や全身は美しいほんのりとした
ピンク色の紅潮した肌に覆われていた。
大きな丸い両乳房は白いTシャツに包まれていた。
勿論、大きな丸いお尻も水色のジーンズに包まれていた。
彼女の瞳も茶色のままだった。
静かにジョンは言った。
「もう君はシェイズの従者でもシュブ二グラスの道具でも無い!
君はたった今!本来のあるべき自分を取り戻した。
とは言え!既に君はシュブ二グラスの手によって賢者の石を移植させられ、
人間の繁殖能力と子供を育てる能力を与えられた。
しかも君の血液は遺伝子や成分検査で紛れもなく人間の血液だった。
故に我々メシア一族とは少し異なる。
それでも太古の昔から人間を喰らう魔獣ホラーであり、
我が同胞と変わらない。
安心したまえ!差別する気は無い!」
ジョンは真理にそう告げ、優しく微笑んだ。
やがて真理は本来の魔獣ホラーの姿に変身した。
両瞳は真っ赤に輝いた。
続けて両肩から白い砂が吹き出した。
やがて白い砂は硬化し、無数の棘の束となった。
更に両腕からも白い砂が吹き出し
巨大な4対の細長い鉤爪が両手の甲から現れた。
口は耳まで裂け、人間の歯は無数の鋭利な牙に変形した。
「うおおおおおおおおおおおんん!」
真理は天井に向かって犬に似た遠吠えを上げた。
私の本当の名はー。私の本当の名はっ!!
「食屍ホラー・グール!」
ジョンは口元を緩ませ、ニッコリと笑った。
真理はグールに変身し、ジョンを赤い瞳で見た。
「おめでとう!君は本当の自分を取り戻した!」
真理は改めて自分の両手の甲を見て驚いた。
「うわあああああああっ!ひゃあああああああっ!これが?あたし?」
「それが君の本当の姿だ!本当は他の魔獣ホラーや魔導ホラー、
ましてや君を痛めつけていたシェイズよりも
何十倍、何百倍、何万倍も強いんだよ!
君には賢者の石の力ある。もはや並みの力で君を封印する者はおるまい。」
「大天使や天使って本当にいるの?」
「ああ、でもあともう少しの命さ!
いずれこちら側(バイオ)世界と向こう側(牙狼)の世界、
そして天界からも一匹残らず消え去る事になる。
真理!君はこちら側(バイオ)世界で生きて幸せを掴んで欲しい。
君はこちら側(バイオ)世界で魔獣ホラーと人間の中間の存在
としてこれから一人で自立するんだ!とは言え、ここにいてもいい。
君が人間の男と幸せに暮らせるよう僕と
仲間達が責任を持ってバックアップしよう。」
「あたし……貴方を愛しています!」
真理はじっと真っ赤な瞳でジョンの顔を見た。
「残念だが!君と一緒にはなれない!」
ジョンは首を左右に振って拒んだ。
「どうして?あたしと一回、セックスしてくれたでしょ?」
真理は獣のような凄まじい唸り声を上げた。
「あんだけ!激しく獣のようなセックスをしといて!どうして?」
真理は怒りに満ちた真っ赤な瞳を向け、気圧した。
ジョンはまたいつもと変わらない笑みを浮かべた。
「君の気持ちは分かる!だが僕にはやらなきゃいけない事がある!
僕は復讐しなければいけない!
唯一絶対神YHVAと大天使、天使を全て滅する!
僕は子供を他の女に遺した!すまない!!
君も我が息子も巻き込む訳にはいかないんだ!」
「あたしに面倒を見る様に頼まれたあの子は?
貴方と別の女の子供なのね!」
「君が面倒を見ないのなら!僕達は君を見捨てる!
でも面倒をメアリーと一緒にちゃんと見てくれるなら見捨てたりはしない!
お願いだ!真理!まだ5歳のあの子を!
マーティンの面倒を見てやってくれ!」
「分ったわ!ちゃんと面倒を見るわ!」
真理は彼に見捨てられたくない思いから渋々、彼の頼みを承諾した。
 
(第44章に続く)